パシフィックニュース
断端ケアについて ~安心して義足ライフを送るために~
義肢
JA三重厚生連 三重北医療センター 菰野厚生病院
整形外科 医師 加藤 弘明
2023-04-17
「断端ケアとトラブルシューティング」「断端ケアの事例」について、2021年11月、2022年2月に弊社のオンライン特別プログラムにて、菰野厚生病院の整形外科医師の加藤 弘明先生に講演していただきました。
義足の診療やリハビリテーションに関わる医療関係者や義足ユーザーの皆さまに大変好評をいただきましたので、パシフィックニュースとして改めてお届けいたします。
<目次>
・執筆者プロフィール
・はじめに
・義足の適合を変えたシリコンランイナー
・皮膚は生き物
・断端ケアで効果があるワセリン
・皮膚の構造と断端のケア
・断端をよく観察する!
・皮膚が動くこととほどよい湿潤が大事
・ほどよい湿潤にはワセリン
・ワセリン以外ではダメなのか
・摩擦の防止にはシリコンライナー
・医療従事者の方へ
・事例編
はじめに
義足大好き整形外科医の加藤でございます。三重県いなべ市の日下病院というところで、川村次郎先生に義肢診療の手ほどきを受けまして、義肢装具外来を週1回やっております。
「断端というのは足の裏と同じなのです」と川村先生は仰っていました。「荷重をかけて歩いても痛くない。傷もできない。そういう状態が理想だ」と受け取っております。
義肢外来を10年程している中で、標準的な手術を行った断端であれば、よく見ること(観察)、適切な断端ケア、丁寧な義足の適合があれば、大きなトラブルはほとんど起こらないと分かってきました。
差し込みソケット時代によく見た断端
写真1は、差し込みソケット時代によく見た断端です。荷重がかかる場所にタコのようなものができ、先の方はカサカサしています。カサカサしているところは何かの拍子に傷ができて汁が出てきたり、血が出てきたり、さらに放置しておくと膿んでくるなどが繰り返し起こって大変です。
断端をケアしても傷を予防するのは難しいのでは、と思う方も結構いらっしゃるのではと思います。私も診療を始めた当時は、断端とはこういうものだと思っていました。「傷の予防は難しい」と思っていましたが、これは知識としてはもう古いですね。
義足の適合を変えたシリコンライナー
シリコンライナーが出てきてからは義足の適合は非常に変わりました。ライナーのおかげで、高齢者や糖尿病の人の義足が劇的に適合しやすくなりました。どれぐらい変わるのかというと断端はツルツルなのですよね。傷もありますが、タコもそれらしいのはないですし、皮膚もすべすべしていて、生き生きしています。写真2は、写真1と同じ人の断端なのです。ライナー式に変えていただいて、スキンケアにも取り組んでいただいてこういう風になりました。
シリコンライナー+スキンケアの効果
すごい違いだと思います。何人かにライナーに替えていただき、スキンケアもしていただいているのですが、驚くほど良くなります。正しいケアをするだけで、左が右の状態になることもありますし、逆に失敗すると右が左の状態になることもあります。ケア一つで、また義足の選択でこれだけコンディションを変えられるというのは大きな発見だったと思います。
前提として皆さんにお伝えしたいのは「ベースラインを上げる」ということです。カサカサでタコがたくさんある断端は少しのきっかけでいきなり割けて傷ができます。つまりギリギリ傷ができない断端ではなくて、健康で生き生きしていて、ちょっとやそっとではダメージを受けない断端にすること。そういう意味でベースラインを上げるというイメージを持っていただくといいかと思います。
どうすればベースラインを上げられるのか、ということが今日のメインのテーマです。
皮膚は生き物
皆さん、皮膚が「物」だと思っていませんか。もし皮膚が大福もちのようなナマモノだったとしたら…。大福を消毒したらダメですが、大福を消毒してずっと清潔にしていたらカビは生えないですよね。そして乾かしておいたほうがいいですよね。湿っているとカビが生えてきますよね。そして湿り気があると菌がついて腐ってくる。そういうイメージになると思うのです。
