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Europa(義足歩行分析システム)の臨床経験
義肢
「前より歩きやすくなった」の一言が嬉しかった-組み込み型ロードセルEuropaの臨床経験-
日下病院 リハビリテーション部理学療法士 加藤 詩生
2014-06-01
義足装着者の様々な日常生活動作の結果、ソケット内に生じる力(ソケット内反モーメント)を可視化することはこれまで極めて困難でした。本システムEuropaは医療・在宅臨床現場、教育、いずれの場面においても義足適合の可視化や標準化の有効な道具となり得ます。今回は、初めて担当した義足の患者さまのリハビリの中で、若き理学療法士がどのようにEuropaを使用していったのか。貴重なる臨床事例を報告していただきます。
リハビリの開始
私が大学を卒業し、理学療法士として初めて担当した義足の患者さまは、糖尿病性壊疽が原因で下腿切断となった男性でした。新人の私にも気さくに接してくださるとても実直な性格の方でした。家族や友人と歩いて買い物をしたいという患者さまの希望を念頭に、屋内外における実用的な義足歩行の獲得を目標としてリハビリを開始しました。
しかし、義足を使用した歩行練習を開始して間もなく、大きな壁にぶつかりました。
「痛い」 「歩きにくい気がする」
脛骨前面は下腿義足の場合に多くトラブルとなる部位と思いますが、この患者さまも例に漏れず、同じ部位に傷や痛みが続きました。義肢装具士と繰り返し話し合い、義足アライメントを調整していただいたり、断端袋やパッドを使用したりもしましたが、なかなか痛みは変わりませんでした。患者さまが持つ元々の膝の変形や筋力の低下も相まって適当な義足アライメントが決定できず、痛みのためにうまく荷重ができなかったり、これによって歩容が定まらなかったりと歩行練習がうまく進まない日が続きました。
整形外科医からの一言
「Europaという計測機器がある。試しに使ってみようか」
なかなかリハビリが思うように進まず煮詰まっていたとき、当院義肢外来担当の整形外科医から提案を受けました。義足に直接計測機器を取り付けて、歩行中のソケット反モーメントをリアルタイムに計測できるものという簡単な説明を受け、元々機械好きな性分もあり、少しでも患者さまの役に立つものならばと半ば縋る思いで導入を決めました。
とはいえ、不安もありました。モーメントのことなど囓った程度にしか知らないし、機械好きとは言っても下手の横好きで大した知識もない。そもそも触ったことのない計測機器をどのように使うかもよく分かっていないのに、安請け合いだったのではないだろうか。実際のテスト当日までは期待半分と不安半分で、あまり落ち着くことができませんでした。
義肢装具士との出会い
試着当日、パシフィックサプライ株式会社の義肢装具士・酒井さんが病院にみえました。Europa担当の彼女は機器の設定方法や計測の手順、計測結果の見方やその解釈など、当初私が抱いていた不安を吹き飛ばすようにどんな小さなことも分かりやすく説明してくれました。
また、Europa自体も考えていたよりずっと小さい部品で患者さまへの負担も少なく、場所を選ばずに計測できることから、臨床現場でとても導入しやすいものだと感じました。
Europa試着
嬉しい一言
Europaを使った計測と義足調整を始めて何度か試行を重ねた十数分後、患者さまの様子に変化がみられました。
「前より歩きやすくなった」
10m歩行路を歩き終わった時、Europaを使用する前はなかなか聞けなかった一言を患者さまが口にしました。この時、私自身は患者さまの歩容の変化に気付くことができませんでしたが、改めて動画を確認すると、義足に以前よりも体重が乗るようになり、身体の側方へのぶれ幅も少なくなっていました。また、以前は修正してもすぐに戻ってしまっていた身体のぶれや骨盤の過剰な動き、膝の不安定な様子などが、その後歩行を続けてもほとんど戻りませんでした。
この変化は計測結果にも表れていました。荷重応答期(義足に荷重していく時期)が形成されており、身体が横に大きくぶれていることを示す数値も減少していました。
義足調整前
義足調整後
新たな収穫
計測からしばらく経った頃に、それまで頻繁にあった断端の痛みがあまり起こらなくなったというもう一つの収穫がありました。これと合わせてたびたび生じていた傷もできにくくなり、その後の歩行練習をとても円滑に進めることができました。
これがEuropaを使った義足アライメント調整の効果であると直接結びつける客観的な根拠はなく、他にも考えられる原因はありますが、身体のぶれが減ったことや義足へしっかり荷重できるようになったことと関係している可能性はあると考えています。
Europaの臨床応用への期待
義足アライメントは、医療従事者の技量と経験(主観的評価)と装着者自身の主観的意見によって調整されることが一般的であると思います。しかし、今回の私のように経験の浅い医療従事者の場合や、あまり自分の感じたことを言わない患者さまの場合はどうでしょうか。より適切な義足アライメントの決定や患者さまと医療従事者間でのコミュニケーションを目的として、今回使用したEuropaをはじめとする数値として可視化できる客観的評価を用いることが必要な場面もあるのではないでしょうか。
計測値に基づいて義足アライメントを調整した結果、歩容が改善し、練習を円滑に進めることが可能となった今回の患者さまの例を経験して、今後も客観的評価の有効性を検討していきたいと考えます。
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