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パシフィックニュース

T-Support使用による脳卒中片麻痺患者へのアプローチ④

装具

リハビリテーション

T-Support使用による脳卒中片麻痺患者へのアプローチ④

運動麻痺があっても、きっと患者さんはスタスタと歩きたいと思ってる、ってことに気付いたあの日のこと

中谷 知生(医療法人尚和会宝塚リハビリテーション病院・理学療法士)

2017-12-15

海外でT-Supportに似たコンセプトの歩行補助具CVAidが存在することの驚き!この歩行補助具を開発したのは、医師でも義肢装具士でも理学療法士でもなく脳卒中を発症した片麻痺患者さんだった。
・・・・そしてオランダへ。

本来なら最終回の第4回です

こちらに連載記事を書かせていただいて早や4回目となります。

最初にパシフィックニュースへの執筆依頼を頂いた際、4連載でT-Supportの開発の経緯や今後の可能性についてまとめてください、というご依頼をお受けしました。
が、4回ではまだまだ私がお伝えしたいことが収まりません!…との私のわがままを受け入れていただき、この記事は6連載に延長させていただくことになりました。引き続きよろしくお願いいたします。

これまでの3回の記事で、T-Supportの開発の歴史、T-Support装着効果とその理論的背景について解説してきました。
おおむね基本的な効果についてはお伝えできたと思います。

今回は少し視点を変えて、私がT-Supportをより多くの患者様に使っていただきたい、片麻痺患者様の歩行時に弾性バンドの張力を用いることはきっと役に立つに違いない、と確信するに至った1人の人物との出会いについて書かせていただきます。

成人片麻痺の歩行トレーニングにおいて最も重視することは何ですか?

おそらくこの記事に興味を持っておられる多くの方が、理学療法士あるいは義肢装具士さんだと思います。
みなさんは、目の前の片麻痺患者様の歩行トレーニングを行う際に、一番大切にしていることは何でしょうか?

無論それぞれの患者様の抱える背景や問題点によって、目指すべきゴールは変わると思いますが、私が最も大切にしていることは「どんなトレーニングを行えば患者さんが元通りスタスタと歩けるようになるだろうか」ということです。

スタスタ歩くということは、安定していること・自立していることに加え、より速く、より大きなストライド(歩幅)で、「(誤解を招きやすい表現かもしれませんが)普通に」歩く、ということです。
私がそう考える理由は、多くの患者様が望んでおられる歩行トレーニングのゴールはそこにあると信じているからです。

みなさんもぜひ、目の前の患者様と時間をかけて、どう歩きたいかをお話してみてください。

歩くのは遅くてもいい、揃え方でもいい、足を固定してもいい、と患者様がお話されているならば、きっとそれは我々治療する側の人間が諦めさせた結果の発言だと思います。

どんなに重篤な運動麻痺あるいは感覚麻痺があっても、多くの患者様は「普通に」歩くことを希望しておられるはずです。

2014年5月、オランダの田舎町で

第1回の記事でも触れましたが、私が片麻痺患者さんの歩行トレーニングにおいて弾性バンドを初めて使い始めた当初、麻痺側下肢に弾性バンドを装着して歩くというアプローチを行っている話を聞くことは殆ど無く、試作品のT-Supportに興味を持った数名のスタッフを中心に効果検証を行っている状況でした。

その状況が一変したのは日本理学療法士協会が公開した「脳卒中理学療法診療ガイドライン第1版」の公開でした。
そこに、オランダで作製された、肩から足部まで弾性ストラップでつないで制御する歩行補助具、CVAid(図1)が紹介されていたのです。

CVAidの効果検証を行った論文(1)では、脳卒中片麻痺者の歩行速度向上やエネルギーコストを減少させる効果があると報告されています。

海外でT-Supportに似たコンセプトの歩行補助具が存在することに私は驚き、その開発者にお会いしたいと思いました。
そしてCVAidについて調べ、私の驚きはさらに強まることになります。

この歩行補助具を開発したのは、医師でも義肢装具士でも理学療法士でもなく脳卒中を発症した片麻痺患者さんだったのです!

オランダに行って感じた「強い想い」

麻痺側に弾性バンドを装着するというアプローチを考え、それを形にした人物にぜひお会いしたいと思い調べたところ、開発されたGerard氏はすでにお亡くなりになっていました。

残された奥様・娘様にメールを送ったところ、一度オランダに来ないかとお誘いを受け、私は2014年5月にオランダのウェールトという小さな街に行くことにしました。


現地でご家族様から伺ったお話では、Gerard氏は脳卒中発症後、「もっと速く歩けるようになりたい」「もっと軽く脚を動かしたい」との思いが強く、退院後にご自宅の工房でCVAidを開発を始めたそうです。


ここで動画をご覧ください(動画1)。


ご覧いただけましたか?ご自宅の工房には、現在も100本以上の試作品が壁に並んでいました。

最初の試作品は自転車のタイヤのチューブを使用しており、そこから様々な素材を試して完成に至ったそうです。
私はこの試作品の1本1本から、片麻痺患者様の「スタスタ歩きたい」という執念にも似た強い想いを強く感じました。

より多くの片麻痺患者様に、より速く、より快適に歩いていただくためのトレーニング方法を普及させること、そのためにT-Supportを含む、弾性バンドを用いた歩行補助具の普及に努めること。

私は2014年にオランダの田舎町で、すでに亡くなった一人の片麻痺患者様から、その使命を受け取った、と信じています。


では、弾性バンドの張力を用いた歩行補助具はCVAidとT-Supportだけなのでしょうか?

私の調べるところ、試作段階のものを含めると、これら以外にも似たようなコンセプトで片麻痺患者様の歩行能力の向上に挑戦している人が多く居ることがわかってきました。


次回はこれまでに報告されている、弾性バンドの張力を用いた歩行補助具とその効果について文献的考察をしてみたいと思います。
 
 
文献
(1)Decreased energy cost and improved gait pattern using a new orthosis in persons with long-term stroke.Arch Phys Med Rehabil 88:181-186.2007

 

歩行補助具CVAidの開発者 Gerard氏(遺影)

100本以上の試作品(開発者自宅工房)

【動画1】Gerard氏の工房を訪問



 


著者の紹介

【経歴】
吉備国際大学 理学療法学科卒(2003年3月)
医療法人近森会 近森病院・近森リハビリテーション病院(2003~2008年)
医療法人尚和会 宝塚リハビリテーション病院(2008年~)


【その他学術実績】 
認定理学療法士(脳卒中) 
臨床歩行分析研究会 役員 
日本神経理学療法学会 脳卒中ガイドライン作成部会 班員(2017年)

T-Supportの効果検証に関する学会発表 多数
第27回兵庫県理学療法学術大会にて学会長賞 受賞
第38回臨床歩行分析研究会定例会にて優秀講演賞 受賞

卒中八策・脳卒中後遺症者を上手く歩かせるための8つの方法
(2015年 運動と医学の出版社 電子書籍) 
歩行補助具T-Support開発
(2016年 川村義肢株式会社と共同開発)

人気ブロガー【脳卒中の患者さんを上手く歩かせる方法を理学療法士が一生懸命考えてみた】でもあり、
またセラピスト落語家・八軒家良法師の側面も合わせ持つ。

 

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