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パシフィックニュース

患者様がどこでもハンドセラピィ、スプリント療法を受けられる地域づくりを目指して

スプリント

リハビリテーション

患者様がどこでもハンドセラピィ、スプリント療法を受けられる地域づくりを目指して

~井笠・備後ハンドセラピィ研究会の取り組み~

福山市民病院
井笠・備後ハンドセラピィ研究会代表
作業療法士 藤井裕康

2021-11-01

はじめに

広島県南東部の福山市にあります福山市民病院で作業療法士をしております藤井裕康と申します。
私は、「ハンドセラピィの知識と技術のアップデートと、人脈の共有によって、患者様がどこでも良質なハンドセラピィを受けられる地域を作る」という理念のもと、当院の作業療法士数名や、岡山県西部と福山市の施設の先生方と共に「井笠・備後ハンドセラピィ研究会」(図1)を2017年7月に設立し、活動をしてまいりました。
 

(図1)井笠・備後ハンドセラピィ研究会ロゴマーク

(図1)井笠・備後ハンドセラピィ研究会ロゴマーク

今回は、私どもが、なぜ、この理念のもと井笠・備後ハンドセラピィ研究会を設立したのか、どんな活動をしているのか、今後どのような展望で理念を達成していくのか、という、井笠・備後ハンドセラピィ研究会の過去・現在・未来について紹介致します。
今回の記事を通じて、地域の病院が繋がるコミュニティ作りにより、患者様に貢献できる大切さについて皆様に感じて頂き、是非とも地域の施設間の交流のきっかけ作りになれば幸いです。

地域施設との交流不足から生じた多発外傷を呈した患者様に対する苦い経験

私の勤務する福山市民病院は、岡山県西部・広島県東部の3次救急病院であり、多くの外傷をはじめとした急性期疾患の患者様が来られます。
そこで、私たちは手指の屈筋腱や軟部組織の多発外傷の患者様のハンドセラピィを経験しました。患者様の退院が決まり、外来のハンドセラピィを地元の病院で調整をしようとしたときです。

患者様より「地域の病院ではどのようなセラピストがいるのか、どんなリハビリをしてくれるのか、など全然わからないから不安です。バスでだいぶかかるけど、福山市民病院でリハビリを受けます。」とおっしゃられました(図2)。この患者様は地域の病院の情報がないためにリハビリの通院先の変更に不安を抱いておられました。
しかし、私たちもその地域の病院がわからず、患者様の不安を減らすための情報を提供することができませんでした。その患者様は当院に通われましたが、負担が大きく、通院頻度が少なくなるなど悪影響がありました。
 

地域の病院の情報を持ち合わせず遠方の救急病院を受診する患者さんの図
(図2)

地域の病院やセラピストが繋がり、地域の患者様が地域の施設でハンドセラピィを受けられる地域を作る

その時私は、「地域の施設の交流ができて、お互いの施設の情報交換をし、お互いの知識・技術を共有し合えば、患者様が岡山県、広島県のどこにいっても安心してハンドセラピィを受けられるのではないか?今回の患者様も地元の病院でしっかり通院すれば、もっとよい結果になったのではないか?今回のような患者様がでないように、地域の施設が交流して勉強し合う場所を創ろう!」と考えました。

現在は井笠・備後ハンドセラピィ研究会の副代表である福山市民病院の坂本OTRや笠岡第一病院の河田OTRがこの想いに共感し、活動をしてくれたことで協力施設が集まりました。そして、私たちの想いに共感してもらった岡山県西部、福山市周辺の6施設18人が集まり、理事となる10人が決定し、2017年9月に井笠・備後ハンドセラピィ研究会の活動が開始しました。

今思えば、この10人が揃わなければ今まで継続してこれなかったと思います。本当に、副代表らとの出会い、そして想いに共感してくれた先生方との出会いは恵まれていた環境であったと思います。

井笠・備後ハンドセラピィ研究会の活動が開始されてから今に至るまで

地域の施設の少人数で開催する小規模な勉強会から始まりました。ちょうどこのころ、私と副代表の坂本OTRが、日本ハンドセラピィ学会の研修会や懇親会に参加し、ハンドセラピィ学会の所属の先生方に相談したところ、設立の想いに共感頂き、協力を頂けることになりました。

おかげさまで、認定ハンドセラピストの御高名な先生方が講師に来てくださり、多くの岡山県・広島県の先生方に井笠・備後ハンドセラピィ研究会を知ってもらうきっかけができました。

そして年4回はセミナーに参加してくださった先生方からのリクエストに応じた研修会を行い(図3)、さらに、年4回の触診セミナー(図4)を開催、岡山県作業療法学会でもブース出展(図5)し、ご依頼のあった施設への出張スプリントセミナーなど、精力的に活動してきました。
 

(図3)研修会風景

(図4)触診セミナー風景

(図5)第30回岡山県作業療法学会ブース出展


中には、井笠・備後ハンドセラピィ研究会を開催するまではほとんど交流がなかったような施設の先生方ともお会いする機会が増え、多くの施設の先生方から、臨床での橈骨遠位端骨折の患者様のリハビリはどうしたらいいか?などの相談を受け、連絡を頂くようにもなりました。多くの施設の先生と繋がったことで、実際の私の臨床でも変化がありました。設立のきっかけになった多発外傷の患者様の時のように、転院先が不安であるための当院への通院リハビリはなくなり、地域で通院される患者様が多くなりました。

