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パシフィックニュース

モーリフト利用事業所からの発信 2

リフト・移乗用具

モーリフト利用事業所からの発信 2

紀成福祉会における腰痛対策についての取り組み

社会福祉法人紀成福祉会 特別養護老人ホーム龍トピア 理学療法士 笠原聖吾

2011-07-01

山と緑に囲まれた和歌山県田辺市龍神村にある特別養護老人ホーム龍トピア。
【原則、持ち上げない介護】をテーマに介護職員の大切な身体を守ろうと真剣に腰痛対策に取り組む理学療法士がいます。
福祉機器の積極的な導入を図り、介助技術の内部研修・外部研修を計画的に取り入れながら、介護する側・介護される側にも質の高い、やさしい介護をめざしての取組みを3号連載にてご紹介しています。

リフト導入前後の変化について触れたいと思います。

前回はリフト導入までの展開が中心でした。今回は、リフト導入前後の変化について触れたいと思います。

導入前アンケートの自由記入欄には、介護職員の負担を軽減する福祉機器導入を歓迎する意見が大半を占めた一方で、「今の現場では活用しきれない。」「業務が忙しい時には使う余裕はない、現場が回らない。」「機械での介助に抵抗がある。」といったネガティブな意見も率直に書かれていました。
これらの意見は、実際のリフトの運用を考えていく上で何が問題で、何に取り組まなくてはならないのかを明確に示唆してくれていました。そして、ネガティブな意見を率直に伝えてくれる職員を有難く思い、そういった意見に丁寧に答え、問題点を改善し、福祉用具に関する誤解を解きほぐしていく事で、この取り組みはきっと成功すると確信しました。

リフト導入時に大切にしたこと

リフトを導入する際に、特に大事にしたのは、(1)「リフトの使用法(HOW)についてはもちろん、何故リフトのような福祉器具を使わなければならないか(WHY)を、根拠に基づいた形で職員に徹底して理解して貰う」、(2)「使用動線を熟考し、使いたい時に使いたい場所にリフトがあるようにする」、(3)「持ち上げ介助を頑張ってこられた方への配慮」の3点です。

(1)を実現するために、パシフィックサプライ社のモーリフト専任インストラクター・武田氏に全面的にご協力頂き、介護職員が直接指導を受けることが出来るよう、各施設で複数回の講義を行って頂きました。受講した職員からの伝達では効果が薄まるため、勤務を調整しながらなるべく多くの職員が、講師から直接受講出来るように配慮しました。

(2)が、当施設で床走行リフトを選択した理由です。本体のとり回しなど使用に習熟する必要性があるものの、汎用性が高く、メリット・デメリット・実際の使用場面等を考慮し、当法人においてはメリットが大きいと判断しました。また、階を跨いでリフトを移動する必要がないように、各階にリフトがあるように台数を調整して導入計画を立案しました。

(3)は非常に大事なポイントだと思います。前号にも少し書かせて頂きましたが、今までのやり方で長年に渡り介護を行ってこられた方々には当然自負があります。持ち上げる方法しかないから体に鞭打って頑張ってこられたのに、ある日突然「今までのやり方はダメだ。」と突きつけるのは余りにも酷な事に思われました。それに、実際の介護の現場では、已むを得ず抱え上げないといけない場面もあります。職員には強制も否定もせず、(1)の事実をありのまま知って貰い、その上で自身の介護の幅を広げる選択肢としてリフトを使って頂くことを提案しました。

リフト稼働時間調査

導入後は月に一度、武田氏と共に施設を回り、各リフトの稼働時間調査を行いました。使用が進んでいない所には何らかの阻害因子が必ずあります。特に以下のような点が各施設で問題に上がってきたので、早期解決を図りました。

A.リクライニング車椅子の方に、スリングシートを敷き込むのが大変

体幹の前傾が困難な方の場合、スリングシートの敷き込みに手間取る事が数多くありました。車椅子乗車時に抜去する必要のないスリングシートを追加導入することで対応しています。

シートスリング使用中

シートスリング

B.低床ベッドのフレームにあたり、床走行リフトが使用できない

モーリフトは車輪が大きいため、低床ベッドによってはフレームと車輪がぶつかってしまい、使用出来るベッドが限られていました。このため、木材を利用したハイトスペーサを手作りし、使用出来るベッド数を増やしています。また将来的には、法人内でベッドを移動させリフトが使用できるベッドを各施設に計画的に配備するように考えています。

