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パシフィックニュース

コミュニケーション障碍の支援①~ コミュニケーション支援の始まり~

AAC(コミュニケーション)

リハビリテーション

コミュニケーション障碍の支援①~ コミュニケーション支援の始まり~

日向野 和夫 (KAWAMURAグループ・元川村義肢株式会社)

2018-08-01

連載に当たって

 連載に当たり、前半部では意思伝達装置など機器の変遷や機器開発の裏話など、後半部では多くの支援者が苦戦を
強いられている操作スイッチの適合などの内容を予定しています。
 大切なことは、コミュニケーション障碍の支援は必ずしも「機器の使用」がゴールではなく、当事者に支援者が
どう向かうのかなど、生活全般の支援の視点についてお伝えしたいと思います。

 

先人たちの偉業について

 意思伝達装置の機能の1つに「喋る」が当たり前になっていますが、その機能や使い方が技術革新に伴って
変化を遂げてきています。
 近い将来にはスタンプもバイリンガルで表現豊かにしゃべり出すのではと思われます。

 今では、コミュニケーション障碍の支援と言えば、ALSなど難病疾患者の意思伝達装置を思い浮かべますが、
この分野の当初は主に脳性まひが対象者で、その使用目的も当時の時代背景もあって今日とは多少異なる状況にありました。

 この分野の支援の始まりは、ワードプロセッサとしての筆記用具の製作にあって、その対象者はアテトーゼタイプの
​脳性まひの方で、リハビリテーションセンターの工学士や肢体不自由校の教諭などが特定のその人向けに作っていました。
 当然のことながら1980年代初頭は製品化の発想がない状況下でした。
 

用語の変化

 「意思伝達装置」の用語は、日常生活用具給付事業の時代では「意志伝達装置」と表記としていましたが、
平成18年の補装具制度で「重度障害者用意思伝達装置」となりました。
 補装具制度の中で障害程度を重度と特定されている補装具ではこれ以外にはありません。

 以前は意思伝達装置のことを「コミュニケーションエイド」と呼んでおり、1990年代にAACの概念が日本に取り込まれ、
代替手段としての「AAC」という言葉も広く使われるように用語も変化をしてきています。
 また、日常生活用具給付の制度では技術料として「設置調整費」の名目で意思伝達装置の内訳にも組み合わせで給付する
自治体もありました。

意思伝達装置の販売の始まり

 連載初回は、弊社の支援の始まりの時代に少し遡って話を始めることにします。
 

 パシフィックサプライ株式会社が、この分野での本格的な販売を展開する原点となったのは、1985年の
「トーキングエイド」と1986年に発売された「Pワード」の2つの製品となりますが、今日「Pワード」を年配の方以外で
ご存じの方は少ないのではないかと思います。
 いずれにしろ、未知の支援分野の製品をいち早く取り入れた当時の幹部の先見の明には驚かされます。
 

【トーキングエイド】
 「トーキングエイド」は、ナムコ(株)・鈴木理司氏と大阪府立身障者センター・川上博久氏の開発による直接打鍵式の
携帯用会話補助装置で、脳性麻痺の人たちにとって日常的な意思表出に劇的な変化をもたらした、画期的な製品でした。
 この携帯用会話補助装置(日常生活用具給付事業の対象時に呼称される)は、朝日新聞厚生文化事業団の寄贈などにより
爆発的な広がりを起こしました。
 また、全国各地への普及は複数の学習教材の大手販売店が流通に関わったことも大きな要因であったと考えられます。
 
 初代トーキングエイド(図1)の音声は「男声」のみでしたが、その後ユーザーからの要望により「女声」が追加され、
単語登録機能などユーザーのニーズを取り入れてさらに進化を遂げて行きます。
 日常の会話や筆記用具として活用されるだけでなく、地域の「言葉の教室」など発音練習の用具として使用法は多岐に
渡りました。

