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自閉症の子ども達: AAC導入について その1
AAC(コミュニケーション)
海外情報
Joanne M. Cafiero, PhD Ann Meyer, Med
2009-07-01
米国で発行されている、障がいを持つ子ども達や特別な医療ケアを必要とする子ども達の家族のための月刊誌、Exceptional Parentの2008年4月号に掲載された記事を翻訳し、今号と来月号に分けてお送り致します。
ニコラスは4歳の愛らしい男の子です。自閉症と診断されています。
ニコラスが台所で激しく泣き叫んでいます。今回は一体何に対して不満をぶつけているのか、母親のアリシアは確かめます。「何が欲しいの? クッキー? クラッカー? ジュース?」とイライラしながら早口でニコラスに質問します。しかし、母親が聞けば聞くほど、ニコラスはより一層激しく泣き叫びます。そしてニコラスは不満がピークに達すると、あらゆる物に頭をぶつけだします。こうなると、アリシアはもうどうしてよいのか分からず、泣き崩れるしかなくなるのです。
これは自閉症スペクトラム(ASD : Autism Spectrum Disorders)の子どもをお持ちの家族には珍しくない光景です。
ASDの発生は驚くべき率で増加しています。自閉症はコミュニケーション能力に影響を与えますが、事実、自閉症の方の33~55%は、簡単な日常生活のニーズを満たすために必要なコミュニケーション能力の発達が困難です。米国学術研究会議は、2001年の重大な発表である「自閉症児の教育」の中で、「機能的な自発的コミュニケーションはASDの子ども達へのあらゆる介入場面において取組むべき重要なスキルである。」と記述しています。
自閉症とコミュニケーション
自閉症とコミュニケーションについて我々は何を知っているでしょうか。
初めに、ASDの学習特性はコミュニケーション能力に著しく影響を与えることは知っています。自閉症の子ども達の多くは視覚から学習します。口語で行われるコミュニケーションは聴覚優先であるため、自閉症児が言葉を理解し、言葉を生み出すことが困難なのは、これによって影響を受けているからです。
また自閉症の子ども達は複合的な刺激を理解することが困難です。コミュニケーションは言葉のみの処理だけではなく、同時に身振りや手振り、声の調子まで理解することを含みます。自閉症の子ども達は多くの場合、運動計画(何かをする意思を持ち、その後、行動に起こすこと)に関しても困難さを示します。言葉を話すことは、口、唇、舌、顔の筋肉の動きを統合させる、複合的で極めて高度な運動計画が求められます。
この課題を達成することにおいて、自閉症児のコミュニケーション発達は健常児に見られる発達パターンが当てはまりません。
コミュニケーションは我々人間にとって本質的で不可欠な要素です。コミュニケーションに困難を持つ人はコミュニケーションを可能にさせるために必要な道具、方法、技術などが提供されなければなりません。この指針は我が国の連邦法及び国連人権委員会の一環です。
これは、ニコラスやASDの子ども達すべてにとって、どんな意味を持つのでしょうか。まず、最も重要なのは、子どもが自閉症と診断を受けたら、できるだけ早い時期にコミュニケーション支援を提供しなければならない、ということです。コミュニケーションに関する介入を実施せずにコミュニケーション能力が発達していない状況は倫理に反しているといえます。
スーパートーカーと男の子
コミュニケーション支援: AAC(拡大・代替コミュニケーション)
拡大・代替コミュニケーション(AAC : Augmentative and Alternative Communication)はコミュニケーション能力を補ったり、高めたり、広げたり、発達を助ける、あらゆる道具や方法、技術を指します。AACは補助器具を使用するもの、使用しないものがあります。補助器具を使用しないAACには、サイン、身振り、手振りなどがあります。補助器具を使用するAACにはコミュニケーションボード、会話補助装置、キーボード、Eメール、インスタントメッセージなどがあります。
この記事では補助器具を使用するAACについて記述していきます。
AACを活用するには子どもにはどのような能力が必要なのか
AACを使用するために、前提となる必要条件は全くありません。それには大きな理由が2つあります。
1つめの理由は自閉症児の認知能力の評価が極めて困難であるからです。自閉症領域にいる子ども達の多くは高い知的能力を持ちながらも、表面上は機能的に低く見える可能性があります。2つめの理由はAACが子どもに言語発達への枠組みを提供するからです。子どもが生み出す言葉に関係なく、AACは自閉症の子どもが持つ言葉を支え、広げることができます。自閉症の子どもがコミュニケーションできるようになると、彼または彼女の認知能力はより明白なものになります。認知能力が確かなものになることは、その子どもの学習プログラムの内容や、家族や友達にその子どもがどのように接されるかに大いに影響を与えます。
AAC使用に関するエビデンス
AACが機能的なコミュニケーションを増加し、問題行動を減少させ、家庭、学校、社会への参加能力を促進する、ということを認める研究が増えています。また、AACは読み書き能力の発達、向上にも貢献します。AACが言語を促し、刺激するというエビデンスはありますが、AACが言語を抑制するというエビデンスはありません。言語発達において、補助器具を使用するAACが、補助器具を使用しないAAC(マニュアルサイン)よりも優れているといういくつかのエビデンスがあります。
リトルマックと男の子
【著者の紹介】
Joanne M. Cafiero, PhD
自閉症・AACコンサルタント。Meaningful Exchanges for People with Autism: An Introduction to AAC(自閉症の人々との有意義な交流: AAC概論)の著者。このテーマにおける最初で唯一の書籍である。
自閉症児への教育的介入に関する全米科学アカデミー委員会の前メンバー。ジョーンズ・ホプキンス技術センターの自閉症プロジェクトの前ディレクター。ジョーンズ・ホプキンス大学大学院課程の中の「自閉症を持つ生徒への教育」を策定した。現在は米国内及び海外において自閉症児に関わる人々や家族への指導に携わっている。
Ann Meyer, MEd
自閉症スペシャリスト/特別支援教育アドミニストレーター。現在、AbleNet社の研究開発部部長。AbleNet社は創業20年以上のAAC・アシスティブテクノロジー機器の製造販売企業であり、自閉症の子ども達が家庭、学校、社会の中で取り入れやすい、革新的なAACソリューションを提供している。
本文献の翻訳掲載についてはEP Magazineより許諾を得ております。
Exceptional Parentは米国で発行されている、障がいを持つ子ども達や特別な医療ケアが必要な子ども達の家族のため月刊誌です。
購読料:$39.95(年間12冊/送料など含まず)
連絡先: 電話(877) 372-7368/住所: 416 Main Street, Johnstown, PA 15901 USA
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