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パシフィックニュース

回復期リハビリテーション病棟での義足リハビリテーションの実際

義肢

リハビリテーション

回復期リハビリテーション病棟での義足リハビリテーションの実際

JR東京総合病院 リハビリテーション科
主任医長 田中 洋平

2022-11-01

2022年4月と7月、弊社のオンライン特別プログラムにて、JR東京総合病院リハビリテーション科の田中洋平先生にご講演いただきました。義足リハビリテーションに関わる専門職の皆さまにご好評をいただいた内容ですので、改めてパシフィックニュースとしてお届けいたします。



JR東京総合病院 リハビリテーション科 主任医長
医師 田中 洋平 先生
 
【ご略歴】
2004年 三重大学医学部医学科 卒業
2004年 東京都立広尾病院 臨床研修医
2006年 東京大学医学部附属病院 整形外科
2007年 NTT東日本関東病院 整形外科
2008年 東京都立北療育医療センター 整形外科
2009年 総合病院国保旭中央病院 整形外科
2011年 茨城県立中央病院 整形外科
2012年 東京都立北療育医療センター 整形外科
2014年 JR東京総合病院 リハビリテーション科 医長
2021年 JR東京総合病院 リハビリテーション科 主任医長
 
【所属学会】
日本リハビリテーション医学会、日本整形外科学会、日本義肢装具学会
 
【資格】
日本リハビリテーション医学会 専門医・指導医
日本整形外科学会 専門医
日本障がい者スポーツ協会公認 障がい者スポーツ医
 
JR東京総合病院ホームページ
https://www.jreast.co.jp/hospital/index.html/

JR東京総合病院 回復期リハビリテーション病棟の義足患者数

JR東京総合病院は425床の総合病院です(一般病棟336床、回復期リハビリテーション病棟42床、結核病棟2床、地域包括ケア病床45床)。私が主に義足リハ目的の入院患者さんを診ているのはその中の回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)です。総合病院の中にありますが、他のいわゆるリハビリテーション病院と同じような仕組みで運営されています。当院には急性期病棟もありますが、切断の患者さんに関してはほとんどが他院で切断術が行われ、リハビリ目的で当院に転院されてきます。
 
以下は、当院の回復期リハ病棟における切断高位別の入院患者数です。2014年、私が赴任した頃は下腿2名、大腿2名の計4名でしたが、積極的に切断の患者さんを受け入れるようにしたところ、徐々に患者さんを紹介していただけるようになり、最近では年間20数名の新規切断患者を受け入れています。
内訳は下腿切断が多く、次に大腿切断、その他股離断や両下肢切断が少数という形です。両下肢切断の中には片側もしくは両側が大腿切断という患者さんを含んでいます。
切断の原因疾患を2021年のデータで見てみると、DM、ASO、急性動脈閉塞といった血管原性切断の割合が全体の76%と多くを占めており、その他悪性腫瘍は10%、外傷は7%、感染は7%という結果でした。


義足の適応について

JR東京総合病院では義足の適応を以下のように考えています。


義足の適応になる方は、義足を装着して元気に歩きたい、屋外は車いす移動だが、自宅の中だけでも義足を装着して歩きたい、歩けないが、義足を装着することで車いすとベッド・トイレ間の移乗がしやすくなる、といった方々です。
義足の適応にならない方は、切断術後の傷が治っていない、リハビリに取り組む意欲がない、全身状態が安定していない、重度の認知症や高次脳機能障害がある、全盲、の方々と考えています。上記のIV、Vは義足の管理が自分で行えないからですが、ご家族や周囲の支えで適応になる場合もあります。

義足リハにおける目標の設定

義足リハの目標、ゴールはどのように考えるべきでしょうか。患者さんを取り巻く様々な要因に目を向ける必要があります。患者さんの基本的な情報、心身機能、活動、参加といった生活機能だけでなく、現在の健康状態や環境因子、個人因子といった背景因子も考慮に入れて患者さんの状態をとらえます。患者さんごとに様々なバリエーションがあります。
目標は患者さんに合わせて、患者さんごとに決めることが大切です。義足リハのゴールは歩けるだけではありません。移乗動作のために義足を活用する患者さんもいます。

