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パシフィックニュース

重症心身障害児施設でのリフトの導入 事例紹介

リフト・移乗用具

重症心身障害児施設でのリフトの導入  事例紹介

南紀医療福祉センター 作業療法士 小出 真希子

2014-04-01

利用者への同性介助と安全安楽な移乗を目指して

私たちの施設では、重症心身障害児施設として、現在は医療型障害児入所施設、療養介護事業所として障害児・者と家族へのサービスを提供しています。利用者は重度の肢体不自由と知的障害を重複してもたれており、介助や支援には多くのマンパワーと時間を要する状況にあります。

そのような状況下で安定、且つ継続して質の高いサービスを提供できるよう努力してきましたが、今回、利用者の高齢化・重度化に対応するケアの再検討、現在より質の高い介助として利用者と家族からの同性介助の要望、直接介助職員の腰痛の発生と業務継続への不安と厚生労働省腰痛予防指針の改定の取り入れを含めたものへ対応すべく利用者への同性介助と安全安楽な移乗を目指して~床走行式リフトの実用に向けての取り組み~チームの立ち上げとリフト導入という形で進めていることについて報告させていただきます。

リフト導入のきっかけ

近年の重症心身障害者も高齢化が進む中、私たちの施設を利用する利用者の年齢層も高齢化していき、介助度も全介助を要する利用者が多くなってきました。昔は歩いていた利用者も、寝たきりになったり、運動量の低下で体重の増加による運動機能が低下傾向にある利用者も少なくありません。私たちは、そういった利用者の身体的変化に気付き、対応していくことが求められます。私たちの施設では、職員の腰痛も懸念し、移乗の際に全介助が必要な利用者に関しては、2人介助を基本とし取り組んできました。

また、利用者の保護者からは、以前から利用者の人権に配慮し、同性介助を求める要望が上がっていました。また、内閣府・障害者政策委員会が 2010年に出した新「障害者基本計画」に関する意見には同性介助の保障を盛り込むべきであるということが記されています。同性介助は利用者家族からの要望に応えるのではなく、保障されたサービスとして盛り込む必要があります。

しかし、現実には現有職員構成(看護師・支援員)の男女数差や、体制、シフトなどの問題があり、特に女性職員は筋力の問題からも、2人介助の体制をとることが必要でしたが、先の理由から実現が難しいままでした。結果的には、数的不足を補うための1人介助を行っているのが現状でした。

図にあげているのは、プロジェクト結成の根拠の一つとなった職員へのアンケート結果を表におこしたものです。腰痛による病休をとる職員はわずかでしたが、その予備軍となる腰痛を自覚している職員が多いことが分かりました(図1)。また、それによる能力発揮が十分でないと感じている職員が多いこと(図2)、今後、腰痛になることへの不安を抱えている職員が多いこと(図3)などが分かりました。

同性介助の実現や、高齢化や重度化に伴い利用者の介護度が増える中で介護方法を変えていく必要があることがアンケート結果からも明らかになりました。また、腰痛だけでなく介助者の体格や技術に差がある現状ではあるが、だれがやっても、いつやっても同じように安全で安心できる介助を提供しなければならない。この問題をどのように解決していったらいいのか。そこで、一つの考え方を参考にしました。それは、ノーリフトポリシーという考え方です。

これは、福祉の先進国であるスウェーデンを発端とした『ノーリフト! リフトしない! 持ち上げない! 』という考え方です。現在ではアメリカにも広がり、介助者の腰痛問題の解決に役立ち、介護者の腰痛による欠勤が減ったことが報告されています。ノーリフトの考え方を基盤に介護の方法を考え直すことは、利用者をより繊細に介助できる方法、職員にとって安全な労働環境を提供することにつながるとされています。

図1 図2

導入の経緯

  1. 研修:全体研修、実技研修(職員同士の練習・研修)
  2. 保護者の学習会
  3. リフトの業者が入り、他施設の情報や客観的なアドバイス

リフトの導入に関して、保護者の方からは、「腰痛に対しての職員への配慮、長く働いてほしいとの声や、十分に使いこなせるように研修をしてほしい」という期待の声。「不安はあるが必要性は分かる」といった葛藤の声。また、リフトそのものに対しての「冷たい印象や荷物のようにみえて嫌だ」という声もありました。

「昔、小さいころは抱っこが好きでよくしていたが、大きくなり抱っこも出来なくなって、実際にみてみるとゆりかごのようにみえて、子どもも気持ちよく感じてくれそう」といった子どもさんとの想い出を語る声も・・・。

また、意思表現ができる利用者さんに、「リフトと抱っことどちらがいいか」を聞くと、「リフトの方が安心する」との意見をいただきました。この方は、側彎と股関節の拘縮が強く、移乗の際の緊張も強い方でした。リフトでは接地面も視野も広く確保できることがこの方にとっては心地よい状態なのではないかと考えます。

施設内研修

今後の課題

私たちの施設では、臥位レベルで動きを発揮できる方が多いのですが、現状、臥位で活動できる場所は、ベッドが床面に設けられているプレイルームです。

車椅子から床面への移乗は、腰痛のハイリスク動作になります。そのため、プレイルームでの活動はなかなか実施することにもリスクが伴っていました。今後、リフトが広がることで、移乗の際の苦痛を取り除くことができること以外にも、移乗が難しかった床面での活動場で活動ができるなど、生活環境が車椅子、ベッドに加えてでの余暇活動の場に広げることも容易になることを期待しています。また、利用者がもっている運動機能レベルの活動環境を提供できることで、運動低下に対応できる可能性もより広がるのではないかと考えています。

また、長期的で、変化のある利用者が使用している施設の特徴にあったケアができることも、リフトが使用されていくことに期待していることです。

そのためにも、リフトに慣れるまでに時間がかかることや使用を安全潤滑にするためのスペースや環境整備。特に床面で使用するための環境整備は課題です。また、冷たい印象をぬぐっていくためにも抱っこのような操作ができるようになるための技術の習得や感性を磨いていくことも課題であると考えます。

まとめ

利用者家族様の願いである同性介助と利用者、職員双方に安全安楽な移乗を目指してリフト導入と実用の経緯を報告させていただきました。
リフト導入前の当センターの現状と課題は、これまでの歴史の積み重ねであります。決して悪くはなく、医療や介護の現場で人が人に行う直接介助の技術の集大成であり、その技術や理論によって利用者さんの生活が守られてきたこともまた事実です。

しかし、ご家族、利用者様のニーズの多様化、社会環境の変化や医療・介護の新しい理論や枠組みが構築されている中で普遍的な良い事は残しつつ、新たな理論や技術を習得し、実践していかなければならない時期にきていることも感じます。リフトによる介助が浸透し、新しい介護の技術として職員・利用者双方が受け入れることができたときに、真の意味で利用者にも職員にもやさしい介護ができるのではと感じています。
現場でリフトを使うことは、日本では、まだまだ先駆的なことであるため、ご家族からも職員からも様々な意見があります。

それらの意見を無視したり単純に論破したりするのではなく、共有し、さらなる意見を加え、理論や方法を検討し、実践を重ね、再検討していく。それらを繰り返していくことが大切なことであると考えます。

現在、リフトの業者をチームに迎え、月1回会議を継続し、導入した他施設など外部の情報も取り入れながら、当施設で汎化、浸透していくようスモールステップで行っています。

リフトが現場に浸透していくには2年かかると言われています。私たちチームは、現場が使いやすい方法を常に提案し、職員と一緒に問題を解決していく中で、利用者様の同性介助と利用者にも職員の身体にもやさしい安全安楽な介助の実現ができるよう取り組んでいきます。

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