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パシフィックニュース

コミュニケーション障碍の支援④ ~操作スイッチの適合技術~

AAC(コミュニケーション)

コミュニケーション障碍の支援④ ~操作スイッチの適合技術~

コミュニケーション障碍の支援④ ~操作スイッチの適合技術~

日向野和夫(KAWAMURAグループ・元川村義肢株式会社)

2019-04-01

第4回は、意思伝達装置における操作スイッチの適合技術についてお話いたします。

意思伝達装置

今更ですが、目の前の人にお喋りや手掌などに文字を書くといった「発話と書字」の2つの伝える手段の喪失により意思表出が困難な身体状況をコミュニケーション障碍と呼ぶことにしています。
これらの代替手段の1つとして意思伝達装置があり、ペチャラのようにキーボードを押す「直接打鍵方式」と伝の心やレッツ・チャットのように入力装置を用いた「自動走査方式」とマイトビーのように文字を見つめる「視線入力方式」の3形態があります。
また、透明文字盤や用具を不要とするひらがな50音を読み上げる音読走査方式の「くち文字」による意思疎通が生活の中で用いられています。
 

携帯用会話補助装置 PECHARA
ボイスキャリーペチャラ 
販売:パシフィックサプライ㈱
 

感覚器障碍(視覚障碍、聴覚障碍)、肢体障碍(高位頚損など)、認知障碍(失読症)などにより、情報の受発信が通常の方法では困難な情報障碍は、社会事情によって内容が異なり、あるいは機器の技術革新によって変化します。
しかしながら、コミュニケーション障碍は機器の技術革新や社会状況の変化によっても変わらない障碍と言えます。

入力装置という用語は総称

入力装置とは、意思伝達装置、パソコン、情報通信機器、通信装置(ナースコール)、電動車いすなど、操作に用いる制御機器の総称ですが、意思伝達装置に用いる入力装置を「操作スイッチ」、パソコンに用いる入力装置を「ポインティングデバイス」、電動車いすに用いる入力装置を「コントローラー」と用語は区分されています。


操作スイッチ
代表的な機器の一覧表

コミュニケーション障がい入力装置操作スイッチ代表的な機器の一覧表
注)弊社の取り扱いのない製品も記載
  音圧式入力装置は厚労省の補装具費制度の分類にはない


操作スイッチの機能などの情報は、弊社の総合カタログを参照頂くことにして割愛していますが、一例として帯電式入力装置の特性を紹介します。

ポイントタッチスイッチ

ポイントタッチスイッチ装着イメージ

センサー部に露出した皮膚が触れることで人の静電気を感知する仕様ですが、爪や髪の毛、髭、衣服などでは反応しません。
帯電式入力装置の適応に当たっては、半袖から長袖被服に変わる、毛布を掛けるなど使用環境の変化に評価時に留意する必要があります。


ピンタッチスイッチ

ピンタッチスイッチ装着イメージ

センサー部は指先や額など皮膚に装着して使用出来るよう形状が細いケーブルとなっています。
前頭筋の筋収縮を活用するピンタッチスイッチの設置方法には手順があり、アルミ箔を装着する位置やセンサー部との位置合わせなど手順通りに行えば、初心者でも対応できる方法です。(操作スイッチの適合マニュアルに記載)

動作の評価とスイッチの操作

  1. 無理のない滑らかな動き
  2. 過剰な努力を必要とするような余分な動きがない
  3. 動き始める最初の動き

スイッチの操作に適した動作とは、脊髄小脳変性症や脳性麻痺など不随意運動のある人でも、共通している滑らかな動作であること。
最初に起こす運動方向がその人の得意な動作であり、その動作に対応した操作スイッチの機種選定とその設置や装着が評価者に求められます。

一度、指先を持ち上げて(背屈)から操作スイッチを押す動作は、余分な動作を伴うだけでなく、不得意な動作でスイッチの操作をしている状態にあります。

 

  1. 手指の屈曲にて押しボタン式のスイッチを押すことは出来る
  2. しかし、初動の手の動きとしては手指の伸展動作から始まる
  3. このような場合は、自然に行われる初動の伸展に着目する
  4. そこで操作スイッチの機種変更を考える

初動に応じた操作スイッチ 

初動となる示指の伸展動作に対応した操作スイッチの一例として、ポイントタッチスイッチがありますが、爪が触れる位置を避けた指先の接触となるセンサー部の設置法となります。
このように初動の評価によって、操作スイッチの機種とその設置が全く異なった結果となります。

