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パシフィックニュース

AACケーススタディ紹介 エーブルネット社 その1

AAC(コミュニケーション)

AACケーススタディ紹介 エーブルネット社 その1

エーブルネット社研究コンソーシアムより、障がいのある子ども達が学び、成長し、素晴らしい結果を成し遂げる機会を、いかにして教育者が創り出しているか、実際の事例を紹介致します。

2010-04-01

どんな夢でもかまわない  Any Dream Will Do

ジュディは英国、ロンドン北部にあるハートフォードシャー州にて活動している、24年の経験を持つ、フリーの言語聴覚士です。選択場面を作ったり、語彙を増やしたり、生活の中で楽しみや参加の機会を広げるためにスキャンやスイッチを活用します。

「その子どもにとって100%関連した機会を創出すること」
「明確なゴールに向かって小さなステップを踏むこと」
「子ども自身へフィードバックし、子どもが確認できるようにすること」
という3つの基本を持ち、コミュニケーション支援を実施しています。重度の脳性麻痺、皮質盲のマシューはジュディがコミュニケーション支援に関わり始めた6歳半から現在の12歳まで目覚しい成長を遂げてきました。

マシューとの出会い

ジュディは自らの能力を示すことが往々にして難しい、重複障がいの人々へのコミュニケーション支援を長く行っています。重度の脳性麻痺があり、また皮質盲であるマシューはジュディとコミュニケーション支援の関わりを通し、自らの可能性を見出した1人です。

ジュディがマシューとコミュニケーション支援の関わりを始めたのはマシューが6歳半の時でした。その当時、マシューはスイッチを使っておらず、確立したコミュニケーション方法を持っていませんでした。マシューは目の前におもちゃを2つ提示されると欲しい方に視線を送るため、基本的な形はおそらく見えているのだろう、とスタッフは考えていました。
マシューは人と一緒にいることを楽しむ無邪気な子どもで、音楽の好みがはっきりしていて、本のテープを聴くことが好きでした。くまの縫いぐるみと、くまが出てくる絵本を集めていて、素晴らしいコレクションになっていました。母親はBBCで働いており、マシューにお話を録音したテープをたくさん作りました。テープはすべて魅力溢れる表現が豊富で「聴きたい!」と思わせるものばかりでした。カーテンに風鈴やベルを付けたり、鳥の鳴き声の時計やカラフルなスライドが見えるプロジェクタを揃えるなど、マシューの両親は時間と労力を費やし、マシューの生活が刺激に溢れるものにしていました。

ジュディがマシューと初めて出会った時、彼の両親はスイッチの様々な可能性や、言語や音声以外のコミュニケーション手段について知りませんでした。最初の導入には時間がかかりましたが、今では結果は驚くほどです。
マシューは現在12歳になり、2つのスイッチを使いながら、「FL4SH」というスキャン式のコミュニケーション機器を使用しています。頭に付けたスイッチでスキャンのライト、聴覚フィードバックを操作し、手のスイッチ(ジェリービーンスイッチ)でメッセージを選択します。マシューは聴覚フィードバックにて選択肢を聞き、考えた上で選択します。現在はいくつかのオーバーレイを持ち、それぞれに音楽や何をするか、どこへ行くか、部屋はどこにするか、誰がいいか等の選択が録音されています。

ジュディのコミュニケーション支援について

シェリル・ボルクマン(エーブルネット社共同創立者、名誉最高経営責任者(CEO)、エーブルネット研究コンソーシアムコーディネーター)が、マシューや他の子ども達との成功事例の基盤になっている信念や、その介入アプローチについてジュディへインタビューしました。
彼女のアプローチには3つの基本があります。

  1. その子どもにとって100%関わりのある機会を創出する
  2. 明確なゴールに向かって、小さなステップを踏む
  3. 子ども自身へフィードバックし、子どもが確認できるようにする


シェリル:
“すべての子どもはコミュニケーション、参加、学ぶことができる”という核となる信念に加えて、あなたのアプローチは、モチベーションや積極性、その子どもに100%関連づけた機会を創出することに重きを置いていますね。これについて教えて下さい。


ジュディ:
私はいつも子どもが意欲を持つアクティビティか、または即時に子どもが喜ぶ何かを得られるようなアクティビティを考えます。

最初のマシューとの関わりでは、右手でジェリービーンスイッチを操作し、音の出るおもちゃ(シンバルを演奏するサル、ドラム、オルゴール等)を動かしたり、同じく右手を使って、ビッグマックで絵本や歌の繰り返し部分を言えるようにしたりしました。

