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膝を守る! 膝の変性疾患に対する装具の提案

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膝を守る! 膝の変性疾患に対する装具の提案

膝を守る! 膝の変性疾患に対する装具の提案

パシフィックサプライ株式会社 事業開発本部 市川俊介(義肢装具士)

2017-06-03

日常生活の中で、膝関節に不安と痛みを感じる方は多いのではないでしょうか。矯正ではなく【Unloading=免荷】という概念で開発された膝装具アンローダーワン。今回のナビゲーターは弊社事業開発本部装具事業グループの義肢装具士!市川がご案内いたします。

はじめに

膝の関節(脛骨大腿関節)は太ももの大腿骨と、すねの脛骨から構成されています。大腿骨と脛骨の隙間が狭くなり、痛みを呈すると変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis;膝OA)の可能性があります(図1)。多く場合、膝関節の内側区画で隙間の狭小化が見られ、いわゆるO脚変形になりますが、膝関節の外側区画に狭小化が生じて、いわゆるX脚変形になる方もいます。膝OAの診断にはレントゲン画像やMRI画像が用いられ、隙間の変化や骨の表面形状(毛羽立つなどの変化)から病状の程度を判定するK-L分類(図2)が多用されています。K-L分類では2から4を膝OAと診断することが多いですが、骨の変形と痛みの程度に相関関係はみられず、明確な診断基準もありません(Altman R et al.,1986)。つまり、膝関節の隙間が正常であるにも関わらず痛みが出る方もいますし、膝関節の隙間が狭いにも関わらず痛みが無い方もいます。
        
図1.変形性膝関節症の姿勢
O脚変形になることも多いが、X脚変形もある。足関節や股関節の姿勢も関与するため、複雑な様態を示すことが多い。
 

図2レントゲン画像による膝OAの判別
Grade0:Normal, GradeⅠ:Doubtful, GradeⅡ:Minimal,GradeⅢ:Moderate,GradeⅣ:Severe
大腿骨(上方)と骨(下方)が成す間接面の距離(隙間)と、骨棘の有無で判別する。【Kellgren JH&Lawrence JS,Ann rheum.1957 より引用】
 

本邦で実施されている膝OAの世界最大規模コホート研究であるROADプロジェクトによると、65歳以上の女性で60%以上と男性で40%以上が、80歳の女性で80%程度と男性で50%程度が、K-L分類の2以上であったと報告されています(図3)。


       
図3 国内ROADプロジェクトによる膝OA有症者数の報告
同一の被験者群を対象にした結果で、左図は痛みを訴える被験者の比率を表している。それぞれの横軸は年齢、括弧内は調査対象者数、縦軸は、比率を表す。【Muraki S,et al. Osteoarthritis Cartilage,2009  より引用】

 


 

膝OAと膝装具

膝OAの治療ガイドラインは国際変形性関節症学会(Osteo Arthritis Research Society International;OARSI)、日本整形外科学会、アメリカ整形外科学会(The American Academy of Orthopaedic Surgeons;AAOS)、アメリカリウマチ学会(American College of Rheumatology;ACR)、ヨーロッパリウマチ学会(The European League Against Rheumatism;EULAR)など多くありますが、いずれにおいても装具の推奨程度は高くありません。

しかし、先のROADstudyに関わる報告(http://www.daiwa-grp.jp/dsh/results/39/pdf/09.pdf)によると、骨棘の形成が疼痛やADL障害に関連しているとされ、骨棘の形成を抑制するためには関節の不安定性を低減させる必要が示唆されています。

では、装具は「関節の不安定性」を低減できるでしょうか。

AAOSは1984年に膝装具をProphylatic、Rehabilitative、Functionalの3つに分類し、近年では更にpatellofemoral装具とunloader装具が加わっています(http://www.orthoillinois.com/wp-content/uploads/2015/03/Knee-Bracing-for-Athletic-Injuries.pdf)。Patellofemoral装具は膝のお蓋と大腿骨が成す関節面の関節症を対象にした装具で、unloader装具は変形性膝関節症(Knee Osteo-Arthritis;KOA)や骨壊死を主な対象にした機能的装具のことです。機能的装具とは関節の動きに合わせて、必要なときに必要な矯正を機能させる装具のことです。装具の目的は固定・免荷・矯正・機能の代償などありますが、unloader装具は免荷を目的にします。膝OAで傷んだ関節面に加わる負荷を免れるために装具で矯正力を加えます。

unloader装具の代表的な製品にオズール社のアンローダーワンがあります。膝関節を約30度屈曲位から完全伸展するまでの区間で、ストラップによる免荷が作用する機能的外反膝装具です(図4)。


