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パシフィックニュース

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載2

リフト・移乗用具

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載2

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助2

森ノ宮医療大学 上田喜敏 博士(工学)

2015-03-02

1月より、森ノ宮医療大学 上田喜敏先生の連載『人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助』が始まり今回は2回目です。1回目の連載掲載後、SNSでも多くの皆様にシェアをいただきました。グローバルなスペシャリスト視点からの発信は職域を越えて多くの関心を集めています。

4.ISOテクニカルリポート

ISOの技術報告書TR12296「人間工学ヘルスケア部門の人による徒手的介助」は2012年6月に出版されました
この中で人間工学的アプローチを使うことは徒手的患者介助から危険を減らすことに重要な影響を及ぼしていると言われています。危険を識別するために以下のことをします。

 

・介助者の数、能力、経験と資格
・介助する患者の病状とタイプ、数
・不良姿勢と無理な力
・適切な設備の未整備(または無い状態)
・患者介助のための制限されたスペース
・介助者のための特殊な作業に関する教育とトレーニングの不足

危険を識別した対応方法

1)介助者の数、能力、経験と資格
介助者の人数配置や福祉用具を使いこなすトレーニングレベルや有資格者の人数などが筋骨格損傷に影響を及ぼします。

 

2)介助する患者の病状とタイプ、数
患者/利用者が、片麻痺なのか、筋力低下による寝たきりなのか、認知症があるのか肥満しているのかといった病状とそれによる協力的な患者/利用者か、非協力的な患者利用者なのか、その人数によって影響されます。

 

3)不良姿勢と無理な力
介助者が、介助中に脊柱に高い力学的なストレスを生じており、それによって腰痛や脊髄問題を発生しやすくなっています。そこで不良姿勢について教育とトレーニングや介助する数、設備、空間などを考慮して介助することです。

 

4)適切な設備の未整備(または無い状態)
補助器具(福祉機器)と機器の不足がないように適切な数の器具を準備することです。設備も同様に必要作業条件として考え、どこで使用するかなど考えます。

 

5)患者介助のための制限されたスペース
介助するスペースなどで使用する機器が使えない状態にならないために、部屋の大きさや段差、滑りやすい床などを考慮します。

 

6)介助者のための特殊な作業に関する教育とトレーニングの不足
介助者は、介助という特殊作業をする上での介助者の身体に影響する不良姿勢や機器設備を利用するためのトレーニングを考慮します。

腰痛改善の対応方法と実践

このような危険を識別して、この識別から対応方法を考え実行すると介護・看護の腰痛が改善できます。

少し難しいので、もう少し簡単に言うと
「一日の患者/利用者の状態を考慮して介助回数を考え、介助者の数をどの時間帯に配置するのか(日課などの見直し)、十分な福祉用具を導入して(必要な福祉用具の数)、機器を使う部屋の大きさを検討しましょう。そして何よりも、介助する人の身体に及ぼす悪影響(腰痛)を教え、これに代わる福祉用具を使った介助技術練習を十分に実施しなさい。そして、組織がそれを取り組むべきですよ。」ということでしょうか。

単純に福祉用具を導入しようとしても「時間がかかる」「面倒くさい」といった声を聞きます。
その為の対応方法として一日の日課を考え直さなければなりません。介助者数が不足している場合もあります。

ある施設で、食事前のお口の体操の音楽を5分程度流していました。しかし、それに参加しているのは一人しかいなく、食事介助を開始すれば良いのではないかと思いました。また,寝たきりの方をベッドから離床させてはいるのですが、普通型の車椅子なので体幹が前傾して倒れそうになるので、リビングでソファや床にマットを引いて寝かせていました。その時に床から介助して乗り降りさせていました。ベッドで寝かすのとリビングで寝かすのはどのように違いがあるのでしょうか?
それと普通型車椅子でなく、ティルトリクライニング型車いすにするとこの介助作業がなくなります。(図-11、12)

(次号に続く)
 

 

 

図-11 ティルトリクライニング車いすに乗った利用者(アメリカ)

図-12 ティルトリクライニング車いすに乗った利用者(日本)

著者紹介

上田喜敏(うえだひさとし) 
理学療法士。1991から箕面市(障害者福祉センター、障害福祉課、総合保健福祉センター、市立病院、訪問リハビリテーション事業所)にて勤務し、病院リハ、子どものリハや福祉用具、住宅改修、介護保険などを担当した。2007から現職。博士(工学)。患者介助人間工学国際委員会メンバー(International Panel of Patient Handling Ergonomics(IPPHE))

研究領域
人間工学、福祉用具研究、安全な患者介助(Safe Patient Handling = SPH)
研究実績・報告・著書
◎最適なベッド高さにおける介助作業効率についての生理学的研究
(フランスベッドメディカルホームケア研究助成財団 2008)
◎介助作業実態分析から考えられるベッドでの安全な患者/利用者介助に関する人間工学的手法の研究
(徳島大学大学院 2012)
◎リフトリーダー養成研修テキスト
(共著:テクノエイド協会 2009)
◎腰を痛めない介護・看護
(共著:テクノエイド協会 2011)
◎介助作業中の腰痛調査とベッド介助負担評価
(福祉のまちづくり研究 2012)
ArjoHuntleigh Guidebook for Architects and Plannersの評論者メンバー

上田喜敏氏

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