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リフトなどの福祉用具の衛生管理の重要性とディスポーザブルスリングの必要性

リフト・移乗用具

リフトなどの福祉用具の衛生管理の重要性とディスポーザブルスリングの必要性

森ノ宮医療大学 上田喜敏(博士工学)

2020-11-02

福祉用具の衛生管理とFDA

新型コロナウイルス(以下表記COVID19)による感染により、世界中でパンデミックになっています。イギリスでは、感染した人のうち1万人以上が死亡し、その内ケアワーカーなど医療介護に関係する人が、約300人亡くなられたと聞いています。感染症対策の重要性が、増しています。COVID19の流行は、介護・医療・福祉用具の世界にも大きな変革をもたらそうとしています。
 
さて、介護リフトやスライディングシート、車いす、介護ベッドの衛生管理は、皆さんどうされているのでしょうか?特にリフトの吊り具の洗濯は、どのようにしているのでしょうか?
 
私は、2017年のリフトリーダー養成研修会での講師時代から、スリングの洗濯を講義に入れています。それは何故導入したかと言うと、リフトを毎日使用している施設の方の話で、「洗濯をしたことがない」、「汚れたときにする」、「年に数回洗うだけ」などと言う声を聴くことが多くあり、少し懸念していたので入れることにしました。
 
その他のスライディングシートや、車いすのメンテナンスについてもほとんどされていないのが、現状だと思います。そこで今回は、福祉用具の衛生管理についてお話しします。
 
アメリカのFDA(米国食品医薬品局)と言う機関を聞いたことはありませんか。最近話題になっているCOVID19のワクチンの承認を担う機関です。このFDAが、2018年1月に「患者リフトの安全ガイド(Patient Lift Safety Guide)」を発行しました。(図-1)
 
このガイドでは、患者の安全と介護者の安全についてのガイドラインとして発行されました。その中に衛生管理の部分として「スリングケア(Sling Care)」が記載されていました。スリングケアとして、次のようなことが書かれています。(図-2)
 
「もし吊り具が適切に洗われず消毒されなければ、患者間で吊り具を共有しないこと」
「すべての使用後スリングを消毒しろ」
「メーカーの衛生指示に従って洗濯する。もし必要ならスリングの金属あるいはプラスチック強化部を外して洗濯する。」
「患者の皮膚と接触する部分を消毒し拭き取る」

 
と、書かれています。皆さんいかがですか?
 
COVID19が流行する前に、安全対策としての衛生管理として、『消毒をしろ』と書かれているのです。施設や病院のクラスターを予防するために、衛生管理として器具の消毒をしなさいとガイドラインには書かれていたのです。

図-1 FDAの患者リフトの安全ガイド

図-2 スリングケア(スリングの手入れ)

2. 消毒:感染(infection)の除去とクロス感染

「医療現場の清浄と減菌」(Jan Huijis著)と言う本で、消毒について次のように書かれています。
 
「そもそも感染とは、生命体が他の生命体に汚染された場合の反応である。つまり「機材の消毒」と言う言葉は厳密には誤りとなる。物が感染することはありえない。感染するのは生き物だけで、物が感染することはない以上、物が消毒(disinfection)されるということはありえないのである。
 
機器は、汚染(contamination)されるものなので、「汚染を除去する」と言う場合、より適切な言葉は「除染(decontamination)」になるそうです。その言葉の意味するところは普通、滅菌までは要さないにしろ、許容できる水準まで汚染を減らすことになる。しかし、日本で消毒と言う言葉が広く使われているので、消毒と言う言葉を使っている」とのことです。
 
因みに私の最近の実技では、フェイスシールドとマスクを着けて、1A2Dを遂行しています。1 Action 2Disfection(1行動2消毒)になります。実技前に消毒、実技、消毒を心がけています。ではなぜ、福祉用具の消毒をする必要があるのでしょうか?
 
