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感覚統合Update 第7回:感覚統合の評価-評価のプロセス-

感覚統合

感覚統合Update 第7回:感覚統合の評価-評価のプロセス-

関西医科大学リハビリテーション学部 作業療法学科 加藤 寿宏

2022-10-03

このシリーズも第7回となりました。第1回・2回は感覚調整障害、第3回は行為機能障害と関連した発達性協調運動症、そして第4~6回は身体図式を含めた行為機能障害について話をしました。第7回・第8回は感覚統合の評価について話をします。

なぜ評価が必要なのか?

評価は感覚統合療法を行うために不可欠です。では、なぜ評価が必要なのでしょうか?答えは、感覚統合療法の対象となる子どもの感覚統合の発達やつまずきは、一人一人異なり、誰一人同じではない、というのが理由です。
そんなことは当たり前だと思うかもしれませんが、もし、すべての子どもが同じ感覚統合の発達やつまずきであれば、評価は行わず、
①トランポリンを10分間跳びます。
②スイングに座って、3分間前後に揺れます。
③スイングに座って、前に置いてある積み木を10回倒します。
④ボールプールに入って、ボールプールの中のぬいぐるみを3個探します。

というように、すべての子どもに同じ感覚統合療法を行えばよいことになります。
しかし、子どもの感覚統合の発達やつまずきは、一人一人に個性があります。また、子ども自身ができるようになりたいと思っていることや家族の願いも違います。さらに、子どもが何に興味があるのか、どんな遊びが好きなのか/嫌いなのか、どんな性格なのか…なども異なります。感覚統合療法は、子どもの感覚統合の発達やつまずきだけでなく、家族も含めた子どもの個性を丁寧に評価し、その個性に応じたオーダーメードの治療でなければいけないのです。

感覚統合の評価プロセス

感覚統合の評価プロセスは、1.情報収集、2.遊びの観察、3.検査の実施、4.評価結果の統合と解釈、5.治療目標・治療プログラムの立案 に分けることができます。ここでは、1~3について説明をしていきます。


1.情報収集
情報収集は、家族が子どものことで「気になっていること(主訴)」や「こうなって欲しいこと(要望)」を聞くことからはじまります。この時、家族だけでなく、子ども自身にも聞くことが重要です。家族は困っている、心配しているが、子ども自身は困っていないことや、その逆に、家族は知らないが子どもが困っていること、できるようになりたいと思っていることもあります。子ども自身が「何をしたいのか」「どのようになりたいのか」「何に困っているのか」を考える力・伝える力は、将来の自立・自律のために不可欠です。
家族や子どもの主訴を聞く際は、主訴の原因となっている子どもの感覚統合の状態について仮説を立て、確認しながら話を聞いていくことが重要です。例えば、「友だちとのトラブルが多い」という主訴について、具体的な場所や状況を聞き、感覚調整障害が原因の可能性として考えられる場合は、他の生活場面での感覚調整障害に関する情報を得ます。
例えば、「学校での教室移動の時に、少し押されたことで友だちとトラブルになった」は、原因の一つとして触覚の過剰反応が考えられるため、洋服の好みや偏食の有無、乳幼児期の遊び(砂、粘土など)や身辺処理(洗髪、歯磨き)など触覚の過剰反応が影響する可能性が高い家庭や学校での様子、成育歴などの情報を得ます。「今は大丈夫だが乳幼児期は洗髪や歯磨きを嫌がった」、「肌着は縫い目が嫌で裏返して着る」、「砂遊びは好きだったが、泥遊びや粘土は嫌がった」など、感覚調整障害(触覚の過剰反応)の可能性が高い場合は、標準化された検査等を実施し仮説の裏付けを行います。これは行為機能障害においても同様の手順となります。
これらの情報は、家族からだけでなく、子ども自身から聞くことも大切です。特に感覚の感じ方(感覚調整障害)は、本人でなければわかりません。
幼稚園年長のAくんは、砂遊びを「最初はゾワゾワで、だんだんチクチクになって、最後は痛くてがまんできなくなる」、小学校2年生のBくんは「蛍光灯はチカチカしてまぶしすぎる。LEDもメーカによってチカチカするのがある」と話してくれました。感覚の感じ方は、本人にしかわかりません(推測することはできますが)。年齢が低くても、丁寧に聞いていくことが大切です。
 