もし皮膚がナマモノだったら消毒して乾燥させてさらっとさせておくのが正しいと思うのです。実際に、例えば病院で傷とか処置するときはそういう考え方だったので、15年前ぐらいまでは傷とか皮膚というのはそうやって管理していました。毎日傷はガーゼをはがして、消毒してガーゼをはる。消毒して乾燥させるというのが正しいと思われていました。
しかしそれが違っていたのです。医療に携わっている皆さんはご存知の方も多いと思うのですが、「皮膚は生き物」というのが今の新しい皮膚に対する考え方です。皮膚の細胞というのは、例えるとカタツムリくらいのちょっと柔らかい生き物だと思ってください。傷ができない皮膚を維持するという目標を立てようと思ったら、生き生きした皮膚をそこで飼っている、断端のところにそういう生き物がいて、生き生きと断端の皮膚が生きている状態にしようと思うと管理がしやすくなります。
写真3は実際の皮膚です。これは潰瘍ですね。皮膚が一層取れた肉芽で皮膚細胞になっていくのがたくさんある。こういう真っ赤で生き生きとしている肉芽を見ると「この傷は治っていきそうだ」と思います。これが生きている、皮膚がめくれた下にある皮膚の材料になる細胞というイメージでいてください。
写真3
こういう細胞は乾かし過ぎると干からびて死にます。カタツムリは砂の上で飼いませんよね?カサカサにするとシオシオになって死んでしまいます。野球などで作るタコなどもカサカサになって死んだ細胞の集まりなのですね。一見丈夫に見えるのですが死んでしまっているので野球のマメなどは一時期硬いけど何かの拍子に剥がれたり割けたりして血が出てきますよね。強そうに見えてもろい。
では水浸しはどうか。水浸しもダメです。カタツムリを水槽に入れたらふやけて真っ白になって死んでしまいますよね。水につけてふやかすのもダメ。ライナーの中で汗に浸っている状態は最悪です。水が溜まっている場所は抗生剤も白血球も届きませんので、段々雑菌が増えますから水浸しにしておくのもダメです。まずここをしっかり押さえてください。乾燥もだめ、水浸しもダメ。そこを覚えてください。
断端ケアで効果があるワセリン
ではどうしたらいいのかということになると、ほどよく湿っている状態です。ほどよい湿り気を出すもので、私がいいなと思うのはワセリンです。鉱物油でちょっとベタベタしているぐらいの状態は大丈夫です。鉱物油、ワセリンを塗ってぬるぬるしたリップクリームを塗った唇みたいなイメージですね。あの状態をキープするのが一番ほどよく湿っているのに向いています。
どれくらい皮膚の生命力ってあるのかという話ですが、教訓的な症例があります。大腿切断の患者さんが紹介されてきたあとに皮膚が全部壊死したことがありました。血流が悪くて、処置をそちらでしてくださいと言われ、困ったなと思いながら処置をしたのですが、皮膚が黒く、僕の手のひら二つぐらい、皮膚が壊死してしまいました(写真4)。
血流障害による皮膚壊死
全部取るとこちらは脂肪が露出した状態ですね(写真5)。黒いところを取ったら脂肪が出て、そしてVAC療法という方法で肉芽を盛り上げました(写真6)。これで細胞が整った状態になったのですね。こんな状態で義足はできないと思うじゃないですか?でも入院して6週間経ってこれ以上待っていられませんので、この辺りから保護剤を貼って義足を作って歩く練習をしました。
血流障害による皮膚壊死
ほどよく湿った状態を続けると、その6週後にはこれだけ縮みます(写真6)。生き生きしているからまだくっついていくなと思います。そして、半年後くらいで全部閉じました(写真8)。
要するに皮膚細胞は生きていますので、環境を整えたら段々治ってくるのですね。これをカラカラに乾かすと一瞬でミイラになってしまいますが、適切な処置をすることで皮膚を生かしておけば段々治ります。傷ができたとしても正しい環境に整えれば治っていきます。そういう性質があることを知っていただきたいです。
皮膚の構造と断端のケア
