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パシフィックニュース

目的別分類に基づいたスプリント作製について(第2回)

スプリント

リハビリテーション

目的別分類に基づいたスプリント作製について(第2回)

北海道文教大学医療保健科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻
作業療法士 白戸 力弥

2024-07-01

2024年3月15日号のパシフィックニュース1)では、スプリントの目的別分類の1.固定・支持、2.保護・予防について詳説した。本号ではスプリントの目的別分類の3.矯正、4.訓練について説明する。

3.矯正

生じた拘縮に対し、一定の矯正力を加え、関節可動域を拡大する目的に用いられるスプリントが含まれる。矯正目的のスプリントを適用する際は、生じた拘縮の主な原因組織を鑑別することが重要である2)(図1)。
まずは、画像所見から関節の状態を評価する。X線像で関節裂隙の狭小化や関節面の不整の有無を確認する。CT撮影が行われている場合は、矢状断像でこれらをより詳細に評価することができる。重度の関節裂隙の狭小化や関節面の不整が生じている場合は、骨・軟骨性拘縮と判断でき、積極的なスプリント療法や運動療法が関節症性変化を惹起させたり、悪化させる危険性がある。従って、これらの適用は慎重に行わなければならない。
次に、皮膚の状態を評価する。関節運動により皮膚創部へ緊張を加えた際に、皮膚性拘縮の所見である蒼白化、および線状瘢痕の出現の有無を確認する。これらが軽度の場合は、静的スプリント療法を試みても良いが、重度な場合はスプリント療法の適用外と判断する。
さらに、可動域制限の生じている関節より近位の関節肢位を変化させて、当該関節の可動域制限に変化が生じるかを評価する。これらにより関節性拘縮、または筋・腱性拘縮のどちらかを鑑別することができる。例えば、ZoneⅢの屈筋腱断裂修復術後にPIP関節に-30°の伸展制限が生じている場合、近位のMP関節を屈曲位にすることで、PIP関節伸展角度が変化するかを評価する。MP関節屈曲位でもPIP関節が-30°と変化がない場合、この現象を動的腱固定効果陰性と呼び、関節性拘縮と判断する。一方、MP関節屈曲位でPIP関節伸展制限が改善する場合、この現象を動的腱固定効果陽性と呼び、腱性拘縮と判断する(腱組織に起因した拘縮のため、筋性拘縮とは判断しない)。多関節筋の筋・腱性拘縮では、筋・腱組織に起因した癒着などにより遠位方向への滑走が障害され、近位関節の肢位の影響を受ける結果、このような現象が生じる。
これらの拘縮の鑑別により、生じた拘縮の主な原因組織を特定し、スプリントのデザインを決定する。関節性拘縮に対するスプリント療法では、拘縮が生じている単関節に対し、矯正力を加える。尚、筋・腱性拘縮を併発している患者には、この筋・腱が減張される肢位で、単関節に矯正力を加えられるようにしなければならない。一方、筋・腱性拘縮には、これらの筋・腱が作用する複数関節に渡って同時に矯正力を加えられるスプリントをデザインしなければならない。
矯正目的のスプリント療法では、夜間の静的スプリント装着を第一選択とする。これは、弱い長時間のストレスが短縮した組織のリモデリングを促すとする作用機序3)に基づいたものである。また、拘縮の改善に合わせてスプリントの固定角度の修正を繰り返す漸次静的スプリント(serial static splint)の夜間装着もより効果的である4)(図2)。これらにより改善が乏しい場合は、ゴムバンド(ラバーバンド)等の収縮力を利用して組織に、より強い矯正力を与えることができる動的スプリントを追加する。この動的スプリントは日中の装着を原則とし、10~15分程度で1日3~5回装着する。

 


図1 拘縮原因組織の鑑別と治療法(文献2のp60、図9を一部改変引用)





図2 肘関節伸展制限に対する漸次静的スプリント療法(文献4より引用)
肘関節最大伸展位で静的スプリントを作製し、装着する(図2a)。肘伸展角度の拡大が得られたらその拡大に合わせスプリントの固定角度を修正し装着する(図2b)これらの工程を繰り返し行う


 
<症例1供覧>
【診断名】左示指基節骨骨折
【術式】左示指基節骨骨折に対し、逆行性にクロスピンニング固定が行われた(図3a)。
【経過】術後3日から関節可動域訓練を開始した。術後9週でピンを抜去し、PIP関節の伸展位拘縮が残存したため(図3b)、夜間装着用PIP関節屈曲位保持スプリントを作製した(図3c)。しかしながら十分な効果が得られなかったため、日中間歇的に装着可能なPIP関節屈曲用ストラップを作製、追加装着した(図3d)。

 
図3 基節骨骨折術後PIP伸展位拘縮に対するスプリント療法
a:術後X線像
b:ピン抜去後、PIP関節の伸展位拘縮
c:夜間装着用PIP関節屈曲位保持スプリント
d:PIP関節屈曲用ストラップ
スプリント素材には、オルフィキャスト厚さ2.6mmを使用した。


