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「Dr Anton Johannesson 来日セミナーに参加して」

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「Dr Anton Johannesson 来日セミナーに参加して」

熊本総合医療リハビリテーション学院
笹川 友彦 (義肢装具学科主任講師)

2019-07-16

Systematic Procedure in Lower Limb Amputation ~The Scandinavian approach~

5月15日(水)、博多駅前のTKPガーデンシティ博多で開催された「Systematic Procedure in Lower Limb Amputation  ~The Scandinavian approach~」(下肢切断に対する系統的手法 北欧的アプローチ)セミナーに参加した。講師はオズールスカンジナビアに所属し、スウェーデンで自らの企業も経営する義肢装具士アントン・ヨハネッセン氏であった。

セミナーは座学と実技で構成され、座学ではスウェーデンの現状と切断に関わる統計データについて、下腿切断の標準的治療(サジタルフラップによる切断術、リジッドドレッシング、ライナーによるコンプレッション療法、ダイレクトソケット製作)の及ぼす効果など、スウェーデンにおける義足事情について報告があり、実技としてダイレクトソケット製作の実演が行われた。

高齢下肢切断者の義肢リハビリテーションセミナーチラシイメージ

義肢装具士アントン・ヨハネッセン氏

スウェーデンにおける義足事情

セミナーの内容で、印象に残ったことを以下に示す。
 

① 国がデータベースへのデータ入力を義務化している。
PO主導で切断に関わる各症例についてデータベースを構築し、現在では国がデータ入力を義務化している。最新の統計資料がすぐに作成でき、治療方法や治療成績の比較が容易で、傾向把握と対策が取りやすい。切断レベル、義足適合までの日数、入院日数など、都市間や病院間で発生する差異を確認し直接改善指導が行われている。日本国内では切断に関わるデータが少なく、一病院規模、一義肢製作所規模で残っているカルテなどに限られ、デジタル化されていないものが多いと思われる。これから治療の標準化を進めるためにも、まずは現状把握にデータベース化ができれば、非常に有益なものになる。
 
② 下腿切断は矢状皮弁(サジタルフラップ)で行う。
日本では後方皮弁術が用いられることが多いが、dog earを形成しやすく、ライナー着脱時に創を開放する方向に牽引力が加わり、断端形成と義足適合に時間が掛かる。対して矢状皮弁ではdog earが形成されず、ライナーの着脱が創を閉鎖する方向に圧迫力として作用し、断端形成と義足適合が早期に可能となる。
 
③ 循環障害にピン式ライナーは使用しない。
ピンによるエロンゲーション・ミルキングは遠位軟部組織の萎縮を招き、断端が円錐形へと変化していく。経験上、長期間の利用者ではトラブルの原因となりやすいため、吸着式を推奨している。日本ではピンを用いることが多いが、長期間使用しているユーザーの断端変化について調査する必要がある。
 
④ ダイレクトソケット製作が半数以上を占める。
早期装着・早期退院のためにもダイレクトソケットの使用率が高い。現在では60%以上の利用率となっている。
 
⑤ 標準化プログラムが確立している。
術直後からリジッドドレッシング・モビライゼーション開始
術後5~7日からコンプレッション用ライナー装着 仮義足製作
術後41日で本義足適合
このような流れが標準化している。日本ではリジッドドレッシングがあまり使われていないようだが、文献調査においても評価が高い。オズールリジッドドレッシングという専用の器具を用いて行っている。この治療プログラムは2019年にストックホルムで標準的治療法として認可された。
 
⑥ 大きいサイズのライナーも選択肢である。
通常は同寸もしくは1サイズ小さいライナーを選択するが、アンブレラ(遠位部の硬い部分)のサイズも小さくなり、その周径差から断端末軟部組織が細長く伸ばされる傾向になる。この軟部組織は懸垂時に形状変化しピストン運動の原因となり、断端遠位部の不快感も発生することから、あえて大きめのライナーを用いてピストン運動を軽減するという手法もある。

チーム医療の更なる連携

今回のセミナーに参加して、医療もガラパゴス化しているのかと不安が湧いてきた。特に教育体系において国立大学で養成される義肢装具士は、医師や看護師と共に基礎科目を受講するため、チーム医療として対等な立場で患者さんに接し、連携がとりやすく横のつながりが密であるというのが特徴的であった。そのため、医療データを共有して蓄積し、チームとして医療費軽減に取り組む環境が整っている。

データ管理については、1998年~2017年(20年間)で平均して2243人/年の切断症例があり、内訳は下腿切断48%、膝離断13%、大腿切断29%。切断から生活復帰までの医療費は平均(ユーロ) €80,000/人、112名の患者を8年間追跡調査では、医療費に占める義足の割合は6%と、すぐにデータを拾うことができ、これら統計から国の医療費削減には6%に着目するよりも早期治療・早期退院が重要な課題であると判断された。そのために標準化されたシステムを構築し、均質な治療が提供されるよう30年かけて国内に浸透させ、国が認めるシステムに成長させたという現状は、日本では成し得ないものだと感じた。

「アウトカムを向上させるには、全てのプロセス・内容を改善することが必要であるが、関わる全ての職種による連携が欠かせない。連携が切断インシデント低下、切断レベルの低下、入院期間の短縮、最適な義足提供、自立した生活の継続など医療にかかわるトータルコストダウンと、これらの文書化した記録によりエビデンス構築へとつながる」との話は印象的であった。患者さんファーストの治療・リハを進めていくためにも、チーム医療の更なる連携が求められるのではないだろうか。

 講師のアントン氏は今回の講義内容について、今年10月、神戸コンベンションセンター(日本・神戸)にて開催される第17回国際義肢装具協会(ISPO)世界大会にて発表されるとのことであった。興味のある方は聴講、または直接会場で質問してみてはいかがだろうか。

 

          Dr Anton Johannesson 来日セミナー参加者の集合写真