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パシフィックニュース

コミュニケーション障碍の支援⑦ ~操作スイッチの適合技術~

AAC(コミュニケーション)

リハビリテーション

コミュニケーション障碍の支援⑦ ~操作スイッチの適合技術~

日向野和夫(KAWAMURAグループ・元川村義肢株式会社)

2020-01-15

最終回は運動失調症の脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Degeneration:SCD)、多系統萎縮症(Multiple system atrophy:MSA)、脳血管障害(Cerebrovascular accident:CVA)の操作スイッチの適合について話をします。

意思伝達装置の設定に不随意運動による「連続二度打ち」や「長押し」などのスイッチの入力信号を制御させ、誤入力を防止する機能を装備している機器があります。

これらの設定は直接打鍵式の機器では有効な機能ですが、自動走査方式(オートスキャン)では常に二度打ちのスイッチの操作が起きるとは限らず、保持時間や無効時間の設定が誤動作防止の有効となる使用者は限定的といえます。

脊髄小脳変性症、多系統萎縮症(SCD,MSA)編

この2つは異なる難病疾患ですが、不随意運動の特徴が共通していることから適合評価については、まとめて述べることにします。
 
手部
前腕などの振戦が比較的小さい場合、支援者は触診にて手掌部に入れた指先で随意的動作を評価します。
触診による随意性の確認後、手押しボタンスイッチを差し込み、スイッチの操作だけの評価を先に行った後、意思伝達装置の試行評価を行います。

図1-1.手押しボタンスイッチの把持形態

図1-2.手押しボタンスイッチの把持形態

振戦の動きによって手押しボタンスイッチはわずかに動く状態となるが、スイッチが強く押し込まれる程の激しい振戦には至らないことが多く見られる。

手押しボタンスイッチは、挟むことでPIP関節やDIP関節の振戦が抑制され、スイッチ面に反映されない状態となり、母指の内転動作によるスイッチの操作が可能となる。

手押しボタンスイッチは反応する場所にクセがあるので押す動作に応じて、握り込む方向に注意する必要があります。

握り方では操作スイッチ面の表裏にこだわる必要はなく、的確に操作できるかが重要となります。

最初の訪問時の意思伝達装置の試行では、スイッチの操作は極めて困難で複数の操作スイッチで試行したが操作不能な状態であったが、約1ヶ月後の再試行では手押しボタンスイッチによる操作が動画のように可能で導入に至った。

 

腕が上がった筋緊張の状態にあってもスイッチの操作に影響は少ない。

図2-1.意思伝達装置の試行

図2-2.意思伝達装置の試行

意思伝達装置の試行時では的確な文字綴りなどを観察するだけでなく、時間経過に伴うスイッチの操作や把持の形態などの変化について30分程度の時間経過の中で評価する必要があります。
 
母指
母指の随意運動の評価はIP関節の屈曲動作と内転動作となる。
 
IP関節
母指のIP関節の屈曲動作の随意性がMC関節を固定することにより、発揮される肢位の評価となる。
この時、随意運動の評価だけでなく、操作スイッチの把持機能についても併せて評価は必要である。

図3.随意性の評価

CM関節を固定することでIP関節の屈曲動作の随意性が発揮されるかを触診にて行います。

随意的な動作の確認は順次数字を読み上げ、指定した数字の時に動作してもらう方法となり、指定数字以外での動作が数回の試行で繰り返される状態では自動走査方式の機器活用は極めて困難であると判断できる。

評価の仕方

図4-1.四指の筋緊張

図4-2.母指の筋緊張

電動ベッドの手元リモコンを手元に寄せボタン操作ができる状況にあったが、指先の筋緊張及び前腕の振戦は強く見られた。

運動機能評価ではIP関節の屈曲動作に随意性が見られ、操作スイッチの円柱の固定具の把持によってMC関節を固定することによって、スペックスイッチで意思伝達装置を操作している。

スイッチ固定具の円柱の把持に強い緊張が生じ、固定具が回転するなど当時の筆者の評価能力不足が分かる相当以前の対応である。
評価の際に円柱の代替としてスティック糊や太マジックなどで試行評価はできるが、概ね32mm程度の太さが必要である。

 
内転動作
母指のサイドピンチの動作は時間経過に伴い運動方向に変化が生じることから操作スイッチの設置に工夫が必要となることが多い。

通常、運動方向に対立する状態に操作スイッチの設置が基本となるが、時間経過に伴い(図4-1)の操作から(図4-2)のように操作スイッチからずれた部位に押し込む動作に変化し、使用できない状態に陥る。