 
<症例2供覧>
【診断名】左尺骨遠位骨幹部骨折、左第2・3中手骨開放骨折左示指基節骨骨折左環指中節骨骨折左小指末節骨骨折
【術式】手背の開放創を伴う上記診断のため翌日にデブリードマンおよび一時的に示指基節骨髄内ピンニング・尺骨髄内ピンニングが行われた。術後10日に尺骨プレート固定第2・3中手骨腸骨移植+プレート固定示指基節骨プレート固定環指中節骨クロスピンニング固定小指末節骨クロスピンニング固定が施行された(図4a)。

【経過】示・中指MP関節の屈曲制限および手背での示・中指の伸筋腱の癒着による屈曲制限を認めたため術後5週で示・中指MP関節屈曲用ラバーバンドトラクション(図4b)および示・中指屈曲用ストラップ(図4c)を適用した。



図4 関節性および腱性拘縮に対するスプリント療法
a:術後X線像
b:示・中指MP関節屈曲用ラバーバンドトラクション
c:示・中指屈曲用ストラップ
スプリント素材には、オルフィキャスト厚さ2.6mmを使用した。

4.訓練

訓練目的の代表的スプリントには、一定の関節運動を制限しながら可動域を維持するための手指屈筋腱断裂修復術後に用いられるKleinert変法用スプリント(図5)がある。本法は背側伸展制限スプリントを装着し、手掌部に設置したプーリーを介して、ラバーバンド牽引による手指他動屈曲運動と、スプリント内での自動伸展運動を行い、術後早期から縫合腱を部分的に滑走させ、癒着を予防する目的で使用される。
また、特定の関節の自動運動を促すために、一部の関節の動きをあえて制限するブロッキング訓練用スプリント(図6)があげられる。手指PIP・DIP関節の屈曲lagが生じた場合、このブロッキング訓練用スプリントにより自動屈曲運動時のMP関節の運動を制限することで、PIP・DIP関節の自動運動を促進でき、深指屈筋と浅指屈筋の腱滑走、およびこれらの滑走差を生じさせることができる。一方、手指PIP・DIP関節の伸展lagが生じた場合は、このブロッキング訓練用スプリントにより自動伸展運動時のMP関節運動を制限することで、伸筋腱の中央索や側索の滑走を促進することができる。
その他、ゴムバンド等で負荷を与え、その負荷に抗する運動を行い、腱滑走や筋力増強を促進するためのスプリントが含まれる(図7)。
今回説明した訓練目的のスプリントでは、関節を制動する部分には静的スプリントが、可動部分には動的スプリントが一般的に用いられる。



図5 手指屈筋腱断裂修復術後Kleinert変法用スプリント
スプリント素材にはオルフィットソフトNS厚さ3.2mmを使用した。




図6 ブロッキング訓練用スプリント
左小指基節骨骨折保存治療後のPIP・DIP関節の屈曲lag (a)、伸展lag (b)に対し、MP関節運動をスプリントで制御し、PIP・DIP関節の屈曲運動 (c)と伸展運動 (d)を促す。スプリント素材には、オルフィキャスト厚さ2.6mmを使用した。




図7 アウトリガー付き動的スプリント
右前腕コンパートメント症候群に対し、ラバーバンドに抗した手指屈曲運動による手指屈筋の滑走促進を目的に作製した。スプリント素材には、オルフィキャスト厚さ2.6mmを使用した。

文献

  1. P-News 2024.3.15号:目的別分類に基づいたスプリント作製について(第1回)
  2. 白戸力弥:リハビリテーション・アプローチで確認すべき画像のポイント.射場浩介監,白戸力弥編:上肢運動器疾患の画像リハビリテーション.ヒューマン・プレス,pp55-65,2018.
  3. Fess EE: Orthoses for Mobilization of joints: principles and methods. Skirven TM et al: Rehabilitation of the Hand and Upper Extremity, 6th ed. Mosby, pp1588-1598. 2011.
  4. 白戸力弥ほか:小児上腕骨近位部悪性骨腫瘍に対する上腕吊り下げ法術後の2症例 術後の肘関節屈曲拘縮に対するスプリント療法.北海道作業療法.29巻2号:pp105-110,2012.

執筆者プロフィール



白戸 力弥(しらと りきや)
作業療法士
お問合せ:rshirato@do-bunkyodai.ac.jp
北海道文教大学HP:https://www.do-bunkyodai.ac.jp/

 <所属>
北海道文教大学医療保健科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 教授

同大学大学院リハビリテーション科学研究科リハビリテーション科学専攻 教授
北海道済生会小樽病院手・肘センター 非常勤作業療法士

<略歴>
2000年 昭和大学医療短期大学作業療法学科卒業
     横浜新都市脳神経外科病院
2001年 聖隷浜松病院
2007年 札幌医科大学附属病院
2015年 北海道文教大学人間科学部作業療法学科 准教授
2016年 札幌医科大学大学院 医学研究科 分子・器官制御医学専攻器官機能治療学領域 整形外科学修了(医学博士)
2020年 北海道文教大学人間科学部作業療法学科 教授
 
<主な所属学会等>
一般社団法人 日本作業療法士協会(認定作業療法士)
一般社団法人 日本ハンドセラピィ学会
一般社団法人 日本手外科学会
一般社団法人 日本肘関節学会
公益社団法人 北海道作業療法士会

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