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パシフィックニュース

コミュニケーション障碍の支援⑤ ~操作スイッチの適合技術~

AAC(コミュニケーション)

リハビリテーション

コミュニケーション障碍の支援⑤ ~操作スイッチの適合技術~

日向野和夫(KAWAMURAグループ・元川村義肢株式会社)

2019-07-01

前号に続き、ALSの運動機能の評価と操作スイッチの適合について話を進めます。

ALS編 その2

ALSの症状初期では多くの場合、指先で押しボタン式のスイッチを用いるので手部の適合評価から話しを始めることにします。

1.手部

一口に握る動作による押しボタン式のスイッチの操作では適合は簡単と思われがちですが、押込むスイッチ面と指先の間隔がスイッチの操作にとって重要になることがあります。

図1.握り込む動作
テレビやエアコンなどのリモコンボタンを押せる筋力があっても操作スイッチを押込むまでの空間が不適切であると、押込むまでの余分な動作を強いることになり、意思伝達装置の文字選択など操作に必要以上の集中力を要する状態になります。

図2-1.少しの補高

図2-2.小さな動作に応じた補高

操作スイッチに到達する適切な間隔の評価
進行に伴い押込む動作に変化が生じ、意思伝達装置の選択項目のやり過ごしや誤選択などの誤操作の頻度が高くなってくることがあります。その解決策として適切な操作スイッチの位置の評価とその固定の工夫が必要となります(図2-1)。
進行に伴い動作の変化に応じ、位置の調整(図2-2)が必要となるのは、負担のかかるスイッチの操作となっている状態にある。
意思伝達装置の操作で選択操作のやり過ごしや誤選択など誤操作が多発する原因を移動速度にあると判断せず、操作性の原因となる状況を見極める必要があります。

図3-1.環指の屈曲動作

図3-2.テノデーシスアクション

手関節の肢位の評価
握り込む動作が優位であることから、スペックスイッチを中指の屈曲動作で操作できるよう板状の素材に貼り付け、意思伝達装置の試行評価を行なった。更に効果的に屈曲動作が発揮されるよう手関節を背屈位にしている。手関節を軽度背屈位に保ち手指屈筋群の張力効率を最適にすることで楽なスイッチの操作となっている。

図4-1.環指の握り込む動作

図4-2. 手部の支持を数枚のタオルで調整

意思伝達装置の使用場所はリビングのテーブルで行う環境での適合評価となり、握り込む操作が優位な動作であることからエアーバッグ・センサーを内側に入れ込んで設置する使用法としています(図4-1.2)。
指先の押し込む動作が有効に働くよう手部に数枚のタオルを重ね置きし、意思伝達装置の操作性を確認しながら評価しています。
 

機種の選定は当事者と支援者の共同作業


図5.優位な動作の評価と機種選定の過程
当初の運動機能評価では立位を取れることから足部をクッションで支持した状態での足趾によるビッグスイッチの操作が妥当と判断した(図5)。
しかしながら、当事者の希望により上述(図4)のような手部の操作に変更している。機種の選定に当たって当事者の意向が優先されることが基本となることは言うまでもない。

 

優位な運動方向に直交する位置に設置

図6-1.運動方向の評価

図6-2.優位な動作

ジェリービンスイッチを手背部で押す操作で意思伝達装置の試行時選択操作の遅れや誤選択が見受けられた。これは腕の振り下ろしによる操作が優位な動作ではないことが原因であった(図6-1)。優位な動作が肘を横方向へ突き出すことから、運動方向に直交する位置にスイッチの設置場所を変更している(図6-2)。

注)缶やタオルは高さ調整で使用している。
押しボタン式のスイッチは下に押すものだとの思い込む固定概念が、優位な動作(運動方向)を見落とす原因となります。

生活様式の現状維持が基本

図7-1.筆記の維持  

図7-2. 進行している部位の選択

右手で筆記できる状況の場合(図7-1)、一般的に筋力が残存している側での押しボタン式のスイッチの機種選定となるが、進行が進んでいる左示指で操作するポイントタッチスイッチをあえて選定している(図7-2)。

