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感覚統合Update 第3回:発達性協調運動症とは?
感覚統合
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 加藤寿宏
2022-02-01
第2回は、感覚調整障害について話をしました。
感覚統合Update 第2回:感覚調整障害 2021.12.1 号
今回から、感覚処理障害(Sensory Processing Disorder; SPD)のもう一つの障害である感覚ベースの運動障害、中でも行為機能障害(dyspraxia)について話をしたいと思います(図)。
発達性協調運動症(developmental coordination disorder ; DCD)とは
多くの人にとって、行為機能障害は馴染みのない障害だと思います。まず、最初に行為機能障害と類似した障害である発達性協調運動症(developmental coordination disorder ; DCD)から話をはじめます。
DCDは不器用(協調運動の障害)を主症状とする神経発達症で、最近は学会などで取り上げられることも増えています。意外と知られていませんが、日本ではDCDも発達障害に含まれ発達障害者支援法の対象となっています。
不器用を障害として捉えることに違和感をもつ人もいるかもしれませんが、子どもの生活の中には協調運動が要求されることが多くあります。身辺処理では、服のボタンやファスナー、靴紐、食事の箸、保育所・幼稚園では折り紙やはさみ、お絵描きや色塗り、小学校では文字を書く、リコーダー、定規、コンパス、裁縫など、数多くの手先を使用した器用さが要求されます。また、三輪車や自転車、ボールを投げる・受ける、鉄棒や縄跳び、跳び箱などは全身の協調運動が必要となります。協調運動が必要なのは子ども時代だけでなく、社会人になれば、化粧、ネクタイを結ぶことや仕事で扱わなければいけない機械や道具などの操作に器用さが要求されます。協調運動は一生を通し生活の中で必要となるのです。
自転車に乗りはじめたばかりの3歳児。
右足と左足の動きが協調していない。
はしに興味をもち使い始めた3歳児。
はしは食物をはさむというイメージをもっているため、
左手も使い、はさもうとしている。
はしを上手く使用できるようになるには、
利き手だけでなく非利き手も重要となる
はさみを使用する5歳児。
はさみを操作する利き手だけでなく、
紙をもつ非利き手の役割が重要となる。
鉄棒を行う4歳児。
人にとって頭が下になる運動は、
「落ちる」ことと関連するため、
とても怖い運動である。
手で身体を支えることに自信がなければ
行うことは難しい。
DCDは医学的には以下の基準により診断されます2)。
B.診断基準Aにおける運動技能の欠如は、生活年齢にふさわしい日常生活活動(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇、および遊びに影響を与えている。
C.この症状の始まりは発達段階早期である。
D.この運動技能の欠如は、知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってはうまく説明されず、運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。
この診断基準において重要な部分に下線を引いています。誰でもはじめての運動や動作、物の操作は上手くできません。例えば、靴紐を結ぶことは、最初からできるわけではなく何回も行うことで速く正確にできるようになります。結ぶことができるようになるための回数や速くきれいに結べるようになるための回数は、個人により違いがあります。平均10回ぐらいでできるようになり、30回ぐらいで速くきれいに結べるようになると仮定しましょう。しかし、DCDの子どもは50回ぐらいでようやくできるようになり、100回練習しても遅くてきれいに結べないという状況があります。これが「使用の機会に応じて期待されるものよりも明らかに劣っている」「遅さと不正確によって明らかになる」ということです。
さらに、ここで強調しておきたいことは、DCDの子どもの運動や活動の特徴は「できない」ではなく「遅さ」「不正確」であるという点です。時間がかかり、あまり上手くはありませんが、何とか頑張ってできてしまうことで、周囲の大人から「やればできる」、「もっと頑張ればもっと上手になる」と言われてしまうのです。
DCD児への支援と理解
しかし、子どもの立場で考えてみて下さい。友だちはすぐにできるようになるのに、自分は10倍の時間がかかる、できても上手くはできない、という状態で頑張り続けることはできるでしょうか。その運動や活動に頑張った時間は、本当に子どもにとって有意義な時間でしょうか。
「ぼくは、漢字ドリルの宿題で花丸をもらいたくて1時間以上かけて、ぼくなりに一生懸命に書いているのに花丸をもらえない。○○ちゃんは10分ぐらいで終わって、花丸をもらえるのに、どうして、ぼくはもらえないの?ぼくは、宿題よりも、もっと友だちと遊ぶ時間が欲しい。」
小学校2年生のDCDのAくんが私に話してくれた切実な訴えです。
DCDは協調運動の問題のみでなく、注意、学習(読み書き)、孤立、いじめ、不安、情緒、社会性、自己肯定感、社会コミュニケーションなど、様々な子どもの発達に広範な影響を及ぼすことが、数多くの研究で報告されています。これらが起きる要因として、不器用は他人から見られることが挙げられます。
運動音痴の芸人さんが、走り幅跳びや、バスケットボール、野球、ダンスを行う番組を見たことがあるでしょうか。芸人さんは一生懸命行っているのですが、上手くできないため笑いが起きます。彼らは笑いをとることが仕事なのでそれでよいかもしれませんが、このことが学校で起きたらどうでしょうか。一生懸命行っているのに、友だちから笑われてしまうのです。その結果、運動や活動を避ける、そのような場面で不安を感じる、自分はダメだと思ってしまう、などが起きることは自然なことだと思いませんか。
特別支援教育が充実してきたことで発達障害児は様々な配慮や支援が受けられるようになってきました。しかし、自閉スペクトラム症児の対人関係の問題や注意欠如/多動症児の多動の問題などと比べ、DCD児への支援は十分ではありません。その理由は、対人関係や多動の問題は他の人も困るが、DCDの困難さは、他の人は困らないということです。そのため、年齢が大きくなれば大丈夫、そんなに大した問題ではないと言われることもあり、本人だけで悩みをかかえていることが多くあります。
さきほどのAくんはこんな話もしてくれました。
「算数のテストはみんなの前でしないのに、体育のテストはなぜみんなの前でするの?」「ぼくは、図画工作の絵よりも算数のテストを教室にかざって欲しい」
私は学校の先生ではないので、なぜ体育のテストをみんなの前でするのか、図画工作の絵を教室や廊下に掲示するのか、の理由はわかりません。多分、そこには、教育的な意義があるのだと思います。ただ、少なくともDCDの子どもにとって、みんなの前で行うことや、掲示されることは、大きな不安やストレスとなることは知ってもらいたいと思います。
1)Miller LJ, Anzalone ME, Lane SL, Cermak SA, Osten ET (2007):Concept Evolution in Sensory Integration: A Proposed Nosology for Diagnosis. American Journal of Occupational Therapy 61, 135-140
2)American Psychiatric Association (2014):DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル (高橋三郎,大野裕 監訳).医学書院
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