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パシフィックニュース

脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 4

装具

リハビリテーション

脳卒中患者の戦略的装具療法のすすめ 4

II 脳画像から見た戦略的なリハビリテーションとは?その(3)
姿勢定位について

千里リハビリテーション病院 副院長 吉尾雅春

2012-01-01

今回は、姿勢定位障害に対する装具の役割について解説します。

1.姿勢定位障害

姿勢定位障害はリハビリテーションを進めていく上で大きな阻害因子になっているが、その対策は未解決である。姿勢定位障害の代表的なものとしてcontraversive pushingがあげられる。

  1. ほとんどの姿勢で非麻痺側に力を入れ、麻痺側方向に強く押す
  2. 他動的に姿勢を矯正しようとすると強く抵抗する
  3. 頭部の垂直定位は比較的保たれており、体幹が麻痺側に傾斜する

などを特徴としている。その対策を考えていくためにはpushing現象の発生機序を知ることが必要であるが、現状はその前段階にある。Pushing現象がみられた脳卒中患者の病巣はPedersen(1996)によれば内包後脚、内包前脚、側頭葉、頭頂葉、前頭葉、基底核、視床などであり、さらにKarnath(2000,2005,2009)は視床後外側と前大脳動脈領域を指摘し、Johannsen(2006)は島皮質、上側頭回、下頭頂小葉、中心後回をあげている。姿勢定位障害はこれらの大脳の障害の他に、脊髄小脳神経回路や前庭小脳神経回路のシステム障害によってもみられるが、ここではpushing現象に代表される大脳のシステム障害に絞って仮説を含めて説明する。

2.頭頂葉と姿勢定位

頭頂葉は体性感覚野(3,1,2)と頭頂間溝上部の上頭頂小葉(5,7)、頭頂間溝下部の縁上回(40)、角回(39)で成る下頭頂小葉で構成されている(図1)。上頭頂小葉と下頭頂小葉は頭頂連合野であり体性感覚、視覚、聴覚、前庭覚などの感覚を統合する連合野で、身体内外環境の感覚情報の集積や空間座標系の形成を行っている。視線のすばやい動きであるサッケード、リーチ運動、把握運動、立体視の高次処理などに関与してモーターコントロールの根幹を担っている。優位半球の下頭頂小葉障害では、失語、ゲルストマン症候群、失読、観念運動失行、観念失行などが、劣位半球の障害では半側空間無視、姿勢・身体図式障害、半側身体失認、病態失認、地誌的記憶障害などがみられる。

姿勢は主に視覚情報、体性感覚情報、前庭感覚情報によって制御されているが、通常は視覚情報と体性感覚情報が中心に活用されている。頭頂葉最前部の体性感覚野と後頭葉視覚野からの情報を受けてマッチングさせる頭頂連合野の障害によって姿勢定位の障害が生じると考えることができる。特に上頭頂小葉(5,7)と頭頂連合野内側面の楔前部(7,31,23)が重要である。下肢の体性感覚領域は楔前部直前の内側面に位置し(図2)、体幹の体性感覚領域のすぐ後方に上頭頂小葉が位置している。この領域が姿勢制御に関わると理解することは自然なことである。

図1

図2

3.視床と後頭葉、頭頂葉との連関

視神経を中継する視床外側膝状体は視覚情報を後頭葉(17)に投射し、その後、頭頂葉や側頭葉に伝えている(図1)。その情報が複視や眼振などで歪んだものであると姿勢保持に多少なりとも影響は与えるが、閉眼やアイパッチの利用などで凌ぐことはできる。しかし、半盲では視覚情報そのものが途絶え、且つ、両眼視差によって得られる遠近感が障害されて階段をうまく降りることができなくなる。体性感覚情報は内包後脚を介して視床後外側腹側核(VPL)で中継されて一次体性感覚野に投射される。視床外側にある一次投射野から上頭頂小葉、楔前部に送られるこの両者の情報が適切であることが重要である。

視床背側核のうち後外側核は姿勢制御に関わる上頭頂小葉、楔前部と神経線維によって相互連絡を行っている。Karnathの報告にある視床後外側核によるpushing現象はこの連関の障害として理解することができる。それらを結ぶ神経線維の損傷も同様に姿勢定位の障害につながる。

4.基底核と大脳皮質との連関

大脳基底核のうち尾状核、被殻を中心に皮質との関係を大まかに説明する(図3,4)。尾状核と被殻はもともと同じものであり、神経線維で連携している。特に格段に大きい前部の尾状核頭と被殻前部の結合は内包前脚を介して強く結合している。
尾状核頭、尾状核体は直近の皮質から線維を受け、基底核は

  1. 前頭連合野に関わる高次脳機能調整
  2. 将来のイベントを予測して不必要な行動の抑制
  3. 運動開始と空間作業メモリーの時系列制御
  4. 大脳皮質に対する運動制御

などに関わっている。楔前部と尾状核頭の連関が将棋プロ棋士の直観の創出に関わっているという報告(理化学研究所,2011)が注目されている。

また、楔前部のすぐ傍に尾状核体があり、尾状核体は被殻後部と内包後脚上方を介して線維連絡し、被殻のすぐ外側には島皮質後部が存在している。

図3

図4

5.頭頂葉と前頭葉の連携

頭頂連合野で処理された情報は動作を起こすために前頭葉に伝えられる。たとえば上・下頭頂小葉、楔前部でミスマッチした情報もそのまま前頭葉に伝えられる。前頭葉はその情報に対して相応に反応して、運動前野・補足運動野のプログラムによって動作を開始させる。その動作や姿勢は周囲の観察者には異様なものに見えることになる。さらにその動作から得られた種々の感覚情報は異常に統合され、前頭葉の混乱を助長することになる、と考えられる。この前頭葉皮質は尾状核頭とも連携して精神機能、認知機能、遂行機能、眼球の働きなどを調整しており、姿勢保持あるいは動作時におけるそれらの混乱は姿勢制御そのものに影響を与える、と考えられる。

姿勢定位障害に対する装具の役割は、感覚情報をできる限り安定化させ、いたずらに前頭連合野や運動前野の混乱を避けることにあると考えている。

吉尾雅春

千里リハビリテーション病院
副院長
日本理学療法士協会
神経理学療法研究部会長・
日本理学療法士協会
理学療法ガイドライン脳卒中班長
医学書院理学療法ジャーナル
編集委員
【主な著作】
・脳損傷の理学療法(1)・(2) 三輪書店
・運動療法総論 3版 医学書院
・運動療法各論 3版 医学書院

吉尾先生