パシフィックニュース
より早く、より巧みに、より安価に義足リハビリテーションを支援する手法
パシフィックサプライ株式会社
義肢装具士 橋本 寛
2023-07-03
ダイレクトソケットとは、下腿義足用TSBソケットの製作システムです。採型とソケット製作が一つのプロセスとなっていて、極めて短時間のうちに義足の装着・歩行が可能となります。その秘密は三つあります。
第一に「アイスロス」シリコーンライナーを使用するということです。アイスロスは優れた懸垂機能を有する代表的なシリコーンライナーのブランドですが、実はソケット適合にも大きく関与しています。アイスロスは適度な伸縮性があることで、断端の軟部組織に適度な圧力をかけることができます。圧力を受けた軟部組織はどうなるか、あるものは圧縮し、あるものは移動して安定した形状が再現できます。これはライナーを着脱するたびに再現できます。ラミネーションに使用するキャスティングライナーは、マトリックスが近位端まで入っているために、余分な断端の伸びを防ぐ機能があります。
第二は、加圧採型治具「アイスキャスト」の使用です。これは、大きな空気袋を断端末に固定してロールオンし、ポンプで圧力をかけていくものです。空気ですので、骨突起に過大な圧力が加わることなく、軟部組織に作用して圧縮と移動が自然に行われます。
この間に強度を保つための補強繊維(ガラス、カーボン、バサルトなど)をはさみ、樹脂を注入していきます。
第三はポリウレタン樹脂の使用です。通常の義足ソケット製作で使用されるアクリル樹脂は、硬化時に高温になるため、人体に直接触れることは避けなければなりません。ポリウレタンなら低温のままで、安全にラミネーションを実施することができます。
樹脂の注入からラミネーション終了まではわずかに14分。あとは余分をカットして縁を整えると、ソケットの完成です。全面接触・全面支持の理論に最も忠実なソケット製作方法ということができます。
ダイレクトソケットの特長は大きく6つあります。
極めて短時間で製作できる
樹脂の注入から硬化までわずか14分でソケットが完成します。前後の過程を入れても2-3時間で試歩行が可能となります。最近話題の3Dプリンタなどのデジタル技術をもってしても、これだけ短時間でソケットを製作することは不可能です。ダイレクトソケットは世界最速のTSBソケット製作技術である、ということができます。病院や在宅で採型する感覚でラミネーションをすれば、あとは製作所に持ち帰っても、ギプスを流したり、削ったり、成形・注型したりなどの作業は一切不要です。遠隔地で義肢サービスを提供する際に、訪問回数を減らすことができます。また逆に、製作所を訪れる回数を減らすことができます。ワークライフバランスをサポートする製作方法でもあるのです。
高い適合
冒頭で述べた、アイスロスとアイスキャストの組み合わせは、アイスロスの考案者でシリコーンライナーの父・オズール クリスティンソンの提唱したHydrostatics(流体静力学)を応用した下腿義足ソケットです。断端に不自然な力を加えず、無理な設計をせず、最も効率的に形状を決定するため、適合性の高いソケットが得られます。スウェーデンでは、訓練用義足の製作方法として多く用いられており、早期退院を可能にしています。
多彩な懸垂方法
ダイレクトソケットでは、アイスロスのほぼすべての懸垂方法を選択することができます。ピン式では、クラッチ、ラチェット、スムースに対応し、シールインも、クッションライナーと膝スリーブを併用する吸着式も可能です。またユニティバルブも使用できます。4つのねじを締めるだけで使用できるバルブがあり、穴を開けたりねじを切ったりしなくても取り付けが容易にできます。
また、それぞれの懸垂方法を六角レンチだけで簡単に交換できます。これは画期的なことです。従来のソケットはアダプタを埋め込んでしまうので、懸垂方法を変更するためにはソケットを作り替える必要がありました。ダイレクトソケットでは、懸垂方法を後で決めることができ、変更することも自在にできます。つまり、使用者も義肢装具士も、新たな自由を手に入れたということができます。
環境にやさしい
ギプス採型が必要ないので、石膏で汚れたり、重い多量の廃棄物が出ることもありません。丁寧に作業すると樹脂のリークもなく、クリーンに作業を行うことができます。またポリウレタン樹脂は硬化時にいやなにおいを発することがありません。医療現場でも安心して用いることができる技術です。
低価格
2023年4月から、ダイレクトソケットを使用する場合は、基本価格は40%とし、ソケットの価格に加算ができない、ということとなりました。もちろんチェックソケットも不要なダイレクトソケットは、最も安価にアイスロスを使用したTSBソケットを使う方法でもあります。訓練用義足など、健康保険の適用のために立て替え払いが必要なケースでは、その負担がより少なくなり、逆にその分を足部の選択の幅を広げることに活用するということもできます。
高い耐久性
ダイレクトソケットは、ISOの検査で体重166kgまでの方に使用していただくことができます。日本のほぼすべての方をカバーしているといっても差し支えありません。またカーボンやバサルト(玄武岩繊維)などの補強材を選択すると、より軽く強度もあるソケットを製作することができます。
症例1 訓練用として
30歳代男性で、外傷による下腿切断を施行された症例です。機能的断端長(脛骨の長さ)が断端長の1/2程度と短く、断端末の長い軟部組織が容易に動き、形状はとても不安定でした。そこで支持性の高いアイスロスシナジーを装着すると、軟部組織を安定させ、断端の形状を整えることができました。ダイレクトソケットは、アイスキャストを用いて理想的なTSBソケットを製作することができるので、無理のない荷重や力の伝達が可能なソケットを適合させることができました。退院後もこの義足を使用され、本義足も、またソケット交換もダイレクトソケットで対応されています。アイスロスでTSBソケットのユーザーでありながら、一度もチェックソケットを用いた仮合わせをすることなく、迅速に義足の供給を受け、日常生活をおくっていらっしゃいます。
症例2 本義足ソケットとして
本義足のソケットとしてもダイレクトソケットは有用です。適合が良くどんな懸垂方法でも選択することができます。最新のシールインXロッキング~ピンの安全性とシールの安定性を兼ね備えたアイスロス~を使用するための、アイスロック562ハイブリッドでさえも、4本のねじを締めるだけでダイレクトソケットに組み込むことができます。断端周径の日内変動に悩まされることなく、ピンとシールの両方の利点を享受する生活が、ダイレクトソケットですぐに手に入れることができます。
ダイレクトソケットは短時間で製作でき、適合がよく、あらゆる懸垂方法を選択でき、環境に対しても優しい下腿義足製作方法です。本義足にも使用できますし、早期リハビリテーションにも最適です。ダイレクトソケットを製作するためには特殊な技量は必要ありませんが、アイスロスのしっかりした理解と、アイスキャストの取り扱いをマスターする必要があります。専用のツールキットは弊社のサブスクリプションの対象になっており、技術練習のサポートも万全です。あらたな義足リハビリテーションのツールとして有用です。
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