パシフィックニュース
障害者就労 in KAWAMURAグループ
就労支援
AAC(コミュニケーション)
~Make It Happen ~
パシフィックサプライ株式会社 事業開発本部 大屋 正子
2016-07-15
はじめに
KAWAMURAグループは川村義肢㈱創業時より身体に障害のある社員が働いていた背景もあり、障害のある社員が義肢装具のモノづくりに大いに貢献してきました。現在のグループ全体の障害者雇用率は約4%。身体・精神・知的・発達障害のある社員が20数名勤務しています。
おそらく新卒で入社してくる若い社員にとっては、障害ある社員が職場にいて当たり前と捉えているのではないでしょうか。障害者法定雇用率が2%に改定されてからは、中小企業でも「障害者雇用」の言葉がより身近になってきたように思います。
しかし「障害者雇用」は雇用率を達成していればそれでいいのでしょうか。障害者雇用が「社会貢献」「会社のCSR」と掲げられ、雇用率ありきの風潮に少し疑問を感じています。
社内で6年前より障害者就労支援の活動を行うなかで感じたこと、気づいたことを僭越ながらこの場で綴ってみたいと思います。私は、福祉専門職の資格もなくジョブコーチでもなく1企業の1社員に過ぎません。障害者雇用に対して先入観がないところからスタートした活動。知らないからこそ、常識をタブーと感じた側面もあります。
いつしか活動をすすめていく中で支援されているのは障害者ではなく私たちの方であると気づくようになりました。
実習生受入 ショールーム
実習生の記録 アルバム制作ショールーム
就労場面における支援機器(VOCA)の可能性
代表川村慶の「障害者雇用が他の企業の中に浸透していかない実情を変えていきたい」という熱い思いのもと、障害者就労支援チームが立ち上がりました。
既にわが社では身体障害者(義手、義足、車椅子)が健常者と同じ働き方をしているので、職場の環境を整備すれば問題なく働けることは実証されていました。課題は、知的障害、発達障害の方々。療育現場や、支援学校で利用していただいている支援機器(補助器具・VOCA等)が就労の場面でも活用できないだろうかを検討しました。
わが社には、年間約2千人の見学者が来社します。広報係が担当している会社見学案内時に、VOCA(携帯用会話補助装置)を活用した広報業務ができないかと試行錯誤ながら、取り組みを開始しました。
支援学校や就労移行事業所への募集も開始し、30代男性(言語障害、下肢障害)と支援学校に通う高校生(脳性麻痺)に夏休みのアルバイトとしてVOCAを利用したアテンド業係を依頼しました。何度かのOJTを繰り返し、私たちにとっても本人にとっても大きなチャレンジでしたが、見学者のアンケートからも高い評価をいただくことができました。
特に他県から社会見学で来られた高校生の『障害ということを初めて身近に感じられた。』『こちらが元気をいただきました。』という感想文は感慨深いものでした。同じ年代の高校生が車椅子に乗りVOCAで会社案内をしている姿に感じ入ることも多かったのではないでしょうか。この事例の詳細は過去のパシフィックニュースに掲載しています。
◯ VOCAを用いた就労事例 (パシフィックサプライ㈱・事業開発本部 松井由起子)
https://www.p-supply.co.jp/pnews/detail/63 パシフィックニュース2010.8.1
◯ スーパートーカーを用いた就労事例と就労支援の取組み
(パシフィックサプライ㈱・事業開発本部 松井由起子)
https://www.p-supply.co.jp/pnews/detail/70 パシフィックニュース2011.07.01
また私たちが関わらせていただいている大東市自立支援協議会就労部会で「就労場面でVOCA活用の可能性を広げたい」と支援機器VOCAの勉強会を開催しました。その時に、参加された就労移行支援事業所㈱コスモスのスタッフから利用者に自閉症(場面緘黙症)の人がいるので試してみたいとの申し入れがあり約3ヶ月の貸出を行いました。
VOCA(スーパートーカー)を朝礼や訓練場面で利用しているうちに、対話がスムーズになり、また言葉を入力する時に、自分の発声が録音されない程小さかったことに自ら気がつき、それ以降は大きな声を出すようになったという嬉しい報告をいただきました。だんだん表情も豊かになり、この女性はまもなく洋菓子工場への就職が決まったそうです。