井笠・備後ハンドセラピィ研究会の今

2020年初頭、新型コロナウイルス感染症の拡大により、井笠・備後ハンドセラピィ研究会も対面での研修会を中止せざるを得ませんでした。
対面ができないからということは活動を止める理由にはならないと考え、当会の理念の一部である「知識・技術の共有とアップデート」に焦点を当て「井笠・備後ハンドセラピィ研究会You Tubeチャンネル」を開設しました(図6)。



井笠・備後ハンドセラピィ研究会You Tubeチャンネル
(図6)「井笠・備後ハンドセラピィ研究会You Tubeチャンネル」

 

他にもSNSを拡充させ、現在はYouTube、HPのブログ、LINE、Instagram、Facebookにて知識・技術の共有とアップデートを図っています。2021年度より、その取り組みを加速するため、骨折や腱損傷、末梢神経障害などの各疾患の基礎的な生理学・解剖学、評価とアプローチを新人の先生方や経験の浅い先生方向けに解説する基礎セミナーを年4回行う予定としています。

7月には基礎セミナー骨折編を行い、岡山県・広島県の先生のみならず、関東、九州、東北など全国の方々に参加頂けるようになりました(図7)。


基礎セミナー骨折編様子
(図7)「基礎セミナー骨折編」の様子

 

なお、HPのURLはこちらです。
https://ikasabingohandtherapy.wordpress.com/
定期的にブログで臨床での先生方のご質問に回答しています。是非ご覧ください。


その他SNSのURLはこちらです。

今後の展望:スプリント療法の共有とアップデート

活動を開始して4年が経ち、私たちの理念である「ハンドセラピィの知識と技術のアップデートと、人脈の共有によって、患者様がどこでも良質なハンドセラピィを受けられる地域を作る」をどのようなアウトカムで証明し、私たちの活動の効果を判定するか?が今後の課題と考えています。
中でも、直近の課題として考えているのはスプリント療法の共有とアップデートです。
普段の臨床で、ハンドセラピィの知識・技術を研修会などで行い、少しずつその手ごたえを感じていますが、やはりスプリント療法が問題となる場面を多く経験します。
スプリント療法は急性期のみならず、昨今、脳血管疾患の片麻痺に対するCI療法や、生活期の患者様への自助具としての活用例も報告され、幅広い病期に対応できるアプローチ法です。当院のような急性期病院でスプリント療法を導入しても、転院先でスプリント療法の導入がなく、病期の経過に応じた継続的なスプリント療法の実施が難しいという場面がありました(図8)。




転機先でスプリント療法の継続的提供がかわる
(図8)

 

そこで、岡山県と広島県のスプリントの普及率を調査し、その原因に対してアプローチをすればスプリント療法が普及し、患者様がさらに安心してハンドセラピィを受けられる地域づくりに貢献できると考えました。
よって、私たちは、2020年に岡山県と広島県の医療機関253施設を対象にスプリントの導入状況と導入に対する阻害因子について質問する紙調査を行いました。
結果は155施設から回答があり、スプリント導入率は約3割でした。まだまだ過半数以上の施設でスプリント療法の導入が進んでいない状態です。未導入施設が感じるスプリント療法導入の阻害因子としては、先行研究1)2)では「専門的技術」や「費用」が問題とされておりましたが、新たに「教育体制」や「採算性」などの項目があがってきました。「教育体制」があげられた理由は、研修会の少なさも影響しているかと考えています。岡山県・広島県で2019年度で開催されたリハビリ関連の研修会を調べてもスプリントに関するものは、ほぼありませんでした。「採算性」については、定められた診療報酬がなく、ヒートガンなどの導入にかかる費用の減価償却の見込みがあるか、不明確な点が影響しているのではと考えています。

よってスプリント療法を岡山県・広島県でさらに広め、地域の患者様がより安心してハンドセラピィを受けられる地域づくりのために、今後は、YouTubeやブログを含めたスプリントに関する情報発信や、研修会の実施、100円均一ショップを活用した低コストで用意できるスプリント作製環境の紹介などが必要となると考えています。
パシフィックサプライ様等のHPではスプリントシートのサンプルが申し込めるようになっています。実際に手に触れて、指用のスプリントを試作してみるのも、導入のきっかけになるかと思います。

終わりに

この度は、井笠・備後ハンドセラピィ研究会の取り組みについての記事を最後までご覧くださいまして、誠にありがとうございます。また活動に関わってくださっている理事・日本ハンドセラピィ学会・岡山県および広島県の作業療法士会や、今回、ご依頼くださったパシフィックサプライ担当者様に感謝申し上げます。

私たちの活動や今後の予定についての詳細はHPやYouTube、各種SNSをチェックしてください。よろしければ「いいね!」や「フォロー」もよろしくお願いします。是非とも、今後の私たち井笠・備後ハンドセラピィ研究会の活動へのご理解、ご参加、ご協力のほど何卒よろしくお願いします。

参考文献
1)松房利憲.段ボールを使用してのコックアップスプリントの紹介.作業療法・19:254~258,2000
2)馬場有香他.当院におけるスプリント療法の実態.北海道リハビリテーション学会雑誌.37:73-75.2012

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