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パシフィックニュース

新しいディサースリアの臨床2.評価

その他

新しいディサースリアの臨床2.評価

新潟医療福祉大学 西尾 正輝

2010-01-01

1.ディサースリアの臨床で行う標準的検査の概要

ディサースリアの評価には、1)病歴聴取を含めた一般的情報の収集、2)発話の検査、3)発声発語器官検査の3種の検査が必要である。国内で唯一標準化された総合的なディサースリアの検査法として標準ディサースリア(AMSD)があり、広く用いられている。表1に、AMSDにもとづいて上記の3種の検査に含まれる情報収集内容を示した。発話の検査と発声発語器官検査は、発話障害に関する現症を把握するための検査である。

発話の検査とは、話しことばの状態について聴覚的手法によって評価するものである。発話の検査では、明瞭度、自然度、発話特徴、発話速度の測定が特に重要である。自然度に相当する概念としてかつては異常度という用語が用いられていたが、この用語には倫理的問題があり国際的に今日では用いられない傾向にある。熟練した言語臨床家の耳は優れた分析器であり、聴覚的評価能力を高めるために、AMSD評価用基準スピーチサンプル集(インテルナ出版)が役に立つであろう。

発声発語器官検査とは、発話の生成に用いられる器官の運動機能と構造について評価するものである。機能としては、運動範囲、筋力、速度、協調性について評価する。呼吸機能、発声機能、鼻咽腔閉鎖機能、口腔構音機能についてそれぞれ評価し、発話の異常の原因となっている構造や生理学的機能の異常を解明することを目的とするものであり、発話障害の発現機序を生理学的レベルで明らかにするものともいえる。発声発語器官検査を実施するには、一連の用具が必要である。写真1に、AMSD検査キットを示した。各用具は、個々別々に集めても良い。音声言語医療用バイト・ブロック(写真2)はディサースリア例を対象とした発声発語器官検査には欠かすことのできない器具である。

ディサースリアにおいて、発話の検査と発声発語器官検査は結果と原因の因果的関係にあるともいえる。発話の検査から神経・筋機構の異常の結果として生じている発話症状を把握しながら、その原因となっている発声発語器官の病態生理について仮説を立て、その仮説を発声発語器官検査によって証明したり否定したりするのである。

2.国際生活機能分類(ICF)に基づいたディサースリアの評価

ICFを用いることによって研究者たちは共通の言語と理論体系を持つことができるので、言語病理学の領域の研究においても発展にも寄与するものと期待されている。前号で紹介したANCDSも、ディサースリアの臨床においてICFに基づくことの重要性を随所で強調してきた。

ANCDSに準じて簡明に解説すると、発声発語器官検査の結果は発声発語器官の神経・筋機能ならびに構造について調べるものであるので、心身機能・身体構造のレベルに対応する。例えば、舌下神経麻痺や顔面神経麻痺というのは、機能障害に含められる。これに対して、発話の検査はコミュニケーションという他者とのかかわりにおける能力について調べるものであり、明らかに生活行為に関連するものである。従って、発話の検査結果は活動のレベルに対応する。例えば、発話明瞭度や自然度の低下というのは日常生活活動(ADL)における人との交わりの中で生じる問題であり、活動制限に含められる。

一般的情報の収集は、心身機能・構造、活動、参加のいずれのレベルにも関与するが、特に背景因子(環境因子と個人因子)に関与する。このように、ディサースリアとは機能障害であると同時に、活動制限であり、参加制約である。決して、一元的に機能もしくは活動のレベルの障害として分類されるべきものではない。
共通言語を確立することの重要性から、AMSDはこのICFに準じている。障害モデルを用いることにより、多次元的、統合的に障害を把握したり介入したりすることができる。表3に、ICFに準じた評価モデルのサンプルを示した。事例は54歳男性で営業業務一筋に生きてきたUUMNディサースリア例である。

3.検査結果のまとめ方

今日医療の領域で広く国際的に標準的に用いられている問題志向型診療記録、いわゆるPOMR(problem - oriented medical record)に基づいて結果をまとめることが大切である。POMR に従うと、問題点をとりこぼしなく明確に把握でき、より的確に治療プランを立案することができる。POMRは、(1)基礎情報、(2)問題点、(3)治療プラン、(4)臨床経過の4つに分けて記録するものである。基礎情報は病歴関連と、診療所見に分けられる。

基礎情報としては、まず、クライアントの氏名、年齢、性別、医学的診断名、損傷部位、言語病理学的診断名、主訴、現病歴、既往歴、家族歴などの病歴関連の情報を記す。

続いて診療所見として、音声言語病理学的情報について、科学的に示す。ディサースリアの領域では、発話の検査と発声発語器官検査の両結果を適切に対応づけることが肝要である。両者は結果と原因の因果的関係にあるものであり、この分析によって発話の異常の根本的原因となっている生理学的機能の異常を解明することになる。こうして障害の発現機序を明確にし、障害の構造を解きほぐす作業は、治療プランの立案に必須である。その典型的な一例を示すと、呼吸機能では、「呼気圧・持続時間」の低下は、「声量の低下」の原因として解釈することができるであろう。

第2に、上記の情報における問題点リストを列挙する。手順として、まず、発話の検査と発声発語器官検査から得られた問題点を列挙する。ICFに従い、機能障害と活動制限のレベルに分けて列挙する。さらに、一般的情報の収集の結果から、参加制約のレベルの問題点も列挙する。

第3に、列挙した個々の問題点を解決するために、治療プランを立案する。問題点と対応させてプランを記載するが、一つの問題点に対して複数のプランを立案することもある。またこれと同時に、治療頻度と治療目標も設定する。中間評価や最終評価であれば、臨床経過についても加筆する。表2に、POMRに基づいた最終評価結果のまとめのサンプルを示す。

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