マシューの言語療法訓練の約1時間で、スキルを向上するために様々なアクティビティを行いました。マシューは音楽や物語、おもちゃを使ったアクティビティでは、瞬く間にスイッチを正確に選択できるようになりました。
次に、マシューはスイッチを使って選択するタイミングや、順番で何かをすることを練習し始めました。お話を読んだり、歌を歌ったりするときは、マシューは口頭での促し(“マシュー、あなたの番よ”等)を必要とせず適切なタイミングでスイッチを操作できるようになりました。

また、マシューは大人が一緒に参加するアクティビティをいつも楽しんでいました。特に大人と交代で歌を歌うことが好きでした。ステップバイステップに大好きな歌“Any Dream will do”を小節ごとに分けて録音しました。
マシューは歌詞に合わせて繰り返しステップバイステップを操作し、自分の順番を待ちながら、一緒に歌うことができるようになりました。

私たちは誰もがよく知っている絵本、“Peace at last”(くまが眠ろうとしているのにどこへ行っても音があって眠れない…という内容)をマシューの身近な話へ変更して、マシューに関係するアクティビティを作りました。繰り返し出てくるセリフをマシューの母親の声でステップバイステップに録音しました。マシューは一緒にお話を読む人が“Mom said(お母さんが言いました)”と言うと、次は自分の番だ、とすぐに分かり、ステップバイステップで“Oh,no(あらあら)”と言い、次に“I can’t stand this(もうこれじゃ眠れないよ)”と話を続けます。

シェリル:
あなたの介入方法のもう1つ重要な部分として、小さなステップを踏み、また向かっているゴールを常に把握していることがありますが、それはどのようなものですか

ジュディ:
基本としている2つめですが、私は必ずスイッチで子どもが楽しめる、魅力あるアクティビティから始めるようにしています。その後、2つの物や2つのアクティビティから子どもに選択を促す、シンプルなコミュニケーションの導入へ移ります。選択の内容は概して、誰と一緒にいたいか、どこへ行きたいか、何をするのか(一緒にいる人、行く場所、すること)の3つになります。

マシューと関わりを始めてから約半年後には、彼はハンドスイッチをより正確に使いこなすことができるようになり、2つめのスイッチとして、頭を左に動かして操作できるジェリービーンスイッチを紹介しました。ベルクロを使用したリストバンドにジェリービーンスイッチを取り付け、そのリストバンドを彼のヘッドレストの左側に設置しました。繰り返しになりますが、マシューがスイッチを使おうとするのは、意欲を引きだす楽しいアクティビティがあるからこそです。

2つのスイッチが使えるようになったマシューは、別々のアクティビティに対してこれらのスイッチをどのように使えばいいのかを学習しました。例えば、頭のスイッチはステップバイステップに接続し、周囲の人へ声かけができるようにしました(“アミー、こっちに来て”/“ポール、こっちに来て”/“見せたいものがあるんだ”)。友達を呼んだ後は、彼は右手に取り付けたジェリービーンスイッチで接続されたドラムを鳴らすのです(写真1)。

写真1
マシューは頭の左横にあるスイッチを操作し、スイッチラッチアンドタイマーを取り付けたドラムを鳴らしています。

写真1

2つのスイッチを使えるようになり、マシューはさらに活発に楽しいアクティビティに参加することができるようになりました。例えば、お茶を入れる際には(写真2)、ビッグマックに「ストップ」、「もっと入れて」等のメッセージを周りに伝えたり、命令ゲームではステップバイステップに録音した「ジャンプして」「回って」「座って」「立って」という指示言葉で遊んだりできるようになりました。

写真2
マシューはステップバイステップを使って、紅茶を入れる順序を伝えています。そしてビッグマックを使って「紅茶をどうぞ」と言っています。

写真2

また、マシューは周りへの声かけにもステップバイステップを使いました(「こっちに来て」「何しているの?」「音楽かけてくれる?」「音楽止めてくれる?」「ありがとう」)。マシューがそれぞれのメッセージを選択し、支援者は彼のメッセージに応えます。

マシューは、ステップバイステップを選択場面にも使いました。ステップバイステップに、「音楽聴きたいな」「本が読みたいよ」「おもちゃで遊びたい」「おしゃべりしようよ」などのメッセージを入れておき、ビッグマックには「はい」と言葉を入れました。マシューはステップバイステップを再生させて、自分のしたいことが聴こえた際に、ビッグマックで「はい」と選択します。

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