皮膚の構造ですが、皮下脂肪のあるところ、真皮、表皮、毛穴という感じで、表皮のところを見ますと、基底層という細胞があって上に皮膚の細胞がどんどん積み重なってここから段々表面にいくのですね。表面近くは角質層といってちょっとカサカサした層があり、ここは何かというと、死んだ細胞が積み重なって一番外側のバリアになっているのですね。内側から段々増えてきて外側で死んでバリアになる。そしてそこに皮脂腺という毛穴から出た油が混ざって死んだ細胞の垢と油が混ざって、油としてのバリアで皮膚の表面が守られているのです。それがスマホとか触った時に付く指紋なのですね。あれが手を守っている油なのです。
実際の皮膚というのはワセリンを塗った断端のように一番表面は油で守られているということなのです。それを断端でも再現する。断端も皮膚が勝手にそうなるのではないですかと思うかもしれないのですが、そこは違って、断端というのは切った都合で毛穴とか血管が正常ではなくなってしまっているので、普通の皮膚よりカサカサしやすいのです。こういう表面が、角質層と油で守られた状態っていうのは必ずしも自然には成り立たないので、自分で薄っすら油(バリア)が張っている状態かなというのを確認して、足りなかったら薄くワセリンを塗って環境を整えなければダメです。
また、義足を履いて、特に差し込み式で断端袋を直接履くと乾燥した断端袋を履くことになるので、表面の角質と油を全部持っていかれるのですね。さっぱりするのですけど、非常に乾燥ストレスがあるので、バリアがなくなりやすくなってダメージを受けやすくなります。
初めに出た断端は乾燥プラスこすれ(写真9)。断端袋で皮膚表面の油を取られ、絶えずカサカサとこすられるのでガサガサになってしまう。そこから傷ができやすい状態になります。
すべすべの断端(写真10)はほどよい湿潤とこすれストレスがない。今風に言うと摩擦レスですね。ワセリンを塗って、またライナーを使ってほどよく湿潤した状態です。油で守られた状態がキープできて摩擦をかけないと皮膚が段々新陳代謝して健康な皮膚の状態になっていってくれます。
この状態をベースラインにしていきたい。この状態であれば悲惨なことになる前に対応はできるのです。まずはこの状態に持っていくことを考えていただきたい。
断端をよく観察する!
スキンケアの大原則は、まず見る!よく観察です。患者さんはできれば一日二回、断端を見る習慣をつけていただきたいです。見づらいところは鏡で見てください。見るタイミングのオススメは風呂上りと朝起きた後。朝と晩でちょっとコンディションが違いますから「朝はこうだな」「晩はこうだな」というのが分かる習慣を付けていただくといいです。そしてほどよい湿潤を保つワセリンを塗れば大体そうなります。そしてこすれを避ける。そして皮膚が動くようにする。
【断端スキンケア大原則】
●とにかくよく観察
●ほどよい湿潤を保つ
●こすれを避ける
●皮膚の可動性を良好に保つ
皮膚が動くこととほどよい湿潤が大事
写真11の方は69歳の糖尿病性壊疽の患者さんです。切断をして一年も経っていない人です。表面がちょっとツルツルしていますよね。これはワセリンで実はテカテカしているのです。きれいな断端じゃないですか。下腿義足を履いているのですよ。ちょっとしわが寄ってツルツルして触ると皮膚が骨の上でも動く、骨の前でも動きます。これがベストです。
写真11
ほどよい湿潤にはワセリン
ほどよい湿潤にはまずはワセリンで乾燥を防ぐことです。皮膚刺激の少ないワセリンがいいです。ヌルヌルになりますので、こすれも軽減できますから物理刺激も軽減される。ワセリンがいいです。高価なものではありません。病院にかかったときにワセリンを出してとお願いすれば出してくれます。病院に行くのが面倒であれば、薬局とかコンビニでも売っていますので使ってください。だいたい1週間塗っただけで「あれ、ちょっと違うな」ってなります。二~三週間で大分コンディションがよくなります。
ただデメリットがあります。べたつきが気になって嫌がる患者さんが大変多いです。
あと汗が多いとか、傷があって浸出液で水浸しの状態だとワセリンと混ざってヌルヌルになって大変なことになります。水浸しの状態の場合はワセリンではない方法で治療した方がいいのですが、それ以外の場合でのコンディションにはワセリンです。
