パシフィックニュース
「生きているうちは働きたい!」ITスキルを習得し就労を実現した脳性麻痺の方へのインタビュー
AAC(コミュニケーション)
就労支援
事業開発本部新規事業開発部エーブルネット事業開発係
2021-08-02
入力スイッチやタブレットなどの機器を駆使してパソコンを操り、ITスキルを武器に様々な仕事をされている女性が仙台にいると聞いた。脳性まひのため数年前から電動車椅子を使う生活を送っている郡司芳枝さんだ。
重度障害者の短時間雇用を応援する当社の取組で、私たちが目指すモデル像とも言える郡司さんに、これまでの経歴やお仕事観、夢について話をうかがった。
ITをゼロから学び、障害者就労を続ける基礎を作っていきました
―今回は、仙台と大阪をオンラインでつないでインタビューをさせていただきます。よろしくお願いします。さて、郡司さんは長年、パソコンを使ってお仕事をされているそうですね。どのような、きっかけで始められたのでしょうか?
もう何年もパソコンを使って仕事をしています。発端は仙台市障害者バーチャル工房事業「せんだい庵」でITを活用した障害者の在宅就労支援の講習を紹介されて、受講したことです。
そこでは一定のスキルを身に着けたら仕事が受注できるという仕組みがあり、その中でさまざまなパソコンスキルの習得と仕事の経験を積むことができました。
初仕事はイラストレーターソフトを使うもの。たかだか2、3回の講習を受けただけで仕事するなんて普通はありえないよってビックリしたんですが、それでもいいからって言われたのでチャレンジしました。それも手取り足取り教えてもらえる環境があったおかげだと思います。
―パソコンの講習はどのように受講されたのでしょうか?
講習会の受講者に、手足に障害のある人はあまりいませんでした。脳性まひで日によっては体をコントロールしづらいこともある私には、受講中は学生さんがぴったりと横についてサポートしてくださいました。
講習を受けるのは大学の教室の一室です。学生さんが授業で使う普通のパソコンを使用するのですが、普通のキーボードやマウスでは操作できないので、トラックボールなどを用意して操作しました。
先生の説明を聞いて、そのとおりにソフトを操作するという流れで講習は行われます。でも、聞くことと手元操作の2つを同時に行うなど、2つ3つと並行して作業することは、脳性まひの人にとっては非常にハードルが高いことなんです。
でも主治医の先生は「郡司さん。仕事がしたいんだったら、できるように協力してあげるから言ってね。やりたいことはやった方がいい」って後押ししてくれたので、がんばって受講しました。
パソコンは魔法の箱。私にいろんな可能性を運んできてくれました
―これまでにどんなパソコンスキルを身につけられたのでしょうか?
「いったい何をやりたいの?」と周囲が呆れるほど、いろいろな講座を受講しました。ブレンダーという3Dモデリングができるソフトをはじめ、Adobe関係だと画像の制作や加工をするフォトショップやイラストレーター、動画編集のプレミアプロのなど一通り受けました。
動画の編集はとても細かい作業が多いのですが、パソコンや周辺機材がそろえられれば一通りはできます。イラストレーターは使う機会が近頃はかなり減ってしまって、宝の持ち腐れでちょっともったいない気もしますね。
―パソコンのスキルが増えたことで、就労の可能性も広がったんですね!郡司さんにとってパソコンはどのような存在ですか?
昔は同世代の脳性まひの人の中には井の中の蛙で、モノを知らない人も少なくありませんでした。でも、インターネットが普及して、パソコンを使っていくらでも知識を集められるようになったんです。おかげでそれまで知らなかった世界につながり、様々な情報を手に入れることができるようになりました。
当時はパソコンの機能も低く、テキスト入力位しかできませんでしたが、そのうち情報収集だけではなく、パソコンを使って他にももっとできることがあるはずだと思えてきました。
徐々に扱えるソフトも増えてホームページ作りにはまる頃には、これは仕事にできるなという思いが強まりました。今ではホームページ制作でコーディング作業の仕事を行っています。
―コーディングのお仕事って具体的にはどのようなことをするのですか?
ホームページを制作するのに、Webデザイナーが見た目を手掛けます。その「デザインの完成見本」でサイトの完成イメージを共有して、その通りに実際にブラウザへ表示させるのがコーディング作業です。
HTMLやCSSといった言語を用いてコードを記述します。リンクを設定したり、文字を太くしたり、位置を調整したりするとても細かい作業ですね。コーディングは難しくて今も勉強している最中です。
クライアントさんが色目を変えてほしいと希望されるときには、イラストレーターを使って画像加工するスキルが役立ちます。
また、最近はスマホとタブレットとPCと異なる画面サイズでもそれぞれ見やすく表示される「レスポンシブWebデザイン」を作ることが多いですね。
自分に合わせた装置や環境を整えることで、細やかなパソコン作業が可能に
―パソコンを使ってすごく細かい作業する時に、工夫されていることはありますか?
