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パシフィックニュース

震災特集 3

震災特集

震災特集  3

一般社団法人日本リハビリテーション工学協会

2012-01-01

一般社団法人日本リハビリテーション工学協会副会長 兼東日本大震災復興支援に関する専門委員会委員長 沖川 悦三 (神奈川県総合リハビリテーションセンター) 同会長 相良 二朗 (神戸芸術工科大学教授)

日本リハビリテーション工学協会による東日本大震災復興支援

日本リハビリテーション工学協会による東日本大震災復興支援に関する取り組みついて

被災地の問題は、時の流れと共に変化し、各々被害が複雑さを増し、迷宮入りすることが懸念されます。多くの団体や企業、個人が今自分に出来ることを真剣に考え、支援活動の輪が拡がりつつあります。今回の震災特集は、一般社団法人日本リハビリテーション工学協会の被災地復興支援の取組みについて、紹介します。現地のニーズを収集し、協会会員や賛助企業の連動を図り、補助器具の提供や、仮設住宅における生活環境改善等、リハ工学分野においての支援活動を開始しました。

このパシフィックニュースが発行されるのは、1月。被災地の東北は一番寒い時季を迎えます。震災で家とともに多くのものを失った方々に少しでも支援の光が差し込むことを願っております

箱塚桜応急仮設住宅案内図

2011年8月の閖上地区の様子。向こう側が海

写真1:基本的な建物の様子と砕石の通路

はじめに

2011年3月11日の午後3時前、私は神奈川県厚木市にある職場で非常に大きな揺れに遭遇しました。それはこれまでの人生の中で経験したことのない大きさの揺れでした。どのくらいの時間揺れていたのかは覚えていませんが、かなり長く揺れ、職員同士では「怖かったね」「びっくりしたね」などと、少し大きな地震があったなという程度の反応でした。その日の夕方、横浜市内に出かける予定があった私は自宅に帰り、出かける準備をしていましたが、そこに鉄道がすべて止まっているという情報が入ってきました。それから少しずつ被害が大きかったことがわかってきて、東北地方の太平洋側が甚大な被害を受けたことを知ったのは翌日のことでした。それからのテレビ報道による津波の映像はとても現実とは思えないものでした。そして3月11日は地震の記憶とともに地震とは別のその日の記憶が刻まれた日になりました。

翌日からはまず被災地域にいる知り合いの安否確認を始め、1週間ほどで少しずつ状況が確認できるようになってきました。そんな折、宮城県在住の日本リハビリテーション工学協会(以下、リハ工学協会)車いすSIGメンバーより現状を知らせていただくメールが届き、地震直後の厳しい状況がわかってきました。そのときのメールは現地の混乱と想像を超える苦労の様子が伝わってくるものでした。そこでSIGメンバーに呼びかけ、情報収集しながら私たちができることを探し始めました。そして現地から、不足している福祉用具などの情報が集まり始め、SIGからリハ工学協会による活動へと広げていきました。

今回、リハ工学協会による東日本大震災に関する復興支援活動の様子を報告する機会をいただきましたので、その内容を紹介いたします。

写真2:スロープが設置された棟

写真3:浴室段差と跨ぎ高さの高い浴槽

写真4:矢崎化工株式会社よりイレクターバイブ等の資材提供

地震発生から第一次復興支援活動完了までの経緯

地震発生から第一次復興支援活動完了までの経緯をまとめてお示しします。
3月11日 東北地方太平洋沖地震発生
3月13日 予定されていた第122回理事会を4月に延期する
3月28日 宮城県リハビリテーション支援センターより杖の支援要請(協会員 吉田氏経由)
4月 7日 第一便となる支援物資としての福祉用具を宮城県リハ支援センターへ搬入
4月10日 理事会にて東日本大震災復興支援に関する専門委員会を設置
(担当:川村企画担当理事、委員長:沖川事務局統括理事)
4月14日 バリアフリー2011の会場にて日本車いすシーティング協会、日本福祉用具・生活支援用具協会、日本福祉用具評価センター、リハ工学協会の代表が協議を行い、「みちのく補助器具ネット」というメーリングリストを立ち上げ、補助器具支援のネットワークを構築
4月20日 リハ工学協会HPに震災復興支援関係の情報をアップロード開始
SIG住まいづくりと日本作業療法士協会の中村春基会長と協同で、「応急仮設村の提言」をまとめ、発表した
5月 7日 宮城県リハ支援センターよりリハ工学分野での支援要請
5月24日 宮城県名取市箱塚桜応急仮設住宅(箱塚桜団地)の視察許可が下りる
5月25日 被災地でのトリアージのための福祉用具アセスメントシートを仮作成
5月29日 箱塚桜団地・仙台空港・桃生福祉避難所視察
福祉用具アセスメントシート 試験運用
視察者:理事長(当時)・相良氏、専門委員会委員長・沖川
協会事務局:深野氏
調整役:吉田氏
5月30日 箱塚桜団地視察 住宅改修の必要性を入居者・視察者で確認
6月22日 仮設住宅を採寸するための採寸シートVer.1.1完成
6月30日 最終となる支援物資としての福祉用具を宮城県リハ支援センターへ搬入
8月 4日 箱塚桜団地 住宅改修開始 総勢50名
8月11日 震災発生から5ヶ月
8月12日 箱塚桜団地 第一次住宅改修活動完了