それは、クロス感染の防止になります。医療・介護現場では、クロス感染(交差感染)が起きやすいことに原因があります。
 
クロス感染とは、人の介助、機器および環境との接触時に皮膚の表面上にウイルスが取得され、その手で他の人に触れたときに感染することになります。すなわち、福祉用具を介して他者にウイルスが移ってゆくことになります。別の文献などを読むと、このクロス感染が、病院や施設での感染(院内感染・施設感染)重大な原因の一つになっていると書かれています。
 
2020年春ごろに、コロナ感染が広まったときにコロナ病棟の看護師が、タブレット端末やPCのキーボードを介して感染したというニュースが、ありましたね。まさしくクロス感染になります。
 
ではクロス感染を起こさないためには、どのようにすれば良いかと言うと、簡単です。触ったところのウイルスを死滅、もしくは減らす、不活性化すると良いことになります。
 
脱線しますが、除菌や消毒、殺菌、抗菌、滅菌の定義は以下になります。

「除菌」:菌の数を減らす
「消毒」:菌を無毒化する
「殺菌」:菌をある程度殺す(程度は決まっていない)
「抗菌」:菌の繁殖を防ぐ
「滅菌」:菌を完全に殺す(医療現場手術室)一番強く殺すことになります。
 

どのようにすれば菌を無毒化することになるでしょうか?物の消毒には、厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁・NITE特設ページ)」を参考にするとよいでしょう。

物の消毒は、大きく以下の方法があります。
 

 1.アルコール製剤(エタノール)で無毒化するのが一般的です。ただし、アルコール濃度には注意が必要になります。
   噴霧して乾かすか、拭き取りになります。
 
2.次亜塩素酸ナトリウム水溶液(塩素系漂白剤)、水で薄めて(0.05%)、吹き付けるか、濡れ雑巾にして表面に塗布し、
   
水を絞った雑巾で拭き取り、乾いた雑巾で拭き取る。
 3.家庭用洗剤(界面活性剤)、家具用洗剤の場合、製品記載の使用方法に従ってそのまま使用でき、吹き付けて拭き取る。
   台所用洗剤の場合、薄めて使用し、水吹きし、乾いた雑巾で拭き取る。
 4.原始的ですが、天日干しする。または、石鹸等で洗い流す。 
 

それぞれに特徴があるので、簡単に説明します。

1.アルコールは、ゲルは手指には使えますが、福祉用具には使いづらく、液状で噴霧するには、値段が高くつきます。一時期入手困難な時期もありました。
 
2.塩素系漂白剤は、手軽に入手できますが、物の消毒(除染)では、その対象物の劣化を招きやすい。錆や変色、劣化などを起こしやすく。使用中に人が塩素を吸い込むと、体に影響を及ぼす危険がある。拭き取りの手間もいる。次亜塩素酸水も塩素系なので吸入すると危険、殺菌効果については、製品によって違うので確認が必要になります。
 
3.界面活性剤系は、手軽に入手しやすい。家具用洗剤は、2度拭き不要の製品もあり、噴霧後ふき取りで終了する。近くの中学校はこれを使用している。台所用洗剤は、塩素系漂白剤と同じように2度拭きが必要になる。
 
4.天日干しは、原始的ですが、紫外線を当てて、殺菌します。時間と晴れた日にしかできない欠点があります。
それぞれの特徴を理解し、消毒するとよいでしょう。
 
ではそれぞれの福祉用具を消毒するにはどうすれば良いでしょう。大まかに紹介します。
 
《福祉用具の衛生・メンテナンス》

1.車いす
介助用ハンドル、介助ブレーキ、ハンドリム・アームサポート・シート消毒
複数の人が押す場合があるのでこまめなアルコール、台所洗剤(界面活性剤)、次亜塩素系消毒液で拭く。利用者が感染した場合は危険が増す。
車椅子のキャスター、タイヤ、リム、肘当て、ティッピングレバーの清拭
髪の毛が絡んでいたりするので、半年に1回程度メンテナンスする。その時に中性洗剤等で洗う。
ゴム系の素材の個所に次亜塩素系消毒液は禁止、シートやバックサポートも同様に劣化しやすくなる。
 
