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感覚統合Update  第10回:感覚統合療法 – 感覚統合療法の効果判定 -

感覚統合

感覚統合Update  第10回:感覚統合療法 – 感覚統合療法の効果判定 -

関西医科大学リハビリテーション学部 作業療法学科 加藤 寿宏

2023-04-03

前回は感覚統合療法(sensory integrative therapy)のキーワードである内的欲求、適応反応、just right challengeについて主に話をしました。
最初の予定では、第10回は最終回として第8回:感覚統合の評価―症例を通して― で紹介したお子さんの治療の解説を行う予定でした。しかし、日本において感覚統合療法とはいえない治療が感覚統合療法として紹介されていることも多いため、今回を含めあと3回感覚統合療法の解説を書きたいと思います。

治療の効果はどのように検証するのか

世の中には、さまざまな支援方法や治療方法があります。書店に行けば「1週間でみるみる変わる加藤式○○メソッド」のような本がたくさんあります。
○○法や○○メソッドを作った人が、「私の○○法は効果があるので、ぜひ試してみてください。」と言っても、信じることは難しいのではないでしょうか。
それと同じで、「感覚統合療法は効果があるので、ぜひ試してみてください。」と言われても、「どんな効果があるの?」「どの程度効果があるの?」「何回受けたらいいの?」「どんな人に効果があるの?」など、たくさん質問があるかと思います。
 
2012年米国小児医学会は1)、感覚統合療法は治療プランの一つとしては良いとしつつも、感覚統合の有効性に関する研究は限定的なものであり、治療の有効性は決定的ではないことを報告しました。また、同年Langら2)は、自閉スペクトラム症を対象とした感覚統合療法は科学的根拠に基づいておらず、綿密な対照研究がなされていない。感覚統合療法は治療に使用すべきでないと結論づけた論文を発表しました。
綿密な対照研究とは、感覚統合療法を行うグループと感覚統合療法を受けないグループの2つに分けて治療効果を比較しますが、2つのグループに分ける際に無作為(ランダム)に分ける研究を指します。無作為に分けることで2つのグループの性質が均等になることが見込まれるため、治療効果を判断する上で科学的根拠が高い研究であるといわれています。
この研究方法で、薬の効果を検証することは、それほど難しいことではありません。例えば、血圧が高い人500名を集めて、新しい血圧を下げる薬Aを250名に1か月間服用してもらいます。残りの250名には見た目がそっくりなビタミン剤を1か月間服用してもらいます。そして、飲む前と1か月後の血圧の変化を薬Aのグループとビタミン剤のグループで比較するというものです。この際、研究に参加した500名の人は無作為に薬Aとビタミン剤の2つのグループに分けられるため、どちらを飲んだのか本人は知りません。
これを感覚統合療法にあてはめるとどうなるでしょうか。例えば、感覚統合に何らかのつまずきがある子どもを100名集め、感覚統合療法を行うグループと運動遊びを行うグループに無作為に50名ずつに分け、週に2回、合計20回の感覚統合療法もしくは運動遊びを行い、前後で感覚統合のつまずきの改善の変化を比較する、という感じになるかと思います。さて、ここでいくつかの問題がでてきます。

感覚統合療法の効果を検証する難しさ

1.感覚統合のつまずきとは

まずは、感覚統合のつまずきがある子どもをどのように判断するのかという点です。今まで話をしてきたように、感覚統合障害(感覚処理障害)には、感覚調整障害と感覚ベースの運動障害がありました。さらに、感覚調整障害は過剰反応と過小反応、感覚探求のタイプがあり、これらのタイプは一人の子どもでも感覚の種類により異なることや、同じ種類の感覚でも過剰反応と過小反応を示すことも多くあります。つまり、感覚調整障害の中にも、数え切れないくらいの種類がある、言い換えれば、同じ感覚調整障害がある子どもはいないのです。これは、感覚ベースの運動障害の中の行為機能障害や姿勢調整障害も同様です。
 
2.感覚統合療法とは
次の問題として、感覚統合療法を行うとありますが、行っている治療が感覚統合療法かそうでないのかをどのように判断するのでしょうか。薬であれば、同じ成分で同じ量(もしくは体重等で調整)であれば、疑いなく同じ薬と判断できるのですが、感覚統合療法の場合はそうはいきません。前回にも解説をしましたが、これを行えば、例えば、トランポリンを使い20回以上ジャンプしたら感覚統合療法になるというものではないのです。治療が感覚統合療法かそうでないのかをどのように判断するのかについては、次回の第11回で解説をします。
 
