パシフィックニュース
Ossur モジュラーソケットシステムMSS
義肢
2014-01-01
MSSは切断後の義足リハビリテーションの標準化、早期化を目的としてオズールが開発した下腿義足用TSB(全表面荷重式)ソケット製作キットです。本稿では製作プロセスのポイントを確認し、あわせて、経済的側面からその効用を確認します。
MSSの製作工程1
切断端のサイズに適した、MSS専用キャスティングライナーを選択する。
事前に
- ORD(オズール・リジッド・ドレッシング)による浮腫形成の抑制(断端の腫れ自体を少なくする。)
- 適切な圧迫値を加えるポストオペライナーによる浮腫の減少(腫れを取り除く)、断端形状形成(切断端をライナー装着に適した形状とする。)を行うことで、MSSソケット製作後の切断端の周径・容積変化によるソケット再製作、ライナー交換によるコスト発生の恐れを減じることができます。
- MSS専用キャスティングライナーは、加圧採型による遠位の過剰な引き伸ばしによる不適合の防止に有効です。
MSS専用キャスティングライナー
MSSの製作工程2
脛骨骨端や腓骨小頭部など、ソケット内圧によるトラブルが予測される個所にシリコーン製パッドを貼付します。
従来、陽性モデル上で行っていた盛り修正作業に替わるものです。
採型時にこの作業を行うことで、修正作業を経ることなく部分的な圧緩和が可能となります。
MSSの製作工程2
MSSの製作工程3
専用のガラス繊維積層材を断端に装着します。
体重166kgの切断者の使用に耐える強度を持ちます。
MSSの製作工程3
MSSの製作工程4
二液混合型のポリウレタン樹脂を専用工具でガラス繊維に含浸させ、断端形状に沿うように樹脂を均等に行き渡らせます。
本来製作所内で行う樹脂注型作業を切断者を目の前にして病院内で行います。樹脂の硬化時に高い温度やそれによるガスが発生しない。樹脂の漏れやこぼれにより切断者の着衣や室内を汚さない。
国際規格に準拠した樹脂の選定や専用治具の開発により安全で清潔な作業を可能としています。
MSSの製作工程4
MSSの製作工程5
cecastアナトミーを用いて、加圧採型を行います。
加圧採型のプロセスとしては、
- 内側のシリコーンバッグが切断端の形状を適切に捉える。
- 内側のシリコーンバッグに空気圧を加えることで、断端組織を引き伸ばしながら、装着時の回旋防止に有効な形状を整える。
- 外側のシリコーンバッグに空気圧を加えることで、断端組織をさらに引き伸ばし荷重可能なソケットを成形します。
MSSの製作工程5
MSSの製作工程6
樹脂の一時硬化後、ソケットを取り外し余分な材料を切り除き、ソケットの形状を整えます。
樹脂は10分ほどで事後の作業が可能な状態に硬化します。
近位のフチは電動のこぎりで余分な材料を切り除き、やすりと紙やすりで仕上げることができます。
ソケットの形状を整え、義足部品の取り付け・組み立てに必要な作業時間は40分ほどです。作業完了後、試歩行による適合確認を行います。
MSSの製作工程6
MSSの経済性
次にMSSの経済性について確認をします。
- 材料費について
従来のギプス採型、石膏モデル修正、積層材への樹脂注型作業によりTSBソケットを製作した場合の標準的材料費は4,000円程度です。一方、MSSでは専用ガラス繊維、樹脂、消耗部材を合わせた部材費用は55,400円です。
大きなコスト差がありますが、MSSの使用部材の一部は完成用部品としての償還払いの対象となっています。
(型式)ソケットアダプタ・四穴
(使用部品)オズールM-100101
(受託報酬価格)52,000-
55,400円に対して52,000円の償還払いですので、製作所の材料費負担は従来材料と変わらない、もしくは有利ということになります。但し、社会的費用としては従来のソケットよりも52,000円増となりますので、義足の即日納品による医療コストの削減効果などとの比較検証が今後の課題となります。
- 作業工数について
作業工数により労務コストの比較をします。
作業工数の比較では195分の作業時間の削減となり、労務コストの面でもMSSが有利です。
また、従来のTSBソケット製作では表中の着色部分は製作所へ持ち帰っての作業が前提となっていますので、採型から仮合わせまで、仮合わせから本納品まで平均的にはそれぞれ1週間を要します。
MSSの効用として総作業時間削減という量的効用と合わせて、極早期納品による効率向上という効用が期待できます。ただし、解決すべき課題として訪問先医療機関で義肢装具士が十分な作業時間を確保できる体制を整備することが挙げられます。
まとめ
本稿ではMSSについての製作工程を確認し、あわせて経済性の考察を行いました。
MSSは下腿義足ソケット製作適合にかかる金銭面での負担を増すことなく、労務コストを削減でき、大幅な納期削減を実現することが確認できました。また、コスト、納期面だけでなく、義足ソケットの本質的品質要素である安全性や良好な適合についての効用も高いことが報告されています。
一方、医療機関に義肢装具製作所から義肢装具士が参院し、単独で複数の義肢装具関連サービスを提供する現状では義肢装具士が参院先医療機関で必要な時間をどのように確保するのかという課題解決が必要です。
現在、全国でMSSを用いた義足供給への取り組みが進んでいます。
今後も臨床現場での供給事例を収集開示し、MSSの活用による切断者リハビリテーションの向上を進めてまいります。
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