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リフトのある生活

リフト・移乗用具

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リフトのある生活

社会福祉法人 緑寿会 越野荘
松下 愛

2022-11-15

施設概要

特別養護老人ホーム越野荘は富山県黒部市にあり、開所が昭和62年4月と富山県内でも比較的歴史ある施設だと思います。事業内容としては特別養護老人ホームをはじめ、デイサービスやショートステイのサービスを行っています。
定員は特別養護老人ホーム 多床室定員60名(30床2フロア)、ユニット個室定員20名(10床2ユニット)、ショートステイ定員20名(10床2ユニット)、デイサービス定員20名となっています。
 
黒部市の中でも山間に位置し、施設傍では、時折猿や鹿を見かけることがあるなど、自然に恵まれているのが特長です。春になると庭から見える桜の木を楽しむこともできます。
 
また当施設は富山県内に13施設ある『富山県腰痛予防対策推進福祉施設』として平成29年に指定されています。
※腰痛予防対策推進福祉施設とは、福祉・介護機器の導入や、その活用に向けた職員研修及び環境整備等に積極的に取り組んでいる施設

福祉用具導入の経緯

リフトは20年以上前に一部の居室と浴室に天井走行式リフトが導入され、平成21年には初めて床走行式リフトが導入されました。
ただその当時はリフトをはじめとする福祉用具の取り扱いを担当する職員がいなかったことや、福祉用具に関する施設内部研修制度が整っていなかったため、リフトの使用頻度が少なく、また使用方法も職員によって違いがあるような状態でした。そのような状況が数年経過した後、平成24年に法人全体の取り組みとして「腰痛予防対策」を本格的に開始することになりました。機能訓練指導員を中心に腰痛予防対策として福祉・介護機器を適切に活用することにより利用者様自身の自立を引き出し、職員の身体に負担の少ない介護技術を身につける一つの方法としてリフトの取り扱いについても改めて学び直すことになりました。
腰痛予防対策の取り組み当初、腰痛予防対策チームとして機能訓練委員会(現在は衛生委員会)として活動し、腰痛予防に対して外部研修による知識、技術の習得、福祉用具の使用方法に関する施設内研修の開催や多機能車椅子、スライディングボード、スライディングシート、リフトといった福祉用具の追加導入を行いました。
腰痛予防対策は委員会を通して活動を行っていくため、委員会のメンバーの選任もとても重要でした。施設内での活動の周知や実技研修での技術指導において指導力のあるフロアリーダーや中堅職員から選任しました。また外部研修への参加は代表者1人ではなく3名のグループにて参加しました。1人での参加の場合、外部研修後に施設内で活動を広めていく際に、委員会活動や技術指導の際においてすべて1人が担当し進めていくことは負担が大きく、時間も要します。グループにて外部研修へ参加し専門的知識、技術を習得した職員を中心とした委員会メンバーで取り組みを進めていきました。外部研修へは腰痛予防の取り組みが定着するまでの数年間は毎年2~3名のグループでの参加を継続しました。今では研修を修了した職員が各フロアに2~3名配置されるまでになりました。

リフトの使用状況

特養全体の介護度平均が4.3と高く、移乗援助の際、全介助を要する利用者様の割合も高いため、リフトを含め福祉用具の使用頻度はとても高いです。

現在、保有している床走行式リフトの中に「モーリフト ムーバー180」があります。床走行式リフトを導入した当初、低床ベッド対応の床走行式リフトのみを使用していましたが、当施設の多床室の床材がクッションフロアのため、キャスターの小さい低床ベッド対応床走行式リフトでは、取り回しの際に必要以上に重く感じ、力を要していました。腰痛予防のために活用しているはずのリフトを逆に負担に感じてしまうという問題が発生しました。
「ムーバー180」は低床型ベッドに利用ができないと聞いていたのですが、リフトの対象者の場合、低床型ベッドに拘る必要はないと判断しました。キャスターが大きい「ムーバー180」の走行性の良さは大きな魅力でした。それに加え、ゆとりのある4点ハンガーと、脚部が電動開閉することも導入における重要なポイントでした。
脚部の電動開閉は、手動タイプに比べ少し時間がかかりますが、むしろその少しの間が利点だと考えています。
日々のケアの中で、どうしても時間に追われてしまうことがあります。脚部の開閉を待つ時間をきっかけに、職員が慌てず、一呼吸おいてほしいというのがその理由です。ベッドのリモコン昇降時も同様ですが、少しの間をもったいないと思わず、「一呼吸」おくことにより、腰痛予防や事故の防止に繋がると考えています。