3.感覚統合療法の効果を判断するには
さらに、感覚統合のつまずきの改善の変化とは何かも曖昧です。感覚プロファイルやJPAN感覚処理・行為機能検査のスコアの変化をさすのでしょうか。
 
このシリーズでは感覚統合に関する新しい情報を提供するということでしたので、解説しませんでしたが、感覚統合理論・療法は学習障害(限局性学習症)の読み書きに代表される学習(アカデミックスキル)に対するアプローチとしてつくられたものです。Ayresは、当時(1960年代)行われていた視知覚の問題に起因した読み書きの障害に対する、点と点をつなぐ、模写をする、パズルなどの画一的でパターン化された机上での治療・支援に疑問をもっていました。これらの治療・支援は教育・心理学を基盤とした、知覚や認識レベルの高次な脳機能に対するものであり、発達過程を十分に考慮したものではありません。Ayresは、誕生直後から読み書きができるわけではなく、発達のプロセス(図1)があり、知覚や認識の基盤となる発達を支えることが重要であると考えました。
 
図1 感覚統合の発達過程 (Ayres AJ3)一部改変)
 
図1を見てもらえばわかるかと思いますが、子どもが生活の中で困っていることや保護者の主訴の多くは第4段階です。一方、感覚統合で評価(感覚プロファイルやJPAN感覚処理・行為機能検査、臨床観察などにより評価)するものは、それより前の段階です。例えば、JPAN感覚処理・行為機能検査の姿勢・平衡機能領域は第1段階、行為機能領域は第2段階、視知覚・目と手の協調領域は第3段階に相当します。
感覚統合療法の適応となる子どもは、当然、第4段階のつまずきの原因が第1~第3段階でのつまずき、すなわち感覚統合の問題に起因していることが不可欠ですので、治療により第1~3段階が改善すれば第4段階は改善することになるはずです。しかし、実際にそのようになったのか、すなわち子どもの生活上の問題や保護者の主訴が改善したのかを確認する必要があります。これは、感覚統合理論・療法が作業療法の理論・治療法である以上、検査でのスコアが変化しても、子どもの生活上の問題が改善しなければ、意味がないのです。感覚統合療法の治療効果は、子どもの生活上の問題や保護者の主訴の改善でなければなりません。
とすると、話は複雑になります。子どもや保護者の主訴は、非常に個別性が高いため、どのような方法を用いて治療の効果を測定すれば良いのかが非常に難しいのです。
 
第8回で症例として登場したかずやくん本人やご両親のお話を思い出してください。ご家族は「運動は、走る、鉄棒、ボールなど、体育で行うすべての活動が苦手で、特に新しいことはやりたがらない。外に遊びに行ってもすぐに疲れて家に帰りたがる」「手先も不器用で、工作はもちろん、箸を使う、ボタン、ジッパーをとめるなども苦手で、親に頼むこともある」「食べこぼしは、箸の操作もあるが、食べている時もおしゃべりが止まらないため、口からの食べこぼしも多い」「朝起きて学校に行くまでの準備は、不器用なこともあるが途中で遊んだり、話をしはじめて遅くなる」と話してくれました。
かずやくんは、最初は困っていることやできるようになりたいことは、「特にはない」と言いましたが、詳しく聞いていくと「体育はすぐ疲れるし、うまくできない」「はさみを使うことや紙を折るのが苦手、色を塗ると手が疲れる」ことを話してくれました。
 
この中の「運動は、走る、鉄棒、ボールなど、体育で行うすべての活動が苦手で、特に新しいことはやりたがらない」を取り上げてみましょう。この主訴が改善するというのは、どういうことでしょうか。
「走る、鉄棒、ボールなど、体育で行うすべての活動が得意になり、新しいことをしたがる」になれば良いと思う人もいると思いますが、これは具体的にどうなれば、そうなったといえるのでしょうか。「得意」「したがる」とはどうなることでしょうか。例えば、かずやくんが「新しい活動に誘うと10回中8回は拒否をしていたが、3か月間、合計12回の感覚統合療法の後10回中8回は参加できるようになった」となれば、どうでしょうか。かなり、感覚統合療法により、主訴が改善したことがわかると思います。
これまでの話の中で、感覚統合療法は、個別性が高い主訴に対して、個別性が高い治療目標を立て、個別性が高い治療プログラムを実施するオーダーメイドの治療であることを理解していただけたかと思います。このような個別性が高い治療法で治療効果を判断するための方法として、Goal Attainment Scaling(GAS)やカナダ作業遂行(COPM)が使用されています。特にGASは、感覚統合療法の効果判定のツールとしての有用性も報告されていますので、少し紹介しましょう。
 
