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身体能力を向上させ、QOLを高める体幹訓練機器トランクソリューション②

装具

リハビリテーション

身体能力を向上させ、QOLを高める体幹訓練機器トランクソリューション②

新潟医療福祉大学医療技術学部義肢装具自立支援学科(准教授)
東京大学医学部附属病院22世紀医療センター・勝平純司

2018-03-01

今回は前回の続きで、トランクソリューションの開発過程のエビデンス構築から商品化までについてまとめました。

エビデンスを出す

川村義肢株式会社・安井匡さんに、胸を押す力を与えて腹部の筋を賦活化させる体幹訓練機器のアイデアを伝えました。
その後、試作機一号が手渡され(写真:下左端)「本当に思っている通りの現象が得られるか、エビデンスを出してください」と伝えられました。
通常の体幹装具よりもさらに大掛かりなものでした。
 
見た目は良くないものでしたが、装着すると見事に腹部の筋活動が増加するとともに、背部の筋活動が低下していました。

その後、この結果を一般社団法人日本義肢装具学会と日本義肢装具学会誌で発表し、川村義肢株式会社の取締役の
皆様にもプレゼンテーションをする機会をいただき、共同研究にて開発を進めていくかたちになりました。


開発を始めた2009年から販売を開始するまでの8年間、何度も川村義肢株式会社に足を運んで改良を重ねました。

なるべく身体への接触面積を減らしながら効果を落とさないように工夫を重ね、出来上がった試作機を大学に持ち帰っては、
効果・エビデンスを確認するという作業を繰り返しました。
このプロセスでは、安井さんをはじめ、中島さんに大変お世話になりました。


また、最終形態はGKダイナミックスの三富貴峰氏の秀逸なデザイン力によって仕上げることができました。

アウターマッスルかインナーマッスルか?

エビデンスを確認している段階で、学会発表を重ねるうちにいくつかの指摘を受けることとなりました。
「装着すると腹筋の活動が高まるとともに背筋の活動が低下するのは良いが、
 活動が高まっているのは腹部のアウターマッスルか、インナーマッスルか?」という指摘がその一つです。

 
超音波エコーを側腹部にあてると、インナーマッスルの中でも脊柱の安定に重要な役割を果たす腹横筋の筋厚
を測定することができます。
この方法を用いて腹横筋の筋厚を調べた結果、トランクソリューションを装着すると筋厚が増加するということが
わかりました。


また、トランクソリューションを装着した状態で腹部を引き込むドローインというエクササイズを組み合わせると、
実に静止立位時の2倍に腹横筋の筋厚が変化することもわかりました。

この結果を受けて、トランクソリューションは腰背部の負荷を減らしつつインナーマッスルを賦活化させる機器である、と
いえるようになりました。

山本澄子先生/ゲイトソリューションとのコラボレーション

ゲイトソリューション開発者で、私のバイオメカニクス研究の師である国際医療福祉大学大学院教授・山本澄子先生(写真)と、
トランクソリューション装着が脳卒中片麻痺者の歩行に与える効果について共同研究を行ってきました。
 
脳卒中片麻痺者に対する体幹機能に対するリハビリテーションの重要性は言われているものの、その効果を客観的に示した
研究はほとんどありませんでした。

そこで、脳卒中片麻痺者の歩行にトランクソリューション装着が与える影響を明らかにする研究を始めました。
 
 
トランクソリューションを装着した歩行を脳卒中片麻痺者が行うと、骨盤前・体幹伸展の姿勢がとれるようになること、
また装着時よりもしばらく装着した後に外してから歩行すると、ターミナルスタンスからプレスウィングにかけて股関節の
屈曲モーメントが増加し、麻痺側の振り出しが増加することがわかりました。

この研究結果については『Prosthetics Orthotics International』に掲載することができました。

また、最近ではトランクソリューションとゲイトソリューションの同時装着群と、他の体幹装具の同時装着群を設けた
無作為化比較試験を実施しました。

結果として、トランクソリューションを装着すると特に足の接地を骨盤前傾、体幹伸展の良姿勢でむかえられるため、
ゲイトソリューションの油圧継手の機能を引き出しやすくなり、歩行速度が増加するという結果が得られました。

東京大学医学部附属病院22世紀医療センター松平浩先生との出会い

トランクソリューション開発過程で、東京大学医学部附属病院22世紀医療センター松平浩先生より多くのご助言をいただき
ました。


松平先生は、腰痛の疫学研究や自身で開発された「これだけ体操®」による介入研究を行われています。
この研究成果は、NHKスペシャル「腰痛・治療革命~見えてきた痛みのメカニズム~」でも大きく取り上げられました。

私がモーションキャプチャーを使用した腰部負担を分析する研究を実施していたことから、縁があって先生の研究を
お手伝いすることになりました。
お手伝いするプロセスで、医師の知見から様々な助言をいただくことができました。


都内のレストランで、初めてトランクソリューションを着けていただいたとき「私が考える理想の姿勢に近い」と
言っていただいたことが、自信になりました。

共同研究も実施させていただき、トランクソリューション装着が高齢者の腰部モーメントに与える影響を明らかにし、
歩行時の背筋によるモーメントが低下するとともに腹筋によるモーメントが増加することを、バイオメカニクスの知見から
明らかにすることができました。

本研究結果を『Clinical intervention in aging』に掲載することができました。
 
 
トランクソリューションがほぼ商品化できる段階になり、自信を持って世に出すことができると手ごたえを感じていました。
また、この装着型機器は障害のある方々だけでなく、健常者からアスリートまで幅広い層の方に届けられるようになりたいと
真剣に考えていました。

そこで、ベンチャー企業を立ち上げて、トランクソリューションをさらに発展させることを決意しました。

松平先生、弊社・山下社長、村尾会長、川村義肢株式会社の皆様の支援を受け、東京大学産学協創推進本部支援企業の審査を
受けて、無事認定を受けることができました。

現在トランクソリューションは、東京大学発ベンチャー企業「トランクソリューション株式会社」から販売されています。
(川村義肢株式会社、パシフィックサプライ株式会社からも販売されています)
9月に販売を開始してから複数の病院、介護施設、個人などに販売することができました。
この実績が認められ、昨年は東京都と川崎市のビジネスコンペで受賞企業に選出されました。
 
 
今後は、トランクソリューションを医療や介護の分野だけでなく健常者やアスリートも使用できる、装着するすべての方の
Q.O.L(クオリティ・オブ・ライフ)を高める究極のユニバーサル機器に発展させていきたいと考えています。



2017年東京都世界発信コンペティション・東京都ベンチャー技術特別賞受賞後に松平先生と(写真:右)

※ 2018年2月24日 横浜市で行われた横浜ビジネスグランプリで、最優秀賞を受賞いたしました。

※ 体幹訓練機器トランクソリューションは2014年度グッドデザイン賞を受賞しました。

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