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パシフィックニュース

脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 2

装具

リハビリテーション

脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 2

II 脳画像から見た戦略的なリハビリテーションとは? その(1)

千里リハビリテーション病院 副院長 吉尾雅春

2011-04-01

前号においては、脳卒中リハビリテーションの歴史を通して、これからの装具療法のあり方を考えてきた。今回は、戦略的装具療法の出発点である「脳」のところからリハビリテーションを考えてみる。脳卒中という疾病の病因はもちろん「脳」である。ここを原因・分析することで、目の前の患者さんに起こっている現象を解決できることがたくさんある。しかし、脳の画像や、機能解剖は複雑であり、多くの要素があるので、ここでは、理学療法士にとってまず必要な、脳の機能解剖について考えてみる。最初に、視床について考えてみることにしよう。

1.視床の特徴

脳卒中は脳の障害であり、歩行障害や認知障害あるいは行為障害などを理解するためには脳のシステムを知る必要がある。脳の各部位はそれぞれ神経線維で結ばれて機能しており、その連絡の重要な位置づけとして視床が存在している。
視床は大脳底部にあって、大脳に入る神経線維は視床を経由してそれぞれの大脳皮質に向かう。視床の主な特徴は次にあげるとおりである。

  1. 視床は、身体の全ての感覚系から入力を中継する。
  2. 視床-皮質間の神経線維は相互に連絡し、重要な情報だけを取り出す。
  3. ほぼ全ての皮質領域に投射して皮質の注意機能(意識、運動、感覚、情動)を促す。


大脳皮質に問題がなくても、視床で出血や梗塞が起きると、視床を出入りする線維が障害を受けることになり、結果的に大脳皮質の機能が損なわれることになる。

2.視床の核と皮質との連絡

視床は大きく内外、上下(背腹)、前後に分けられる。
内側核(図中1)は前頭連合野と線維連絡がある。前頭連合野は覚醒に関わり、注意、思考、認知、感情、遂行機能などもっとも人間らしい高次脳機能の首座である。大脳小脳神経回路の中の認知ループの一部であり、内側核が障害を受けるとこれらの高次脳機能障害がみられる。

外側腹側核(図中5)は大脳小脳神経回路の運動ループ、すなわちフィードフォワードの神経回路の中継核である。随意運動に先だって運動前野などから橋核・小脳に向かって運動前発射があり、その後、小脳から視床外側腹側核を経由して運動野に至るもので、この回路のどこかが障害されると運動失調がみられる。
後外側腹側核(図中6)は体性感覚の中継核である。特に四肢体幹の感覚を中継するもので、顔面の感覚の中継は内側腹側核による。

背側核(図中7,8)は主に上頭頂小葉と相互に線維連絡している。上頭頂小葉は、ブロードマンのエリアで言えば前側の5とその後ろの7になる。内側面は視覚野楔状部の前で楔前部と呼ばれ、帯状回後部とともに、体性感覚と視覚情報の統合によって姿勢の認知に寄与している。

前核群(図中2)で中継した線維は帯状回に投射する。帯状回は本能や情動に関わることから、前核が障害されると易怒性や発動性の低下など、情動面の問題がみられる。
後側は視床枕(図中9)と呼ばれ、視覚連合野と関係性を持っている。視覚的注意、サッケードに関わっている。
その他、視神経の中継核として外側膝状体(図中0)、聴神経の中継核として内側膝状体(図中3)がある。

図1:視床と大脳皮質との関係

3.視放線

左右の視神経は視交叉した後、視床外側膝状体で中継して上下の視放線となって鳥距溝を挟んだ投射野に到達する。下側の視放線はマイヤーループと呼ばれ、天井側空間の視野の責任をもつ。上側の視放線は足元や机の上の視野を担当している。半側空間無視を伴う患者では半盲や四分の一盲を伴うことがしばしばであるが、視野障害がなくて半側空間無視があるのと、下四分の一盲があって半側空間無視がみられるのと、上四分の一盲があって半側空間無視がみられるのとでは障害の内容が異なることが考えられる。半側空間無視のテストを一律に机上だけで行うことは必ずしも障害の本質に迫っていないと考えられる。

ゲルストマン症候群が認められる患者では下四分の一盲がみられることがある。つまり左上側の視放線の障害によって右下側視野が見えないことになる。そのために両眼視差による遠近感を認知することができなくなる。ドアのノブや車椅子の肘掛けをダイレクトに把持することができないことがある。階段では下りの一段一段の段差が遠近感によって認知されることから、ほとんど運動麻痺がなくても下四分の一盲をもつ患者では、段差の認知が難しく、階段を下りることが困難になる。

図2:視放線

4.システムの中の視床

脳はそれぞれの部位を投射線維、連合線維、交連線維で結んでニューラルネットワークを構築して機能的に働いている。そのネットワークにおける視床は図3のように重要な基地として存在している。それぞれの局所やそれらを結ぶ神経線維が障害されることによって生じる問題は一概に言えるようなものではないが、この概念図を参考に検討してみると、臨床の取り組みのヒントが見えてくる。

図3:脳のニューラルネットワーク

吉尾雅春

千里リハビリテーション病院 副院長
日本理学療法士協会
神経理学療法研究部会長・日本理学療法士協会
理学療法ガイドライン脳卒中班長
医学書院理学療法ジャーナル 編集委員

【主な著作】
・脳損傷の理学療法(1)・(2) 三輪書店
・運動療法総論 3版 医学書院
・運動療法各論 3版 医学書院