パシフィックニュース
ランチャレ(ランニングチャレンジ)開催から7年
義肢
スポーツ
大阪人間科学大学 保健医療学部 理学療法学科
教授 長倉裕二
2020-10-01
ランチャレ(ランニングチャレンジ)発足の経緯
ランチャレ開催は、前身に当たるパシフィックサプライ㈱主催の「義足でやってみよう」という、下肢切断者に複数の異なるパーツを本人のサイズや身体能力に合わせて試着・体験できるイベントでした。当時は義足に関わる多職種の方々に講演いただき、各義足メーカーさまのプレゼンテーションを経て、実際に装着して、どのように歩行が変わるかを体験するものでした。
切断者の多くは義足に対する要望が比較的高い方で、ソケットやパーツの調整に時間をかけて行われていたように思います。著者本人も体験型の研修会に参加者のひとりとして参加し、切断者の方の歩行能力の高さと義足への順応性の高さに驚きを感じていました。その中で理学療法士として気になる部分を義肢装具士の方を通じて、切断者に指導していただき、次第に切断者の方の歩行パターンが変化していくことに気が付きました。
通常は入院して下肢切断術を施行され、その後の義足装着練習の中で義足歩行は獲得され退院となるのですが、その後も義足利用者の方は日々の生活の中で義足歩行の利用目的も異なり、義足歩行の目標も異なってくるため、義足歩行自体も個人によって大きく異なっていることがわかりました。そのため安定を求める歩き方や歩行速度を求める歩き方、歩容にこだわる歩き方など様々な歩行パターンを経験しました。
臨床の中で完全に床が整地され障害物もない短い歩行路で歩行指導をしていると見落としてしまうものだと感じます。しかし切断者の多くは、目標は違ってもそれぞれが望む歩行能力を自ら具現化できるようになると更なる目標が上がっていきます。1日の研修の中でそれを達成された方の多くが「走ってみたい」と感じられるようになっていったと思います。
しかしながら用意された義足パーツは走行用には設定されておらず、歩行から走行に移行することには限界があったと思います。それでも「走ってみたい」、「走れるかも」とイメージされた方は通常利用している義足で走ることにチャレンジされていたことを覚えています。これが「ランニングチャレンジ」開催の原点になってると思います。
『義足でやってみよう』 主催:パシフィックサプライ㈱
ランニングチャレンジ① 主催:パシフィックサプライ㈱
ランニングチャレンジ②
義足でのランニングについての歴史
義足のランニングについては、いつ頃から行われていたのでしょうか。義足は紀元前から利用されており、実際にランニングに関して残されている記録では1902年に書かれたテキスト「義手足纂論」の中に具体的な例が記されています。
下腿切断の方が義足で走行することはソケットの適合さえしっかりしていれば比較的難しいことではありませんが、大腿義足での走行は膝継手のコントロールが難しく、下腿義足よりさらに重い義足を速く振り出すことは非常に難しい動作になります。
大腿義足での走行が世界的に知られるようになったのは1980年のテリーフォックスががん研究基金を募るために義足でランニングを行ったことがニュースで報道され、一躍有名になりました。
走るためには
大腿義足で走る方法として、従来は健側で2回跳んで義足側で1回着地する「スキップランニング」の方法でしたが、現在では足部にカーボン素材の板バネ式を用いることによって健側同様に蹴る動作が可能となりました。走ることを目的にランチャレに参加される方の多くは、走行用の義足を装着するだけで走ることができるようになると思っている方も多いようです。
走るためにはベースになる義足操作と身体機能が重要な要素となることを先ずは理解してもらうことが走れるようになるための第一段階だと考えております。その要素として走る前に以下のことについて確認するようにしております。
- 全体重を義足にかけられること
- 通常の歩行速度から最速の歩行速度まで歩容に大きな変化がないこと
- 切断側の下肢筋力を十分ソケットに伝達できること
- 切断以外に運動麻痺や関節可動域制限などの問題がないこと
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走ることによって
ランチャレに初めて参加される方の多くは、健常の時に走った感覚をそのまま義足走行に置き換えることで走れると思っているようです。しかし使用している義足や断端の状態(断端長や筋力)によっては、できる動作やできない動作があるため、それらに合わせた走行の方法が変わってきます。いきなりアスリートのような走行動作を再現することは難しく、段階を経て個人にあった走行動作を獲得することが重要だと考えます。
競技走行レベルの走り方はそれなりの時間と体力が必要となりますが、日常生活でのちょっとした小走りレベルであれば比較的簡単に行える人が多いように思います。特に日常で走行動作を行わないとされる人でも、交差点での歩行者用信号機が青の点滅をし始めた時、ちょっとした小走りをしたり、バスや電車の運転手に小走りのアピールをするだけで乗車できたりすることもあり、日常生活では便利なパフォーマンスになることがあります。そして少しでも走れることが生活の中で余裕を持てる一助になることもあるようです。
最後に
下肢切断者のニーズは多様化し、パラスポーツへ参加することだけではなく、いろいろなパフォーマンスに挑戦していく切断者は今後も増えると考えます。そして義足材料やパーツなど様々なものが個々のニーズに合ったものも開発されていくと考えます。
これからも切断者の方のパフォーマンス向上に期待したいと思います。
ランチャレ in 大阪 2018
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「ランチャレ2020」~みんなで走ろう~
10月17日(土) 12月5日(土) 大阪会場 少人数での開催です。
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