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T-Support使用による脳卒中片麻痺患者へのアプローチ⑤

装具

T-Support使用による脳卒中片麻痺患者へのアプローチ⑤

T-Support使用による脳卒中片麻痺患者へのアプローチ⑤

医療法人尚和会宝塚リハビリテーション病院・理学療法士
中谷 知生

2018-03-15

第5回では満を持して、T-supportの立脚期後半への力学的影響を解説したいと思います。

T-Supportの効果機序とその仲間たち、の前に…

とっても大事なことを忘れていました。
 
前回(第4回)の記事において、オランダでCVAidを見てきたエピソードをお伝えした上で、最後に
『次回はCVAidとT-Support以外にも似たコンセプトの歩行補助具を紹介する』としています。

ところが、第3回の記事を読み返してみると、最後の部分で、
 
・脳卒中片麻痺者の歩行トレーニングにおいて重要なことは、前型歩行を促すこと
・しかし、多くの症例では前型歩行が難しい。その理由は、多くの片麻痺患者様が立脚期
 後半の股関節伸展位に保つ力が不足しているため
 ・T-Supportを使用することで、従来徒手的な介助では困難だったこの課題を解決する
 ことが可能となる
・次回はT-Supportが、立脚期後半に及ぼす力学的な影響について解説する

 
と書いて、締めくくっているんですね。
そうです。本来なら第4回の記事で、T-Supportが立脚期後半に及ぼす力学的影響について解説するはずだったのです。
 
『なぜT-Supportを装着することで、片麻痺患者さんは立脚期後半で股関節伸展位を保つことができるようになるのか?』
 これはT-Supportという道具の最大の特徴であり、その力学的特徴をお伝えすることは、この連載における最重要ポイント
といっても過言ではないでしょう。
それをすっかり忘れて、オランダの話をしてしまいました。

T-Supportを装着すると、麻痺側股関節を伸展させることができるようになる

もうご覧になった方も多いと思いますが、T-Supportを装着することで片麻痺患者さんの歩行動作がどう変化するかをご覧ください。

【動画① 症例1-1/GSD】

【動画② 症例1-2/GSD T-Support装着】

【動画③ 症例3-1/短下肢装具 生活期】

【動画④ 症例3-2/短下肢装具 生活期 T-Support装着直後】

お二人ともT-Supportを装着することで、麻痺側の立脚後半に股関節伸展位をとることが可能となっていることが
おわかりいただけると思います。

なぜこのような変化が起きるのでしょうか?

ここでもう一度

左図は、連載第2回でご紹介した、ヒトの歩行において股関節・膝関節・足関節、それぞれの関節が
どのタイミングで前方への推進力の産生に貢献しているかについて調べたもの(引用1)です。
下肢の推進力を生みだす下腿三頭筋の重要性を説明するためにご紹介しました。

が、この図にはもうひとつ、T-Supportの特性を理解するうえで非常に重要な情報が隠されているのです。
次の左図をご覧ください。

下肢の推進力に対して、立脚期後半に足関節は推進力を産生しています(黄色で囲んだ部分)。
そして、ほぼ同じタイミングで、股関節は推進力を抑制しています(水色で囲んだ部分)。




 

不思議だと思いませんか?
なぜ立脚期後半に、股関節はブレーキをかけているのでしょうか?

それを理解するための模式図がこちらです。

立脚期の後半に、股関節は伸展角度を増大させていきます。
その際に、股関節屈筋である腸腰筋が引き伸ばされます。
股関節が伸展しながら、屈筋が伸長されることで、立脚期後半に股関節はブレーキ作用を発揮します。
これにより、立脚中期に持ちあがった身体重心をスムーズに降ろすことが可能となり、
前型歩行が可能となるのです。


 

しかし、特に筋緊張の低下しやすい脳卒中片麻痺患者さんでは、この股関節屈筋によるブレーキ作用を
効かせることが難しいことがあります。

この立脚後期のブレーキ作用を補助することこそが、T-Supportを使用する最大の意義なのです。
 

こちらの画像は、T-Supportの弾性バンドが発揮する張力を測定するセンサを使用し、歩行周期のどのタイミングで
弾性バンドが最も伸長されるかを測定したときのものです。

下段の水色のグラフが張力です。
弾性バンドは、麻痺側下肢の股関節前面を走行しますので、当然ながら麻痺側股関節伸展に伴い張力が発生し、
ブレーキ作用を発揮していることがわかります。
ここで適切なブレーキ作用が発揮されない場合、非麻痺側の初期接地にかけて急激な重心の落下が生じるため、
前型歩行に対する不安感が生じることになります。

片麻痺患者さんに、より大股で・より速く・スタスタと歩いていただくために、歩行トレーニングで最も重要なポイントが
ここなのです。

いきなり川柳…

先ほどお話しした重要なポイントを、皆さんが覚えやすいように、私がとっておきの川柳を作ってみました。

ええ…『いきなりステーキ』ではなく、『いきなり川柳』の話が始まってびっくりした方もおられるかもしれませんが、
大事なことを五・七・五にまとめると、決して忘れません。

【リハビリ川柳】
 ブレーキを かけてくれろと 泣く股かな

【リハビリ川柳】
 股関節 負けるなティーサ これにあり

そういうことなのです。

多くの片麻痺患者さんの股関節に、適切な方法でブレーキをかけてあげてください。
適切なブレーキのかけ方のひとつが、T-Support(ティーサ)を使うことなのです。

他にも似たような歩行補助具は無いの?

なぜ股関節にブレーキをかける適切な方法として、T-Supportが推奨されるのでしょうか?

ここでようやく、前回(第4回)からの続き「これまでに報告されている、弾性バンドの張力を用いた歩行補助具と
その効果についての文献的考察」に繋げることができるのですが…

実はインターネットで検索してみると、T-Supportに似たような歩行補助具を見かける機会があります。

これはハーバード大学が開発中の、片麻痺患者さんの歩行速度を向上させるためのパワーアシストスーツを
紹介した論文(引用3)です。

実際に動画でみることも可能です。

とても良く似ていると思いませんか?
「うん、確かに良く似ているけれども、T-Supportとはどこか違うような気がする」と思ったあなた!

大正解です!

川村義肢株式会社が開発したT-Supportと、ハーバード大学が開発した歩行補助具。似ているようで、実は結構違います。
 
ネームバリューだけで判断したら、何となくハーバード大学が開発したモノのほうがすごそうに感じるかもしれませんが、
ここまでの連載記事を熟読された方ならば、その根本的な違いをきっとご理解いただけるはずです。
 
 
最終回となる第6回では、T-Supportに似た歩行補助具の特性を解説しながら、片麻痺患者さんの身体に秘められた無限の
可能性についてお話したいと思います。

引用文献

(1)Rileye PO et al;Propulsive adaptation to changing gait speed.J Biomech. 2001 Feb;34(2):197-202.
(2)石井慎一郎:歩行の臨床バイオメカニクス レクチャーノートシリーズ Vol.1 :2011
(3)Awad LN et al;Reducing Circumduction and Hip Hiking During Hemiparetic Walking Through Targeted Assistance of the Paretic Limb Using a Soft Robotic Exosuit. Am J Phys Med Rehabil.2017 Oct;96(10 Suppl 1):S157-S164.

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