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パシフィックニュース

VOCA事例報告 VOCAリンゴから拡がる可能性

AAC(コミュニケーション)

VOCA事例報告 VOCAリンゴから拡がる可能性

松本養護学校 小学部5年担任 小林 若美 自立活動専任 三木 百合子

2012-01-01

長野県松本養護学校は全校生徒288名(平成23年4月現在)の小学部、中学部、高等部、重度重複障害部からなる特別支援学校です。
代替コミュニケーションを活用したいけれど児童に適した機器がなかなか手に入らない状況の中、パシフィックサプライ社の担当者からリンゴのレンタルサービス紹介をいただきました。今回は、小学部での活用事例をお伝えしたいと思います。

事例紹介1 自発的なコミュニケーションが増えたSさん

Sさんは小学部5年生の男子児童です。普段から童謡を聴いたり、ブランコに乗ったりするのが大好きです。言葉は一音ずつ「お・は・よ・う」などと区切りながら教師と一緒に言ったり、カードの指さしや簡単な身振りをしたりすることで自分の思いを伝えています。

お母さんと週1回通っている療育施設では、児童机位の大きさのトーキングエイドを使って、「よむ」「かく」「けす」という単語を先生と一緒にタイピングしています。「迷路」や「パズル」などの活動は、トーキングエイドのボタンを押すことでSさんが自分でやりたい課題を伝えています。療育施設の先生は「トーキングエイドや絵カードを使うことで、ルールのある中で本人に主導権をもたせることが出来る」とおっしゃっていたのが大変印象的でした。周りの大人が主導権をもってSさんとかかわるのではなく、『Sさん自身が決定する自発的なコミュニケーションや行動を大事にしたい』と私たち担任は、考えていました。療育園の先生の言葉やSさんがトーキングエイドで学習している姿をみて、学校でもVOCAを是非使ってみたいと考えるようになりました。そんなとき、リンゴの「レンタルサービス」の話を聞き、学校での利用に可能性を感じて、体験利用をお願いしました。

「おしまい」と片づけ
どんな言葉にしようかと考えたとき、初めは学校生活で必要な「おはよう」「さようなら」「トイレ」を録音して使うことにしました。Sさんがリンゴを用いる場面では担任も一緒に言ったり、ジェスチャーなどを入れてみました。Sさんも次第にリンゴを使うこととジェスチャーや言葉で言うことは同じ意味があることを理解し、リンゴを使いながら頭を下げたり、手を振ってバイバイを表現するようになりました。

そこで、課題にしたいと感じていた活動の切り替え場面で「おしまい」を録音して使ってみることにしました。活動の切り替え場面では、カードや声による促し、指さしなど複数の支援が必要でしたが、繰り返していくうちに、リンゴのスイッチを自分で押すようになりました。

自分で押したことがきっかけとなり、好きな童謡の音声が出る、絵本のスイッチを自分で切り、片付けることができるようになりました。リンゴからの「おしまい」の音声にSさんが大きく頷く姿からは、自分で納得して切り替えをしようとしているように感じられました。
夏休み中の自宅での様子をお母様の手記を通してご紹介します。

「コミュニケーションの大切さ」

Sは現在、松本養護学校に通う小学部5年生です。ダウン症で生後5ヶ月の時に心臓の手術をしました。口から食事(ミルク)を摂取することができなかったので発育も遅く、当然のことながら体力もなく、いつも健康に気遣いながら生活をしてきました。そんな中、追い打ちをかけるように「右耳が聞こえていない」との宣告。現実を受け止めるのに時間がかかりました。
多くの方々との出会いによりSは人と接することに徐々に慣れていきましたが、自分の思いを伝えることは難しいことのようです。

保育園(年長)の時から障害児に個別学習を行っている「つばき教育研究所」に通い始め、1回50分の学習を始めました。そこでは「エイド・支援機器」を使って言葉の学習をしています。言語(発音)も少しずつですが出てきています。今回学校よりVOCAリンゴの使用を勧められ、家では「トイレ」「ひとり」「おはよう」「いけない」等の声を入れてみました。「ひとり」のキーを押して自分でやろうとする意思を示したこともありますが、悪戯をして「いけない」のキーを押して周囲の気をひくことを楽しむ姿もありました。最初、これはまずいかなとも思いましたが、このことをきっかけに以前よりも「自分の話したいことを伝えよう。コミュニケーションをとろう」とするようになりました。もちろん、ほとんどが手話(身振り)ですが・・・。
Sは自分の経験を幾度も話します。肩を叩いて私を呼び、同じ話をします。その時はできる限り(運転中はさすがに無理です)目を見て聴くようにしています。満足⇔安心だと思うので、徐々に安定してくれるのでは、と考えていますがどうでしょうか?

これからはVOCAの活用法も拡げながらSとかかわりたいと思います。余談ですがSが最初に発した言葉は「ごはん」です。(笑)

Sさんとお母さま

事例紹介2  友達とのかかわりをもち始めたYさん

Yさんは、急な音や大きな音などが苦手な反面、リズム打ちや手拍子が大好きで、上手にこなす男子児童です。前述のSさんが持っていたリンゴに興味をもち、自分から手に取り、スイッチを押して何度も聞く姿がありました。そこで、「色」を題材にした学習にリンゴを取り入れてみることにしました。

ここにいたいんだ!
「あか」「あお」という教師の指示を聞いて、その色の旗を取る、という学習の4回目の授業の様子です。Yさんにリンゴを渡すと自らボタンを押し、耳を近づけて流れてくる音声を聞いて、自分で正しい色の旗を選ぶことが出来ました。友だちや担任からも拍手がわき起こった瞬間でした。本人も教師が構えた手にハイタッチをしたり自分で拍手をしていました。きっと、Yさん自身も自分で出来たことや、友だち、先生からの拍手が嬉しかったのでしょう。

今まで、静かな環境や音楽の活動には好んで参加することが多かったYさんですが、リンゴを取り入れたことにより、それ以外の場面でも他の活動にかかわろうとし、Yさんのやりたい活動になっていく過程が私たち担任にとっても大変嬉しいことでした。


友だちとのかかわり
Yさんが友だちとかかわるということは、まだ興味がないのかなと考えていました。しかしYさんがリンゴを自由時間も手放さず使っていたことで、リンゴそのものに興味をもった子どもたちが、Yさんの周りに集まり始めました。スイッチを押して遊んでいるうちに、Yさんに「貸して」と言ってきたり、そう言われたYさんが友だちに手渡しをする、などの姿がみられるようになりました。これには私たち担任も、リンゴの新たな活用法を感じ、コミュニケーション創出から、友だちとのかかわりにも発展させる可能性を見出した思いでした。

今回リンゴを体験した二人のお子さんの様子や、家族の方、担任の先生方の新たな発見の事例から、自発的なかかわりを求めてVOCAを使用するだけでなく、多様な活用法の可能性を感じました。子ども自身の安心につながるコミュニケーションのきっかけづくりとして、他の子どもたちにも活用できると感じました。このような
VOCAリンゴ「レンタルサービス」の機会をいただき感謝をしております。

Yさん

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