    
上左図:擬足の膝関節相当部における平均圧力の変化(二重線が内側区画、破線が外側区画)
上右図:装具を装着した擬足の股関節相当部における平均圧力のの変化(実線が内側区画、点線が外側区画)

装具装着によって15度屈曲位から伸展位の間で顕著に内側区画が免荷され、外側区画へ圧力が変位していることが確認される


 

 


図4 アンローダーワンの機械的特性
左図の模擬足のみで動かした股関節相当部の圧力変化に比較して右図のアンローダーワン装着下では内側区画が大きく減圧されている。

常に矯正力を発揮する装具との違いは何でしょうか。膝装具や膝サポーターを使用された経験がある方は何となく想像がつくかもしれません。

違いは「ズレやすさ」です。

膝関節の動きは複雑で、装具の膝継手(膝関節に相当する蝶番の部品)とは異なる動きをします。異なる動きで生じる、少しずつのズレによって、膝装具はズレやすいことが問題にあげられます。そのズレを最小限にするためには、矯正力が不要な時には「軽い着け心地」を提供し、矯正力が必要な時は「しっかりした着け心地」を実現できる装具が合理的だと考えられます。


 

Ossur Unloader One Knee Brace at DME-Direct.com

サポーターとの比較

「一般人」が医療機関を訪れて「患者」になる背景には「疼痛」が潜んでいることが多いです。装具による除痛効果に着目すると、一般的なサポーター装具(neoprene sleeve)の装着は疼痛の軽減を認めるが、アライメントの改善や運動機能の改善は見られないという報告と(Beaudreuil J et al.,2009)、ラテラルスラストという膝OAに特徴的な膝の動きを減少させるという報告が混在しています。対して、アンローダーワンの装着では、6分間歩行や30秒間の段差昇降を実施した後の疼痛が軽減し、それぞれの運動回数も向上したという報告(Kirkley A et al.,1999)、重度の膝OA者で、疼痛が軽減する効果、歩行運動中のアライメントが改善する効果、膝関節をO脚変形の方向へ悪化させる力(内反力)を減少させる効果、ラテラルスラストが減少する効果が確認された報告(Deie M et al.,2013、Toriyama M et al.,2011)、歩行中に膝の関節表面に開大が確認された報告(Pollo FE et al.,2002)などがあり、機能に対する疑義的な報告は無いのですが、患者が装具療法を放棄する懸念が報告されています(Squyer E et al.,2013)。

 

アンローダーワンを含め、機能的な装具は往々にして重厚長大になりやすいですが、患者さんは「目立たない装具」を希望します。しかし、内反モーメントが1%増加すると、膝OAの進行リスクは6.46倍に増加すると報告されていること(Miyazaki T et al.,2002)を考慮すると、患者さんへ十分な説明を行うこと、1週間程度の試着期間を設けることなど、患者さん自身が医師の処方に同意し、主体的に装具療法へ取り組むことが最善だと思います。


図5 アンローダーワンとサポーター装具の特性
アンローダーワンは、大柄な装具であるが、装着が容易でストラップによる矯正力が効果的に作用するサポーター装具は軽量で目立たないので装着することに抵抗が少ないが、装着者自身による装着は、困難で、装着時のムレも問題になる。


 

膝OAの早期発見と早期治療は可能か

近年、早期膝OAという診断が増えています。50歳以上でレントゲン画像はK-L分類の0または1で変形がみられない、しかしMRI画像から半月板や軟骨下骨に変性が推察される状態で、膝に持続的な痛みを有する場合は、早期膝OAの可能性があります(表1)。

経時的に、MRI画像での変化がレントゲン画像での変化へ関連するため(Sharma L et al.,2014)早期膝OAを速やかに鑑別し治療することが膝OAの予防になる可能性が示唆されています。早期膝OAの治療手段について確固たる指標は形成されていませんが、早期膝OAの痛みは軟骨下骨梁の微小骨折(bone marrow lesion; BML)による痛み(赤木將男,2015)や膝関節の滑膜炎による痛みであることが多く、痛みの鎮静を目的に、局所の免荷を実現する手段としてアンローダーワンを処方される医師が増えています。

Think Possibility !