2.遊びの観察
感覚統合の評価は、情報収集と遊びの観察が同時に進行することがほとんどです。はじめての場所が苦手な子どもは、家族から離れませんが、多くの子どもは、しばらくすると自由に遊び始めます。支援者は、家族から情報収集をしつつ、子どもに危険がないように見守りながら、遊んでいる場面を観察します。
この遊びの観察は、家族からの情報とともに子どもの感覚統合を評価する上で非常に重要です。前庭感覚の過剰反応があれば、ブランコなどの揺れる遊具には近づかないかもしれません。逆に、前庭感覚に感覚探求があれば、部屋に入ってすぐにブランコに乗るかもしれません。行為機能の観念化につまずきがある子どもは、どのように遊具やおもちゃで遊んでよいのかがわからず、部屋をウロウロと歩き回るかもしれません。また、馴染みの遊具やおもちゃがあれば、それで遊ぶかもしれませんが、ずっと同じ遊びを続けるかもしれません。
遊びは、最初は子どもが自由に遊んでいる場面を観察することが主となりますが、徐々に支援者が関わりながら観察を行う、関与観察へ移行します。関与観察は情報収集と同様に子どもの感覚統合の状態について仮説を立て、確認しながら関わっていきます。
 
3.検査の実施
情報収集や遊びの観察からも、感覚統合の知識や技術がある支援者は、ある程度は子どもの感覚統合の発達や状態について把握できます。しかし、評価をより正確・客観的なものにするために標準化された感覚統合の検査を行います。現在、日本で使用できる標準化された感覚統合の検査は、日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査(JMAP)、JPAN感覚処理・行為機能検査(JPAN)、日本版感覚インベントリー(JSI-R)、日本版感覚プロファイルがあります。JMAPとJPANについてはパシフィックサプライのHPも参考にしてください。

標準化された感覚統合の検査

1.感覚統合のスクリーニング検査
日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査(Japanese version of Miller Assessment for Preschoolers; JMAP)は1982年、米国の作業療法士ミラーによって開発されたMAPを、1989年に日本で再標準化した検査です。
JMAPは2歳9ヶ月~6歳2ヶ月の就学前の発達障害児のリスクがある子どもを対象としています。検査は26検査と多いのですが、一つの検査時間は短く、かつ遊び感覚で楽しんでできるよう工夫されているため、集中することが難しい低年齢の子どもであっても、最大限の能力を評価できます。
JMAPは、基礎的な神経学的能力、協応性、言語、非言語、複合能力の5つの行動領域を評価します。この中で、基礎的な神経学的能力、協応性、複合能力の3つの領域に、前庭感覚と関連する姿勢保持、姿勢バランス能力、触覚、目と手の協応、行為機能など感覚統合機能を評価する検査が含まれています。
JMAPはスクリーニング検査であるため、JMAPだけで子どもの発達や感覚統合の状態を判断するのではなく、検査結果からより詳細な評価が必要な領域を決定することを目的としています。
 
 
2.感覚調整障害の評価
感覚調整障害の評価としてJSI-R、日本版感覚プロファイルがあります。両方とも感覚調整障害と関連する行動がどの程度の頻度であるのかを質問紙により評価します。

