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変性疾患に対するスプリント療法の考え方と実際

スプリント

リハビリテーション

変性疾患に対するスプリント療法の考え方と実際

学校法人滋慶コミュニケーションアート 京都医健専門学校
谷村 浩子

2022-10-17

京都医健専門学校でのスプリント作製の様子

当校ではスプリントの授業もたくさん行っており、オルフィキャストをメインで使用しています。時間の短縮になることで多くの種類を作製することができるため経験を積むことができます。また、指導も簡単です。
以前はオルフィットやアクアプラストを使用し型紙を使ったスプリントを作製していましたが、オルフィキャストができてからは切り替えました。しかし、汎用性を高めるために、型紙の作製は実施します。(当校の)授業では背側カックアップスプリントやPIP関節伸展矯正用動的スプリント、短対立装具、RICなどを作製しています。オルフィキャストを使用する利点として、大きく失敗する学生がいなくなったことが挙げられ、スプリント作製に対する心理的なハードルが下がっているのではないかと考えております。

変性疾患に対するスプリント療法の考え方と実際

今回は、関節リウマチや変形性関節症に対するスプリント療法についてご紹介します。作製の実際としてオルフィキャストを使用した背側カックアップスプリント、短対立スプリントの作製方法についてご紹介します。

RA手に対するスプリント療法

RAの治療目標は皆様ご存知の通り、生物学的製剤登場前は疼痛のコントロールが主目的でした。当時は疼痛の緩和が主目的であり、骨破壊の防止や関節機能の維持は困難でしたが、薬物療法の進歩によって関節破壊を防止し、身体機能の維持へと目的が変わってきています。しかし、強力な薬物療法によってすら完全な骨関節破壊の抑制や関節機能障害の防止は未だに困難であり、身体機能の改善のための手術療法やリハビリテーション治療の役割は大きいといわれております。1)

1)髙木理彰, 高窪祐弥, 成田亜矢, 村川美幸:関節リウマチ治療の進歩―リハビリテーション治療の役割―. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine58(5),:528-535,2021.

発症早期からの機能的寛解を見据えたスプリント療法

早期からの機能的寛解を図るためにはスプリント療法が必要ではないかと考えます。手は最も罹患頻度が高く関節破壊が早期から見られる部位といえます。このため疾患活動性を反映し、手根骨の圧壊が進むといわれています。これらは低疾患活動性(炎症症状が治まってきて活動性が激しくないということ)の状態になり、臨床的寛解を得られていても、変形性関節症の進行を認めるといわれています。2)このような状態で、疾患活動性低下し、疼痛も改善することで、病前のように手を使用するようになると、破壊は進んでいくことが考えられるため気を付ける必要があります。
RA が低疾患活動性になっても、手足の小関節に破壊性関節病変が進むことがある
3)ということや、早期よりすでに生じた関節破壊は臨床的寛解を得たのちの疼痛緩和などによる過用や誤用により進行する危険性をはらんでいるということがいえます。

手関節病変による手根骨高の減少は、外在筋が緩むことによる相対的な内在筋プラスを呈すると考えられます。これによりスワンネック変形や尺側偏位が助長されます。
これらの変形を助長させないために、内在筋のストレッチや日々の患者さん自身でのケアや手の訓練の実施などが非常に重要になります。また、カックアップスプリントを使うことによって外在筋の緊張を高めることができます。外在屈筋の緊張を高めることで、内在筋を使って行っていた手の使用を元のパターンに戻していき、スワンネック変形や尺側偏位を少しでも進行しないようにできると考えます。
しかしRAのスプリントの装着については、利点の認知ということがスプリントの使用に最も重要な決定要因であると言われています。RAにおけるハンドスプリントの使用率は36.6%と低く、スプリントを装着している半数の方が不快感を持っているという調査結果が発表されていました。4)不快感を軽減するためには、装着感の良い素材(通気性や肌触りが良い、見た目がスタイリッシュ)を使用することが重要ではないかと考えます。

RAに対してのカックアップスプリント(オルフィットソフト)



RAに対してのカックアップスプリント(オルフィキャスト)
2)石川肇:関節リウマチ手関節に対する再建術.MB Orthop,27(4):49-58.2014
3)石川肇:手術内容の変化:手.分子リウマチ治療,7(2):19-28,2014.
4)Arias-Martin, I., Reina-Bueno, M., & Munuera-Martinez, P. V.: Effectiveness of custom-made foot orthoses for treating forefoot pain: a systematic review. International Orthopaedics42(8): 1865-1875,2018.

作製の実際:準備するもの

実際に作製をするにあたり、必要な道具を用意する必要があります。スプリント療法を導入するには、多くの初期費用が掛かるのではないかということは、心配の一つと思われます。深型のホットプレートなどを家電量販店で購入することや、OT 室などにある調理動作訓練で使用するキッチンセットにアルミの鍋を用意し、その鍋でスプリント材を温めることで代用することもできます。ヒートガンはあった方が便利ですが、こちらも通販で廉価で購入が可能です。穴をあけるなどの作業は、革細工のポンチを使用するなど特に新たに購入の必要が無いものも多いです。
スプリント材は厚さの違うものなどを数種類用意していただくと疾患や対象者によって使い分けることができ、いろいろなものに対応できるかと思います。ストラップはソフトストラップ、そして裏面が接着剤のついたシールタイプの面ファスナーのオスを使用します。また、ネオプレンゴムなどの干渉素材、例えば当たっている部分がある場合、ダイナミックスプリントではブロックしている関節の端に入れられることで圧が直接掛かるのを防げるので、準備しておくと非常に便利です。

