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パシフィックニュース

VOCAリンゴ事例紹介

AAC(コミュニケーション)

VOCAリンゴ事例紹介

長野養護学校 教諭  鈴木 しのぶ

2011-07-01

現在、パシフィックサプライでは、VOCA(Voice Output Communication Aids:音声出力型会話補助装置)、リンゴのデモ機を無料で貸し出しをしております。今回は、ご利用になられた長野養護学校の先生より、自閉症の女子生徒にリンゴを試用した取組みを事例として寄稿いただきました。

リンゴとの出会い

長野養護学校は、長野県にある特別支援学校(知的障害)です。本校は222名の児童生徒が在籍している、歴史ある学校です。
自立活動専任という仕事柄、児童生徒の生活や、学びを支えていくという視点で全校に関わった仕事をしています。もちろん、教材・教具も管理したり、児童生徒や先生方に使っていただけるようにコーディネートもしています。そのような仕事をする中で、パシフィックサプライ㈱の藤井氏から新しいVOCA「リンゴ」のレンタルサービスの紹介を受け、早速利用することにしました。

それまでは、本校で活用していたVOCAは朝の会、帰りの会の司会、授業、言葉や気持ちの表出のために使用していたスーパートーカーが主でした。この「リンゴ」は小さく、携帯できる点で、より活用場面や使用頻度が高まるのではないか、と期待がふくらみました。

長野養護学校

試行錯誤の日々

早速、本校のコーディネーターからNさんに試してみてはどうか、と提案がありました。Nさんは高等部3年生の女子です。表出言語はありませんが、伝えたいことがたくさん心の中にある生徒です。また、行為や行動で要求を伝えることができます。

例えば、家庭では広告から自分の欲しいおやつを見つけ、その広告の写真を切り取ってお母さんに渡して「これを買ってきて欲しい」とお願いすることができます。
学校では、高等部に進級したときに担任がNさんに自分の思いを表現してほしいと「ください」「トイレ」「ブランコ」「雑誌」「お水」など言葉をいくつかに絞り、そのシンボルを透明ボードにはさんで使用していました。

何か欲しいとき、ブランコに乗りに行くとき、Nさんはそのボードの絵を指して気持ちを伝えていました。しかし、ボードがなくなりやすいため、だんだん使用しなくなりました。

また、トイレに行こうと教室を出るのですが、担任の先生が「
Nさん、どこに行くの?」と後を追うと、鬼ごっこだと勘違いして逃げ出すこともあり、当初の退室目的が何をしようとしていたか忘れてしまうこともありました。
今までNさんを担当した先生方も何とか
Nさんの思いを伝える手段を見つけようと試行錯誤しましたが、なかなかNさんに合った表現手段が見つかりませんでした。
今回のレンタルサービスを機会に、早速
Nさんに「リンゴ」を使用する経緯にいたりました。

言葉の選出

担任がNさんの生活の様子から、以下の言葉を録音して使用が始まりました。

「教室に戻ります」→ 体育館などの場所から教室に行きたいという意思表示を示す時の言葉
「ふりかけください」→給食時に使用する言葉
「おやつください」→ 作業学習の休憩の時におやつをもらうときの言葉
「更衣室に行きます」→リラックスしたいときの言葉
「トイレに行きます」→トイレに行くことを伝える言葉

言語の選出

リンゴへの愛着

Nさんは「リンゴ」をすぐに気にいったようで、担任の先生がいつでも携帯できるようにヒモを付けてくれました。
Nさんは、朝、登校すると自分からリンゴを首にさげていました。はじめは、聞き慣れた先生の声が聞けるので、何度もボタンを押して楽しんでいるようでしたが、直ぐに、生活の場面で自分の意志を伝えるために使うようになりました。

作業学習の休憩はもちろん、それ以外の場面でも「おやつください」を押し、戸棚を開けてお菓子を食べようとして、皆で慌てて止めたこともありました。今までなら、「今はおやつの時間じゃないでしょ!」と叱られてしまったでしょう。でも、きちんと意志を伝えているNさんの姿を見て「しかたがないなあ・・・」と微笑ましく感じました。

トランポリンに乗る時は、ちゃんとリンゴを首から外し、担任の先生に渡してから乗っていました。Nさんにとって「リンゴ」は“大切なもの”という気持ちの表れです。

一日が終わり、下校するときには「リンゴ」を首から丁寧に外し、先生に渡して帰るのでした。
レンタル期間が終わり、しばらく「リンゴ」を探すNさんの姿がありました。お母さんに購入してはどうか、と担任の先生を通して話をすると「Nがそんなに使いこなしているなら、今すぐにでも買います。卒業までに、何か良い伝達ツールが見つかればいいな、と思っていました」と直ちに購入することになりました。

大切なお守り

Nさんの新しく購入した「リンゴ」には、「お願いします」「ありがとうございます」の言葉に加えて「りんごの唄」が録音されました。
「りんごの唄」は“赤い~リンゴに唇よせて~♪”です。この歌は、リンゴ畑のマラソンコースをマラソンする時に担任が歌ってくれた大好きな歌です。長い入学式も大好きな先生の歌う「りんごの唄」を聴きながら、落ち着いて参加できました。
新学期が始まると直ぐに修学旅行がありました。修学旅行では大好きなお父さんの声で「おはよう」「がんばれ」「おやすみ」という言葉を録音して持って行きました。

Nさんにとって「リンゴ」は自分の気持ちを伝える道具というだけでなく、大切なお守りになっています。本校に通う生徒の中には、いろいろな状況から不安定になると、自分の気に入ったものを探し歩いたり、持ち歩いたりすることがあります。Nさんも雑誌を持ち歩いたりしていることがありました。しかし「リンゴ」を持つようになってから、他のクラスに行って勝手に気に入ったものを持ち出したり、雑誌を持ち歩くことが減少してきました。これは、自分の気持ちを伝えることができるようになったからかもしれません。

気持ちを伝える

今後に向けて

現在、「リンゴ」を使う場所は学校に限られています。Nさんは寄宿舎を利用しており、寄宿舎でも使用したいと試みましたが、うまくいきません。Nさんの中に、「リンゴは学校で使うもの」という意識がとても強いのです。また、使う場所によって、使う言葉も違うのかもしれません。
卒業後、事業所でも使用できるよう、使用する言葉を選定していきたいと思います。

今回「リンゴ」を使うNさんの姿を見て、他にも使えそうな生徒たちがいると感じました。レンタルの機会を頂いたパシフィックサプライに感謝しております。
しかし、購入の段階で、市町村の補助を受けることができないことに驚きました。少しでも補助が出ればと、市に問い合わせましたが、身体障害者手帳がなければ補助対象にならないとの回答でした。こうした機器は本校に在籍する知的障害のある児童生徒及び成人の方々にとって大切なコミュニケーションツールです。こうした現状が理解されていない、または知られていないことに驚きました。

便利ではありますが、金額的にも高価なものです。どんなに便利で、どんなに本人が使いこなせていても、金額的な問題があれば、こうした出会いは絶たれてしまうのです。是非、療育手帳にも適用できるよう、みんなで声を上げていきたいと思います。
長野県はリンゴの産地。
Nさんの好きな歌も「リンゴの唄」。本校の周りにもリンゴの木がたくさんあります。「リンゴ」つながりでご縁があったのだと感じております。

リンゴを使用するNさん

リンゴを使用するNさん

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