切断術後の流れ

以下は切断術後の基本的な流れです。切断術から始まり、状態が落ち着いたら多くが回復期リハビリテーション病棟に転院します。そこでリハビリを行って、最終的に訓練用仮義足を作って退院となりますが、仮義足までにキャストソケットやチェックソケットで作った義足を使用するのがポイントと考えています。退院後も病院または製作所で外来フォローして本義足につなげます。

急性期の義足リハビリテーション

義足リハの急性期では、ストレッチや筋力訓練を行います。股関節や膝関節は固くなりやすいので、念入りにストレッチします。大臀筋や中殿筋、大腿四頭筋といった筋肉はきれいに歩くために重要な筋肉なので、重点的に鍛えるようにします。
断端のソフトドレッシングは創部が治ってきたら弾性包帯、もしくはスタンプシュリンカーを活用して実施します。急性期病院でも義足なしの状態での歩行訓練を行う場合があると思いますが、糖尿病足壊疽切断の患者さんは注意が必要です。足変形を伴うことが多く、その足に過剰な負荷がかかることで足底に皮下出血や潰瘍を生じることがあるからです。また、松葉杖歩行訓練は非切断側に負荷がかかりやすく、足潰瘍を生じる原因になるので避けるべきです。


 

ソフトドレッシングとは

ソフトドレッシングの目的は断端の血腫予防と断端の成熟促進です。弾性包帯は値段が安くて病院であればどこでも手に入るというメリットがある反面、すぐにずれる、巻くのに技術を要するというデメリットがあります。一方スタンプシュリンカーは装着が簡単ですが、値段が5、6000円と高いのと義肢装具士にお願いして用意してもらうので装着開始まで少し時間がかかります。大腿切断は特に弾性包帯が外れやすいので、スタンプシュリンカーを使うことをお勧めします。

弾性包帯の巻き方

切断後初期は断端が球根状になっていることが多いです。弾性包帯を巻く時は末端の腫脹が軽減するよう、矢印で示した部分はややきつめに、それ以外はゆるめに巻くのがポイントです。

回復期の義足リハビリテーション

回復期の義足リハビリテーションの入院リハの目的は、以下の4つになります。

仮義足完成までの流れ

活動レベルによって内容が多少変わりますが、以下は最も対象者が多い活動レベル、K2〜3レベルを対象としたプロトコールを示しています。



Kレベルとは

活動レベルのKレベルとは、アメリカ合衆国における高齢者および障害者向け公的医療保険制度であるメディケアにおいて、下肢切断者の義足の必要性と潜在的な有用性を定量化するための手段として設定されたものです。


K1は超低活動レベル、K2が低~中活動レベル、K3が中~高活動レベル、K4が高~超高活動レベルと分類されています。
 
患者さんは、断端の創部は治癒した状態で転院してきますが、多くはまだまだ断端の腫れが強い状態です。そのため、まず、入院したら早期にシリコーンライナーの装着を開始します。夜間はスタンプシュリンカーを使ってもらうことが多いです。



ライナーを1週間履いた後、転院後1週を目処に、義肢装具士にギプス固定の時に使うプラスチックキャストを用いて義足を作ってもらいます。この義足のソケットのことをキャストソケットと呼んでいます。これにより低コストで、その場ですぐに装着可能な義足を患者さんに提供することができます。あくまで一時的な義足という位置づけです。
足部パーツは低活動用のものからスタートします。懸垂方法はカフベルト懸垂にすることをお勧めします。OTは主に生活動作を担当しますが、この段階では義足を履かない時の移動手段の獲得に介入してもらいます。ピックアップ歩行器での移動を習得してもらうことが多いです。