僕の場合は新規の患者さんへ「ワセリンを一日二回塗ってこのヌルヌルな状態で傷ができませんよ。次に切断しなくても義足を履き続けるのに必要ですよ」と説明をして、転院してきた日に本人用を持っていただき、看護師さんとか理学療法士さんの指導で毎日塗るように習慣づけてもらいます。断端と付き合うことを習慣にしてもらうと、そこからドロップアウトしたり、べたつきが嫌になる人はあまりいません。それに対して途中から導入するのは結構難しいことがあります。
ワセリン以外ではダメなのか
「流行りの馬油が使いたい」「いろいろいい成分が入っているのを使ってみたい」という方もいると思いますが、基本的には「油の代わりになるなら何でもいい」が僕の考え方です。
ただハンドクリームなどのように塗っているうちに段々皮膚の中に入ってさらっとする、そういう白っぽいクリーム剤は、気持ちいいのですが、中に入ってしまうので、皮膚に残っているかどうか分からないんですよね。それに対してワセリンは中に入っていかなくて、表面で膜になります。取れたらすぐ分かりますし、ケアができている状態が自分で分かりますので、初心者にはワセリンがおすすめです。ワセリンで自分のケアが確実にできるようになったらそこからは好きなものに変えてみて、よければそちらに乗り換えてもらったらいいですし、ダメだと思ったらまたワセリンに戻ったらいいと思います。ワセリンから入るのが良いですね。
あと大抵の軟膏は基材が99%ワセリンです。抗生剤入り軟膏とか、ステロイド剤なんかも、軟膏といえば、全部ワセリンに少しだけ薬が入っているものです。基本はワセリンと思ってもらったらいいです。慣れてくればヒルドイド®︎でもいいし、ユースキン®︎でもいいし、いい匂いがするロクシタン®︎でもいいし何でもいいです。
皮脂がしっかり出る断端の人は途中でワセリンを塗ならなくてもちゃんとしっとりするので、塗らなくても済む人もたくさんいます。それはワセリンでケアできるようになって、そこから回数を減らしていき、また足りないと思ったら増やすという方法でしてもらったらいいです。
摩擦の防止にはシリコンライナー
こすれ防止にはシリコンライナーがいいと思います。断端袋を履いてPTB差し込みソケットで履くよりは、こすれが起こりません。あとソケットの適合をアシストしています。ごそごそとソケットと断端の間で振動が起こっても、皮膚が直接こすられるのではなくてライナーが間でいい感じに揺れてくれますから。皮膚のダメージがライナーの方に吸収されます。あとほどよい湿潤も保ちやすいので、シリコンライナー、適合、皮膚トラブルが心配でしたらライナーをお薦めいただくのが良いと思います。
差し込みソケットをずっと履いている人はライナーの使用感が嫌という人が結構います。そういう人もそれでうまくいっているから仕方ないかなという感じです。昨日まで靴下を履いて靴を履いて出かけていたのに、今日からその靴下を履かずに足に油を塗って、さらにウエットスーツみたいなのを着て歩いて行けって言われたら足が気持ち悪いじゃないですか。そういうわけで、差し込みソケットで慣れている人は移行が厳しい場合があります。
それについても最終的にはご本人に選んでもらうといいと思います。ライナーは一本10万ぐらいしますので高いです。しかし手帳が使えますから壊れたら一年毎ぐらいで更新は認めてもらえますので高いのも何とかなるかと思います。
皮膚のコンディションを悪くする要因は、乾燥、水浸し、汗、傷、こすれ、皮膚が動かない、むくみ、皮膚が癒着している、植皮と陰圧障害も結構みんなに知ってほしいトラブルですね。感染などもあります。
何かトラブルが起こっているなと思ったら、この辺のどれかなと考えながら、分からなかったら皮膚科へ行ってと言ってください。
医療従事者の方へ
とにかくまずはよく見るようにしてください。義肢装具士さんはチェックで患者さんに会った時は必ず脱いでもらって断端を見てください。見ているうちに、だんだん見方が分かるようになってきます。ほどよい湿潤になっているか、こすれている部分がないか、皮膚の可動性が良いか、をしっかり触ってみて、それでソケットがちゃんと適合しているかを見て、変なトラブルがあったらまず皮膚科に行ってと言ってください。皮膚科に行くほど悪いものではなかったら、湿潤とかこすれとかいうのを皮膚の動きをよくするように指導してください。