4.Goal Attainment Scaling(GAS)とは
GASは、1960年代に精神保健領域で開発された治療や支援効果を判定するための評価法です。GASはクライエント(対象児・者)中心の治療・支援を行うために、対象児・者自身や保護者・家族、他の支援者と共に具体的な治療目標を設定していきますが、最大の特徴は、一つの治療目標に5つのゴールを立て、治療により期待される結果のレベルを-2、-1、0、+1、2の5段階で設定することです。表1にGASの一例を示しています。
 
表1 Goal Attainment Scaling(GAS)の例 (Mailloux Z4)一部改変)

 
期待される結果は、0から+2にいくにつれ、より望ましい結果となり、0から-2にいくにつれ望ましくない結果になるように設定します。-1もしくは-2は、現在の対象児・者のレベル(ベースライン)を設定します。例えば表1では、「期待される成果より悪い」に該当する -1に現在のレベルを設定しています。これは、20回の感覚統合療法終了時にも治療前と同じ状態であったということになりますので、当然、治療効果はなく「期待される成果より悪い」という結果になります。また、結果のレベルには「いつ、どこで、何を、誰と、どのように、どのくらいの頻度で、いつまでに」達成可能かを明記します。
実際にGASを使用してもらうとわかるかと思いますが、GASで治療目標(5つの結果レベル)を立てるには、対象児の生活の状況や生育歴なども含めた情報収集や評価を非常に丁寧に行わなければなりません。また、5つの結果レベルの設定は、治療者自身の能力も客観的に判断しなければなりません。
 
5.感覚統合療法の効果判定
感覚統合療法の効果判定は非常に難しいことが、理解していただけたかと思います。しかし、それは大規模なグループとしての効果判定ということであり、担当している子ども一人一人を対象とした効果判定はGASを用いることで十分に可能となります。
感覚統合療法が治療である以上は、治療前後の評価を行い、自身が行った感覚統合療法に効果があったのかどうかを客観的に示していく必要があります。研究でなくとも、自身が担当している一人一人の子どもに効果判定を行っているかどうかは、行っている治療が感覚統合療法であるかどうかを判断する大きな要因だと考えています。
 
 

現在、私たちは、感覚統合の視点から対象児とのコミュニケーションに焦点をあてた、発達支援の実践家向けのオンライン教材「発達支援の場の“雰囲気”づくり~セラピストと子どもの関わり~」を作成しています。オーダーメイドの治療に必要な、子どもとの関わりについての知識と技術を知るきっかけの1つにしていただけるかと思います。 本教材は発達支援の実践家を中心に登録制で運営しておりますので、ご利用を希望される方は次の利用申込フォームからお名前やメールアドレスなどを送信ください。教材URL等をお送りいたします。

利用申込はこちらから
https://ws.formzu.net/dist/S185123551/

1)Zimmer M, Desch L:Sensory integration therapies for children with developmental and behavioral disorders. Pediatrics 129 : 1186-1189, 2012.
2)Lang R, O'Reilly M, Healy O, et al: Sensory integration therapy for autism spectrum disorders : A systematic review. Research in Autism Spectrum Disorders 6 : 1004-1018, 2012.
3)Ayres AJ(佐藤剛監訳):子どもの発達と感覚統合(1983).協同医書出版,p91
4)Mailloux Z. et al : Goal Attainment Scaling as a Measure of Meaningful Outcomes for Children With Sensory Integration Disorders. The American Journal of Occupational Therapy 61,254-259, 2007.

執筆者プロフィール

加藤 寿宏
関西医科大学 リハビリテーション学部
作業療法学科 教授
関西医科大学 リハビリテーション学部
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【専門】
 発達障害の作業療法
 感覚統合療法
 
【資格】
 専門作業療法士(特別支援教育)
 公認心理師
 日本感覚統合学会認定セラピスト
 特別支援教育士 SV

 
【学会】
 日本感覚統合学会副会長、講師
 日本発達系作業療法学会会長

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