図4-1.使用開始時の設置場所

図4-2.時間経過に伴う位置関係の変化

示指に開始当初の位置(図4-1)に装着しても、時間経過に伴いサイドピンチの運動方向の変化(図4-2)が生じることにより操作スイッチの場所ではないところを押し込んだ操作不能な状態に陥ってしまう。

図4-3.装着は母指

示指ではなく母指に装着することで内転動作が操作スイッチを押しつける状態に変化がなくなる。
導入の際、実際には支援者にどちらの指に装着しても良いなど日によって状態が異なる場合もあり、様子を見て使用するよう伝えておく必要がある。


 

図5-1.母指の内転動作

図5-2.グリップの把持

随意性のある部位が母指の内転動作であることは把握していたが、「トリガースイッチ」が存在しない時期は自作のタクティルスイッチによる対応が長く続いていた。

内転動作が効果的に発揮されるように手掌部に柔らかな素材を握り込む方法など試行錯誤も続いていた。

図6-1.装着ベルト

図6-2.スイッチ本体の脱着

SCD、MSAの場合、内転動作によるスイッチの操作(図6-1)は、概ね1年程度で使用が困難となる厳しい現実が多数見受けられる。

先端を裂いた形状のフリーマジックを使用した装着ベルト(図6-2)は、クロス巻きで指先が細くても脱落しにくい方法としている。

 
試行時の注意点
意思伝達装置の試行時に支援者が「はい、そこで押して」、「はい、今」などと発しているのを見かけることがある。

支援者のキューに反応して可能性があり、移動速度に応じた適切なスイッチの操作となる身体機能の評価が不確実になるだけでなく、実用性の評価が不適切な状態となるため注意を要する。

図7.腕の激しい振戦

図7.腕の激しい振戦

極めて強い振戦はあるが、内転動作の随意性は高く「伝の心」の操作が可能であった。

強い振戦を制御するため、本人が左手で押さえて操作を工夫している(図7)状態が見られた。在宅から病院への生活環境の変化はあったが、特に病院からの問い合わせもなく継続的に使用されていた。

 

タクティルスイッチの完成度は低い状態にあった。

希有な事例

入院中のSCDに「レッツ・チャット」の導入で1年を要した希有な事例を紹介したい。

病院のOTから手関節を背屈位の肢位により中指の屈曲動作の随意性が発揮される対象者の相談があり、定期的な評価と意見交換を重ね、概ね1年程度を要して制度申請による意思伝達装置が導入に至った。

図8-1.操作スイッチの固定具

図8-2.タクティルスイッチ

背屈位の肢位により中指の屈曲動作がスイッチの操作が可能であることから、スイッチ部分を提供し、固定具はOTが対応することで支援が始まった。

図8-3. PO(義肢装具士)による補装具の製作

補装具制度の申請に当たって固定具を弊社PO(義肢装具士)が病院OTと意見交換を行い採寸、採型、仮合わせを行い納品に至っている(図8-3)。


困難事例に求められる操作スイッチの固定具製作は弊社のPOの存在なくしては対応不能であって、義肢装具企業の強みを実感している。希有な固定具対応の事例は多数あるが、素材選定や製作などが誰でもできる条件にはないため、この連載では割愛している。

失敗事例

失敗によって見えてくる支援技術の視点もあるが、その時に持っていた筆者のこだわりの対応が機器適合を間違えた方法に踏み込んでしまった失敗例がある。

基本的な医学的知識の必要性を気付かされるのに時間を要した失敗例を参考までに。

図9.グリップ型スイッチ

当時、筆者は母指と示指を広げることで示指の振戦が抑制される点に関心が集中しており、機器活用の実用性を含めた総合的な評価が不十分であったことから、納品時には示指の屈曲動作は既に消失している状態にあった。

補装具支給制度前の日常生活用具給付事業の当時の事例でOTとの共同作業は、年間数名という稀な状態にあった。

図10.グリップ型スイッチ

図10.グリップ型スイッチ

意思伝達装置の試行時に実用的活用に疑義は若干感じていたが、実際の継続使用により身体機能の向上に期待を持ち、導入に至った。現実的には納品時では既に機器の操作は極めて困難な身体機能にあった。

アルミパイプを使用した弊社工場の製作による軽量グリップ型のタクティルスイッチである。
 

習得の練習効果

初めての意思伝達装置の試行時に使用可否の判断が難しい場合、導入に向けての練習開始となるが留意点がいくつかあります。

(1)開始前に練習期間を定める
 週1回程度の練習時間では最大1ヶ月程度とする
 毎日の練習時間では最大1週間程度とする
(2)練習プログラムを作成する
 誤動作や誤操作の状態を支援者が確認出来るよう指定作文の文字綴りから始める
(3)身体機能によっては練習機器に不向きな意思伝達装置は回避する
 誤選択によって基本画面に戻す煩雑な操作は効率的な練習が確保できない
(4)練習時間は最低でも30分程度の継続試行とする
 随意運動の消失や当事者の意欲など時間経過による変化など機器活用の実用性の評価ができない
 