①日本版感覚インベントリー(Japanese Sensory Inventory Revised; JSI-R)
JSI-Rはインターネットから無料でダウンロードできます(http://jsi-assessment.info/jsi-r.html)。JSI-Rの適応年齢は、制限されていませんが、4~6歳の子どもの保護者を対象に標準化されているため、対象児の年齢が4~6歳でない場合や回答者が保護者ではない場合、その解釈には注意が必要となります。
JSI-Rは、147の質問項目から構成されており、前庭感覚、触覚、筋肉・関節の感覚(固有受容覚)、聴覚、視覚、嗅覚、味覚、その他の8つの感覚と総合点を以下の3段階で評価します。
 Green:「典型的な状態(定型発達児の約75%に見られる)」
 Yellow:「若干、感覚刺激の受け取り方に偏りの傾向が推測される状態(定型発達児の約20%に見られる)」
 Red:「感覚刺激の受け取り方に偏りの傾向が推測される状態、すなわち、ある刺激に対して過敏であったり、鈍感であるような状態(定型発達児の約5%に見られる)」
結果が、Yellow、Redである場合、その感覚に感覚調整障害の可能性を示唆しますが、過剰(過敏)もしくは過小反応(鈍感)のどちらかはスコアのみでは判断できないため、どの質問項目にどのように回答しているのかを確認することが重要です。

②日本版感覚プロファイル
日本版感覚プロファイルは1999年、米国の作業療法士ダンによって開発されたSensory Profileの日本版です。Sensory Profile は、乳幼児用(0~6ヶ月児用と7~36ヶ月児用 2002年)、3~10歳用、青年・成人用(11歳以上)(2002)の3種類があり、日本版も3種類すべてが再標準化されています。臨床で使用することが多いのは、日本版感覚プロファイルで、感覚刺激に対する行動反応を、保護者や子どもをよく知る者が評価します。
日本版感覚プロファイルの原版であるSensory Profileは3~10歳を対象としており、11歳以上は自分自身が質問紙を回答する自己評定式の青年・成人感覚プロファイルを使用するようになっています。しかし、発達の障害がある場合、自身での回答が困難であったり、正確な情報が得られないことも多くあります。そのため、日本版感覚プロファイルは、11歳以上(対象年齢3~82歳)でも保護者や子どもをよく知る者が評価できるようになっています。
日本版感覚プロファイルは、125の質問項目から成り、感覚処理、調整、行動や情動反応の3つに分かれています。さらに、感覚処理は6セクションの感覚処理システム、調整は5セクション、行動や情動反応は3セクションに分かれています。スコアは、セクション、象限、因子の3つにより評価できますが、象限スコアが感覚プロファイルの解釈の中心となります。象限スコアは、ダンの感覚処理モデルである「低登録」、「感覚探究」、「感覚過敏」、「感覚回避」の4分類について、平均的、高い、非常に高い、の3段階で判定されますが、象限スコアは、すべての感覚を総合的に見た結果であるため、どの感覚が結果に影響を及ぼしているのかはスコアだけではわからず、JSI-R同様どの質問項目にどのように回答しているのかを確認することが重要です。
 
3.感覚統合の診断的検査
感覚統合障害の診断的検査として米国では南カリフォルニア感覚統合検査(SCSIT)やSensory Integration and Praxis Tests(SIPT)が使用されてきましたが、日本では標準化されませんでした。2011年、日本で4~10歳の子どもを対象にした感覚統合障害の診断的検査であるJAPAN感覚処理・行為機能検査(Japanese Playful Assessment for Neuropsychological Abilities:JPAN)が誕生しました。検査は姿勢・平衡機能、体性感覚、行為機能、視知覚・目と手の協調の4領域で、それぞれの領域は姿勢・平衡機能6検査、体性感覚7検査、行為機能15検査、視知覚・目と手の協調4検査の計32検査で構成されています。JPANの「P」はPlayfulで、検査は子どもが主体的かつ遊び感覚で取り組めるよう工夫されています。
 



次回は、実際の症例を通して感覚統合の評価についてみていくことにします。

執筆者プロフィール

加藤 寿宏
関西医科大学 リハビリテーション学部
作業療法学科 教授
関西医科大学 リハビリテーション学部
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【専門】
 発達障害の作業療法
 感覚統合療法
 
【資格】
 専門作業療法士(特別支援教育)
 公認心理師
 日本感覚統合学会認定セラピスト
 特別支援教育士 SV

 
【学会】
 京都府作業療法士会副会長
 日本感覚統合学会副会長、講師
 日本発達系作業療法学会会長

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