一般的な理学療法士さんはソケット適合のところは義肢装具士さんに任せてあんまり触れませんけれども、ソケット適合の観察はやっていただいた方がいいと思います。自分のリハビリをやった前後で、皮膚が悪くなっていないか確認するようにしてください。リハビリの後に特定の部位が赤くなっているとか、カサカサしてきているとか、色が変わっているとか・・。そういう状態になっている場合は義足の訓練の方法を変えたり、訓練自体を休まなくてはいけない時がありますよね。
逆に皮膚自体に何も変化がなくてダメージを受けている様子がないのであれば少なくとも訓練を休まなくてもいいわけです。太ももの前の皮膚がなくなっている人(写真4)であっても、訓練してそこが悪くならないのであれば、義足の訓練を休む必要は全然ないのですよね。トラブルがあっても訓練を休まないかどうかっていうのが分かるレベルまで断端を見られるようになっていただくと安心して義肢の診療に取り組んでいただけるのではないかと思います。
ケーススタディの自主勉強をしたい場合、僕のお勧めはこれです。
「平本式 皮膚科虎の巻」ケアネットDVDで売っています。とても分かりやすいです。これを観て割と皮膚の病気の見方っていうのは「あ、そうなのか」って思うようになりました。医師向けなので、パッと観て理解できるかどうか分からないですが、多分一般の方でも結構分かりやすいと思うので、興味があったら観てください。
●事例編
次は事例編ですが、大前提はスキンケアが大事だということです。こういうガサガサのタコだらけの断端っていうのは今でも普通にあると思うのですけれども、こういう皮膚はすぐにやられますから、やっぱりスキンケアをしっかりしてそこからスタートしていただきたいです。
大前提はスキンケア
断端の皮膚トラブルの原因は義足か?義足以外か?
皆さんは、断端トラブルは義足が原因か、義足以外が原因かというのが知りたいのではないかと思います。義足が原因でどんどん悪くなる皮膚だと義足を辞めないといけない場合があります。逆に義足以外が原因の場合は義足を辞めなくていいわけです。義足が原因の場合でも、原因を改善したら休まなくても義足は続けていけるわけです。義足が原因だった場合は義足の中でも何が原因なのかを考えなければダメということです。
<事例目次>
・【事例1】 断端の先端が赤黒くなってきた
・【事例2】 断端末に赤いブツブツ
・【事例3】 断端末に丸い赤黒い腫れ
・【事例4】 断端に不整形の発赤が散在。皮疹辺縁の赤みが強い。かゆい
・【事例5】 膝窩部(膝の裏)に穴が開いてきた
・【事例6】 鼠径部に痒み
・【事例7】 抜糸後にかさぶたができた
・皮膚は環境を整えれば治っていく
・断端のスキンケア大原則
【事例1】 断端の先端が赤黒くなってきた
断端の先端がなにか赤黒くなってきたが本人は痛くない。そしてしばらく経過をみていると今度はちょっと茶色っぽくなってきて、その茶色っぽくなった頃の写真ですが。これは何でこんなになっていると思いますか。義足が原因だと思いますか?義足以外が原因だと思いますか?応急処置は断端袋です。断端袋を何枚か履いて、再度、断端がソケットの中でつっかえるようになると一旦応急処置として対応ができます。しかし、周径がどんどん痩せてきて、もう断端袋だけじゃいけないと思ったら、ソケットを修正したり、貼り物を貼ったりして、割とまめに適合させていった方がいいなと思います。断端袋は有用ですが、ギリギリまで断端袋で粘ると限界を超えた時に対応しにくくなります。あまり頼りすぎず、厚手1枚履くようになったあたりでまめにパッドを貼って、患者さんが薄手1枚ぐらいで調整できるようにした方がトラブルが少ないです。