写真5:株式会社ジェー・シー・アイの工場の機械をお借りして作業中

写真6:仮設団地の敷地の一角をお借りして踏み台の製作中。

写真7:作業用テントの様子

応急仮設住宅への支援内容

1995年の阪神・淡路大震災のときに建設された仮設住宅は出入り口や水回りに大きな段差が作られ、周囲に敷かれた砕石が移動の妨げになりました。2004年の中越地震のときに建てられた仮設住宅では浴室段差への踏み台が全戸に用意され、2008年の岩手・宮城内陸地震のときには車いすを使用する入居者のために出入り口にスロープを施工したものも建設され、少しずつバリアフリーが取り入れられてきました。しかし、災害救助法で定める仕様ではバリアフリーを採用することは難しいのが現状です。

そこでリハ工学協会SIG住まいづくりは、日本作業療法士協会の中村春基会長と協同で、バリアフリーとコミュニティ形成および寒暑対策の視点から「応急仮設村の提言」をまとめ、発表しました。

避難所から仮設住宅へ移り、生活が安定するにつれて、いろいろな問題が生じてくることが予想され、仙台市在住の協会員 吉田泰三氏を窓口として、5月上旬に入居が始まった名取市箱塚桜応急仮設住宅(102戸)をモデルケースとして生活環境改善の支援活動を開始することにしました。

5月29日と30日にかけて現地を訪問し、自治会役員から現状の問題をヒアリングし、併せて住宅内部を見せていただきました。箱塚桜団地には甚大な被害を受けた名取市閖上(ゆりあげ)地区の方々が揃って入居し、自治会組織もそのまま機能していました。この時点では具体的な数は不明ですが、

  1. ①浴槽の跨ぎ高さが高く浴槽の出入りが困難な高齢者が多い点
  2. ②釘を打つなどの改修行為が禁止されていたため収納が少なく、床に物が置かれている点
  3. ③砕石部分の通行が困難な点
  4. ④雨どいがなく雨だれの音が大きい点
  5. ⑤浴槽に追い焚き機能がないため冬場の入浴が心配

などが問題点として挙げられました。(写真1,2,3参照)

この調査をもとに、住民のニーズを把握し、メーカー毎に異なる仮設住宅の細部を記録するための調査票を作成しました。
事前調査で挙げられた問題のうち、我々で解決法を見出し実証することができ、できるだけ早期に解決が求められている問題として、浴槽への出入りを取り上げ、洗い場へ置く踏み台を提案することとしました。洗い場床全体を嵩上げするスノコという解決法もありますが、経費とメンテナンスの容易さから今回は踏み台としました。これより前に宮城県リハ支援センターからの要請で、すでに現地に送っていたイレクターパイプシステムが利用できるからでもありました。
洗い場用踏み台と浴槽内踏み台の基本設計を行い、高さについては現地でのヒアリングで対応することとし、8月4日から12日の間、現地での作業を行うべく準備を開始しました。

現地での作業にはリハ工学協会の車いすSIGとSIG住まいづくりのメンバーに加え、神戸芸術工科大学、日本大学、目白大学の学生もボランティアとして加わり、総勢50名が交替で参加しました。資材の荷受けと加工場所を株式会社ジェー・シー・アイ本部工場に提供いただき、追加のイレクターパイプシステムを矢崎化工株式会社に提供いただきました。

全戸に対してヒアリングを行う班と、製作する班に分かれ作業を行いました。期間中に実施した支援は、洗い場用踏み台41個、浴槽内踏み台10個(後日調整)、スノコ3件、ワゴン3個、踏み台・腰掛台8個、玄関用踏み台1個、換気扇スイッチ延長1件、手すり位置変更1件です。現地作業の途中から、仙台高等専門学校環境デザイン学科の熊谷広子助教と学生が参画し、我々の活動と資材の残部を引き継ぐことができました。