また㈱コスモス研究所では第22回「職業リハビリテーション研究・実践発表会(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構主催)にて発表されているのでご紹介させていただきます。
◯就労移行支援事業所によるVOCAの取組み( (株)コスモス・コスモス共生社会研究所)
https://www.p-supply.co.jp/pnews/detail/142 パシフィックニュース2014.8.1
◯就労訓練による場面緘黙症状の変化 (コスモスケアサービス・コスモス研究所)
第22回職業リハビリテーション研究・実践発表会
www.nivr.jeed.or.jp/download/vr/vr22_essay21.pdf
(他の就労移行事業所によるコミュニケーション事例)
◯ VOCAを用いたコミュニケーション支援 (社会福祉法人わらしべ会 村野わらしべ)
https://www.p-supply.co.jp/pnews/detail/74 パシフィックニュース2011.10.1
会社見学案内(VOCA使用)
会社見学案内(VOCA使用)
VOCA スーパートーカー
実習生受入れと社内の変化
実習生受入れはこの6年間で、もうすぐ60人になろうとしています。最初は知的障害、発達障害、の受入に対して「どのように接していいのか分からない」「多忙な時はどうするのか」という声もありどの部署も受入に消極的でした。しかし、一緒に働くなかで実習生の業務力量を次第に認めるようになり、真摯に働く姿は私たちに仕事への向き合い方を問うかのような振り返りを与えてくれました。社員にとっても仕事の棚卸しと業務改善・時間短縮へとつながっていったのです。
事務職(事業開発本部、営業支援課、経理課、住宅改修課、ショールーム)の部署ではDM発送、PCデータ入力、カルテ仕分け、スキャナ作業、pop作成、校正作業等。また製造本部(軟性装具課、硬性装具課)では、部品製作、コルセットの紐通し、検品等、それぞれの業務と障害適正を見極めながら、そして時には迷いながら、実習生の受入が社内に広まっていきました。
社内のイントラネットに「障害者就労支援の部屋」を立ち上げ、実習生の様子や実習中のエピソード、実習生からのお礼状などを社内に公開していきました。最近ではその掲示板に「実習生の受入募集」と書き込むと、直ぐ受入した経験のある部署から「我が部署へ!」とメールがくるようになりました。
以前、広汎性発達障害の実習生を受入れた担当者は、実習生のあまりに正確で信頼のおける仕事ぶりを目の当たりにし、「今まで誰にも渡そうとしなかった業務だけれど、◯◯さんだから任せたいと思えた。」と語ってくれたことも印象深い出来事でした。
作業所スタッフによる封入作業(社内にて)
障害特性を知る
製造部には14年間勤務する自閉症の女性社員がいます。職業リハビリテーションセンターから実習を経ての入社でした。最初は、業務の指示が理解できずにパニックになり大声を出すなど同僚からも不満が噴出した時期がありました。当時の担当課長は、「もう彼女は無理かなと思ったけれど、本人の働きたい気持ちがとても強かったので彼女の気持ちを尊重しました。こちら側があきらめたら彼女は他で働くことは出来なくなる。」と考え自閉症に関する勉強会を課内で開始し、彼女への対応方法を次のように心がけました。
1・自閉症という障害を理解する
2・説明はゆっくり簡単に
3・イレギュラーな業務の排除
4.やっていけないことは勇気を持って叱る
また彼女が同情ではなく現場で戦力として認められるために「簡単ではあるが大変で現場が1番助かる業務」を担当してもらいました。今では、現場にあるミシンを全て使いこなし、運針の正確な彼女が休むと周囲が混乱する位、大きな戦力として成長しています。
彼女の成長を側でみてきた社員は「彼女の成長があったから、どのような障害がある人でも何とかなると思えた。」そう語る彼も知的障害のある課員を抱える管理職の一人です。自閉症の彼女の働き方は、社内に障害者就労の可能性と大きなシナジーを生み出していったのです。
働く力
「出来ること」「出来ないこと」「支援があったら出来ること」この3点を見極めることは障害者就労を進めるうえで重要なポイントではないかと思います。以前、弱視の実習生を受入れた時に、最終日に語った彼女の言葉が強く印象に残っています。
