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スプリント療法の基本的な考え方と実践例
スプリント
リハビリテーション
北海道文教大学人間科学部作業療法学科
白戸力弥
2021-07-15
スプリント療法は上肢の運動器疾患の保存療法や術後療法を中心に、様々な疾患に対して用いられる。スプリント材には、熱を加える(多くは湯に入れる)ことで軟化可能な熱可塑性素材が用いられ、即席で作製が可能である。従って、外注する装具と異なり、患者へ適用するまでに治療的タイムラグが生じない利点がある。また、容易に修正ができるため、個々の患者の変化に迅速に対応可能であり、適切なスプリント療法は、患者の治療成績を向上させる重要な治療的手段の1つとなる。
本稿では、「スプリント療法の基本的な考え方と実践例」について述べる。
1.スプリント療法の基本的な考え方
スプリントを作製し、対象者に適用する際に必要な基本的な考え方を以下に述べる。
(1)スプリント療法の目的
「どのような目的にスプリント療法を実施するか」を明確にする。スプリント療法の目的は、以下の6つに大別できる。
1.固定・支持:
炎症のある組織に対し、患部を固定し、安静にすることで炎症の鎮静化を促すことを目的とする。また、損傷組織の力学的強度が一定に回復するまでの間、固定・支持するために用いられる。
2.保護・予防:
異常感覚のある部位を保護する、また関節変形を予防するために用いられる。
3.矯正:
短縮した軟部組織に対し、低負荷で長時間のストレスを加え、拘縮した関節の可動域拡大を目的に用いられる。静的スプリントで最終関節可動域を一定期間保持し、可動域の拡大にあわせて、スプリントの角度を調整する漸次静的スプリント療法が用いれらる。また、ゴムバンド(ラバーバンド)等の収縮力を利用して組織に負荷を加える動的スプリントがある。関節内に問題がある場合は、矯正力を加えることで関節症性変化を悪化させることがあり、慎重な適用が必要である。
4.訓練:
ゴムバンド(ラバーバンド)等で負荷を与え、その負荷に抗する運動を行うことで腱滑走や筋力増強を促すために用いられる。
5.代償:筋の麻痺や筋力低下によって失われた機能を補うために用いられる。手関節背屈による手指屈曲の動的腱固定効果(dynamic tenodesis effect)を補強する把持スプリントなどがある。
6.模擬:パイロットスプリントと呼ばれる。母指欠損による母指機能再建術前に、スプリント材で模擬的な母指を作製し、つまみ機能の評価を行うことで、再建する母指長や角度の目安とするために用いられる。
(2)作製上の原理・原則
スプリントを作製する際は、以下の原理・原則を理解し、実践する必要がある。
1.3点固定・支持の原理
安静固定、および肢位を保持すべき関節に対し、図1のように3点で固定・支持可能なデザインにする。
図1:3点固定・支持の原理(文献1より改変引用)
前腕と手掌の2点を掌側から、手関節を背側からの計3点で固定を行う
2.全面接触の原理
スプリント材が皮膚上において均一の圧で広い接触面積で接するように作製する。部分的な皮膚への強い圧迫は、様々な皮膚のトラブルの要因となるため注意が必要である。
3.前腕長に対する長さ
前腕ベースのスプリントの場合、前腕支持部の長さを前腕長の2/3程度とする(図2)。この長さが短いと、前腕部にかかる単位面積当たりの圧が高まる。一方、長すぎると肘屈曲運動の妨げとなる。
前腕支持部が短いと前腕部にかかる単位面積当たりの圧が高まるため、前腕長の2/3の長さが理想である
4.側面の高さ
シーネ型のスプリントの場合、側面の高さを1/2程度にする(図3)。スプリントの側面が高すぎると、固定するためのストラップの作用が十分に得られにくい。一方、側面が低すぎると、スプリント自体の剛性が低下するため、固定性・支持性が不十分となる。
スプリントの剛性を確保し、ストラップを有能に機能させるには、スプリント側面の高さを1/2にする
(3)スプリント素材の選択
スプリント材に用いられる熱可塑性プラスチックには、様々な材料があり、特性はそれぞれ異なる。主に伸張性の違い、形状記憶性の有無、表面のコーティング処理の有無、湯で軟化してから硬化までの時間の違いで、その特性は大きく異なる。これからスプリントを作製したいという初心者には、伸張性に富み、形状記憶性を有し(失敗等した場合に、再度軟化させることで、元の形状に戻る)、表面のコーティング処理がされており(コーティング処理がされていると、作製者の手につきにくい)、湯で軟化した後の硬化時間が比較的長い「オルフィットソフトNS」を推奨する。厚さは、マレット指に対するStackスプリントなどで指関節を固定する場合は、1.6mmの厚さの素材を用いる。一方、サムポストスプリントなどの手部から指にかけて固定・支持する場合は、1.6mm~2.4mmの厚さの素材を用いる。カックアップスプリントなど前腕から手部または指にかけて固定・支持する場合は、最も厚い3.2mmの素材を用いると良い。
2.スプリント作製の実践例
(1)カックアップスプリント
年代、性別: 50歳代、女性診断名: 右橈骨遠位端骨折(保存療法例)
治療経過: 受傷後4週間の前腕キャスト固定後(X線画像:図4)、医師より手関節と前腕の可動域訓練、および訓練時以外のスプリント装着の指示を得た。
スプリントの目的: 十分な骨癒合が得られるまでの手関節の固定・支持
スプリント素材: オルフィットソフトNS 厚さ3.2mm
作製のポイント: MP関節の屈曲制限が生じないよう、スプリント遠位端が遠位および近位手掌皮線にかからないようにする。また、前腕支持部の長さを前腕長の2/3とする。スプリントによる手関節の固定・支持性を確保するために、母指球皮線を越えて母指球部を開けすぎないようにする(図5、6)。
(2)長対立スプリント
年代、性別: 50歳代、女性診断名: 左母指CM関節症
術式名: 左母指CM関節形成術(大菱形骨切除とMini TightRopeを用いたSuspensionplasty、術後X線画像:図7)。
スプリントの目的: 術後の母指CM関節を含む手関節~母指MP関節固定・支持
スプリント素材: オルフィキャスト15cm幅
作製のポイント: 母指IP関節の動きが可能となるよう母指対立位で手関節から母指MP関節をスプリントで固定した(図8)。
(3)肘屈曲位固定用スプリント
年代、性別: 80歳代、男性診断名: 右肘部管症候群
術式名: 尺骨神経前方移行術
尺骨神経を肘前方皮下へ移動した。その際、皮下脂肪組織を内側上顆に縫合して移動した神経を安定化した。
スプリントの目的: 肘関節の固定・支持(特に内側上顆に縫合し、皮下脂肪組織に対し)
スプリント素材: オルフィキャスト15cm幅
作製のポイント: 素材の強度を高めるたに、オルフィキャストを2枚重ねにして作製した。手関節の動きは自由にした(図9)。
【 文 献 】
- 矢崎 潔:手のスプリントのすべて 第2版.三輪書店,pp66-73,1998.
- Fess EE, Gettle K: Hand and Upper Extremity Splinting: Principles and Methods 3rd edition. Mosby, Philadelphia, pp161-209, 2005.
- 白戸力弥:スプリント療法の原則.坪田貞子編:臨床ハンドセラピィ.文光堂, pp26-33,2011.
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