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身体能力を向上させ、QOLを高める体幹訓練機器トランクソリューション①

装具

リハビリテーション

身体能力を向上させ、QOLを高める体幹訓練機器トランクソリューション①

新潟医療福祉大学医療技術学部義肢装具自立支援学科(准教授)
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター・勝平 純司

2018-02-15

私は、川村義肢株式会社の協力を得て体幹訓練機器トランクソリューションを開発し、昨年トランクソリューション株式会社から販売を開始しました。トランクソリューションは装着により、お腹(特にコアマッスル)に力を入れながら背部の筋緊張を低下させ骨盤前傾、腰椎前弯の良姿勢を保持することができるという画期的な体幹訓練機器です。


すでに複数の病院や介護施設などで実際に使用され、高齢者や障害のある人の姿勢を改善することで、歩行能力を向上させる効果があることがわかっています。

 

 



 

今回はトランクソリューションの開発秘話とともにその効果について紹介したいと思います。

【トランクソリューション 事例動画】2分39秒

シルバーカーから生まれた体幹訓練機器

2009年頃「シルバーカーを押しながら歩行するとなぜ高齢者が楽に歩けるようになるのか」というテーマで研究に取り組んでいました。
 
最初は、前かがみになった上半身が支えられるので歩きやすくなるのだろう、と考えていましたが、腹部と背部の筋活動を筋電計で測ってみると、背部の筋活動が低下する一方、腹部の筋活動が増加していることがわかりました。

「お腹に力が入ると脚が前に出やすくなるって本当なんだ!」と感動したことを覚えています。
 
しかし、シルバーカーや歩行器を使って歩くとどうしても前かがみの姿勢になってしまうし、脚を大きく前に振り出そうとすると邪魔になるので、「身体に直接装着することで腹部に力が入りやすくなる機器があったら面白いのでは」と考えを巡らせるようになりました。

ゲイトソリューションを身体につける

どのようにするとお腹に力が入りやすくなる装着型機器となるか、空き時間をみつけては紙にイラストを描いていました。

あるとき、ふと「ゲイトソリューションのようなかたちで、抗力(物体の表面に働いて、その運動を妨げる力)をもった継手付きの体幹装具を開発すればよいのではないか」というアイデアが浮かびました。

そして、色々な図を描きなぐっていた紙の上端にTrunk Solutionトランクソリューション)と書きました。


モノ自体は全く出来上がっていなかったのに、トランクソリューションという名前だけが真っ先に決まったのでした。
 



 


シルバーカーを使うとなぜお腹に力が入るかについて解説します。


シルバーカーのハンドグリップを手が下方に押さえつけると、手は反力を受けます。

この反力によって上半身は後方に回転させる作用を受けるので、この作用を打ち消すには大きく前屈みになってハンドグリップによりかかってしまうか、お腹に力を入れる必要があります。



胸を継手の抗力を用いて前から水平方向に押す力を与えると、同じように上半身は後方に回転させる作用を受けることになります。

上半身を真っ直ぐにした状態でこの力を受ければ、よりお腹に力が入りやすくなります。

また、胸を前から押す力の反作用が継手を介して骨盤に伝わることになるので、骨盤は前傾方向への反力を受けることになります。

このメカニズムの理解を、ゲイトソリューションを上半身につけるという発想から導くことができました。

 

なぜお腹に力が入ると歩きやすくなるのか?

歩行周期には、両脚が床に接地している「両脚支持期」、片脚のみが床に接地している「単脚支持期」があります。

特に単脚支持期で腹筋(特に腹横筋などのコアマッスル)が作用することで、体幹が安定し下肢の振り出しを助けます。

骨盤前傾を前傾させて、腹筋を収縮させて股関節をしっかりと伸展させることができると、股関節の屈曲に作用する大腰筋を十分に引きのばすことができるようになるため、下肢の振り出しがスムーズになります。


高齢者が骨盤後傾、腰椎後弯(いわゆる猫背姿勢)になると、腰背部の負担が増えるだけでなく、お腹がつぶれて歩行時に腹筋の作用が得られなくなります。

また、猫背姿勢は転倒やそれによる骨折のリスクも高まる姿勢であるというエビデンスもあります。
 





骨盤後傾+腰椎後弯(猫背)
⇒ 単脚支持期の腹筋の活動  
⇒ 大腰筋の活動  
⇒ 股関節が伸展せず下肢が降り出せない


一方、トランクソリューションを装着すると​以下のようになります。



骨盤前傾+腰椎前弯+胸を押す抗力によって腹筋の活動を引き出す
 ⇒ 大腰筋の活動 増加
 ⇒ 股関節が伸展した後下肢の振出がスムーズになる!

山本澄子先生から川村義肢株式会社を紹介される

私はこの時、前職の国際医療福祉大学で教員として働いていたので、当時直属の上司であったゲイトソリューション開発者の山本澄子先生に、簡単なイラストともにトランクソリューションのアイデアを説明しました。

「これは面白いんじゃない??」
ということで、ゲイトソリューション開発メンバーの川村義肢株式会社の安井匡さんを紹介していただきました。


これが私にとって運命の出会いとなりました。

                                            
                                             (第2回に続く)

 

※ 体幹訓練機器トランクソリューションは2014年度グッドデザイン賞を受賞しました。

 


 

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