僕の考え方では特に回復期とか義足を装着し始めて一年以内は締め上げられるだけ締め上げていった方が良いというふうに思っています。むくんだりへこんだり、膨らんだりへこんだりに付き合って広げたり狭めたりしているとなかなか断端が落ち着かないことが多いので、ジワジワ締め上げて、むくみにくくしてあげたほうが上手くいくという感じがします。患者さんも慣れてくると「ちょっと貼って詰めてくれ」とか「断端袋、最近は厚手で、朝は薄いもの一枚だけど、夕方になると厚1薄1でいく」とかコントロールが上手くなってきます。
【事例2】 断端末に赤いブツブツ
断端末になにか赤いぶつぶつが何個かできてくる。ひとつひとつが痛い。時々なにか汁とかが出てくる。赤い場所とソケットのでこぼこはほとんど関係がないことが多い。これは何でしょうか。これは所謂おできです。おできはなぜ起こるかというと、大体毛深い人に多いイメージがあります。毛が引っ張られたりして毛穴が刺激を受けると炎症を起こして普段は閉じている毛穴が開いて、そこにばい菌が入って膿んでしまう、ニキビみたいになってしまうというパターンです。
このようにたくさん出てくる場合は多分ライナーとかに内側で毛が引っ張られて、それで刺激で毛穴が弱って感染みたいな順番が多いので。ライナーに足の毛が動かされてないかとか、そういうふうに評価すると、対処がしやすくなります。あと時々見かけるのが毛深いから全部剃ってツルツルにしたわっていう人はツルツルにした瞬間はいいのですが、ちょっと伸びてきた時に短い毛がチクチク毛穴を攻撃して余計に毛嚢炎が酷くなる人がいます。それなのであまり剃らない方がいいのではと思います。それよりは永久脱毛でツルツルにした方がいいのか、そこはちょっと分からないけど。
おススメはやっぱりワセリンをしっかりベタッと塗ってヌルヌルにしておくと毛とライナーのところであまり引っ張られなくなりますので、気持ち悪いかも知れないけどヌルヌルにしていた方がこういうのは治りやすいです。治療はゲンタシン® 軟膏という抗生剤が混ざっている軟膏を塗るといいです。これだけ赤いと化膿止めを皮膚科とかで出してもらって飲んだ方が治るのは早いです。1~2週飲んだら大分こういうのは引きますので、こういうできものみたいなのができたら飲んだほうがいいよっていうのは知っておいてください。割とすっと治ります。これは義足以外が原因です。
【事例3】 断端末に丸い赤黒い腫れ
断端末に丸い赤黒い病変ができます。事例1の打ち身の薄いあざのようなものとは少し違います。全体的にボワーッと内出血みたいな腫れみたいなものができています。これは何でしょうか?大腿なので骨はこれくらいの範囲ですよ。骨はごつごつ当たってこういうふうにはならないですよ。水ぶくれができたり、ほうっておくと黒くなってきたりする人もいます。断端に深いしわがある人はどうしても空気が入っちゃって陰圧障害が起こり易い場合があるので、そういう人はジェルパッドや隙間を埋めるものをライナーの中に入れて隙間ができないようにするとおさまるパターンが多いです。
レアなものとしては、断端が急に太りすぎて入らなくなってピンライナーとかしているとライナーだけ義足の中に入って断端が中に入って行かなくて先のところに隙間ができて陰圧障害になるというパターンもあります。
陰圧障害の原因をまとめると、断端が太っても痩せてもなる。あとはしわがあるとなりやすく、履き方がおろそかだとなりやすいということです。
なぜ隙間ができるのだろう?と考えながら繰り返し適合対処していただけると大体治ります。治療は皮膚自体が痛んで乾燥しているのと状態としては一緒なのでこの色が変わっているところ自体はワセリンを塗ってしっかりキープしてもらうと段々治ります。
皮膚障害が強く、水ぶくれとかができてダメな場合は義足諦めてもらってしばらくスキンケアに専念してください。皮膚が健康な人であれば3日から1週間の経過で段々改善してきます。義足を履くのをやめたらすぐに回復していくようになります。
【事例4】 断端に不整形の発赤が散在。皮疹辺縁の赤みが強い。かゆい
断端に不整形の三つくらいギザギザのような形の赤っぽいようなまだらのような皮疹があります。周りの方が赤みは強く、かゆみがあることが多い。これは何でしょう。原因はスキンケア不足なので義足以外です。断端に付いている白癬が増えてライナーについて、ライナーに付いていた白癬がまた断端について・・という感じです。かきむしった手で触ったりするとまたうつったりするわけです。