 この爆発的かつ長期的に普及したトーキングエイドの販売台数を超える意思伝達の支援用具は、もう出現しないと
思われる凄さです。
 そして、単語予測機能や携帯電話の機能とメールの機能を有する「トーキングエイドIT」、小型化した
「トーキングエイド・ライト」と変化を遂げ、今日「トーキングエイドfor iPad」にその仕様が引き継がれています。


【Pワード】
 
「Pワード」は、兵庫県リハビリテーションセンターの相良二朗氏と奥英久氏の開発によるテレビ画面に表示された
50音文字盤をスイッチ操作で選び、文章を作成する実質的な全国販売となった製品です。
 同時に多くの入力装置(以下、操作スイッチ)の開発もされました。
 
 当初、環境制御装置の開発に取り組む中で文章作成の機器の必要性もあると判断し、意思伝達装置の開発も併せて
取り組み、発売元となるパシフィックサプライの頭文字を記した製品名「Pワード」となって販売が開始されました(図2)。
 
 ファミリーコンピュータといわれたゲーム用のMSXパソコンが普及し初め、開発における機種選定は家電メーカー各社
からの安定供給が確保されると判断し、テレビに接続して使用できるシステムを活用した開発に着手したとのことです。

【図1】初期トーキングエイド
 トーキングエイドは、基本機能を維持しながらバージョンアップを繰り返し、進化を遂げます。

【図2】Pワードのシステム
 パシフィックニュース・1986年6月号「コミュニケーションエイド総合編」に記載された「Pワード」の記事の一部です。
 

意思伝達装置の機能の進化

 発話と書字の2つの表出手段に障碍を有する代替手段として指差しなどが出来る状態では、キーボードを直接打鍵する
方法となり、指差しは困難であるが限定的な随意運動の操作が可能な状態では、操作スイッチを介した自動走査方式
(オートスキャン)の操作方法となります。

 「Pワード」はその後、技術革新に伴いかな漢字変換が出来る「漢字Pワード」へとなり、川上博久氏の開発による
簡易型の環境制御装置の「リモコンエイド」と組み合わせたシステム販売により、MSXパソコンの電源のON/OFF操作、
文章作成/保存の操作、テレビの操作、チャイムを鳴らすなどが1つのスイッチで出来るシステムとなりました。

 ALSの方(当時はまだALSと呼称されていません)が使用される状況に対象者も変化し始めました。
 スイッチ操作でテレビの画面と意思伝達装置の画面に切り替えることも当然可能で、メディアはパソコンと互換性のある
フロッピーディスクを使用していました。
 漢字PワードはMSXパソコンの販売中止を受け、その後、日本IBMからの販売となる「漢字Pワード/V」へと変化を遂げて行きます。
 
【パソパル】
 一方、ナムコは前述の川上博久氏との共同開発の「パソパル」(図3)が前後して発売され、ユーザーにとって機種の選択肢が
増え、簡単なゲームソフトとトーキングエイドのパソコン版を操作スイッチ1つで出来る製品となっていました。

 当時の操作スイッチの端子はD-sub9ピンが標準でジョイスティックの操作や複数の操作スイッチで操作が可能な仕様と
なっていました。
 そのため、電源を必要とする操作スイッチもパソコンから端子を介して得ることが出来る状態でした。
 今のような操作スイッチの差し込み端子は3.5モノラルジャックではなかったのです。
 



 いずれにしろ、パシフィックサプライの操作スイッチの原型は、兵庫県リハビリテーションのデザインにあるといえます。
 現在の3.5φcmのプラグの仕様となる操作スイッチの変化はまだ先の状態です。
 
 歴史の記載に当たり、埼玉県総合リハビリテーションセンターの河合俊宏氏、神戸芸術工科大学の相良二朗氏の
ご協力とアドバイスを得ております。
 
注)記事にある関係者の所属先は当時のものです。
 
参考文献
 2012.05 日本生活支援工学会誌 Vol.12 No.1 ICTをベースとした支援技術の開発と利用の時代変遷

【図3】パソパル
パシフィックニュースに記載されたパソパルの記事の一部です。


 

次回、連載・コミュニケーション障碍の支援②は11月1日掲載予定です。