電動車椅子でパソコン机に着席した時に、アームレストや周辺機器を自分にとって使いやすい位置に置いてあります。ディスプレイも複数使いますね。ZOOMでミーティングをする際は、話し手の顔が画面に映し出されて表情がよく見えるように設定しています。表情も会話にとって重要なので。
キーボードを使わずに、手元のタブレットでPC画面にフリック入力できる機器を初めて使ったときは、これはものすごく便利!と感動しました。
ボタンが4個ついている入力装置やテンキー、キーボード、文字を書くiPad、フォントPCなど使って作業するので、不要なモノはないのにパソコン周りはゴチャゴチャになっています。職場で「机の周りは整理整頓」って言われても、それは無理だよって困ってしまいますね。
二次障害のために手の動く範囲がどんどん狭くなってきているので、できればハイスペックのパソコンと一体化した機器があれば、作業場もスッキリしていいのにと思っています。
障害者の働く意欲を下げてしまう最大の要因は「長時間労働」かもしれません
―今はどのくらいの時間、パソコンを使うお仕事に従事されていますか?
脳性まひのためフルタイム勤務は難しいです。事業所を利用しながら単発でお仕事を受けると、平日働くことができるのは、1日2時間から4時間ほどですね。一般企業でも、短時間勤務の雇用契約が交わせればいいのにと思います。
―実はパシフィックサプライでは、必要な福祉機器を貸出して、企業が短時間雇用で障害者雇用を実現するのを応援するという取組みを行っています。
障害者の短時間雇用「働く」を応援します!
それはいい取組みですね!どんどんやっていただきたいです!長時間労働がネックとなって、働きたいという意欲がそがれたり諦めたりしてしまう障害者は少なくないと思います。
働く意欲や能力があっても、リハビリや医療に時間を費やす必要がある障害者は、一般企業で働きたくても無理なケースが非常に多いと思います。しかし、今後、企業の短時間雇用が広まれば、就労のハードルが下がる障害者がぐんと増えるでしょう。
働くって人間がそもそも生きていくうえで、必ず沸き起こる気持ちだと私は思います。美味しいもの食べたいとか、どこかに行きたいという思いと同じですよね。
障害者年金という収入があるから、障害者は働かなくてもいいというわけではないんです。
労働時間がネックで、障害者の働きたいという気持ちが折れたり、能力を活かせなかったりするのはとてももったいないと思いませんか?
DX化、テレワーク、働き方改革など障害者就労に追い風が吹いています
―コロナ禍でテレワークが進み、今回のようにオンラインでお話を伺うことも簡単になりました。障害のある方が働く環境もデジタルの進歩によって、状況が変化してきていると思いますか?
今まさに障害者雇用の大変革が起きていると言えますね!インターネットのスピードが上がって情報データ量が増え、打ち合わせもオンラインが当たり前になりました。
ペーパーレスで、データのやり取りで仕事が完結できるから、ITスキルを活かせる仕事の機会も増えて、能力さえあれば障害者が働ける環境はずいぶん整っていると思います。
生きているうちは仕事をしたい!
働いてみたい障害者は「きっかけ」さえつかめれば、独学でもスキルを身に付けて、新たなチャレンジに走り出すことができると思っています。ほんのちょっとの努力で、可能性は広がるということを、私はこれまで何度も体験してきました。
上げ膳据え膳で用意されたものに執着はわきません。でも、自分で努力して勝ち得たスキルや、手に入れた場所って、そうそう簡単に手放せないものなんです。そういうスタンスで当事者には、障害者就労に入ってほしいですね。
至れり尽くせりで「さあどうぞ」ってお仕事を用意してもらって働き始めても、簡単に辞めてしまいそうに思えます。私はかなり苦労したので、せっかく手に入れた仕事をそうそう手放せないですもの。
80歳になってプログラマーになった女性の話を聞いて『私だってできる!』って思いました。生きているうちは仕事をしていたいし、ずっとこの業界で働き続けたいですね。そして、若い人たちにも何でもやればできるってことを教えていきたいです。
編集後記
テレワーク全盛の働き方改革の時代において、短時間勤務制度やITテクノロジー、福祉機器などを使った障害者就労は、今後さまざまなスタイルで世の中に広がっていくでしょう。
就労につながる小さなきっかけをその手でつかみ、自ら新たな道を切り拓いてきた郡司さん。望む生き方を模索し、チャレンジしている彼女の姿は、障害の有無や性別、年齢、キャリアにかかわらず、自分の可能性に気づき、行動を変化させるためのヒントを与えてくれます。
重度障害者が就労の担い手の一人として、多くの業界で活躍するのが当たり前になる。今回のインタビューを終えて、そんな多様性に満ちた未来はそれほど遠くないかもしれないと感じることができました。
(編集)スイッチ・オン 平野亜樹
**取材の最後にスクリーンショットで記念撮影**
笑うたびにグリーンのピアスが揺れ、とてもお洒落でチャーミングな郡司さまと支援員の木島さま
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