上記の条件で練習効果が発揮されない場合、意思伝達装置の活用は困難と速やかに判断し、現在より少しは応答が確実になる他の手法による意思疎通の提案を行う。

 
応答の仕方の工夫
2つの異なる動作を日常的に合図として使用する
[はい]または[いいえ]で応答する方法を止め、[はい]の合図と[いいえ]の合図を決める
例えば、[はい]の場合は軽く目を瞑る、[いいえ]の場合は手のひらを握るなどと決める
はいなら返事をしての応答ではなく、普通に質問してはい、いいえの応答の会話に変える

脳血管障害(CVA)編

脳血管障害の操作部位は、手部、頭部、顔面部となり、閉じ込め症候群 (Locked-in Syndrome)では、意図的な開眼動作についての評価となります。

まぶたの開眼によるスイッチの操作は、ALSと同様のピンタッチスイッチの方法となるので連載第5回を参照されたい。
手指の場合、ブルンストロームステージ(Brunnstrom stage)の回復ステージがⅢ、Ⅳの状態にあって屈曲動作では初動の目視による観察と触診による評価が基本となる。
 
参考までに
表1.手指のブルンストロームステージに沿った回復過程+テスト方法

ステージ  
stage Ⅰ 弛緩期
stage Ⅱ 指屈曲が随意的にわずかに可能か、またはほとんど不可能な状態
stage Ⅲ 指の集団屈曲が可能、鉤形握りをするが離すことができない
指伸展は随意的にはできないが反射による伸展は可能なこともある
stage Ⅳ 横つまみ可能で、母指の動きにより離すことも可能
指伸展はなかば随意的にわずかに可能
stage Ⅴ 対向つまみができる 円筒にぎり、球握りなどが可能
指の集団伸展が可能(範囲はまちまちである)
stage Ⅵ すべてのつまみ方が可能になり、上手にできる。随意的な指伸展が全領域に渡って可能
指の分離運動も可能である。しかし健側より多少稚拙
  • 出典先]:Web*
 
手部
随意性のある中指の屈曲動作は目視にて評価出来ることが多く、スペックスイッチが妥当な機種選定となる。

図11.中指の屈曲動作

屈曲動作の運動方向にスイッチの操作面が適切に(図11)位置し、操作スイッチの把持が安定した状態にあるかなど時間経過を含めた評価が必要となる。中指の屈曲動作が主たるスイッチの操作で環指の屈曲動作も同時に起きている。

図12.操作スイッチの把持と操作の評価

スペックスイッチのケーブルを手に巻き付けることが出来る程度の身体機能を有する状態にあり、手関節を背屈位にして中指にて操作している。前号で述べているテノデーシスアクションである。

 

 

再評価による使用法の変更
他の支援者によってピエゾ・センサーを環指の手背部に貼り付けて使用していたが、再評価で環指の内転動作が目視で確認出来る状態にあった。

装着部位の確定及び装着法に課題が残る使用法のため、指の間に差し込む方法に変更し、環指の動作を的確に感知する設置で操作性が改善されるだけでなく、脱着時のピエゾ・センサーのトラブル防止となっている。

図13-1.手背部に装着

図13-2.中指と環指の差し込む

ピエゾ・センサー全体を貼り付ける不適切な接着方法(図13-1)だけでなく、環指の動作を的確に感知する手背部への設置も不確実性が生じる状態にあった。

環指の内転動作を感知するようにピエゾ・センサーを差し込んでいる(図13-2)。装着脱着が簡便となり位置合わせなどの不要な作業負担が軽減される。取扱説明書のピエゾ・センサーの装着法が不適切な記述となっている。

 
母指の随意運動の評価
母指を握り込む動作では対立動作と内転動作の複合動作のため、随意動作が発揮されない状態にある。

図14-1.内転と対立の複合動作

図14-2.対立動作の抑制

回外位の状態であるがままの手部の動きでは「動きはあるが、スイッチの操作が可能な状態」とは判断できない(図14-1)。

そこで四指を折り曲げ、指相撲の形(図14-2)にして対立動作を抑制することで尺側内転動作の随意性の評価が可能となる。

図15-1.位置の調整

抹消部の指先に感覚麻痺はあるが、スイッチの操作に支障はない状態にある。離脱動作が不得意な状態ある。
母指のIP関節屈曲動作を効果的に反映させる為、スイッチ面の角度を運動方向に直交する状態に詰め物を入れている。