筆談での意思疎通の現状の生活様式の維持を優先した生活全般の総合的判断は、状況に応じて必要となる視点である。
意思伝達装置とポインティングデバイスの支援を混同しがちになる現状では、評価する視点と今後の生活様式の変化を想定した評価が求められる。

進行に伴う運動機能の再評価

図8.導入時の操作方法

図9.再評価による操作法の変更

前腕の回内動作による手掌部で押し込む動作が優位であることから、ディップスポンジ・センサーが突起した母指のCM関節を効率的に感知するよう、タオルにて手関節を若干背屈位の肢位にしている(図8)。

症状進行に伴いディップスポンジ・センサーによる操作が困難となり、改めて運動機能の再評価を行った。
母指の内転動作による操作も可能であることから、ピエゾセンサー・スイッチを母指のIP関節に設置する使用法がタオルなどの支持を不要とする設置が可能でセンサー部の変更の対応とした(図9)。突起した母指のIP関節がピエゾ・センサーの表面を水平移動する時の摩擦抵抗を感知させる使用法です。

簡便な装着と感知度

図10.総指伸筋・固有示指伸筋の腱

 図11.MP関節及びPIP関節の屈曲

ピエゾ・センサーを示指の屈曲動作で腱が変化する部位に紙テープで装着する方法は、効率的に感知する部位の特定や装着の仕方に経験を要するだけでなく、不確実な状況となることが多い(図10)。

示指の指先にピエゾ・センサーをネット包帯で装着する方法は、誰が行っても装着が簡便なだけでなく、使用者にとって操作感は格段に向上する使用法となる(図11)。

図12-1.母指の内転動作 

図12-2.ネット包帯

紙テープで装着すると装着後にセンサー部の位置の微調整が出来ない為、的確な箇所の装着が必要となります。
やむを得ず、紙テープで装着する場合は以下の手順で行います(図12-1)。

  1. 先端部側を初めに紙テープで止め、動作時にピエゾ・センサー自体が動くことを目視で確認します。
  2. 動くことを確認した後、ケーブル側の端を貼り付けます
先端部側だけを貼り付けた状態でピエゾ・センサー自体が動く状態であることが装着のポイントとなります。
伸縮ネット包帯による装着でのピエゾ・センサーの位置(図12-2)の手順。
  1. 伸縮ネット包帯を母指に装着する
  2. ピエゾ・センサーの先端部側からケーブル側がIP関節に位置するように差し込む
  3. 意思伝達装置の操作を確認し、必要であればピエゾ・センサーの位置を微調整する


図13.使用する伸縮ネット包帯
伸縮ネット包帯は使用する部位に装着した後、ピエゾ・センサーを差し込む手順となる

母指の内転動作

図14.感知部分が極小 

図15.傾斜した設置

示指と母指とで挟み込む操作は進行に伴いエアーバッグ・センサーの空圧を高めるなど形状の変化で対応することになるだけでなく、母指の指先の1点のみを効率的に感知する設置の微調整が困難を極めることになる(図14)。
エアーバッグ・センサーを傾斜させ、母指の指先が広く触れる感知範囲を広げる設置にします(図15)。

 

図16.示指の屈曲動作

図17.中指の屈曲動作

ネット包帯を使用してピエゾ・センサーを中指と示指の間に差し込み、屈曲動作を効果的に関知する指側に設置している(図16)。

ネット包帯の装着により指先の動作時に隣の指と摩擦抵抗が生じ、ピエゾ・センサーが屈曲動作と複数の歪みを感知する状態となる(図17)。
摩擦抵抗を更に多くする方法として指間にティッシュペーパーなどを詰め込む方法もある。

