パシフィックニュース
モーリフト利用事業所からの発信 1
リフト・移乗用具
紀成福祉会における腰痛対策についての取り組み
社会福祉法人紀成福祉会 特別養護老人ホーム龍トピア 理学療法士 笠原聖吾
2011-04-01
山と緑に囲まれた和歌山県田辺市龍神村にある特別養護老人ホーム龍トピア。
【原則、持ち上げない介護】をテーマに介護職員の大切な身体を守ろうと真剣に腰痛対策に取り組む理学療法士がいます。
福祉機器の積極的な導入を図り、介助技術の内部研修・外部研修を計画的に取り入れながら、介護する側・介護される側にも質の高い、やさしい介護をめざしての取組みを3号連載にてご紹介いたします。
腰痛対策への課題
私が現在の職場に勤務し始めた当初は、車いすも標準型が大勢を占めており、アームレストが跳ね上げ式・フットレストが着脱可能な車いすがあったとしても、その機能や活用法すら知らない職員も珍しくありませんでした。当然、移乗動作については抱える方法しか選択肢が無く、職員は腰痛におびえながら、或いは腰痛を抱えながら日々の業務を遂行していました。介護の人材難が叫ばれる中、介護士が直面する業務内容・特に日々繰り返される移乗動作についての負担の軽減は急務と思われ、先ずは、ご利用者・職員双方にとって優しい職場環境づくりを目指し、充実した教育体制の構築を心に決めました。約1年半前より法人内の内部研修を担当させて頂くことになり
- 車いすなどの福祉機器
- スラィディングボードやロールボードを用いた移乗法
- 介護職の腰痛対策
のテーマで研修を行いました。また、研修を受けた職員が直ちに現場で実践できるように、セミモジュール型車いすやスラィディングボード・ロールボードといった移乗器具を徐々に拡充させました。
職員教育と環境整備
腰痛対策の両輪は、職員教育と環境整備です。教育だけが先行しても介助技術や知識が使える環境が整っていなければすぐに火が消えてしまいます。また、環境整備だけが先行しても、それを使いこなすための教育が追随しなければ、せっかくの整備が活かされないことになりかねません。教育が整った段階でインフラを使用していけるよう、両者のタイミングにも配慮しながら、地道な教育を重ねていきました。
職員の知識と技術も少しずつ向上し、抱え上げ一辺倒だった移乗についても、「ご利用者の身体機能に合わせて移乗方法を選択する」ことが少しずつ定着し、職員の中にも、「Aさんにスラィディングボード使ってみたけど、上手く出来たわ」「Bさんにも試してみようかな」といった、前向きな変化が芽生え始めてきました。
笠原PTセミナー風景1
介護労働者設備等整備モデル奨励金の活用
このような流れの中、職員から特に要望の多かった腰痛対策について、最新の知見を得ようと、平成22年4月、バリアフリー2010展を訪れました。
その際にパシフィックサプライ社・モーリフト専任 武田インストラクターによる「腰痛から介護者を守る移乗機器について」と題したワークショップを受講しました。この講義は介護労働者設備等整備モデル奨励金の存在を知る機会となり、この出会いがその後の活動において大きな契機となりました。
それまでの腰痛対策を、「介護労働者設備等整備モデル奨励金」を活用させてもらうことで一層推進する事が出来ると確信し、かねてから構想を練っていた移動用リフト導入計画を取りまとめ、5月の法人理事会での承認後、奨励金の申請作業に突入。その作業の一環として、職員対象に腰痛に関するアンケートを7月に実施しました。
アンケート(抜粋)回答数:88名
- 腰痛について
有病者…34名(有病率=38.6%)
既往者…64名(既往率=72.7%)
- 辛い介護動作について大多数の職員が「抱き上げ・抱え上げ」を挙げていた。
- 腰痛の存在により、約半数の職員が介護の仕事を続けていく上で不安を感じたことがあった。
アンケート
アンケートから見えた実情
2施設、計88名のアンケート結果からは、利用者を抱え上げる移乗動作に苦労し、腰痛に怯えている職員の状況が切々と伝わってきました。また、職員の約半数が、腰痛によって、今後介護の仕事を続けていく事に対し不安を持っている事も浮き彫りになり、腰痛対策の必要性を、ますます痛感させられました。
モーリフト導入後のフォロー体制
昨年7月中旬に1週間モーリフトを試験導入。9月に奨励金の申請を行い、11月中旬より本格的なモーリフトの導入を行っています。導入後の現場の声としては、「腰への負担が少なくなった」「ご利用者の負担が減っている」「体力的に助かる」という前向きな意見が多く聞かれています。
その一方で、導入後は様々な問題点も浮かび上がってきています。「時間がかかる」「操作に手間取る」このような職員の技術習熟度に関する問題については、月1回、パシフィックサプライ社、武田専任インストラクターから、職員全体の習熟度向上を目的とした研修を受講しています。また、全体的な時間配分や業務内容の見直しを各施設で行い始めています。
「床での取り回しが難しい」「低床ベッドによっては、床走行リフトがベッド下のフレームにあたり使用出来ない」などの環境面での問題については、リフトが使いやすくなるように、施設の環境整備にも取り組んでいます。
変化の手応えを支えに…
腰痛が及ぼす悪影響は多岐に渡ります。欠勤による他職員への負担・業務遂行効率の低下・精神的なキャパシティの低下など、挙げはじめるとキリがありません。諸問題の元凶になり得る腰痛を0にすることは難しいですが、法人内での腰痛発生を、0になるべく近づけていくのが現時点での目標です。
そのためには、「今までの習慣を変えること」が、必然的に現場に求められます。もちろん大半の職員にとって、「今までの習慣を変える」ことは戸惑いと抵抗感に満ち溢れているでしょうし、こちらの情報発信の仕方によっては、「今まで頑張って行ってきた方法が否定されている」と受け止められてしまう可能性さえあります。「今までの習慣を変えていくこと」は、大きな挑戦であり一筋縄ではいきません。近道などもありませんが、それでも地道に職員に説明し、納得して頂く作業を続けていく事で、その必要性は理解して貰えると思います。歩みは一歩ずつですが、確かに感じる変化の手応えを支えに、今後も職員教育・職場環境の整備に邁進して行こうと考えています。
次回はモーリフト導入後の現場の変化や、導入で浮かび上がってきた新たな課題を、現場の声を交えながら、ありのままにお伝えしようと考えています。
笠原PTセミナー風景2
職員教育と職場環境改善
理学療法士 笠原聖吾
東京都立保健科学大学理学療法学科卒【現:首都大学東京】
急性期病院・老人保健施設勤務を経て特別養護老人ホーム龍トピア勤務。
HPにて 理学療法士の呟き 発信中
http://kiseifukushikai.or.jp/PT_Tubuyaki.html
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