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パシフィックニュース

モーリフト利用事業所からの発信 3

リフト・移乗用具

モーリフト利用事業所からの発信 3

紀成福祉会における腰痛対策についての取り組み

社会福祉法人紀成福祉会 特別養護老人ホーム龍トピア 理学療法士 笠原 聖吾

2011-10-01

山と緑に囲まれた和歌山県田辺市龍神村にある特別養護老人ホーム龍トピア。
【原則、持ち上げない介護】をテーマに介護職員の大切な身体を守ろうと真剣に腰痛対策に取り組む理学療法士がいます。
福祉機器の積極的な導入を図り、介助技術の内部研修・外部研修を計画的に取り入れながら、介護する側・介護される側にも質の高い、やさしい介護をめざしての取組みを3号連載にてご紹介しています。

Vol.144では当法人におけるリフト導入までの展開を、Vol.145はリフト導入によりもたらされた効果を、介護職員の主観を交えてありのままにお伝えしました。現在では9台の床走行式リフトにより、月に2000回強の移乗介助が行われています。

25kg以上の物体を業務として継続的に持ち上げる事で脊柱に過剰な負担がかかり、場合によっては不可逆的な損傷を与えてしまうことは周知の事実ですが、そういった過剰なストレスに苦しむ介護職員を、リフトは解放してくれています。今回は、リフト導入によりもたらされた効果を、アンケート調査より得られたデータを使ってお伝えしたいと思います。

リフト導入前後にアンケート実施

紀成福祉会では、平成22年7月と平成23年3月に、それぞれリフト導入前アンケートとリフト導入後アンケートを実施しました。対象者は、導入前が74名、導入後が75名です。
まずは腰痛の有病率についてですが、導入前が50%(37名)、導入後が50.7%(38名)と、ほぼ変動はありませんでした。ただし、腰痛の程度について4段階で聴取したところ、全体的に腰部負担が軽減している様子が見て取れました。

また、職員が抱える腰痛について、更に詳細を求めたのが以下の図です。腰痛を有する方に対して、1.痛みの程度(VASで測定)、2.今現在発揮出来ている能力(%)をそれぞれ自由記述して貰い、2軸のグラフ上に有痛者のデータを1人分ずつプロットしています。導入前に比べ、導入後の方がデータが左上方に寄り、腰痛だけでなく発揮可能な動作可能な能力も全体的に改善しているのが分かります。

導入後アンケートでは、リフト導入に対する職員の評価として

  1. 腰背部の疼痛や張り・疲労感がどのように変わったか
  2. 移乗動作に関する負担感がどのように変わったか


を、介護職員に-3~+3の7段階でそれぞれ評価して貰いました。

全体の平均点としては、1.が+1.69、2.が+1.77と介護職員がリフトの導入を好意的に評価してくれていました。なお、2.について-1と評価していた職員によると、やはり今までの介助に比べ時間がかかる点を指摘しており、これは今後の課題として考えていく必要があると認識しています。

導入させて頂いたモーリフトスマートのモーターには、駆動時間と駆動回数を測定する機能がついているため、これをモーリフト専任・インストラクター武田氏(パシフィックサプライ(株))の協力のもと、月に1回調査していく事で、様々な推察が可能となりました。

アンケート

リフト導入前

リフト導入後

リフト使用頻度と職員休暇の関係性

私が施設課長を務めている特別養護老人ホーム龍トピアで、リフト使用頻度と職員の休暇の関係性について調査したのが下図です。赤の線が腰痛による欠勤日数、黄色の棒グラフがリフトの月あたりの駆動回数を示しています。
リフトが導入されるまで(平成22年4月~平成22年10月)の期間で、職員の腰痛による欠勤日数は35日でした。腰痛により夜勤が行えない職員に配慮する為、シフトの組み替えも月1回ペースで行われていたために腰痛を生じた職員のみならず、他の職員への負担も強いられてしまう、という悪循環の状態でした。

リフト導入後(平成22年11月~平成23年3月)では、腰痛による欠勤日数は5日になりました。また、腰痛が原因でのシフトの組み替えは0になり、職員も勤務表通りに出勤出来る事が増えました。

リフトが導入され、しっかりと使用されていくことにより腰痛の軽減のみならず、発揮可能な能力の増加・欠勤日数の減少・職員の心理的な負担軽減など、様々な恩恵を受ける事が出来ました。

休暇とリフト使用関係

目標はご利用者に対してより良いケアを行うこと

3号に渡り、当法人でのリフト導入についての取り組みを紹介させて頂きました。振り返ってみて改めて思うのは、原理原則を理解して貰うことの重要性です。リフトを使用するための技術講習はもちろん欠かせませんが、「何故持ち上げてはいけないのか?」、その根拠をしっかりと明示し、職員に理解して貰う作業を地道に繰り返した事が、現在に繋がったのではないかと考えています。

とはいえ職場には、まだまだ腰痛の原因になる労働環境が残存しています。そういった部分を一つずつ解消し、職員がケアに集中しやすい環境を創っていくのが今後の課題です。
我々の一番の目標は、ご利用者に対してより良いケアを行っていく事です。リフトの導入は、あくまで通過点に過ぎません。リフトの使用を介護技術として取り込んだ上で、ご利用者のためにどのように活かしていけるか追求していきたいと思います。

全てのリフトに、導入前からの私の思いを添えています。
「リフトで生まれた体力的な余裕は ご利用者への心のゆとりに」

最後になりましたが、リフト導入の取り組みに多大なご協力を頂いた関係各社の皆様、そしてカルチャーチェンジに勇敢に立ち向かいリフトの導入を見事に成功させてくれた、当法人スタッフに敬意と感謝を表し、結びとさせて頂きます。

理学療法士 笠原 聖吾

東京都立保健科学大学理学療法学科卒【現:首都大学東京】
急性期病院・老人保健施設勤務を経て特別養護老人ホーム龍トピア勤務。
HPにて 理学療法士の呟き 発信中
http://kiseifukushikai.or.jp/PT_Tubuyaki.html

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