 

位置の調整

身体機能の変化
高頻度操作の効果で身体機能に変化が生じることがある。

図16-1.タクティルスイッチ

図16-2.トリガースイッチ

試行時の評価で操作スイッチの機種選定は自作のタクティルスイッチ(図15-1)となったが、退院後の在宅では機器の使用頻度が決定的に異なっていた。そのため、いくつかの課題が生じることとなった。

高頻度使用による操作スイッチのトラブルの続発と日常的な使用により母指の内転動作に変化が生じ、使用しにくい状態になっていた。
そのことからトリガースイッチ(図15-2)への機種変更の対応となった。

トリガースイッチ

図17.握り込む動作

手部の拘縮により把持の仕方に制約がある状態であったが、試行直後は意思伝達装置の操作に若干の戸惑いがあり、スイッチの操作が不慣れな状況であった。


開始当初での機器の操作に戸惑いが見られたが、スイッチの操作は滑らかな動作であった。
 

頭部
前傾や側屈した座位の姿勢にあっても安定した状態であれば、頸部の回旋動作の評価の手順は、回旋動作で最大に外側に変化する部位の詳細な観察となり、頭部上部から順次下方に向けて観察する方法となる
操作スイッチの設置方法などの関係でポイントタッチスイッチの機種選定が一般的となる。

図18.ほほ骨

 図19.耳朶

比較的大きな側屈動作や回旋動作では、ほほ骨(図18)となり、小さな動作の場合では耳朶(図19)が妥当となど動作域の評価が重要となる。

図20.側頭部寄り

図21.下顎

頭部が正中位でないため、回旋動作は目視で十分に観察できる状態にあるが、外側への変化は極めて微少な状態にあった。眉端の近くが最大の変化と見て取れることからその部位の設置となっている(図20)。
外側への最大変化となる下顎(図21)に設置している。
 
顔面部

図22.前頭筋の収縮運動

症状の進行に伴い操作部位の変更に平行してスペックスイッチからPPSスイッチへと数回機種変更している。

現在は、「おでこ」の動きでピンタッチスイッチの操作に変更しており、見上げる動作による粗大ではあるが前頭筋の収縮で意思伝達装置を確実に操作している。

再適合、再評価

進行性疾患の場合、症状進行により再適合・再評価は必須の経過で支援者は定期的な詳細な評価が必要となる。
1.ALS

  1. 概ね2年程度で再評価、再適合が必要となる
  2. 再適合は必ずしも操作スイッチの機種変更とは限らない
  3. 操作部位や操作スイッチの設置場所の変更などによる継続使用の適正を評価する
  4. 安易に機種変更に導かないこと
 
2.SCD,MSA
  1. 概ね1年程度で操作スイッチの使用が困難な状況に陥ることが多い
  2. 随意性のある身体部位は唯一の為、他の部位も含め再適合は不能となる
 
3.CVA
  1. 早期のリハビリテーションや機器の日常的使用により身体機能が改善され、機種変更を要することがある
  2. 廃用性など身体機能の低下により機種変更を要することがある

余談を少し

PPSスイッチの製品名は「Piezo Pneumatic Sensor switch(ピエゾ・ニューマティック・センサー・スイッチ)と言いますが、略称がそのまま商品名になっているようです。

2003年の発売開始以来、多くの方々が使用されていますが、製品となる契機はいろいろな偶然が重なったことから始まっており記憶が曖昧ですが、その当時を少しばかり振り返ってみることにします。

 
PPSスイッチが世に出るまで

図23.2003年発売のPPSスイッチ

図23.2003年発売のPPSスイッチ

 開発の契機
PPSスイッチの商品化は国立障害者リハビリテーションセンターの伊藤和幸氏、東京医科歯科大学の宮崎信次氏との出会いがなければ実現されませんでした。

20年近く前の日本リハビリテーション工学協会のカンファレンスだったと思いますが、伊藤和幸氏が筆者に透明のプラスチックの箱に入った部品」で微弱な力で叩くだけでLEDが点灯する空圧センサーを持ってこられました。

これを見た瞬間、まさに待っていたのはこれだと思った衝撃的な出会いがことの始まりでした。そして本社開発室の上司に開発の提案を行い、その企業と開発を進めることが決まりました。