再評価による設置の変更 手首の動きでジェリービンスイッチを叩く操作で意思伝達装置を使用していたが、再評価を求められ、強い不随意運動はあるが初動が背屈動作であることから入手済みのスタンダードアームによる固定設置に変更し、優位な動作によるスイッチの操作に変更している。

操作スイッチの適合評価に必要な事項

スイッチの適合技術とは以下の事項が必要な知識/技術ですが、技術革新によって劇的に変化するダイナミックな技術とも言えます。

  1. 進行性筋疾患や運動失調症など各疾患の身体機能に関する知識
  2. 操作スイッチの特性、機能に関する知識
  3. 設置及び装着の技術
  4. 当事者の満足度感知
  5. 設置者の設置能力の評価
当事者の満足度は技術が稚拙であっても実現されますが、この満足度を更に高めるために「より高い技術」が必要となります。
しかしながら理論的な究明よりも実践が先行する現実は、技術の妥当性を検証することはなく、ハウツーの情報からは技術の蓄積や向上を発展することには限界があるのも事実です。

安定したスイッチの操作に必要な条件

安定したスイッチの操作を確保する条件は、優位な動作がスイッチの操作となっているだけでなく、座位・臥位のいずれにおいても安定した姿勢と肢位の状態にあることが必須となります。

安定した姿勢、安定した体幹の肢位

  1. 座位や臥位の姿勢に関係なく傾斜を防ぐなど体幹を維持する筋力作用がない
  2. 頭部の前屈や側屈を防ぐ筋力作用がない
姿勢保持の評価

姿勢保持の評価イメージ図

高い座高の電動昇降型椅子に仙骨座位の生活としている理由は、トイレまで自力歩行をする際の立ち上がり動作をし易くするため、通常では不適切な姿勢とされる状態にある。
不安定な姿勢では適切な評価とはならず、意思伝達装置の操作に適した身体部位と操作スイッチの機種選定は困難であることを説明し、使用環境が整備されたときに改めて行うこととした。
在宅での姿勢保持装置の支援者不足は深刻な状況にあり、相談先が見当たらない現状が生活支援全般の課題として突きつけられています。

自力歩行が出来る筋力

自力歩行が出来る筋力イメージ図

下肢の自重が操作スイッチに荷重されないよう踵部にタオルを敷して足部を支持している。
意思伝達装置の操作の体験で終了している。


進行による身体機能の低下と見間違える姿勢保持装置

ALS:頭部の前屈姿勢、首部の回旋動作が進行に伴う低下と見間違える典型


頭部が前屈した姿勢では、伝の心を固定具(パソッテル)への設置方法は画面が見えにくいだけでなく、強く見上げる行為を長時間強いる負担のかかる状態ともなっている。
緊急避難の対応として画面の配置を顔面に直交する基本位置となるよう床面に変更したが、実用性に課題を残す状態にある。





画面の見やすさは改善されるがスイッチ操作となる頭部の微少な回旋動作に変化はなく、ポイントタッチスイッチの設置に時間を要する課題は残された状態であった。
使用されている椅子の再検討を訪問リハビリテーション関係者が行うこととし、改めて操作スイッチの再適合を行うことにした。
姿勢保持について筆者は門外漢のため、座位評価を東洋大学の繁成剛氏に依頼し、姿勢保持パッドの導入により以下のように劇的に改善をされた。

不安定な体幹が原因:
  1. 前傾姿勢と頭部前屈の姿勢の改善により生活視野が変化
  2. 伝の心が床から机へと機器の実用的な使用環境に
  3. 頭部の回旋動作及び側屈動作が効果的に発揮された
  4. 長時間の使用でも発汗はなく、呼吸も安定し身体的負担が軽減。座位保持装置の使用により姿勢に劇的変化を示す。


体幹が安定した姿勢により頭部の前屈が改善され、机に伝の心を設置できる実用的な使用環境となる変化を遂げている。
頭部の微少な回旋動作も体幹保持の筋力が排除されたことにより動作が確保され、操作スイッチの機種変更は不要となった。
1時間程度の操作でベッドに戻ると大量の発汗、呼吸の乱れが生じていたが姿勢保持装置の導入により安定した身体状況となった。
繁成剛氏はシート状の簡易用具から発砲ウレタンで体幹サポートを作成し、供された継続支援をされていた。