作製にあたっての留意点

留意点は素材によって強度に差があるため目的に合わせて素材を選択することが挙げられます。そして、自己で作製したスプリントのチェックができることです。
カックアップスプリントをチェックするポイントとしては 、
①MP 関節は問題なく屈曲できるか。どこの部分が MP関節なのかをしっかりとご理解いただき、屈曲を妨げないことが一番大きなポイントとなります。
②母指球を圧迫していないか(掌側のカックアップスプリントや全周型の場合)。
全周型の場合はCM関節も止めたい場合は問題ありませんが、母指と他指の対立が可能なのかということを確認します。
③スプリントの端をラウンドカットしているか。
角が尖ったままだと皮膚に食い込んで痛いということもありますが、そこから破損することがあります。
④ストラップは長すぎたり短すぎたりしない適正な長さであるか。
⑤骨の突出部の圧迫はないか。
⑥全面で接触しているか。
⑦スプリントにシワやへこみはないか。
以上の点に留意してください。

短対立スプリントのチェックポイント

第一指間腔のカーブを潰さないことがまずは大切です。ここにシワが入ると装着時に痛みが発生してしまいます。母指を保持しながらカーブに沿って素材を引っ張りながらフィットするようにモールディングをしてください。
短対立スプリントのチェックポイントは以下の点が挙げられます。
①手関節の動きを妨げない。
②IP 関節の動きを妨げない(IP関節の固定を目的としない場合)。

オルフィキャストについて


 

低温の熱可塑性ニット素材です。装着感が非常に良く、従来のシートの素材と同じく形状記憶性に優れて繰り返し使用が可能です。色々なサイズがあり、それぞれの用途に分けて使うことができます。
手では幅6センチの物を使用することが多いですが、厚さが2種類あるため、用途による使い分けが容易です。
作製時の注意点として挙げられるのは、ニット素材のため縮むという点です。
そのため、元の長さぐらいまで引っ張りながらモールディングをすることが必要です。縮んだまま使用すると目の詰まった硬い質感となります。しかし、引っ張り過ぎると薄くなり強度が低下するため、元の長さより少し長め程度を基準にします。形状記憶性に優れてはいますが限度はあります。4回、5回とやり直すと素材が少し硬くなるイメージがあるため、やり直しは3回くらいと思っていただくと心配はないかと思います。
作製する部位よりも素材が大きいと扱いづらいです。伸びやすいため、少し小さめの方が扱いやすくモールディングも行いやすいと思います。例えばサムホールを開けたい時や指を通すような切り込みを入れる時はかなり小さな穴でも大丈夫かと思います。

背側カックアップスプリント

では実際にカップスプリントの作り方を見ていただこうと思います。

12cm幅のオルフィキャストを使います。手に合わせ、遠位と近位の手掌皮線の基部間(MP関節)に切り込みを入れます。ここに指を通します。動画は2倍速ですが、すごく早く作製できます。あまりオルフィキャストをベタベタ押したりせず、素材の自重を使いながらモールディングします。

失敗した場合や細部の形を整える際に再度お湯につけて修正することもできます。

ストラップはしっかりと乾かして接着します。面ファスナーのオスはヒートガンで本体を少し温めてから接着しないと剥がれやすいです。

オルフィキャストの縁はニットのためギザギザしている場合があります。その場合は切り落としてスムーズにします。

本体の作製は慣れた者では3分程度、学生は失敗しながらでも大体40分くらいで完成できます。他の素材と違い、スプリントの作製が初めての場合でも大きく失敗しないところも特徴であると言えます。シートの熱可塑性スプリント材の場合、人によっては大失敗することもありますが、オルフィキャストの場合は大きく失敗しないので学生自身の満足度も高いと思います。

そうなりますと学生さんはスプリントに対してあまりハードルの高さを感じなくなってくれます。その経験は臨床に出た時に、例えば回復期などの脳卒中片麻痺の対象者の場合にも様々なプリントの提案ができるようになるのではないかと期待しています。





動画について:オルフィキャストを用いた背側カックアップスプリントの作製【パシフィックニュース2022.10.17号】

短対立スプリント

オルフィキャスト6㎝幅を手に1周巻き付けていきます。幅が広ければカットして使用します。まず示指と母指の間(第一指間腔)に当て、親指に巻き付けて母指球に合うように引っ張りながらモールディングをします。そして余分なところをカットし、ストラップを取り付けると完成です。3cm幅を使っても作製できます。いろいろな形のものが作製できますので、患者さんに合ったスプリントを作製いただけたらと思います。





動画について:オルフィキャストを用いた短対立スプリントの作製(MP固定)【パシフィックニュース2022.10.17号】





次は MP 関節をフリーにするタイプの短対立スプリントです。

まず乾いた状態で手に合わせ、サイズを確認し必要な長さにカットします。次にサムホールをカットします。そしてお湯で温めモールディングします。

サムホールから長いほうが背側に来るようにし、しっかり引っ張りながら母指球の丸みに合わせます。対立位を取らせ、ウェブにシワが入らないように注意します。





動画について:オルフィキャストを用いた短対立スプリントの作製(MPフリー)【パシフィックニュース2022.10.17号】

執筆者プロフィール



谷村 浩子

専門作業療法士(手外科)
認定ハンドセラピスト


1985年3月 国立善通寺病院附属リハビリテーション学院 作業療法学科卒業
1985年4月 大阪医科大学(現:大阪医科薬科大学)附属病院入職
2011年3月 同院退職
2011年4月 京都医健専門学校作業療法科入職 現在に至る

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