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人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載7

リフト・移乗用具

人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助 連載7

連載 人間工学に基づいた安全な患者/利用者介助
~介助中の持ち上げの重さはいくらまでか?~

森ノ宮医療大学 上田喜敏 (博士工学)

2016-03-01

2016年2月岡山県介護福祉会主催によるリフトリーダー養成研修会が開催されました。講師は森ノ宮医療大学上田喜敏先生。研修の実践と理論は介護現場のリーダーたちに新たな指針となったようです。

持ち上げる重量

さて、5と6で人間の持ち上げ限度について述べましたが、患者/利用者を介助する場合にどうしても持ち上げる場面が生じてしまいます。2003年頃に患者/利用者を一切持ち上げない(いわゆるNo lifting policy)が、実施された国々があります。

 しかしながら、2010年頃にイギリスの理学療法士協会が「患者の尊厳を無視している」という理由で一切持ち上げないということはなくなりました。現在では、介助者はできるだけ持ち上げないでどうしても持ち上げる時でも一定重量以上は持ち上げないとなっています。

それでは持ち上げる重量は、NIOSH(米国・国立労働安全衛生研究所)の調査により、「介助者が患者/利用者の重量として35ポンド(15.85kg)以上を持ち上げるべきでない」と報告され、一応の目安としては15.85kg(35ポンド)とされています。

講習会で話しているのですが、「クレヨンしんちゃん」は5歳児ですので、16kgを超えているので持ち上げられないと言っていたのですが、「21世紀出生児縦断調査(特別報告)結果の概況、2001年ベビーの軌跡(未就学編)」をみると男児の5歳6ヶ月では18.9kg、4歳6ヶ月16.8kgとなり、3歳6ヶ月15.0kgでした。しんちゃんの2年前までしか持ち上げられない結果となりました。

昔のデータでは、4歳児は持ち上げられ、5歳児は持ち上げられなかったのですが、子どもたちの身長体重が近年大きくなっているようで、次の講演からは、3歳児と言い直します。


でも身長体重が大きくなるということは、この子どもたちがもしケアが必要な年齢になったとき、手での介助ができるだろうか?
 

アメリカでの肥満が深刻化

アメリカでは、肥満が深刻化しており、殆どの州が肥満度30%を超えていて、体重が100kgや200kg、300kgといった患者・利用者がいる。それによって肥満患者専用の部屋や福祉用具が準備されないといけなくなっています(図-18,19)。

図-18 400kgまで吊り上げれるリフト

図-19 肥満患者用トイレ(便器が丈夫)

イギリスの労働安全の持ち上げ基準

下記の図(図-20)は、イギリスの労働安全の持ち上げ基準です。男性の腰の近くで25kgです。女性は男性の60%程度でしょうか。この25㎏も腰近くであって、腕を伸ばした状態になるとより軽い重さになっています。以前の掲載(4)で「ボディメカニクスで介助作業腰痛は防げない」と述べましたが、図-21は初期のころのボディメカニクステキストによるベッド上で患者を頭側に動かす作業風景のイラストです。


 
                     図20 持ち上げ基準

 

         図21 初期のボディメカニクス教科書(ネルソンの著書から)

もう解りますよね。前かがみで腕を伸ばした作業をしています。腕を伸ばすと重さ制限はより低くなるにもかかわらず、患者を持ち上げようとしており椎間板にはとても危険な作業状態になるということです。いずれにしても手での介助はハイリスク作業であることに間違いはないようです。

 

 

著者紹介

上田喜敏(うえだひさとし) 
理学療法士。1991から箕面市(障害者福祉センター、障害福祉課、総合保健福祉センター、市立病院、訪問リハビリテーション事業所)にて勤務し、病院リハ、子どものリハや福祉用具、住宅改修、介護保険などを担当した。2007から現職。博士(工学)。患者介助人間工学国際委員会メンバー(International Panel of Patient Handling Ergonomics(IPPHE))

研究領域
人間工学、福祉用具研究、安全な患者介助(Safe Patient Handling = SPH)
研究実績・報告・著書
◎最適なベッド高さにおける介助作業効率についての生理学的研究
(フランスベッドメディカルホームケア研究助成財団 2008)
◎介助作業実態分析から考えられるベッドでの安全な患者/利用者介助に関する人間工学的手法の研究
(徳島大学大学院 2012)
◎リフトリーダー養成研修テキスト
(共著:テクノエイド協会 2009)
◎腰を痛めない介護・看護
(共著:テクノエイド協会 2011)
◎介助作業中の腰痛調査とベッド介助負担評価
(福祉のまちづくり研究 2012)
ArjoHuntleigh Guidebook for Architects and Plannersの評論者メンバー上田喜敏(うえだひさとし)

森ノ宮医療大学 上田喜敏先生

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