写真8:浴室洗い場用スノコの製作中

写真9:仮設住宅の子供たちもお手伝い

写真10:できあがった洗い場の踏み台を納品

3ヶ月後の状況調査

8月におこなった支援活動終了時、3ヶ月後に使用状況や不具合の確認のため再訪問することを決め、11月に実施することにして調整しました。また、次は冬の寒さや結露に対する問題が出てくることは容易に想像できていました。リハ工学協会にはそれらに対する物理的な支援をおこなう体力はないと判断しましたので、特に結露に対する対策をまとめ、情報として事前に箱塚桜団地にお知らせしました。その情報は非常に役に立ったと自治会役員の方からお礼の言葉をいただきました。寒さ対策としての自治体による断熱材の追加工事は11月半ばには完了していました。

そして11月25~27日に宮城県に入り、まず、仙台高専が継続支援してくれていた箱塚桜団地の居住性改善のための支援活動の報告を聞き、その後宮城県リハ支援センターに移動して今後の支援活動のヒントになる話をうかがいました。これらと並行して目白大学の学生と仙台白百合女子大学の学生とで8月に支援した内容の内、製作した用具62個についての聞き取り調査を実施しました。

結果の詳細は現在まとめていますが、使用していた用具は62個中56個でした。使用していない理由は冬になると寒くて使わない、使う必要がなくなった、などでした。10点満点の満足度の平均点は約7.5点で良い評価をいただけたと感じています。

写真11:試してもらいました。踏み台がないと跨ぐのが厳しい

写真12:スノコ。真ん中の穴は掃除の時に持ち上げるため

写真13:補高便座。これはデイサービスへも持ち運べるよう脱着式

今後に向けて

従来に比べてバリアフリー度が高まった今回の仮設住宅においても、高齢者を中心に多くの問題を抱えており、簡単な補助器具を提供することで、生活の改善が可能なことを実証できました。東北地方は厳しい冬を迎えており、夏とは異なる問題が生じることも経験しました。

このことは容易に想像できていたはずなのに事前に対策がなされていなかったことは教訓として確実に改めていかなくてはいけないことです。2年以上の入居が想定される応急仮設住宅には継続的な支援が必要です。仮設住宅での生活をよりよくしていくためのノウハウの提供も今後の重要な支援内容になると考えています。

写真14:玄関段差の解消

換気扇スイッチの延長、手元スイッチで電源を入れる。虫除け網を設置。

あとから畳を入れたため段差がや隙間ができ、つまづきやすく危険。

謝辞

この活動には、矢崎化工株式会社から資材の提供を、株式会社ジェー・シー・アイからは設備の提供を、横浜市福祉用具協会(代表:荒井孝雄氏)および福祉と住まいの研究会(代表:出路光一氏)からは資金提供を、SIG住まいづくり(代表:橋本美芽氏)と車いすSIG(代表:松尾清美氏)からは人材ならびに資金の提供をいただきました。

また、目白大学の玉垣努氏(現、神奈川県立保健福祉大学)と目白大学の学生、杏林大学の森田千晶氏、仙台高等専門学校の熊谷広子氏と学生、日本大学八藤後研究室の学生、および神戸芸術工科大学相良研究室の学生諸氏にボランティアとして参加いただきました。さらに、箱塚桜応急仮設住宅の自治会および住民の方々には我々の活動を受け入れていただきました。11月のフォローアップ調査では玉垣氏と目白大学の学生に加え、仙台白百合女子大学の学生にも参加していただきました。ここに記して謝意を表します。

メンバーと子供たちで記念撮影

postgresグループの復興支援

postgresグループは、支援物資を被災地の方々へお送りする活動を実施してまいりました。また、新たな私たちにできる活動として、東日本大震災で被災された感覚統合訓練器具をご利用されている地域に向けて弊社を窓口とした支援を下記の通り実施いたします。

全国の感覚統合訓練器具をご利用されている皆さまへ

  1. 各地域の施設さま、学校さまでご提供いただける器具を弊社に送付
  2. 弊社にて器具の安全性を点検し、必要であれば修理などを行い、器具を再生します。
    ※器具の点検項目:カラビナ、ロープ、生地など
  3. 再生後必要とされている施設、学校に出荷いたします。器具の点検・修理費や、器具の送料については、弊社にて負担いたします。

★ 全国の感覚統合訓練器具をご利用されている皆さま
ご提供可能な器具がございましたら、弊社までご連絡ください。
器具発送先をご連絡いたします。器具は弊社製のものに限ります。
★ 被災地にて感覚統合訓練器具をご希望される皆さま
ご提供できる器具が整いましたら随時弊社ホームページにて掲載して参りますので、お申込をお願いします。

支援物資専用お問合せ窓口
パシフィックサプライ株式会社 事業開発本部
担当:藤田・黒島
TEL:072-875-8013/FAX:072-875-8017
E-mail:shien@p-supply.co.jp
法人・個人は問いません。