パシフィックニュース
震災特集15
震災特集
今、『ゆずる』で働くということ
宮古・山田訪問リハビリステーションゆずる 井土 祐樹( 理学療法士)
2015-02-16
来月3月11日で東日本大震災から4年目を迎える。パシフィックニュースの震災特集も4年目になる。被災地の復興はまだまだ暗雲とした状況ではあるが、若いチカラは確実に未来へと歩んでいる。今回の記事からその息吹が感じられた。
・・・春遠からじ。
宮古・山田訪問リハビリステーションゆずる
私は岩手県宮古市にある、「宮古・山田訪問リハビリステーションゆずる」で働いています。東日本大震災復興特別区域法成立後に設立された訪問リハビリテーション事業所で、一般財団法人訪問リハビリテーション振興財団が運営しています(震災特集12をご参照ください)。岩手県宮古市にあり、2015年1月現在でスタッフは5名(理学療法士3名、作業療法士2名)で、100名の方々に利用していただいています。
「ゆずる」に込められた想い
宮古・山田訪問リハビリステーションゆずるという名前は、山田町にあった介護老人保健施設で働いていた加藤譲(ゆずる)さんからいただきました。
譲さんは震災当日、入所者を避難させ一度は高台へ着いたにも関わらず、逃げ遅れた入所者を避難させるために施設に戻り、車イスの女性を押しながら津波に流されたそうです。施設に戻らず生き残っていれば、その後も多くの方を幸せにすることができたかもしれません。しかし、それでも譲さんは目の前の一人の命を優先させました。見捨てることができなかったのだと思います。
そんな譲さんの想いを引き継ぎ、我々スタッフは日々働いています。
宮古市・山田町の現在
私が宮古市へ来たのは2014年8月です。5月までは青年海外協力隊としてカリブ海にある、セントルシアという国でボランティアをしていました。
8月に来てあっという間に半年が経過しました。そして、もうすぐ震災から4年が経とうとしています。嵩上げ工事は進み、半年前には何もなかった場所に道路ができました。毎週通っていた仮設の定食屋は移転することになり、仮設住宅から引っ越す人も増えてきました。
震災のことは徐々に風化していくと思います。実際、テレビやインターネットで被災地のことを見る機会は減り、ボランティアの数も減りました。その一方で、今でも仮設住宅で暮らす人は大勢いて、まだまだ大変な想いをしている・・・・。たまに見るテレビ番組ではそんなことを言っているかと思います。
ですが、私がこの半年間ここで過ごして感じることは少し違います。当事業所の利用者100名の内、被災認定を受け減免措置を受けているのは26名です。被災地の復興支援という形で働いていますが、被災しなくても困っている人は大勢いますし、被災していても元気に暮らしている人もいるのです。
復興が進む山田町
必ずしも困っているのは被災者じゃない
高台に設置された仮設住宅に住む人は、出掛ける場所も手段もなく、生活が不活発になる人がいます。同じような仮設住宅に住んでいても、毎日散歩や草木の手入れをして身体を動かしている人もいます。海や川から遠い丘の上や山の中で暮らす人の中にも、同じように生活が不活発な人はいますし、活発な人もいます。
その仮設住宅はカビが生えるし、寒いし、傾くし、大変だと思いがちですが、ある利用者さんは「前に住んでいた家より狭いから暖房効きやすいし、トイレも近いから便利。スーパーも近くなったし、このまま引っ越したくない。」と仰います。
4年が経過し、“被災したから”では済まされなくなってきていると感じます。そこで生活している人の生き様は多様で、○○だから×××である、と一般化できません。震災特集という場では相応しくないかもしれませんが、震災や被災者を強調しすぎると、そこから見落とされてしまう人がいるように思えて仕方がありません。
宮古市に来て学んだこと
実際に宮古市に来るまでは私も「被災地だから(大変)」だとひとまとめにして考えていました。
でも、「ゆずる」に就職し、宮古市や山田町を訪問することで、多くの対話を重ね、様々な人の生活に向かい合ってまいりました。実際に足を運んで話を聞くことで、今、宮古市や山田町で暮らしている人が何に困っているのかを知ることができ、本当に必要な支援は何かを考えさせていただいています。
話を聞いていく中で、自分にできることはなんでもやりました。歩くのが大変になってきたのであれば歩行練習をしたし、灯油ストーブが止まってしまうなら一緒にフィルターを掃除しました。仮設住宅の屋根の上の蜘蛛の巣も掃除しましたし、ずっと遠ざかっていた昔の趣味である囲碁も一緒に再開し、毎週教えてもらっています。
利用者と共に
今後の展望
震災から4年が経過しようとしており、今ここで必要なのは長期的な視点での支援です。人口は減り、高齢者はどんどん増えていきます。被災者に焦点を当てた短期的な支援を行うだけでなく地域全体を俯瞰し、支援の手からこぼれ落ちる人をなくしたい。それをやるのは、ここに住んでいる我々です。
幸い、宮古市に来てから、介護支援専門員や福祉用具相談員など多くの頼もしい医療・介護職の方々とお会いすることができました。我々が「被災地だから」「高齢社会だから」という情報に惑わされることなく、目の前の一人ひとりとしっかり向き合えば、支援の手からこぼれ落ちてしまう人は減らせると思います。(震災特集14で作業療法士・景山さんが執筆されたように少々おせっかいにならないといけないかもしれませんが。)
これからは介護予防や地域包括ケアを念頭に入れた町づくり、高齢者・障害者の災害時対策等、やりたいこと・やらなければならないことが沢山あります。目の前の一人の利用者を大切にしようとした譲(ゆずる)さんの想いを忘れることなく、支えてくださる地域の方々とともに私はこれからもこの地域に貢献していきたいと思います。
「ゆずる」スタッフ一同
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