アンローダーワンは膝関節を軽度屈曲位から伸展させる装着者自身の力に伴った免荷を膝関節面へ与えるので、「ポジティブ」「アクティブ」「ダイナミック」という言葉のいずれかが連想されるような方に適用しやすいと思います。実際、膝の痛みが強くて趣味のゴルフを断念せざるを得なかった方が再びグリーンに復帰された話し、地元の盆踊りで長年に渡って指導役に就いていたいたが、膝の痛みで継続を悩まれていた方が、今年も無事に踊れた話しなど、膝の痛みで悩まされている方の「諦めない!」を一緒に実現したエピソードがアンローダー装具には数多くあります。

 

           

図6 膝OAによる悪循環
痛みの増加から始まる悪循環を断ち切るために、痛みの軽減が必要である。

 

シニアスポーツプレイヤー、一億総活躍社会という言葉が出現したように、今日における50歳や70歳の日常生活様式、社会的期待、本人の気持ちは、ひと昔前から大きく変わったと思います。肉体の変化を愛護的に守るための装具として、アンローダー装具が貢献できる可能性を多くの方にご提供できるよう、弊社は豊富に見本品を用意しています。

膝OAによる痛み、変性症による痛み、BMLに対する有効な手段を模索されていた場合などに、是非一度、お試しください。

製品サイト→ http://www.p-supply.co.jp/ossur/catalog/brace/

図7 アンローダーワン 製品サイズ 重量:454g  大腿長:180mm 下腿長:175mm


 

Think Possibility !

参考文献

  1. Altman R, Asch E, Bloch D, et al. Development of criteria for the classification and reporting of osteoarthritis, Classification of osteoarthritis of the knee, Diagnostic and therapeutic criteria committee of the American Rheumatism Association. Arthritis Rheum. 1986Aug; 29(8):1039-49.
  2. Beaudreuil J, Bendaya S, Faucher M, et al. Clinical practice guidelines for rest orthosis, knee sleeves, and unloading knee braces in knee osteoarthritis. Joint Bone Spine. 2009 Dec; 76(6)629-36.
  3. Deie M, Shibuya H, Toriyama M, et al. The effects of an unloading knee brace and insole with subtalar strapping for medial osteoarthritis of the knee. International Journal of Clinical Medicine. 2013; 4(12): 6-12.
  4. Kellgren JH, Lawrence JS. Radiological assessment of osteo-arthrosis. Ann Rheum Dis. 1957 Dec; 16(4)494-502.
  5. Kirkley A, Griffin S, Richards C, et al. The effect of bracing on varus gonarthrosis. J Bone Joint Surg Am. 1999 Apr; 81(4)539-48.
  6. Luyten FP, Denti M, Filardo G, et al. Definition and classification of early osteoarthritis of the knee. Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy. 2012 Mar; 20(3):401-406.
  7. Miyazaki T, Wada M, Kawahara H, et al. Dynamic load at baseline can predict radiographic disease progression in medial compartment knee osteoarthritis.Ann Rheum Dis. 2002 Jul; 61(7):617-22.
  8. Muraki S, Oka H, Akune T, et al. Prevalence of radiographic knee osteoarthritis and its association with knee pain in the elderly of Japanese population-based cohorts: the ROAD study. Osteoarthritis Cartilage. 2009 Sep; 17(9):1137-43.
  9. Pollo FE, Otis JC, Backus SI, et al. Reduction of medial compartment loads with valgus bracing of the osteoarthritic knee. Am J Sports Med. 2002 May-Jun; 30(3):414-21.
  10. Sharma, L, Chmiel JS, Almagor O, et al. Significance of Preradiographic Magnetic Resonance Imaging Lesions in Persons at Increased Risk of Knee Osteoarthritis. Arthritis & Rheumatology.2014;66:1811-1819.
  11. Squyer E, Stamper DL, Hamilton DT, et al. Unloader knee braces for osteoarthritis: do patients actually wear them? Clin Orthop Relat Res. 2013 Jun; 471(6):1982-91.
  12. Toriyama M, Deie M, Shimada N, et al. Effects of unloading bracing on knee and hip joints for patients with medial compartment knee osteoarthritis.Clin Biomech(Bristol, Avon). 2011 Jun; 26(5):497-503.
  13. 赤木將男. 変形性膝関節症のX線像と痛み : 解離はなぜ生じるのか. 臨床リウマチ. 2015; 27:157-161.

 

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