 

【下腿義足】
【大腿義足】



キャストソケット義足でしばらくリハビリを続けた後、転院後5週を目処にチェックソケットを使った義足に移行します。チェックソケットは義肢装具士に採型してもらった後に出来上がる仮合わせ用のソケットです。これでまたしばらく義足装着下でのリハビリを進めます。可能な方は、懸垂方法をこのタイミングでピンロック懸垂に変更します。足部パーツはこの頃から症例に応じて、中から高活動者用の足部を試着します。
病棟内での義足歩行も開始しつつ、OTで義足装着下でのADL・IADL訓練、例えば入浴動作や炊事、掃除、洗濯等の練習を始めていきます。

 
【下腿義足】

 
【大腿義足】


そして、退院の約1週間前に仮義足を完成させてもらい、それを1週間程度履き慣らし、義肢装具士に最終的な義足の調整をしてもらい、退院としています。
 
【下腿義足】
【大腿義足】

義足や断端の自己管理方法の習得

義足を長く使い続けるために最も重要なことは、断端に傷を作らずに義足を履き続けることです。断端に傷ができる原因は、断端と義足との適合不良(フィッティングが悪い)、義足の履き方が悪い、義足のアライメント不良、の3つです。身体が太ったり、痩せたりすることでも断端の大きさが変わるため、フィッティングが悪くなり義足が合わなくなります。義肢装具士、理学療法士、医師はこれらのことを念頭に置いて患者さんを診るようにしましょう。
断端の傷を防ぐためにできることの1番目は体重とシリコーンライナーのサイズを確認することです。体重は何キロか数字で聞くようにします。断端末4cmの周径を確認します。糖尿病のコントロールの指標になるHbA1cの値を毎回聞くことも、糖尿病の治療がきちんとできているか確認できて有用です。2番目は断端とソケットとの不適合への対応です。断端袋やパッド等により適合を調整します。3番目はシリコーンライナーの正しい装着方法の確認です。4番目はアライメントの調整です。




退院後の生活確立、社会復帰への支援

介護保険は特に高齢者、糖尿病や閉塞性動脈硬化症を合併した低活動者ではできるだけ導入しましょう。介護保険は住環境の整備、手すりの設置、ベッドのレンタル、シャワーチェアやバスボードといった切断者が入浴するのに役立つ福祉用具を手に入れるために、利用することができます。訪問リハビリテーションも退院後の歩行能力の維持、改善のために有用です。訪問看護は糖尿病の管理、体重の管理、断端に傷ができていないかチェックしたりケアしてもらったりできるので有用です。ぜひ介護保険を活用する視点を持ちましょう。



外来フォローは仮義足の段階では1から2ヶ月に1回、本義足になったら3から4ヶ月に1回という頻度で行います。退院後、仮義足を作ってもらった病院に通院する体制ができていない病院もあるかもしれません。そのような場合でも担当した義肢装具士は何らかの形で定期的に患者さんを診られる体制を作るようにするのが理想だと思います。そうすることで切断者が退院後も長く、義足を履き続けられることにつながります。
外来診察時には義肢装具士と共に、①断端の傷の有無、②体重、③断端末4cmの周径、④フィッティング、これは患者さんが歩いている時のソケットの様子やその時に履ける断端袋の枚数などで判断します、そして、⑤義足のスタティックアライメント、⑥患者さんが歩いているところを見て歩容やダイナミックアライメントもチェックします。



 



理学療法士、義肢装具士との職種間連携を密接に取りながら、チームで切断者お一人お一人の社会復帰に向き合っていらっしゃることが、田中先生のご講演から伝わってきました。
切断から社会復帰へ向けての義足リハビリテーションは、患者さんを含め、リハビリテーションに関わる専門職の皆さんにとって挑戦の連続だと思います。弊社もメーカーとして、リハビリテーションの成功に向け、チームに欠かせないパートナーでありたいと気持ちを新たにしています。

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