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脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 3

装具

リハビリテーション

脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 3

II 脳画像から見た戦略的なリハビリテーションとは? その(2)

千里リハビリテーション病院 副院長 吉尾雅春

2011-11-03

1.運動野と皮質脊髄路

今回は姿勢や歩行に関わる主な下行路について解説します。

運動野は大脳皮質中心溝の前方、すなわち中心前回に位置し、その機能局在はペンフィールドのモーターホムンクルスとして知られている(図1)。それによれば下肢の支配領域は大脳皮質内側面に、体幹は大脳縦裂のやや外側に配置されている。上肢の支配領域はさらにその外側に位置している。この位置関係を前後でみると、下肢の支配領域が最も後方に位置することになり、この関係は脊髄に至るまで変わることはない。この皮質領域にあって、血液供給は下肢領域については前大脳動脈が、上肢領域は中大脳動脈が責任を持っている。

皮質脊髄路は大脳皮質の運動野から脊髄に下行する代表的な運動系伝道路であり、随意運動を司っている。延髄の錐体を通ることから錐体路とも呼ばれている。広い範囲から出た皮質脊髄路は収束して尾状核や被殻・淡蒼球、視床などで作る内包を通って中脳の大脳脚へ向かい、橋で一旦束を緩めた後、延髄錐体で交叉、反対側の外側皮質脊髄路を下行して対側運動機能を司っている。一部の皮質脊髄路は錐体では交叉せず前皮質脊髄路として下行し、多くは脊髄で交叉する。

下降路図1

2.皮質脊髄路の走行

1)大脳皮質→内包
大脳皮質から下行する神経線維は灰白質では放線冠と呼ばれる扇状の形を形成しながら次第に収束し、尾状核のすぐ外側を下行する。特に下肢を支配する神経線維は皮質内側面から出て尾状核直近を通り内包に入る。内包では、下肢を支配する線維は後脚中央やや前方を通る。つまり、内包では下肢を支配する神経線維はそれまでとは逆転して最も外側を下行する(図2)。この範囲の障害では基本的には弛緩性麻痺になるが、過剰な努力や姿勢などによって筋緊張が異常に高まることがある。
基底核は中大脳動脈の分枝であるレンズ核線条体動脈によって栄養され、視床は後大脳動脈系により血液を供給されるが、その間隙である内包後脚は前脈絡叢動脈が責任を持っている。前脈絡叢動脈は内頸動脈が前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる直前に分岐されることが多く、中大脳動脈起始部の梗塞でも内包後脚は障害を免れることが多い。つまり、下肢の運動機能は比較的良好であることが珍しくはないということである(図3)。

2)脳幹
内包を出た皮質脊髄路はさらに細く収束されて中脳前部にある大脳脚に向かう。大脳脚のやや外側を走る皮質脊髄路の中で、下肢を支配する線維はその外側に位置している。側頭葉の梗塞や出血などによって起こる鈎ヘルニアは大脳脚の皮質脊髄路やその間隙を走行する血管を圧拝することが多く、重大な運動麻痺を伴いやすい。

大脳脚から橋に移行すると、皮質脊髄路は一旦分散して、橋核や橋小脳線維の存在を保障している。その結果、橋出血では比較的運動機能が良好であることが多い。なお、橋小脳線維は中小脳脚を通って反対側に小脳に入ることから、橋の障害では両側の橋小脳線維が障害されることがあり、両側の協調性障害を伴う片麻痺がみられることがある。

延髄では最前部中央にある錐体で交叉し、反対側の外側皮質脊髄路を下行して対側運動機能を司っている。内側を走る上肢を支配する線維から交叉を始め、最終的には最下方で下肢を支配する線維が交叉することになる。そのため、延髄の障害される部位や高さによって、複雑な運動麻痺を呈することになる。1、2割の皮質脊髄路は錐体では交叉せず前皮質脊髄路として下行し、それらの多くは脊髄で交叉して主に体幹の運動機能に関与している。

下降路図2

下降路図3

3.大脳小脳神経回路

大脳小脳神経回路(新小脳系)の中で下行路である前頭橋路は内包前脚を通って橋核に向かう。この回路は随意運動に先立つ運動前発射によって運動の協調性を保障するフィードフォワード神経回路である。この障害によって筋緊張を高めることができず、中枢部の固定性が不十分になり円滑な運動を行うことができなくなる。

歩行では下肢の支持がうまく行えず、骨盤が麻痺側にスウェイしたり、足部内反を伴う膝の内反傾向がみられるようになる。また、認知・情動面の一時的な障害を伴うことがあり、運動学習の阻害因子になりかねないため、これらの問題に十分配慮した学習環境の提供が必要である(図4)。

下降路図4

4.網様体脊髄路と前庭脊髄路

大脳の関与も存在するが、前庭小脳神経回路(原小脳系)に基づく前庭脊髄路と網様体脊髄路は姿勢に関わっている。特に網様体脊髄路は股関節や体幹の筋活動に影響を与えている。また、脊髄小脳神経回路(旧小脳系)は赤核脊髄路を介したフィードバックによって四肢の筋緊張に関与している(図5)。

これらはいずれも主に中脳以下のシステムであり、随意運動とは異なるオートマティックなフィードバックループである。多くの脳卒中がテント上の大脳の障害であることから、これらのシステムを残していることが多い。特に体幹や股関節あるいは姿勢に関わる網様体脊髄路や前庭脊髄路は歩行にとって重要であり、長下肢装具を用いた荷重によってその活性化を図ることの意義は大きい。皮質脊髄路の障害によって随意運動ができない脳卒中患者が長下肢装具を用いてきっかけをつかみ、短下肢装具で実用的な歩行を獲得しようとすることは不可能な挑戦ではない。

下降路図5

吉尾雅春

千里リハビリテーション病院
副院長
日本理学療法士協会
神経理学療法研究部会長・
日本理学療法士協会
理学療法ガイドライン脳卒中班長
医学書院理学療法ジャーナル
編集委員
【主な著作】
・脳損傷の理学療法(1)・(2)三輪書店
・運動療法総論 3版 医学書院
・運動療法各論 3版 医学書院

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