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パシフィックニュース

一足の靴が広げる選択肢

装具

リハビリテーション

一足の靴が広げる選択肢

  ~誰もが自分らしく生きられる世界を作るために~

パシフィックサプライ株式会社  事業開発本部

2020-01-06

「下肢装具をつけたらリハビリシューズしか履けないよ」「スニーカーでも履けたら御の字だ」という言葉に傷つき、好きなおしゃれを諦めてしまう下肢装具ユーザーは少なくない。
 
ユーザーが好きな靴を履きたいと願うのはそれほどに贅沢なことなのだろうか?
体の自由だけでなく、おしゃれの自由も奪われなければならないのだろうか?
 
そんな世界を変えたいと、下肢装具にも合わせられる「おしゃれな靴」を開発し、
下肢装具ユーザーから「こんな靴がほしかった」と喜びの声を受けている女性がいる。布施田祥子(ふせださちこ)さんだ。
 
多くのユーザーが選択肢のなさという壁にぶつかりおしゃれを諦める状況にも、下肢装具ユーザーとして「それ、おかしくない?」とシンプルに異を唱え、軽やかに乗り越えていく行動力を持った布施田さん。
 
自分が好きな靴を履きたい!と自分のために作り始めた靴が、多くの人に望まれ、それぞれの可能性の扉を開けるアイテムになることを知った時、自分ができることをやっていこうと活動を広げた。
 
彼女が作っているのは単なる靴ではない。自分らしさを諦めないための「きっかけ」なのだ。
 
下肢装具にも合わせられるおしゃれな靴で、下肢装具ユーザーでも諦めずに好きな場所へ出かけて新しい出会いを果たせるように。一足の靴がとまどう当事者の背中を押すきっかけになることを彼女は願っている。
 
その行動力と熱意で人の輪を広げ、多くの人に勇気を伝える彼女の思いを多くの人に知ってもらいたい。

布施田さんの紹介、経歴

布施田さんは、左半身にまひがあり外出時はゲイトソリューションR1を使用している。2011年、出産8日後に脳出血で倒れて一命をとりとめるも、12日後に目覚めた時には一生車椅子生活になるだろうという宣告を受けてしまった。その後、家族の支えとキレイに歩いて退院後も出かけたいという強い思いでリハビリを行い、自分の足で歩けるようになる。必死に育児を行い、社会復帰も果たした。

 
しかし、下肢装具という支えを付けると歩行は安定するが装具によって靴が限定されてしまうため、以前のようにTPOに合わせた靴を履けなくなってしまう。アパレル業界で働き、自分らしい装いを楽しんできた彼女にとって、履きたい靴ではなく履けることを基準に靴を選ぶのは苦痛でしかなかった。そんな現状に立ち向かい、絶対におしゃれを諦めたくないという思いで、2017年にMana'olana(マナオラナ)というブランドを立ち上げた。

 
理想だけを抱えて全くの素人から始めた靴作りだったが、熱い思いで協力者を見つけることができた。試行錯誤を繰り返し、2018年10月に第一作の商品化に成功。現在はゲートソリューションデザインR1にも合わせられる女性用おしゃれ靴、オルトップにも合わせられる男性用ビジネスシューズを製造販売し、当事者からこんなのが欲しかったと大きな反響を得ている。

バイカラーBLK

BLKメンズ

障害があることで、ファッションが諦めの対象になってしまう現状

下肢装具にも合わせられる靴を作っていますが、義足と下肢装具が混同されることがいまだに多いですね。装具を使う人の方が義足より圧倒的に多いのに、下肢装具ってマイナーな存在だと思います。
 
下肢装具ユーザーなりの苦労があることもほとんど知られていません。障害があるとファッションは以前のように身近でなく、あきらめの対象になってしまっています。ファッションという視点は福祉の世界で置き去りにされて浸透していないように思います。
 
何十万円もするものすごいテクノロジーの福祉アイテムもすごいけど、なかなか当事者が気軽に買えるものではないです。でも靴だと身近に手に取ってみて、いいな、買いたいなって思ってもらえるんです。
 
病気や障害のために外に出ることや装うことを諦めてしまった人が、外に出て行って世界を拡げるきっかけとなるアイテムがもっと増えてほしいと思います。
 
心を動かすきっかけとなる「選択肢の種」は一人ひとり違うので、何も靴に限りません。私はいろんな選択肢の種をまいていきたいと活動しているんです。

 

履きたい靴がないなら、自分で作るしかないって思いました

私の場合は、最初に選択肢を増やしたいと思ったのが小さいころから大好きだった靴でした。
 
どれだけ探しても、装具をつけていてキレイにおしゃれに履ける靴がないなら、もう自分で作ろうと思って動き出しました。いろんな方と会ってそんな思いを伝えています。一緒にできる人を探していると、その輪はすごく広がってきています。私は本当に周りの人に助けられて、出会う人に恵まれていると思います。
 
靴は健常者でも合わせるのが難しいこともあるから、「装具をどうにか変えることはできないの?」とよく言われます。でもそこは医師や義肢装具士の管轄だから、私はどうにも出来ません。
 
もし装具がかっこ悪いと感じたとしても、当事者は装具を選べないからせめて靴を選びたいのにそれもできない。足と装具と靴のうち私が何かできるとしたら靴だけなので、その部分に挑戦しています。

GSD(ゲイトソリューションデザイン)に思う。選択肢の意味

入院中にリハビリシューズを履きたくなかった私は、主人にもってきてもらったコンバースをずっと履いてました。初めて下肢装具を見たときは「これを着けてどうやって自分の靴が履けるのかな?」と疑問に思いました。実際に持っていた靴はどれも履けませんでした。それをリハビリの先生に伝えたら、ゲイトソリューションデザイン(GSD)を持ってきてくれました。
 
GSDは『靴が選べる』と聞いていたのですが、残念ながら実際はどの靴でも履けるわけではありませんでした。TPOに合わせて、靴が選べるわけではありませんでした。
 
障がい者にとって靴が選べるということは、単に靴を履くだけでなく「自分らしさを表現すること」「選択肢が当たり前にあること」の象徴の一つだといっても過言ではありません。

 


    


   ゲイトソリューションデザイン
   2011 文部科学大臣表彰 科学技術賞
   2006 レッドドット・デザインアワード
 

 

作りたいのは靴ではなく、「選択肢のある日常」が当たり前になる社会


本来は、障害があってもなくても、選択肢は用意されているはずです。でも障害のせいで「選べない」「できない」と本人や周りが思い込んでいることが少なくありません。
 
当たり前ですが、社会はいろんな人で構成されています。一人ひとり違う個性が出会って混ざり合って新しい価値観を作り出していくことで、もっと世の中は生きやすくなると信じています。
 
私はそのための選択肢の種を増やし、関わる人たちに自分を変化させる種は何だろう?って考えてほしいと思っています。そんなお互いの価値観を認め合える世の中が、選択肢のあることが当たり前という意識を生み出していくと信じています。 

Choose Your Life Mana'olana 2019

取材後記

思いはつながり、行動すれば今まで常識とされていたことを覆せる。そう信じられるのは、彼女の誰よりも諦めない気持ちと前向きな明るさがあるからだとお話していて感じました。
 
一人でも多くの方に彼女のまく種を発芽させてもらい、自分の好きなことややりたいことを諦めない人が増えてほしい。誰もが自分らしさという花を咲かせられる世界に近づいていくことを願います。


                                        (取材)スイッチ・オン 平野亜樹

 

 

〇布施田さんの活動を知りたい方はこちらから
Mana'olana(マナオラナ)公式サイト  https://manaolana.jp/
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