最近はリフト移乗であっても、可能であれば二人介助を推奨しています。リフトであれば、一人で移乗介助を行うこともできるのですが、どうしても移乗の負担と責任が一人に集中してしまいます。リフトを使用するから一人介助が絶対ではなく、可能であれば二人介助で余裕をもって行うことにより、より安全なケアができます。特に新人職員に関しては先輩職員と行う機会が増えることにより、技術指導も時間を掛けて進めることが可能です。

二人で移乗介助を行う場面

現在、各フロアには1~2台の床走行式リフトを設置し、すぐに使用できる環境にしていますが、リフトの置き場所に関する課題があります。リフトを確実に使用する利用者様の居室内もしくは居室近辺に片づけておくことが理想ですが、フロアの構造上難しいこともあり、居室内の環境を変更する等、少しでも作業効率が下がらないよう工夫しています。

現状の置き場所

また居室以外でも、トイレや浴室にもリフトが設置されています。排泄場面や入浴場面においても、リフトを使用できる環境を整えており、リフトを使用するということが特別なことではなく日常生活援助の一部になっています。

トイレ内門型据え置きリフト(他社メーカー製)

浴室内壁付けリフト(他社メーカー製)

リフトを使い続けていくためには

リフトを始めとした福祉用具の使用を取り入れた当初、少なからず否定的な意見もありました。否定的な意見に対し、「使いましょう」といくら言っても受入れは急に変わりません。
委員会活動を通して、腰痛予防対策、利用者様の自立支援と位置付けながら福祉用具の使用について職員に働きかけていきました。
 
取り組み当初は福祉用具の正しい取り扱いについて研修の実施と共に、リフトやスライディングボードを使用する利用者様の設定は職員が負担と感じないように少ない人数から始めていきました。取り扱いに慣れ、職員自身が身体の負担がいかに軽減されているか実感できるようになると、福祉用具の使用を設定する利用者様の人数も一人、二人と確実に増えていきました。

委員会活動内容の一つとして、毎年、新人、ベテラン職員に限らず移乗援助業務に携わる職員は全員実技研修を実施します。リフトの操作に慣れたとしても自己流にならないよう、繰り返し正しい使用方法について実技を通して確認を行います。この研修に関しては取り組み開始から毎年必ず実施しています。
 
またリフトを含めた福祉用具の使用に関してはケアプランのサービス内容に位置付けています。機能訓練指導員と各フロアの委員会メンバーが中心となり、利用者様の身体状況に合わせた福祉用具の使用に関して検討し、プランに繋げています。プラン化することにより、使用の徹底も図れます。常にリフトを稼働している環境を作ることによって、リフトを使用することが当たり前の環境となり、操作忘れも予防することができます。
 
委員会活動を通して、福祉用具の取り扱いだけでなく、作業効率、作業環境も見直し、また福祉用具の追加導入の検討等、取り組みを地道に継続していくことにより、すぐそばに福祉用具がある環境、福祉用具を使用することが当たり前の日常に繋がったと考えています。

指導職員による施設内研修

リフトを通じて感じたこと

リフトをはじめとする福祉用具を使うことで利用者様の生活支援が広がります。

例えば、排泄援助において、身体状況によりトイレへの移乗が困難な利用者様の場合、今まではオムツでの排泄を余儀なくされていましたが、トイレにリフトを設置したことにより利用者様、介助者双方が負担なく便座への移乗が可能になり、トイレでの自然排便に繋がりました。トイレのリフト使用時に活用しているスリングの一つにモーリフトトイレ用スリングがあります。モーリフトトイレ用スリングは大腿部の内側から装着することにより、リフト上で衣類の脱着がとても簡単に行うことができるため、移乗の負担軽減と共に衣類の脱着介助の負担軽減にも繋がっています。

トイレでの介助

また単純に車椅子に座ってベッドから離れることができるだけでも、見られる景色が変わり生活の場面が広がります。

 

利用者様の生活の一部に福祉用具があるということ、職員の腰痛予防、介助方法の一つとして福祉用具があるということ。この当たり前の環境を大事に、また現状に留まることなく、今後も委員会活動を中心とした取り組みを継続していきたいと考えています。

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