ハイトスペーサで底上げしたベッド

ハイトスペーサ

C.床(布団)対応者へのリフトの使用が困難

モーリフトは布団からの起き上がり時の使用も可能なのですが、布団の下にリフト脚部を入れ込む作業に手間取る事が多く、リフトの使用が敬遠される傾向にありました。

加えて、衝撃吸収マット上では車輪にかかる抵抗が強く、リフト操作自体が困難を極めました。塩ビパイプをくり抜いて作製したルートガイドを使用し、このパイプの中にリフト脚部を通せないか検討しています。また、転落の危険性が少ない方には、自作の低床ベッド(リフト使用可)も威力を発揮しています。

自作の低床ベッド

ルートガイド

D.職員により習熟度に差がある

講師による研修や、ちょっとした時間でのOJTを積み重ねていく事で対応しています。リフト操作にかかる所要時間も、操作に慣れていく事で短縮しています。

リフト通信の刊行

また法人内で、各職場のリフト使用成功例や、腰痛に関する知識・研修のお知らせなどを取りまとめた「リフト通信」を刊行し、各職場で成功体験や課題を伝え合う形をとりました。更に、介護普及センター主催の「リフトリーダー研修」にも法人から計7名で参加し、法人全体でリフトを使用する意識を高めていくように努めました。

紆余曲折ありましたが、導入後継続的にフォローを重ねる事で使用回数は確実に増加していきました。今では法人内で、月2000回前後モーリフトが使用され、移乗のみならず入浴・排泄、更には転倒者の救援など様々な場面で活躍しています。持ち上げ・抱え上げに関する介助負担が軽減することで、職員には自身で実感出来るプラスの効果が表れるようになってきました。

刊行したリフト通信

職員対象に実施したアンケートの自由記入欄に書かれた感想

以下は導入4カ月後に、職員対象に実施したアンケートの自由記入欄に書かれていた感想です。

アンケート結果とコメント

  • 腰痛の減少「腰への負担が少なくなり、腰痛を起こすことが減った。」
    「夜勤明けが楽になった。」「腰への負担が蓄積していかないので、業務に安心感がある。」

    <コメント>一番願っていたことが実現してきています。

     
  • ご利用者に対する接遇
    「体力を消耗することが少なくなった分、他の介助に専念出来るようになった。」
    「利用者とゆっくり向き合うきっかけになっている。」
    「今まで行き届かなかったところに気持ちが行くようになった。」

    <コメント>ご自身の体に余裕が生じた分、ご利用者に良い形で還元されています。

     
  • ご利用者への効果
    「介護を受けているご利用者の表情は穏やかで、安心して身を任せ移乗されているように思われる。」
    「介助に抵抗され声をあげられる方が、声一つあげずリフト上で眠られていた。印象的だった。」

    <コメント>介護経験を長く積み、観察力のある方からは左記のような意見が多く聞かれます。

     
  • 職員の精神面への影響
    「(女性の職員で)男性のご利用者を抱えるのに抵抗があったが、用具の使用で気分的にも楽になった。」
    「精神的なゆとりが生まれ、気持ちに余裕が出来た。」
    「妊娠しても、リフトがあれば働けると思えた。」
    「体力的にすごく辛い時、いざとなったらリフトがあると思えるようになった。心の保険になっている。」

    <コメント>リフトが、精神的な手助けになっているのが見て取れます。

     
  • 腰痛予防や福祉用具について
    導入の前後で生じた考えの変化
    「介護の仕事を長く続けていくためには、自分の身を守る必要があると強く思うようになった。」
    「今までの介護技術にプラスして福祉用具も上手に使いこなせたらいいなと思う。出来てこその介護のプロ。」

    <コメント>一番困難なカルチャーチェンジを受入れ、自分のものとされた職員の皆様を心から尊敬します。

     
  • 労務管理「腰痛で休む職員が減少した。」
    「腰痛による急な業務の組み替えやシフト変更が減少し、他職員の負担も減ってきている。」
    「労災等の労務関係の処理時間が激減し、事務手続きが楽になった。」

    <コメント>管理職にとっては有難い限りです。次回が最終回です。リフト導入で得られた効果を、データを提示しながらご紹介したいと考えています。


理学療法士 笠原聖吾
東京都立保健科学大学理学療法学科卒【現:首都大学東京】
急性期病院・老人保健施設勤務を経て特別養護老人ホーム龍トピア勤務。
HPにて 理学療法士の呟き 発信中
http://kiseifukushikai.or.jp/PT_Tubuyaki.html

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