ところが、宮崎信次氏が完成度の高い空圧センサーを製作してきたことから開発パートナーとして最適と判断し開発が始まりました。
当時、宮崎信次氏とはCCDカメラを用いた操作スイッチの開発研究などで交流を深めており、前号のPRC社の「Pスイッチ」と同等仕様の製品を廉価で国内販売の必要性を感じ、既に圧電素子式センサーの製品化を二人で進めていました。
 
空圧式センサーと圧電素子式センサーは同時進行の開発
既に取りかかっていた圧電素子式センサーの開発は早期に進み、空圧式センサーと同時進行の状態で製品化に向けての最終段階になりました。

開発当初の課題はエアーバッグ・センサーの素材選びで、初めは宮崎氏が酒気帯び運転検査で使用する透明袋から始まった手探りの連続でした。

図22.試作評価

圧電素子式センサーと空圧式センサーは、別々の操作スイッチとして商品化を進めていたのですが、開発室の上司の「いっそのこと1つのセンサーとして製品化すれば」の一言でPPSスイッチが誕生することになりました。

ピエゾ・センサーとニューマティック・センサーが合体した操作スイッチであることから「PPSスイッチ」の製品名が開発室一同で決まりました。
 
販売予測数が読めない
さて、製品化の社内的資料作成など開発室担当者がすべて担いましたが、最大の課題は未知のスイッチの年間の販売台数が予測不能な状況で、社内の申請資料の台数を二人でサバ読みして提出した経緯でした。

しかしながら、サバ読みの台数を遙かに超えた販売数から始まったのは想定外のことでした。

製品のモニタリングの段階でモニターの方からバックオーダーがかかる状態でしたので、製品については問題ないと感じてはいました。
飛躍的な販売数となったのは、当然のことながらパシフィックサプライの各地の営業課員の存在なくしては実現しなかったことは言うまでもないことです。

 
押しつける力、摩擦抵抗を生かす設置
ピエゾ・センサーの原理は歪みを検知することですが、「歪みが生じる状態」と考えるよりも圧力と摩擦抵抗が起きる設置の工夫の方が理解しやすいと思います。
 
さて、支援技術の話に戻すことにします。
 

使用環境の整備

モニターの設置場所

  1. 顔面に直交する眼球の延長線上であること
  2. モニター近くに照明器具がある場合、視野に入り込む光を遮断すること

図23-1.見にくい状態

図23-2.適正な設置

モニターの設置位置は顔面に直交する眼球の延長線上が基本となる(図23-2)。
下方に設置されている場合、見下げる状態を長時間強いられるだけでなく、見にくい状態となっている(図23-1)。

 
ベッド上での操作スイッチの設置
ベッド上での機器の使用ではサイドレールに設置することが多いが、ベッドアップ時のトラブルや介護者が当事者に意識が集中することで操作スイッチが視野に入り込まないことでのトラブルが生じていることがある。

図24.ベッドのベースフレームに設置

サイドレールへの設置は、ベッドアップなどにより操作スイッチとの位置関係に変化が生じ、その都度の調整が必要となるだけでなく、フレームなどが当事者に不要に押しつけられるなどのトラブルが生じる。

ヘッドボードが不要な生活環境であれば、フットボードを取り外し、ベッドフレームに設置することでトラブル防止となる。

スイッチの設置

おわりに

支援技術とは技術革新により劇的に変化を遂げるものであり、また常に改善される過程の中に支援者は置かれています。従って、経験豊富な支援者の技術が必ずしも妥当である保証も存在しません。

同時に、コミュニケーション障碍の支援に携わる有識者の情報発信が必ずしも妥当であるとは限らず、これらネットや講習会などの情報の読み取り能力「情報リテラシー」が当事者家族、支援者には必要な時代になっています。

筆者の「重度障害者用意思伝達装置/操作スイッチの適合マニュアル」の出版は、支援に携わる関係者への共通言語の提供に過ぎません。
この共通言語を利用して「誰でも簡単に設置できる支援技術」が生み出されることを願って、連載を終わることにします。

 
 
医療監修
小林貴代 森ノ宮医療大学 保健医療学部 作業療法学科長
 
参考文献
2000. 日本人体解剖学 金子勝治、穐田真澄 南山堂
2012. ぜんぶわかる筋肉・関節の動きとしくみ辞典 川島敏生 成美堂出版
* ~リハ辞典~+リハビリ(理学療法)の総合コンテンツ
 
関連文献
2016. 重度障害者用意思伝達装置操作スイッチの適合マニュアル 三輪書店
2011. 7月号~12月号 地域リハビリテーション コミュニケーションをサポートする!
操作スイッチの適合技術 三輪書店
2019. パシフィックサプライ総合カタログ [トリガースイッチ]