中指の屈曲

図18.運動方向に直交する設置に

示指を長期にわたるスイッチ操作の状態にあり、エアーバッグ・センサーの操作が困難となり再評価では示指の屈曲動作は十分維持されて状態にあった。

示指の屈曲動作を効率的に感知するエアーバッグ・センサーの設置法が不適切な状態であり、エアーバッグ・センサーが運動方向に直交するように中指側を持ち上げた設置で解決している(図18)。

操作スイッチの設置の基本は、『運動方向に直交する位置に』設置することにある。
 

図19.環指
夜間のナースコールとして使用することから臥位では環指をベッドに擦り付ける動作が優位であった。
そこで環指にネット包帯でピエゾ・センサーに装着し、PPSスイッチの機能選択の複数回の操作でチャイムが鳴り出す誤動作防止の使用方法としています(図19)。
意思伝達装置の操作時にPPSスイッチの設定変更が煩雑となるため、チャイム用に2台目のPPSスイッチを新たに導入することに至った。

 

図20.好ましくない装着

ピエゾ・センサーの装着
ピエゾ・センサー全体を紙テープで覆う装着法は、紙テープが歪みを抑制する状態となり感知度が低下することから好ましい使用法とは言えない(図20)。また、ピエゾ・センサーの全面を紙テープ覆う方法は剥がす時にピエゾ・センサーのトラブルが生じやすい状態にもなります。
 

症状進行に対応した適合評価

図21.導入時の操作

図22.再評価による変更操作

導入初期のスイッチの操作は回外位による右示指の屈曲動作であった。進行に伴い左手の操作に変更し、更に前腕の肢位を変更した経緯をたどっている(図21)。
右手から左手に変更し、回外位の使用を進行に伴いやや中間位の肢位にすることで自動運動が効果的に発揮される状態にあった(図22)。

再評価に当たって安易な機種変更は適合評価の技術向上の助けにはなりにくいと考えていますが、但し、一般論の話しで悩む支援者は多いと思います。

図23.再々評価

更に症状進行の為、中間位の肢位へ変更を行っているが動作はやや緩慢な状態へと変化していた。
支援者からの依頼によりこの事例では操作が困難となった都合4回に渡り自動運動が最大に発揮される肢位の評価を行なっています。
安定した前腕の中間位となるように複数のタオルを使用して支持をしている(図23)。

2.肘部

肩の下制動作が肘の伸展動作や末梢部の指先の突き出し動作として見て取れることから、指先などの変化として現れる動作に対応した操作スイッチの機種選定や設置法の適合評価になりがちになります。
 

図24-1.手掌部

図24-2.上腕部

肩の下制
膝に置いたエアーバッグ・センサーを手掌部で突き出す操作で試行するが、タオルの支持や肘の角度の調整など煩雑な操作となることから家族の設置作業の負担軽減となる使用法を検討している。
肩の下制を効率的に感知する部位は上腕にあることから肢位も安定するディップスポンジ・センサーを差し込む設置とした(図24)。

図25.ギャッジ・アップの姿勢

手関節を背屈位にすることで腕を突き出す力がディップスポンジ・センサーに最大限に伝達されるようタオルで手部を支持している。
エアーバッグ・センサーより手部の安定した肢位が確保される。

図26.押す動作

図27.擦る動作

肩の下制が末梢部の指先を突き出す動きとして現れることから使用中のジェリービンスイッチを指先で押す操作で使用していたが(図26)、進行に伴い高難度の設置作業を要するため再適合となりました。

上腕筋に操作スイッチを設置する方法も検討したが、誰でも簡単に設置できる状態とは言えず、前腕部の動きを使用することにしました。
回外位でスイッチの操作を行っていたこともあり、手背部にピエゾ・センサー貼り付け膝に手背部を擦り付ける動作で操作する方法とした(図27)。

注)手掌部のガーゼなどは療養で装着しており、ピエゾ・センサーの装着ではない。

図28.極めて微少な動き

微少な伸展動作を手関節の水平移動ではなく、下降方向で感知するよう発泡材でMP関節を固定した状態にしている。
伸展方向が発泡材でロックされているため、手部の水平移動方向の動きが手関節を下方向に落ちる動きに変わり、自身の自重も加わり極少な動きを効果的に感知される状態となる(図28)。

