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パシフィックニュース

VOCA「リンゴ」の事例報告(2)

AAC(コミュニケーション)

VOCA「リンゴ」の事例報告(2)

マーケティング課AAC推進係 藤井 聡

2011-04-01

パシフィックサプライの取り組み

今まで、パシフィックサプライは、VOCAの販売先として、主に肢体不自由児施設と関わって参りました。スイッチ部分が大きい「ビックマック」や、外部スイッチを使い、スキャンにあわせて使うことができる「メッセージメイト20」などは、スイッチ操作が難しいお子様にも使っていただきやすい商品でした。

今回「リンゴ」の取り扱いを始めるにあたって、今まであまり関わることのなかった、発達障がいの方や、知的障がいの方に、新しい価値を提供できるのではないかと考えました。今回、その取り組みのひとつとして、「リンゴ」のデモ機を無料でお貸し出しし、ご家族や学校の先生に、どのようにお子さん達に使っていただけるかを試していただきました。前号に引き続き皆様からいただきました、「リンゴ」を使った事例をご紹介させていただきます。

事例3 田中翠恵(みえ)様

養護学校高等部に通学中の自閉症の女子生徒田中様のケースです。場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)[注1]のため、家庭内では家族と普通に会話をしていますが、一旦家を離れると、会話だけでなく、発声も難しい状態に陥ります。ただ、筆談や携帯電話のメールを使うことで、自分の簡単な意思を他者に伝えることは可能です。

彼女が「リンゴ」を使っている場面は、主に学校と病院です。学校では登校時、他の生徒に挨拶をするときに使い、病院では、言語療法の訓練時に活用しています。今回は、言語療法訓練時の様子を報告します。

写真は、彼女が使用している「リンゴ」です。メッセージは主に挨拶の言葉です。すべて録音した自分の肉声です。顔の絵のボタンを押すと、自己紹介の言葉が流れます。自己紹介は当初長めの文章でしたが、現在は「はじめまして」という言葉と、自分の名前だけを入れて使っています。それぞれの場面や、自己紹介をする相手によって、伝える内容が異なりますので、どんな場面でも使えるように短い文章にしています。また困ったときに助けを求める言葉も入れています。

今回の病院での言語療法訓練は接客対応でした。彼女は店員として客である言語療法士に、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」といった気持ちを「リンゴ」を使用して上手に伝えることができました。また訓練室を出て、パソコンを他者から借りてくることも、初対面の私が近くにいたにも関わらず、「リンゴ」を使いながらスムーズに行うことができました。


注1: 場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)とは、家庭などでは話すことができるのに、社会不安(社会的状況における不安)のために、学校や幼稚園といったある特定の場面、状況では全く話すことができなくなる現象を言う。幼児期に発症するケースが多い。
別名、選択性緘黙症。英語名、Selective Mutism。

リンゴ

田中様のリンゴのメッセージ

家族の意見と思い

彼女は使い始めた当初、自分の声を「リンゴ」の中に入れて、使用することができませんでした。自分の声を他人に聞かれることが恥ずかしいと感じるようで、「リンゴ」に自分の声を録音することを拒否しました。しかし、彼女の姉妹がヘリウムガスで声を変えて録音してみせると、安心して録音することができるようになりました。
その結果「リンゴ」から出てくる変声した自分の声を用いて、意思を伝える事ができるようになったのです。その後徐々に、「リンゴ」に自分の肉声を安心して録音できるようになり、「リンゴ」を通して自分の肉声を人に聞かせることにも抵抗を示さなくなりました。自分の声を聞かれる恥ずかしさに少しずつ慣れたことと「リンゴ」から発せられる言葉が彼女のものではなく、機械のものとしてとらえることができるようになったからではないかと思われました。今回の件では、場面緘黙の根底にある、自分の声を人に聞かれることが恥ずかしいと本人が強く感じていたことを改めて知ることができてよかったと思っています。

また、VOCAのメリットの、すぐに伝えたい言葉を発信できるという点も彼女に合っていると感じています。筆談やメールでは、文章を作っている間に、いろいろなことが頭の中で錯綜し、結局なかなか言葉が出てこない状況に彼女はストレスを感じていたようです。「リンゴ」を使えば、そのまま言葉を出すことができるので、自分が言いたいと思ったタイミングで、伝えることが可能になりました。

現在、「リンゴ」を使い始めて、約半年経過しています。「リンゴ」の力を借りてタイミング良く自分の意思を相手に伝えることができれば、他者とのコミュニケ-ションに伴う今までのストレスが軽減されると思います。将来は「リンゴ」を使いながらも、時には彼女の肉声で人と会話ができるような日が来ればよいと願っております。

田中翠恵'S ファンタジックワールド

新潟県在住の女子高生。3歳より絵を描き始め、油彩画、水彩画・パステル画・コンピューターグラフィックを制作。
木工作品にも積極的に活動の場を広げています。
数々の賞に輝き、個展を開催する等、その活躍はNHKや各新聞社等多くのメディアに取り上げられました。
明るく、迷いのないタッチの画中に翠恵さんの想いが躍動しています。

翠恵さんのイラストがオリジナルTシャツになりました。

問合せ先 株式会社イーチアザー
http://tableau.co.jp/training/works/web/mie_tanaka/index.html

イラスト依頼・問合せ先
E-Mail:tanakoto-1212@e-netcity.jp

ファンタジックワールド

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