2.ベッド
ベッド、フッドボード、サイドレール、リモコンは清拭
アルコールまたは次亜塩素系消毒液、台所洗剤(界面活性剤)で拭き取る。メーカーによっては指示がある場合もある。
《注意点》防水できていないベッドスイッチもあるので、次亜塩素系消毒液の液が入ると基盤が傷む可能性がある。防水についてメーカー確認が必要になる。その他についても、塗装が剥げていると同様に錆の原因になる。
マットレス
使用しない場合、カバー洗濯(メーカーの指示で)本体が防水カバーでは、アルコール噴霧後清拭。マットレスだけだと天日干しで消毒できる。
 
3.スライディングシート
必要な利用者に限定して使用する(使い回しはしない)。
複数の人に使いまわすことは、感染のリスクが増大する。やむを得ず使う場合は、使用前にアルコール噴霧(多くの製品が次亜塩素系不可)を十分にかけ、乾燥してから使う。定期的に洗濯を実施する。メーカータグで洗濯方法の確認をする。毎日使用すると滑りの劣化があるので、消耗品という感覚を持つ必要がある。2年以上たったシートを使っているのはもってのほかで、摩擦発生が、ひどくなり褥そうの発生につながる。
 
4.リフトスリング
必要な利用者に限定して使用する(使い回しはしない)
複数の人に使いまわすことは、感染のリスクが増大する。やむを得ず使う場合は、使用前にアルコール噴霧(多くの製品が次亜塩素系不可)を十分にかけ、乾燥してから使う。できれば、ディスポーザブルスリングも販売されており、特に病院などで使用する場合は、ディスポーザブルスリング使用が望ましい。海外の病院では、ディスポーザブルスリング使用されている。ディスポーザブルスリングでない場合は、定期的に洗濯する必要がある。メーカーの洗濯指示のもと実施する必要がある。

スリングも消耗品になるので、糸のほつれなど、リフト使用前に始業前点検して劣化などの確認をする必要がある。
 
5.リフト本体
持ち手やスイッチボックス・ハンガーの消毒、終了後アルコールまたは次亜塩素系消毒液、台所洗剤(界面活性剤)で拭き取る。
注意点として、防水できていないスイッチもあるので注意が必要になる。介護ロボット系の福祉用具も同様。対次亜塩素酸系になっているかメーカー確認をする。
床走行リフトのキャスターは、髪の毛が絡んでいたりするので、半年に1回程度メンテナンスする必要がある。

3. 濃厚接触とリフトの使用

COVID19の感染症対策として、手洗い・うがい・3密回避を言われます。 
では、今までの人の手による介助は、ヘルスケア利用者(患者/利用者)と体が密着状態になり、ウイルスと感染しやすくなります。いわゆる濃厚接触になります(図-3)。


図-3.
 
もし、自分が感染していたら、相手にうつす可能性が発生します。逆に相手が感染者だったら、完全な防護服を着て介助しなければ、予防できません。防護服を着て手による移乗は、多くのスタッフが必要になります。
 
濃厚接触を防ぐには、一定の距離を持つ必要があります。人の手による従来の介助方法では、接触を防ぐことができないことになります。
 
それに対して福祉用具・介護ロボット利用は、ある一定の距離を取ることができます。特にリフトやスタンディングリフトは、移乗をする時に濃厚接触を防ぐことができると考えています。
 
感染が、はっきりしている施設や病院で介助者の濃厚接触を防ぐことができると考えます。そのときに使用するリフトスリングにディスポーザブルスリングを使用すると感染症対策にもなります。
 
特に病院でグローブは使うにもかかわらず、スリングの使い捨ては使用しないのは、感染症対策から見るとおかしな状況です。海外の病院では、ディスポーザブルスリングを使用した介助作業が見られます。安全対策として特にディスポーザブルスリングはこれから必要になると考えられます。

モーリフト ディスポーザブル・スリング

      

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