在宅介護に関わる関係者の熱意は相当な物だったのが強く記憶に残った事例でした。

3.顔面部

口唇近くの動きは生理的な動き(常動的に口が動く)と同一であることから実用的な使用は低いと言えます。
 

ひたい

見上げる動作の際に額に皺が生じることを確認し、前頭筋の起始と停止の位置を評価します。


ピンタッチスイッチ

 

図29.ひたいの収縮

停止の部位にアルミ箔を装着し、起始の部位にケーブルを固定します。

  1. 見上げる動作の時にひたいの動きを評価し、眉毛近くの部位が最大に変化する部位を特定します
  2. 頭髪側近くの部位で不動の部位を特定します
  3. ピンタッチスイッチを装着します


図30.先端部をひたいから絶縁するティッシュペーパー
ひたいにピンタッチスイッチの先端部が触れぬようティッシュペーパーを差し込んだ使用法にしている(図30)。
ひたいの収縮に伴いティッシュペーパーがセンサーのケーブルの摩擦抵抗を軽減する効果も生じていた。

 
 
図31.ひたいが狭い場合の対応
ひたいの部分が頭髪などで狭い状態では起始が頭髪内となるため、ビニールテープを装着することが不可能な状態となる。
その場合、ピンタッチスイッチのケーブルの固定はヘアーバンドを用いた装着法となる(図31)。

 

PPSスイッチのピエゾ・センサー

図32.PPSスイッチの所有者

指先での操作にピエゾ・センサーを使用していたが、進行に伴い指先での使用が困難な状態となり、次の段階としてひたいでの使用法に変更している(図32)。

PPSスイッチの取り扱いに関係者も慣れていることから機種変更をせずに操作部位の変更にとどめている。

ひたいの動きに対してPPSスイッチの活用を推奨しているわけではなく、既に所有されている場合に対応する方法として紹介をしている。
 

図33.装着の紙テープは両端部分

ピエゾ・センサーを装着する部位は大まかな額の箇所でも対応できます。
  1. センサーの先端側を眉毛側の額に貼り付けます
  2. 見上げる動作などでセンサーが上下動するのを確認します
  3. センサーが上下動する時に頭髪側の額が動かない位置を確信します
  4. 不動な部位にセンサーのケーブル側を紙テープで貼り付けます

ピエゾ・センサーが動くことの確認

ピエゾ・センサーの装着手順

ピエゾ・センサーの脱着の仕方

まぶた

図34.まぶたの挙上

前頭筋の収縮が見て取れない状態にあっても見上げる動作の時に眼球の挙上に伴いまぶたも挙上する場合はまぶたにアルミ箔を装着する方法となる。

ピンタッチスイッチの場合、アルミ箔とピンタッチスイッチの装着は紙テープではなく、肌への影響が少ないビニールテープが好ましい。


顔面に装着使用する場合の注意点

顔面に操作スイッチを装着する方法に強く拒絶される状態は、見てくれの問題ではなく、強い違和感を持っている可能性があり、慣れの問題と間違えて捉えない注意が必要となる。
紙テープやビニールテープを20分程度装着後にそこの皮膚が赤くなっている状態ではスキントラブルが必発するため、装着する操作スイッチは使用不可となる。
 

医療監修
小林貴代 森ノ宮医療大学保健医療学部作業療法学科長
 
参考文献
2000. 日本人体解剖学 金子勝治、穐田真澄 南山堂
2012. ぜんぶわかる筋肉・関節の動きとしくみ辞典 川島敏生 成美堂出版
 
関連文献
2016. 重度障害者用意思伝達装置操作スイッチの適合マニュアル 三輪書店
2011. 7月号~12月号 地域リハビリテーション コミュニケーションをサポートする! 操作スイッチの適合技術 三輪書店
2009.「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドライン 適合事例集 日本リハビリテーション工学協会