「地図状皮疹」と言いますけど、「地図状皮疹」を見たらすぐ皮膚科に行ってと言ってあげてください。水虫だけど皮膚はとても痛めつけられるのでここをきっかけに傷ができたりします。イメージは下の写真のような培養です。真ん中が広がっていく感じで、ボツボツいるという感じです。
気を付けていただきたいのは、白癬というのは見たら何となく分かりますが、安易に水虫の薬は使わないでください。ブテナロック®︎とか。ああいうのを使ってしまうと、診療する時や皮膚科で検査をした時に診断ができなくなってしまうのです。水虫薬をむやみに使うと真菌の種類が分からなくなりますし、または実は真菌ではなくて湿疹だったということもあるので、水虫薬を使う前に皮膚科にかかった方がいいです。
【事例5】 膝窩部(膝の裏)に穴が開いてきた
膝窩部、膝裏のところに穴が開いてきた。周りがちょっと黒っぽくて、色がついていて真ん中に穴が開いている。曲げた時にソケットの縁がちょうどこの辺りに当たっている、なんでこんな穴が開くのかっていう。この人、糖尿病があってちょっと感覚が鈍いのです。だから「なんか痛いな」っていうぐらいでこんなになってしまうのです。こういう人が時々います。義足が原因です。教科書通りだとここまで上げなければダメ、これ以上ここに当たらないようにできませんよとおっしゃる義肢装具士さんもいらっしゃるのですけど、当たりが原因なので座っても当たらないように上手に膨らませて、カドが当たっているところを面で受けるように調整して何とか対応していただけると嬉しいです。
ユーパスタ®︎を塗りながらソケットも少し当たらないようにしてもらうとひと月ぐらいで閉じます。ちゃんと治療してここに当たる物理的な要因をなくせば治りますので。治ってからワセリンとかゲンタシン®︎とか、しっとり系の軟膏の方に変えます。治す時はユーパスタ®︎、イソジンシュガーパスタ®︎を使っています。
皮膚外用剤について
三つ覚えておいてください。一つめはワセリンです。皮膚がだめな時は何があってもまずはワセリンを塗ってください。皮膚の環境がまず整いますので。ゲンタシン®︎などの抗生剤入り軟膏は「ちょっと赤くなっているな」とか「ちょっと膿んでいるかな」とか「これから膿みそうかな」という時に使えます。0.1%と書いてあるので、1000グラムに対して1グラムだけゲンタシン®︎が入っていて、残りの999グラムはワセリンです。ワセリンに抗生剤を混ぜているものと思ってください。ゲンタシン®︎以外でも抗生剤入りの軟膏もあります。
イソジンシュガーパスタ®︎、ユーパスタ®︎というパスタがあります。砂糖とイソジンを混ぜたものです。こんなのが効くのです。浸透圧でジュクジュクしている傷のところから水を吸い上げてきて乾燥させ、イソジンが混ざっていますから殺菌もできるという仕組みになっています。ジュクジュクした傷には使いやすい外用剤です。ゲーベン®︎は使う先生が多いですが、あんまり塗っても皮膚のトラブルは解決しないことがあるので、僕はゲーベン®︎は使わないことが多いです。
【事例6】 鼠径部に痒み
鼠径部(太ももの付け根の部分)に線状の赤くて痒い病変ができています。これは何でしょうか。病変部にライナーの縁が丁度当たるのです。これはライナー縁障害です。ライナーの縁のところが動作で皮膚をこするのです。僕のおすすめは写真の赤い円の箇所にワセリンをベッタリ塗ります。塗るとバリアにもなりますし、ワセリンのベタベタでライナーのこすれがツルツル滑るようになるので、塗ったワセリンだけ取られて皮膚のバリアは取られなくなるので、実際それで2~3日塗ったら赤みが大分ひきます。ワセリンで対処するのが本筋かなと思っています。この部分にストッキネットを輪状に切ったものをクルっと巻いてから履くという人もいます。この部分を保護してあげれば起こらないようになります。
【事例7】抜糸後にかさぶたができた
