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スタンディング式リフトの成功体験 ~特別養護老人ホームにおけるスタンディング式リフトの効果と課題~

リフト・移乗用具

スタンディング式リフトの成功体験 ~特別養護老人ホームにおけるスタンディング式リフトの効果と課題~

特別養護老人ホーム 夕凪の里
施設長 理学療法士 髙橋洋平
機能訓練指導員 看護師 松岡久恵

2021-05-06

<初出>
本稿は、「福祉介護テクノプラス」2021年1月号(日本工業出版株式会社)にて紹介されました。

パラダイムシフト

固定概念を変えていく
社会福祉法人よつば会特別養護老人ホーム夕凪の里は、京都の北部、宮津市に位置し、日本三景である天橋立が一望できるところにあります。
私たち職員は、地域に根差し慣れ親しんだ地域で人生の最期を過ごしていただきたい、そんな思いで利用者様に関わらせていただいています。また、利用者様に豊かな生活の提供をする際に職員も豊かであるべきだと考え、利用者様にとっても職員にとっても居心地の良い環境を目指して職場づくりに取り組んでいます。

その取り組みを進めていく中で、私たちは「パラダイムシフト」というキャッチフレーズを施設全体で定着させようとしています。その意味は、「固定概念を変えていく」。常識ととらえられていたことを据え直し、新たな枠組みを自分たちで作っていくという意味で使っています。そのキャッチフレーズを唱え始めたのは、「ノーリフティングケア」を導入した時でした。人力で抱える介護が主流である中、福祉用具を活用したケアはなかなか受け入れが難しかったです。その時に「パラダイムシフト」を唱えだし、固定概念にとらわれないケアを目指したところ、徐々に「人力のみの移乗をせず、福祉用具を活用し、介護をされる側、する側共に安全・安心・持ち上げない・抱え上げない・引きずらないケアをしていくという概念が浸透してきました。

これからの介護人口の減少や介護ロボットの普及など、現在は福祉の形が今までとは大きく変わるターニングポイントに来ていると感じています。その中で、「パラダイムシフト」を職員全体で意識して取り組んでいます。今後も柔軟な思考を持ち、法人の理念である「街創り・人創り」を目指していきます。
特別養護老人ホーム 夕凪の里 職員の皆さま

スタンディング式リフトの導入

トイレへの移乗で使用できる
特別養護老人ホーム夕凪の里は開設して8年が経過しました。開設当初は平均介護度が3.0でしたが、現在では入居者の重症化や法改定により要介護4・5の新規入居者が中心になっており、介護負担も増加してきています。

そのような中、腰痛で退職してしまった職員もおり、2014年に介護用リフト(つり上げ式5台 スタンディング式1台)を購入。2015年より、施設全体での業務の見直しを図り、ノーリフトポリシーを謳い、一層の介護用リフト導入にも力を入れてきました。

当施設で最初に使用するようになったのが、スタンディング式リフトでした。パシフィックサプライの「モーリフト クイックレイザー2」です。その理由は、スタンディング式リフトはトイレへの移乗で使用できる点でした。尿路感染症予防や排便コントロールの改善にはトイレでの排泄が有用であるため、当時トイレでの排泄ケアを目指していました。しかし、二人介助でのトイレ誘導は、立位の保持を行う職員の負担が大きく、腰痛を訴える職員の増加がみられました。次第にトイレ誘導頻度が徐々に減少し、オムツでの排泄が中心となっていた状況でした。そのような状況であったためスタンディング式リフトを介護職員にスムーズに受け入れられ定着に繋がりました。
 
 
モーリフト クイックレイザー2

導入成功事例

導入最初の事例のAさん:78歳 男性 要介護度5
疾病 脳梗塞後遺症・高次機能障害(失語・失認・注意障害・遂行障害)
定期的なトイレ誘導を計画していましたが、実際は3・4日に1回ほどしか実施できていませんでした。その際も2人介助にて一人は前方より支え、もう一人が、ズボン等の介助を行う状況でした。トイレ誘導を行っても月に1回程度しかトイレで排尿されることはなく、排便に関しては、トイレでみられることは稀でした。排泄はパット内でされることがほとんどでした。

「モーリフト クイックレイザー2」を導入してからの変化としては、排泄に関しては、リフト使用し1日2から3回トイレ誘導を実施し、8割近くは、トイレで排尿がみられるようになりました。排便に関しても、7割近くはトイレで排便することができています。
また、その他の変化として、Aさんは常に介助を行わないと食事の摂取が行えない状態でしたが、リフト導入から1か月後より、自分でスプーンと食器を持ち食べられるようになりました。

また、表情も無表情で反応はほとんど見られませんでしたが、導入後は手遊びをされ、穏やかになってきたとともに、声掛けに「うん」や手を挙げて反応するなど、簡単なコミュニケーションが取れるようになりました。




想像していたより改善したBさん:90歳 女性 要介護度5
Bさんは入所半年前までは歩行可能でしたが、転倒し人工骨頭置換術を施行され、その後寝たきりとなり褥瘡もできた状態で当施設に入所されました。入所直後より「トイレ トイレ」と、頻回な訴えがあり、その時は話でそらす対応を行ってきましたが、それも限界がきていました。また、医師より尿路感染症の悪化に伴う対処としてトイレでの排泄指導があり、そのタイミングでスタンディング式リフトの導入を決めました。導入前は2人でトイレ誘導を行っていたため、夜間はオムツでの対応でしたが、導入後は、一人で介助が可能となり夜間もトイレに行けるようになりました。

導入後の変化として、排泄に行きたいタイミングでトイレに行けるようになってから、トイレの訴えから不穏になることが少なくなりました。

その他の変化として、導入して数か月がたったころより、一人で立位が取れるようになり、今では、リフトを使用しなくても、介助で職員の負担も無くトイレ誘導が行えるようになりました。

 

これらの事例からわかるように、スタンディング式リフトを導入し介護職員が安心して一人でトイレ介助ができる環境を作ることは、利用者様にとってトイレに行きたいタイミングでトイレに行ける安心感や職員に対する信頼感に繋がることが考えられます。

また、移乗動作の獲得は、スタンディング式リフトでなければ起こらなかった現象だと考えています。その他にも多くのメリットを今まで感じることができました。

 

 

スタンディング式リフトを使用する施設が増えるために

大きな成果が期待できる福祉用具だからこその課題点
成功事例では、職員・利用者様共に多くのメリットがある福祉機器ですが、その反面スタンディング式リフトは大きな課題もあります。それは、適応者の選出が難しいところです。特に重症化している特別養護老人ホームではその傾向が強く出る印象です。スタンディング式リフトは、つり上げ式リフトのスリングシートに比べ、接触面積が少ない分スリングシート部の負担が大きくなります。また、円背や体幹機能が低下した方に使用した場合スリングシートがずれやすく、腋窩部で痛みが出ることもありました。スタンディング式リフトの見学に来られた時にも適応の難しさの話しをすると諦められる方もいました。

スタンディング式リフトは、フィットすると大きな成果が達成できますが、適応を見極める知識・経験がとても重要である福祉用具だと思います。試行錯誤をしていきながら、また経験のある施設とともに、勉強会や意見交換会を行いながらスタンディング式リフトを使用する施設が少しでも増えることを願っています。

 

特別養護老人ホーム 夕凪の里

〒626-0061
京都府宮津市字波路小字新町2433
EL/0772-22-0428 FAX/0772-22-0432

https://www.yotsuba-lcn.or.jp/yunagi.html
 

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