パシフィックニュース
基節骨骨折患者に対してオルフィキャスト®を用いた保存療法例
スプリント
リハビリテーション
社会医療法人仙養会北摂総合病院 リハビリテーション科
作業療法士 蓬莱谷耕士
2019-12-16
症例紹介
自転車で転倒し右小指を受傷、同日近医を受診した。レントゲン(図1)により右小指基節骨基部骨折を指摘され、整復後にMP関節屈曲、PIP関節・DIP関節伸展位で固定され経過観察となった。
受傷後2週で骨折部に不安定性があり、手術加療の必要性を指摘され当院を紹介された。術後3週時点の手外科医の診察において保存療法を継続し、可動域制限および指交差(cross finger)が生じた場合に手術治療とする方針となった。
当院初診時のレントゲンでは、掌側凸変形を認め、健側に比べて遠位骨片が約35°背屈転位し、骨長が約4㎜短縮していた
(図2)。
図1受傷時レントゲン
小指の基節骨基部に掌側凸変形を伴う骨折を認めた。
図2当院初診時のレントゲン
健側に対して約35°の背屈変形と約4㎜の短縮を認め、骨癒合は認めなかった。
スプリントの作製
当院初診時に骨癒合が確認できなかったため、スプリントによる外固定を指示された。
受傷指が小指であったため、環指との2指での固定とし、石黒ら1)が報告したナックルキャスト法に準じてMP関節屈曲位で作製した(図3-A)。
素材は、オルフィキャスト®(幅6.0㎝,1.3㎜厚)を使用し、固定性を増大させるために素材を2重とした。PIP関節とDIP関節は固定せず、運動が可能になるようカッティングした(図3-B)。
また、MP関節屈曲位が十分に保持できるよう、指部は接着(図3-C)させた。
図3スプリント
図3-Aナックルキャストに準じたスプリント 図3-B装着下での自動運動(装着直後の状態) 図3-C赤矢印部で素材同士を接着 させ固定性を増している
リハビリテーションと経過
リハビリテーションは、当院初診までの3週間で生じたPIP関節・DIP関節伸展拘縮を除去することを目的に、スプリント装着下でPIP関節・DIP関節の自動運動を実施した。
当院初診後2週時のレントゲンにおいて仮骨形成が確認され、スプリントを除去した。この時点の関節可動域(自動)は、MP関節-6°/85°、PIP関節−16°/80°、DIP関節-12°/55°であった。
その後、残存する関節可動域制限の除去を目的に関節可動域訓練を自他動運動で実施し、骨癒合完成後に握力訓練を追加した。
最終成績
レントゲンでは、変形の増悪は無く骨癒合が得られた。指交差は無く、関節可動域は、他動でMP関節30°/90°、PIP関節0°/96°、DIP関節8°/70°、自動でMP関節30°/90°、PIP関節-16°/94°、DIP関節-18°/60°と骨変系に伴う伸展不全は残存するものの良好な機能を得ることができた(図4)。
日本語版Disability of the Arm, Shoulder, and Hand (DASH)のDisability&symptomは24.0であった。
図4 結果
考察
基節骨骨折に対する保存療法1)では、MP関節を屈曲位とし早期からPIP関節・DIP関節の自動運動を行うナックルキャスト法で、指背腱膜のtension bandの効果による転位予防と、隣接指との運動で回旋変形の予防ができるとされている。
本症例は、当院受診時に転位は認めたものの、保存療法を継続した。指交差予防のために環指とMP関節を屈曲位に固定したことで、転位の増悪と改善変形を予防し、良好な結果を得ることができた。
通常、ナックルキャスト法は、キャスト材を使用するが、本症例では、オルフィキャスト®を使用した。オルフィキャスト®は、布生地であり、湯で軟化させ、モールディング後にプラスティック材のように硬化する特性を持つ。そのため、操作性及び自由度が非常に高く、モールディングは容易で、フィッティングも良好である。また、折りたたんで使用する、軟化後に素材を引っ張り厚さを調整するなど固定性も調整しやすい。
一方、布生地を湯で軟化させるため、硬化後しばらくは湿った感じが残存し、テーピング固定やストラップをつけにくいことがある。これは、軟化後、モールディング前に十分に水を拭き取るか、ヒートガンなどを使用することにより解決する。
オルフィキャスト®は、本症例のように、比較的関節の角度が厳密に規定される場合には非常に使いやすい素材であると思われる。
当院におけるオルフィキャスト®の使用例
オルフィキャストの使用例の一部を紹介する。
1) 石黒隆,橋爪信晴,井上研次,他:指基節骨および中手骨骨折に対する保存療法-MP関節屈曲位での早期運動療法.日手会誌.8:704-708,1991
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執筆者紹介
蓬莱谷 耕士 社会医療法人仙養会 北摂総合病院リハビリテーション科 作業療法士
【履歴】
大阪府立看護大学医療技術短期大学部作業療法学科を卒業後、2000年より公立小浜病院リハビリテーション科、2003年から大阪医科大学附属病院リハビリテーション科、2014年から北摂総合病院リハビリテーション科で臨床業務に従事している。臨床業務をしながら2011年には大阪府立大学大学院総合リハビリテーション研究科で保健学修士を取得し、2019年より関西医科大学大学院医学研究科リハビリテーション医学教室の博士後期課程に入学し、現在に至る。
【所属学会】
日本作業療法士協会、大阪府作業療法士協会、日本ハンドセラピィ学会、日本手外科学会(準会員)、中部日本手外科研究会、中部日本ハンドセラピィ研究会、日本リウマチリハビリテーション研究会。
第6回中部日本ハンドセラピィ研究会を2019年1月に主催した。
【資格】
作業療法士免許、日本作業療法士協会 認定作業療法士、一般社団法人日本ハンドセラピィ学会 認定ハンドセラピスト、
日本作業療法士協会 専門作業療法士(手外科)
【書籍】
- 写真でみる基本スプリントの作り方:2007.10.医歯薬出版株式会社
- 手・肘関節鏡下手術―スキル関節鏡下手術アトラス:2011.6.文光堂
- リハ実践 ハンドセラピィ:2014.4.メジカルビュー社
- リハ実践 関節リウマチ 第2版:2014.12. メジカルビュー社
- 義肢装具と作業療法 評価から実践まで:2017.9. 医歯薬出版株式会社
関連情報
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