『出来ること、出来ないこと、支援があったら出来ることを言葉で伝える重要性を知りました。今までは出来ないことを隠そうとしていたけれど、今後は出来ないことを積極的に伝えるようにしたい。』
実習を通して得た自信からの言葉だと思いますが、出来ないことに目を向けるのではなく、出来ないことを伝えることから、改善や支援方法が生み出されていくのです。障害は決してマイナスではありません。
昨年、私たちはKAWAMURAグループで働く就労事例や実習生を受け入れるなかで生み出された工夫・改善事例を集約し、1冊の「働く力」として刊行いたしました。拙い冊子ではありますが、社外に発信することで就労の促進・啓発に繋がり、障害者就労を始めようとする企業が1社でも増えることを願っています。
KAWAMURAグループ障害者就労事例集 『働く力』
『働く力』 仕事の面白みは自ら創意工夫すること
『働く力』 今ではなくてはならない存在です
働くを希望に変えて
今年の5月に、第5回目となる「障害者就労フォーラム」を開催し、基調講演には、元国立がん研究センター長澤京子氏を迎えました。病院における知的障害者雇用のパイオニアです。昨年、千葉にある国立がん研究センター東病院を見学させていただきました。そこには仕事の基本である報告・連絡・相談がきちんと出来る知的障害者の自信に溢れた働く姿がありました。
「私は、どうせ知的障害だから」と怯む女性に「知的障害があるからなんなの?何が悪いの?」と叱咤激励する長澤氏の言葉に、「人として」の成長を信じ、相手を尊重する姿勢を強く感じました。
病院のど真ん中で看護師の業務を引き継ぐ姿は実に誇らしげでした。このような働き方が全国に広まって欲しいと強く願っています。
http://www.ref.jeed.or.jp/25/pdf/25302.pdf (働くひろば)
国立がん研究センター東病院で 先進的な取組み始まる!
人には無限の可能性があることを私たちは障害者就労の活動をするなかで当事者の方々から教えていただいています。時折残念に思うことは、その可能性を摘む「どうせ無理」「皆さんにご迷惑をかけますが・・」という言葉に出会う時があります。しかもそれは当事者の1番身近におられるご家族や、先生、支援者の言葉だったりします。企業側からすると、実習面談時にその無防備な言葉の隣で、一層萎縮する当事者の姿を見るのはいたたまれない気持ちになります。当事者は「自分は迷惑をかける存在なのだろうか」と傷ついていないでしょうか。
最後に、この活動は多くの社員の協力なしには進みませんでした。
「僕より軽度なのに働けない仲間が沢山いる」とこの活動を援護し、協力を惜しまなかった進行性難病の社員がこの2月に亡くなりました。進行性の病により松葉杖から電動車椅子に変わり、通勤や一人暮らしの生活もヘルパーに支えられながら「働くこと」を続けました。彼は依頼された講演の中で「会社から『もう来るな』と言われるまで働いてやる!」とユーモア交じりに自分を語り、多くの参加者に感動と勇気を与えてくれました。
「働くことが人をつくる」という言葉があります。
彼の働くことを最後まであきらめない姿勢はわたしたち社員の大きな誇りであり、これからの活動の指針にしていきたいと思います。
障害者就労は企業の社会貢献ではなく、企業や私たちを育ててくれる原石なのかも知れません。
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4月1日より障害者差別解消法が制定され様々な場面で「合理的配慮」の言葉を耳にします。毎日新聞2015年12月9日 夕刊記事コラム「時の過ぎ行くままに」~便宜と配慮の間に~を読んでから「配慮」ではなく「便宜」をするという視点が障害者就労の現場では大切なのではないかと考えるようになりました。
http://mainichi.jp/articles/20151209/ddf/012/070/007000c
合理的配慮の主体は障害者の側にあるということを肝に命じたいと思います。
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第5回障害者就労フォーラム
『働くをあきらめない』
関連情報
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