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パシフィックニュース

VOCAと共に 事例紹介

AAC(コミュニケーション)

VOCAと共に 事例紹介

パシフィックサプライ株式会社 事業開発本部 松浦 拓也

2014-01-01

たきてる じゅき君は肢体不自由のお子さまで、現在は特別支援学校小学部に通われている男の子です。いちょう学園には生後間もない時期から外来に通い、その後入園し、VOCAとの出会いがありました。その入園から卒園、そして今どのように成長しているのかをご紹介いたします。
(取材協力:八尾市立医療型児童発達支援センター いちょう、じゅき君のお母様)

僕の名前は「たきてる じゅき」

生後10ヶ月くらいで入園し訓練に加え保育も受けられるようになりました。そこでは毎朝みんなで行う「朝の会」があります。一人一人名前を呼ばれ出欠確認をしていますが、初めは名前を呼ばれても自分が呼ばれているのかが分からないところがありました。ある日先生が出欠確認のため「たきてる じゅき君」と本人の名前を呼びました。

この時期まだ発声はありませんでしたが、伏臥位状態で顔をあげ周囲を観察する様子がみられたそうです。普段、家族にフルネームで呼ばれることはないので馴染みはないのですが、「名前を呼ぶ」→「みんなが視線をむける」→「先生が寄ってくる・声をかける」この一連の流れを反復的に体験したことで、自分は「たきてる じゅき」という名前なのだと理解できたのです。

「No」のあらわれ

いちょう学園では、お子様に対して「聴く」ということを根底におき、保育を実践されています。「トイレ行きたい?」「これで遊ぶ?」「当番やる?」など、お子さまとしっかり向き合い感情を汲みとり接しています。

その中で先生の問いかけに対して首を少し横に振る動作が表れました。自分からの表出があまりない中、この行動は先生たちを驚かせる出来事でした。それからは、この行動を本人からの「Noサイン」として捉えマッチングを実施していきました。日を重ねるごとに本人の理解は深まり、この動きは確実に「No」と首を大きく振れるようになり、「Yes」も発声や首の縦振りができるようになり、自分からの意思表示が増えていきました。

じゅき君にとって、今までの意思表示は「ジッと待つ」「泣いて訴える」という2つの手段でしたが、これが初めての「対話」でした。この「No」と「Yes」が表出できるようになったことは、本人にとっても先生にとっても大きな一歩だと感じています。

「ビッグマック」から呼びかけ

この時期、担当の先生がじゅき君にVOCAを活用してみようと試み、ビッグマックへ「先生来てー」と呼びかけるメッセージを録音しました。すると、初めて使うビッグマックなのに先生方が驚くくらい上手にスイッチングを行ったのです。自分から離れた場所にビッグマックがあっても、移動してスイッチングをするようになりました。

ビッグマックは1つの音声(言葉)を録音・再生することができ、伝えたい場面で相手に言葉で伝えることができるというメリットがあります。フィードバックも得られやすく、VOCAから再生された言葉は使用する本人も聞くことができて、言葉の理解も深まります。

これを機に、朝当番で「調理室へ牛乳を取りに行く」場面でもビッグマックを活用するようになりました。係の人を呼んだり、ビッグマックで呼んだ後に先生が促すと自分の声でも係りの人を呼ぶようになったそうです。

また自分から発声するようになった背景には、家庭での研鑽もありました。お母様は常に「自分で言ってね」と言い続け、親子で呼び合うような言葉遊びを行ったり、食事前には「手を合わせていただきます」ということも促し続けていたそうです。このような積み重ねが、「声をだして自分で言う」という言語面や「手を合わせる」といった動作面の成長につながったと思います。

当時のじゅき君にとって環境の全てが「周囲に自分からアプローチをするための土台」になっていたのだと強く感じました。

場面に応じての選択

「じゅき君はすごい内言語をもっているし、言いたいこともすごく増えてきている」と感じた担当の先生は、VOCAをビッグマックからスーパートーカーに切り替えることにしました。

スーパートーカーは幅広く活用頂けるよう汎用性のあるVOCAです。利用する方の理解度・内言語に合わせ分割数を1・2・4・8と変更ができ、8場面の録音再生ができます。直接操作が難しい場合は、利用する方の可働域に合わせ外部スイッチを利用することが可能です。

じゅき君はまず2分割で、聞かれた事に対して「Yes」「No」、何かをしている時に「手伝ってください」「分からないので教えてください」と言えるようメッセージを録音しました。外部スイッチも利用しつつ、本人が言いやすいよう活用されていました。先生がお子様一人一人にしっかり向き合っている証拠ですね。

そして場面はセラピストの療育に変わり4分割へキー数を増やしていきます。「〇〇先生」「△△先生」「お願いします」「ありがとうございました」と4メッセージを録音し、「人の違い」と「始まり・終わり」の理解を深めていきました。今までの一語文から二語文へつなぐためのステップアップです。筋緊張があるので難しいかと感じましたが、「先生の名前」を言い分け、「お願いします」「ありがとうございました」と言葉をつなげ言えるようになっていきました。

VOCAを利用し始めてからは、理解度・内言語・自己表現意欲・関わる姿勢全てがグッと成長し、家庭でも言いたいことが増え自分から言うという場面がすごく増えたとお母様からお聞きしました。発声のあるお子さまがVOCAなどのコミュニケーションツールを利用すると、VOCAに頼り、本人からの声が無くなっていくのではないか、という相談を全国のお客さまよりいただくことがありますが、そうではなく発達段階において必要なツールだと確信した機会でした。

VOCAで先生を呼ぶ

いちょう学園先生方の試行錯誤

当時じゅき君がVOCAを活用するにあたり、先生方は「どういった言葉が分かりやすいか?」「どういった言葉だと本人が主体的に活きるか?」こういった考えを巡らせながら、日々関わっていたそうです。

VOCAは支援機器ですが、本人が利用すると本人の言葉として相手に伝わります。録音する言葉も年少の時期と年長の時期で、年相応の言葉を録音するように努めたそうです。

VOCAが対話をするための1つの手段ということを先生方に理解頂いていたと思うと、胸にグッとくるものがありました。

学校でも「牛乳当番」

現在は、地域の特別支援学校へ通っていますが、いちょう学園で毎朝行っていた当番を学校でも行っています。学校の先生がVOCAを自作して「牛乳ください」とメッセージを録音しているそうです。ここでも、給食の時間になるとやる気がでて、自分が率先して行うという姿勢がみられるようです。できることが増えると意欲が増してくるのはすごく分かります。

でも、その意欲が“遊び”に変わってしまうことがあるようです。VOCAで先生を呼ぶと先生が来てくれるのが楽しく、牛乳は欲しくないけど連続して呼び、その後笑っているようです。

少年期を順調に成長し、周囲との関わりを自分からとっていることが嬉しく感じました。

だるまさんがころんだ

現在そして、これから・・・

就学後、基本的にVOCAは当番の時間に利用し、先生や友達と「自分の言葉」で関わりをもち楽しく過ごしているそうです。
私は、VOCAの利用を生活場面で定着いただければと感じていますが、最終的に本人が自分から発声・発語ができるようになり、相手に気持ちを伝えられるようになることが私の願いです。

たきてる じゅき君は、本当に、私の願いどおりに成長されています。今回の取材で、尚更、私のイメージがフォーカスされたように感じています。

じゅき君、お母様、いちょう学園の先生方に感謝し、今後も全国のお客さまへ将来を見据えた提案ができるよう、日々皆さまと関わっていきたいと強く感じました。

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