操作スイッチの試行評価

操作スイッチの機種選定
評価は実機で試行し、実際に使用する環境で行うことが基本となります。
機種選定で大切な視点は、評価時点で最も適した操作スイッチを当事者が満足する共同作業で選定することにあります。
 
【左図】2011年伝の心と組合せの操作スイッチの実情
単体製品だけを見るとPPSスイッチ(当時は空圧式入力装置は未品目)がおよそ3分の1を占めています。
*注)伝の心の台数は三桁

操作スイッチの適合技術

各疾患の特徴は以下の通り。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)
症状進行に伴い概ね2年程度で操作スイッチの機種変更が必要となる。

SCD (脊髄小脳変性症)、MSA (多系統萎縮症)
随意運動が発揮される操作部位が唯一の身体機能のため、再適合は皆無な状態にあり、概ね1年程度で使用が困難となる。

CVA(脳血管障害)
リハビリや操作スイッチの日常的な使用による身体機能の向上がある場合と機能低下となる場合があり、身体機能の変化による機種変更が生じる。
 
ALS編 その1
まずはALSから
手部、前腕部、足部、頭部、顔面部の各論の適合技術について。

手部の評価
指先の自動運動が効果的に発揮される肢位の評価と意思伝達装置の試行時におけるスイッチの操作の評価は、以下の点にあります。

  1. 指先の筋力
  2. 前腕の肢位
  3. 手関節の肢位
  4. 操作スイッチの把持形態

1.手関節の肢位の評価
指先の自動運動が最大となる手関節の肢位の評価をします。
手関節を背屈位にして手指の屈曲動作の変化を評価し、自動運動が最大となる肢位を確認する際にあわせて違和感の有無についても当事者に確認をします。
2.操作部位の支持の評価
指先の屈曲動作が最大となる手部の適切な支持面の評価にMP関節、PIP関節の部位でそれぞれ固定し、自動運動の変化を観察します。
3.筋力評価
触診にて最大筋力となる指先を確認し、意思伝達装置の試行時にスイッチの操作面に、最大に反映される状態に調整します。
手部を伸展位にした筋力評価が必要な場合もあり、伸展位に固定しない肢位での評価とあわせて優位となる筋力を触診にて確認します。
4.実機の操作における前腕部、手関節の肢位の評価
意思伝達装置の試行で、使いやすさなど目視と触診でスイッチの操作を評価します。
指先を伸ばした伸展位がスイッチの操作に適している場合、ジェリービンスイッチより厚みのない手押しスイッチが妥当な選択肢となります。

5.手部の支持
指先の屈曲動作による操作の場合、手部の支持面とその高さの評価が必要となりますが、意思伝達装置の試行時に「選択のやり過ごしや誤選択」の有無や発生頻度で確認することが出来ます。

 

手部を支持するタオルの厚さが薄い設置
手指が伸展された状態からの屈曲動作は屈筋の緩みが少ないポジションとなり、運動範囲や筋力が十分に活用出来ない。

支持面がPIP関節までとなったタオルの設置
MP関節を屈曲位にすることで屈筋に緩みが生じ、屈曲動作が効率よく行える。
 

深い屈曲動作が優位な動作の場合、タオルの厚さを高くし操作スイッチが直立した設置
 


6.手の把持つまみ形態の評価
スイッチの操作は操作面に向かって押すように配置するのが一般的ですが、操作スイッチの把持つまみが操作に影響を与えない安定した握りやすい状態にない場合があります。

手の把持の形態と操作スイッチの押しやすさは密接不可分の関係にあり、詳細な評価が必要となる場合があり、母指のIP関節が必要以上に押し上げられていることや示指の握る場所などの評価が大切になります。
当事者にどちらが使いやすいかの感想を求め、使いやすさの確認をします。



医療監修
小林貴代 森ノ宮医療大学保健医療学部作業療法学科長
 
参考文献
2000. 日本人体解剖学 金子勝治、穐田真澄 南山堂
 
関連文献
2016. 9 重度障害者用意思伝達装置操作スイッチの適合マニュアル 三輪書店
2011. 7 連載 地域リハビリテーション7月号~12月号 コミュニケーションをサポートする! 操作スイッチの適合技術 三輪書店
2006. 5 大西秀憲 第45回日本生体医工学会 福祉機器開発と事業化例