抜糸した直後に縫ったところがかさぶたになっていて基本的にはもうパンパンに太った人が小さいサイズのシャツを着てボタンとボタンの間に隙間が開いて肉が見えているような、ああいう感じの断端で、かさぶたを取ると下に肉が見えて開いてきてジュクジュクして嫌なのです。大体この辺りにしわが付いていますけど押すととてもへこむのです。これは何でしょう。これは義足以外が原因です。これぐらいだとコンディションを整えればすっと治ります。どうやってやるかというとソフトドレッシングとかライナーで圧迫することが大事です。圧迫すると浮腫が段々取れてきます。皮膚は、傷の周りはユーパスタ®︎を使うのがいいと思います。何故かというと傷のところから浸透圧で、この辺りに溜まっている水が抜けるんです。外に吸い出してきてこの辺の浮腫が取りやすくなります。ばい菌がいる時は殺菌できますし、吸われているうちにこの辺りが大分痩せてしわが寄るようになってきてこの辺りがすぅーっと段々治って出したい水が出されて気が済んだように閉じてくることが多いです。周りの皮膚はワセリンでしっとりさせていくのがいいと思います。
こういうピチピチの断端はなるべく圧迫して浮腫を取りつつ、穴が開いている時はその穴のところからも水をユーパスタ®︎で吸い出すというイメージが割とうまくいきやすいなと思っています。
皮膚は環境を整えれば治っていく
治療の考え方です。いろいろやってきたのですが、皮膚っていうのはちゃんと環境を整えていたら、段々治っていくのだな、義足を履いたらそれが悪くなるわけじゃなくて、義足を履いても、傷にダメージを与えなかったら傷は傷で、自分で治っていってくれるっていうのが分かると思います。こういう傷は治せるのだなと分かると断端の傷も怖さがなくなってくるということです。環境さえ整えば皮膚はいくらでも再生する。逆にいうと普通の皮膚にだんだん穴が開いてくるっていうことはよっぽど環境が悪いんです。どう環境が悪くてこのほうっておいたら閉じていくはずの皮膚が何故どんどん開いていくのだろうと考えながら見ていただくと、断端の皮膚トラブルっていうのはすごく見やすくなると思います。
断端のスキンケア大原則
まとめます。スキンケアの大原則はよく観察、そして表面を油で保護することです。ベタベタして気持ち悪いですが、これで良くなると分かるとベタベタしている断端がこれでOKと分かる感じになってきます。新規切断の方は入院中からやってもらうようにして、それが癖になるようにしていただくとその後がとても楽です。また、こすれを避ける。表面がこすられるとバリアが取れますからなるべくこすられる環境を減らします。
皮膚がよく動いた方がいいです。皮膚がよく動かないとちょっと引っ張られただけで裂けますから、皮膚がよく動くように皮膚マッサージするとか、浮腫を予防するとか、そういう工夫がいります。加えて、ソケットがいつも当たっていないか、痛いところがないか、変なピストン運動でこすれがないかというのをまめに見ていただく。そうすると断端はうまくいきます。
それでもダメなら皮膚科です。頼りになる皮膚科とご自分の先生とコミュニケーションをとって「すみません。ちょっと義足を履いていて多分履き続けると思うのですけど、先生がダメって言うと休んでもらえますけどどうですか」と言いながら見てもらってスキンケアしていくといいと思います。
執筆者プロフィール
加藤 弘明
【略歴】
平成16年高知医科大学卒業
三重県立総合医療センターで初期研修
三重大学附属病院整形外科に入局、県内の病院へ勤務
平成24年三重北医療センター菰野厚生病院に勤務
平成22年より日下病院で週1回の義肢専門外来を行っている。
平成24年より済生会明和病院整形外科非常勤医師
令和4年より三重膠原病リウマチ痛風クリニック非常勤医
所属学会(日本整形外科学会以外)
日本義肢装具学会 編集委員会幹事(令和4年10月~)
資格
日本パラスポーツ協会公認パラスポーツ医
社会活動
平成24年~切断者スポーツチーム大和鉄脚走行会(やまとてっきゃくそうこうかい)を主宰
平成25年~日本パラ陸上連盟チームドクター
関連情報
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