パシフィックニュース
T-Support使用による脳卒中片麻痺患者へのアプローチ③
装具
リハビリテーション
~T-Supportを実際に装着した患者様の歩行動作を見てみましょう~
中谷 知生 (医療法人尚和会宝塚リハビリテーション病院・理学療法士)
2017-09-15
2017年9月2日(土)KAWAMURAグループ大東本社大ホールにて第3回TS祭「脳卒中リハのきほん」が開催されました。当日は、中谷知生先生から「TSトレーニング理論」の熱い講義!若い医療職の方々と《TS祭》ロゴ入Tシャツを着たスタッフで会場は熱気あふれる1日となりました。
まずは前回のおさらいから
今回はいよいよT-Supportがいかに効果的な歩行補助具であるのか、その効果についてのお話になります。その前にまずは前回の内容を簡単におさらいしておきましょう。
・片麻痺患者さんの歩行能力を最大限引き出すには、麻痺側下肢の股関節屈筋と足関節底屈筋の力をいかにして引き出すか、ということが大切
・特に立脚期後半、麻痺側下肢に前方への推進力を与える役割を担っているのが足関節底屈筋である
・先行研究において、脳卒中片麻痺者では前型歩行を促して、ストライドを伸ばせば伸ばすほど麻痺側の足関節底屈筋力を引き出すことが可能となる
・しかし多くの片麻痺患者さんで前型歩行を促すと、麻痺側の膝関節を伸展位で保持することが難しくなる
その例として、70歳代の右片麻痺患者様(症例①)の歩行の様子をご覧いただきました。ここでもう一度、この患者様の歩行時のゲイトジャッジのデータをご覧ください。
⇒ 動画①
筋電図(水色)は下腿三頭筋です。筋活動は認められますが、波形にムラがあり、安定した筋活動が得られていないことがわかります。ここで症例①にT-Supportを装着していただくと何が起こるか?
ここまでが前回の内容でした。
ではさっそく症例①のT-Support装着時の動きを見てみましょう。
動画①
T-Supportを装着すると多くの片麻痺患者様が前型歩行をしやすくなる!
⇒動画②
歩行速度が向上して、下腿三頭筋の筋活動が非常に規則的になったことがわかります。
ここで歩行因子の変化をグラフにしてみます。
10m歩行時の所要時間は未装着時18.5秒、装着時13.3秒と、歩行速度が向上していることがわかります。
歩数は未装着時28歩、装着時24歩と、装着によりストライドが伸びていることがわかります。
立脚期の下腿三頭筋の筋活動量は未装着時27.7μV/装着時31.3μVと、装着により筋活動量が増大していま す。
その結果、ゲイトジャッジシステムで計測されたセカンドピーク値の平均値は3.5Nmが4.9Nmと増大しています。
症例①におけるT-Supportの装着効果をまとめると、
・歩行速度が向上する
・ストライドが伸びる
・立脚期の下腿三頭筋の筋活動量が増大する
・立脚期後半の足関節底屈運動を強める
ということが言えます。
動画②
もうちょっと症例数を増やしてみたらどうなったでしょうか?
これは2017年5月に開催された第52回日本理学療法学術大会で当院の小松歩が発表した『歩行補助具T-Support使用による歩行速度向上が脳卒中片麻痺患者の立脚期における足関節底屈運動および筋活動に及ぼす影響』(https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2016/0/2016_1085/_article/-char/ja/)のポスターを一部改変したものです。
自力歩行可能な脳卒中片麻痺者8名に対しT-Supportを装着しました。その結果、症例①と同じ変化が見られ、統計学的有意差が認められました。
介助歩行時に併用するとどうなるか?
こうした効果は自力歩行時だけに見られるものではありません。セラピストの介助歩行時にも同じような効果が得られます。では次に介助歩行時にT-Supportを併用した症例②の動画をご覧いただきます。
⇒動画③
症例②は60歳代の左片麻痺患者様です。
普段は長下肢装具を使用し、膝関節を固定したトレーニングを行っていますが、膝関節の固定を解除してみると、麻痺側立脚期に十分な股関節伸展が得られません。
ここでT-Supportを併用した介助歩行を実施します。
⇒動画④
すると、立脚期後半に股関節が伸展し、より前型歩行を促していることがわかります。
宝塚リハビリテーション病院では長下肢装具を使用した介助歩行トレーニングにおいてT-Supportを併用し、従来よりも早期の膝関節固定解除が可能となっています。
動画③
改めて、片麻痺患者様の歩行能力を向上させるために大事なこととは
繰り返しますが、脳卒中片麻痺者の歩行トレーニングにおいて重要なことは、前型歩行を促すことです。前型歩行を促すことで、麻痺側下肢の推進力に貢献する下腿三頭筋を鍛え、歩行能力向上が可能となるのです。
しかし多くの症例では前型歩行を促すことが難しくなります。その理由は、多くの片麻痺患者様が立脚期後半の股関節伸展、足関節背屈位に保つだけの関節の力が不足しているからなのです。
T-Supportを使用することで、従来徒手的な介助では困難であったこの課題を解決することが可能となります。ではなぜT-Supportを装着することでこのような効果を得られるのでしょうか?
次回はT-Supportが立脚期後半に及ぼす力学的な影響について解説します。
著者紹介
【経歴】
吉備国際大学 理学療法学科卒(2003年3月)
医療法人近森会 近森病院・近森リハビリテーション病院(2003~2008年)
医療法人尚和会 宝塚リハビリテーション病院(2008年~)
【その他学術実績】
認定理学療法士(脳卒中)
臨床歩行分析研究会 役員
日本神経理学療法学会 脳卒中ガイドライン作成部会 班員(2017年)
T-Supportの効果検証に関する学会発表 多数
第27回兵庫県理学療法学術大会にて学会長賞 受賞
第38回臨床歩行分析研究会定例会にて優秀講演賞 受賞
卒中八策・脳卒中後遺症者を上手く歩かせるための8つの方法
(2015年 運動と医学の出版社 電子書籍)
歩行補助具T-Support開発
(2016年 川村義肢株式会社と共同開発)
人気ブロガー【脳卒中の患者さんを上手く歩かせる方法を理学療法士が一生懸命考えてみた】でもあり、またセラピスト落語家 八軒家良法師 の側面も合わせ持つ。
中谷 知生先生(セラピスト落語家 八軒家 良法師)
動画④
関連情報
© 2017 Pacific Supply Co.,Ltd.
コンテンツの無断使用・転載を禁じます。
対応ブラウザ : Internet Explorer 10以上 、FireFox,Chrome最新版 、iOS 10以上・Android 4.4以上標準ブラウザ