検索

Close

検索したいキーワードを入力してサイト内検索をする

パシフィックニュース

脳血管障害への下肢装具カンファレンス2016

装具

リハビリテーション

脳血管障害への下肢装具カンファレンス2016

第4回みちのくカンファレンスin山形 参加報告

~秋はみちのくめぐり~

安倍恭子 (理学療法士・山形済生病院リハビリテーションセンター)    

2016-11-01

はじめに

平成28年9月24日、第4回目となる「脳血管障害への下肢装具カンファレンス2016~秋はみちのくめぐり~」が開催されました。第1回目から毎年楽しみに参加させていただいている私にとっては、待望の地元山形市への招致でした。

テーマ「医療連携と生活期連携の確立を目指して」への思い

今回のカンファレンスは「医療連携と生活期連携の確立を目指して  −急性期~回復期~生活期の双方向バトンタッチを目指して− 」というテーマで開催されました。私自身にとっても非常に重要なテーマです。約4年前、急性期病棟に勤務していた時期に、発症後早期から積極的に長下肢装具を使用して歩行練習を行うこと、また必要に応じて早期作製も行う取り組みを始めました。しかし、転院先の回復期病院との装具に対する考え方の違いから、作製した装具が充分活用されなかったり、その後どう使用されて、どのような歩行ゴールに至ったのかわからないケースもありました。


「このままでは私たちのやっている装具療法はひとりよがりになってしまう」という危機感から、脳卒中下肢装具について地域で学び、ともに考えるための有志の会「山形地区脳卒中下肢装具療法研究会」を立ち上げました。


現在、私は回復期病棟に勤務していますが、今度は長下肢装具のカットダウンの仕方について試行錯誤したり、生活用装具に関して作製する時期や処方内容について悩んだり、退院後長期的な装具のフォローをどこに依頼すれば良いのかわからなかったりと、急性期とは違ったフェーズでの課題に日々向かい合っています。


今回は「山形地区脳卒中下肢装具療法研究会」で行っている「1症例検討会」(1人の症例を担当した急性期、回復期、生活期の療法士や義肢装具士が集まり、後方視的に装具療法を中心に検討する会)で取り上げたケースを、3人の理学療法士がそれぞれ演題発表するいう新しい試みもさせていただきました。いわゆる「うまくいった」ケースだからではなく、むしろ各フェーズごとにも、連携においても課題がたくさんあったからこそ敢えてカンファレンスの場で発表してもらいました。



それらの課題や悩みは、私の周囲にのみ存在するのではなく、全国各地にあふれているのではないでしょうか。

カンファレンスプログラム

基調講演① 脳卒中重度片麻痺例に対する長下肢装具を用いた積極的歩行トレーニング
         ~急性期からどのように進めるか~ 
         広南病院 阿部浩明先生

基調講演② 下肢装具院内戦略から地域戦略へ
         愛仁会リハビリテーション病院 大垣昌之先生

 

演題

1・1 当院における装具カンファレンスの有効性の検討
    広南病院 関崇志

1・2  体重過多により備品の長下肢装具で対応困難であった若年重度片麻痺の一症例
    山形済生病院 鈴木宏和

1・3  回復期リハビリテーション病棟における歩行自立までの下肢装具使用経過
    新庄徳洲会病院 安喰竜也

2・1  訪問リハビリテーションにおける歩行障害予防のための下肢装具修正の検討
    新庄徳洲会訪問看護ステーション 楢沢眞平

2・2  若年脳卒中を発症した難病の一症例     ~歩行獲得後から今後の課題へ~
    鶴岡協立リハビリテーション病院 岩城吉信

2・3  生活期において筋緊張亢進により歩容悪化を認めたが、装具再処方により
    歩容が改善した一症例
    竹の塚脳神経リハビリテーション病院 間宮敬佑
 

 シンポジウム  
 生活期の連携をどうするか? 

・ 生活期の装具における問題点に対して  ~身体側の変化と装具側の変化~
  宮城県リハビリテーション支援センター 西嶋一智先生

・ 生活期の連携をどうするか?    ~理学療法士の関わり方~
  総合南東北病院 芝崎淳先生

・ 生活期の装具   ~義肢装具士の立場から~
  佐々木義肢製作所 宮内博之先生

第4回みちのくカンファレンスin山形

生活期の連携へ向けて

基調講演をいただいた阿部浩明先生、大垣昌之先生は、私がかねてよりとても尊敬している先生で、執筆された著書も繰り返し拝読しています。阿部先生からは急性期の機能回復や装具療法における歩行の神経機構について、さらに臨床での実践方法について教えていただきました。阿部先生のお話は科学的根拠に基づいていながらシンプルでわかりやすく、いつも勉強になります。そして常に「検証」することを欠かさない姿勢は、エビデンスが確立されているとは言い難い装具療法の分野では特に見習わなくてはならないと感じています。


大垣先生からは回復期における院内での取り組みとして「装具回診」や「装具検討会」を、また、退院後の生活期の装具に関する問題点を解決するための取り組みの例として大阪府三島圏域の「セラマップ」や「装具ノート」をご紹介いただきました。いずれも個人ではなく「組織」や「仕組み」を作ることが重要であると教えていただきました。また、院内や地域での連携もセラピストとしてのスキルの一つだとお話されていたのも強く印象に残りました。
 

シンポジウムのテーマ「生活期の連携をどうするか?」は、これまでも長年にわたって問題を抱えていながら、なかなか解決策が明らかになっていない課題であると思います。今回は山形の県隣の宮城県での連携の形を提示していただきました。更生用装具は地域によって窓口がそれぞれ異なっており、まずは自分が働く地域についてもっとよく知る必要があると感じました。


生活期の装具の問題の発見と窓口への引き継ぎにはケアマネジャーの力が必要になるであろうことは、私も漠然と考えていたことでしたが、介護保険領域で働かれているケアマネジャーの方々に装具に関する知識や関心を持っていただくための具体的な行動を起こすまでに至っておらず、ぜひ参考にさせていただきたいと思っています。

おわりに

脳卒中治療ガイドライン2009および2015において、急性期において装具を用いた早期歩行訓練を行うことはグレードAで推奨されています。また、内反尖足がある患者に、歩行の改善のために短下肢装具を用いることがグレードBで推奨されています。

脳卒中のリハビリテーションに関わる以上、下肢装具についての知識を持ち、一人ひとりの対象者に活かすことができることが求められていると思います。しかしながら、大垣先生もご講演の中でお話しされていましたが、リハビリテーション関連職の養成校での装具に関する教育にはまだまだ地域や学校による差が大きく、多くは卒後に学ばなくてはいけません。


また、急性期から生活期まで各フェーズで区切られるようになった現在の医療・福祉制度においては、我々セラピストが一人の患者さんを発症から生活期に至るまで通して経験させていただくことができる機会はほとんど無くなりました。
我々が経験値を積み、より良い装具と装具療法を提供していくために、施設や地域の「枠」を越えて知識や情報を「双方向」にやり取りしていく必要性を痛感しています。あえて「壁」ではなく「枠」と書きました。「壁」は作ってしまうからできるだけだと思います。今回のカンファレンスでも、休憩時間でのやりとりや、親睦会での意見交換を通して強くそう感じました。
 

本当に充実した時間を過ごさせていただきましたが、まだまだ講師の先生方や参加された皆さまとたくさんお話ししてみたいことがありました。当日、他の行事や研修会と日程が重なって参加できず、非常に残念がっていた近隣地域の方が何人もいらっしゃいましたので、来年もみちのくカンファレンスの開催を楽しみに待ちたいと思います。

関連情報